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第180話 軍師のコツ
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その後淡々と進められていく今回の作戦。
恐ろしいほど効率的で、それでいて隙の無い作戦の立案。
リンネはああ言ってくれたけど。
やっぱりかなう気がしない。
「えっと。ねえ美緒?君の作戦、それがベースだよ?君は間違っていない。いうなれば君の作戦は優しすぎるんだよ。軍師はね、戦力を駒と考えるんだ。そして取り敢えず感情を捨てる」
「えっ?駒?…感情を捨てる?」
「うん。いうなれば数値化かな。冷静にまずは数値化して見定めるんだ。例えばマール、居るよね?彼の今のステータス、きっと8000前後だよね」
「う、うん」
「でも彼の攻撃、軽く15000は超えてくるでしょ?だから彼は15000の攻撃の駒」
レギエルデの言葉。
心ある人を駒だと割り切るその方法。
私は思わずいぶかしげな表情を浮かべてしまう。
「ああ。これはさっきも言ったけど『コツ』なんだ。もちろん実際にはそれぞれの感情も考慮する。僕たちはヒューマンだ。感情があるからね」
「う、うん」
「でもベースはこういう事なんだ。何より数値は噓をつかない。大体それこそが鍛錬の目標の一つでしょ?」
私のギルドの仲間たち。
経験を積み数値を上げ、そしてその数値を馴染ませている。
より正確に、安定的に最大値を叩きだすために。
「もちろん皆生きているから数値だけでは測れない。でもそれは確かな指針になりうるものだよ?それと同じく大切なのはその相性だ。怨霊やアンデットに対して聖属性が有利とか、それこそ君とレルダン、ルルーナとか特殊な主従で力を発揮するタイプとかね。これは美緒も分かるでしょ?」
「うん」
「後はどこまで効率を極めるか、それから兵糧とか物資とかね。まあうちはあんまりそこは気にしなくてもいい。何しろみな超越者レベルだからね。作戦はまさに電光石火だ」
通常の軍隊での戦闘ではそういうことが非常に重要になる。
でも我がギルドは幾人もがチートの転移、それから転送ゲートが使えるんだ。
つまり移動とかを考慮に入れなくても良い。
何気にその時点でチート集団だ。
「今までの戦闘は主に相手がはっきりしていた。しかも魔物や悪魔の眷属、怨霊とかね。でも今回は違う。僕が今回重視したいのはね、ズバリ『戦わない』ってことなんだ」
「???…戦わない?」
レギエルデは優しい表情で私を真直ぐに見つめてくる。
そしてニコリと笑みを浮かべた。
「うん。今回まともに戦えば少なくない帝国民が犠牲になってしまう。それは君の望む結果とは大きく違う」
まさにそこが肝だった。
私は敵対するとはいえ、できれば帝国の皆さんを殺したくはない。
でも…
これはまさに戦争。
私は自身の瞳が暗くなっていくのを実感してしまう。
「…そうだね。その決意は重要なことだ。生半可ではこちらに被害が出てしまう。…だからさ、ズルしようと思うんだ」
「…ズル?」
そしてレギエルデはにっこりとほほ笑む。
「君が、美緒がきっとこの世界にきて最初に思っていて実行したこと。つまりは情報だよ。うちの諜報部隊はきっと世界随一のレベルだ。彼等には今日の夜から動いてもらう」
私たちのギルドの命綱。
そう思い設立していた諜報部隊。
私は正確な情報こそが重要だと考えていた。
「うん。だからね、今回は逆に惑わせるんだよ。君の魅了を込めた魔刻石、そして事細かな情報の操作。これらを複合させゾザデット帝国の動き、封じよう。…きっとまともにぶつかるよりも驚くほど敵は減るはずだよ?」
いうなれば搦め手。
そもそも今回はいきなりの電撃作戦だ。
グラード侯爵家の倉庫群を調査したことはきっと伝わっているだろう。
だからきっと悪魔とその眷属は警戒を強めているはずだ。
でも、それらに属する帝国兵の皆さんは…
恐らくまだそういう情報は伝わっていないはずだった。
「もちろん不穏な気配と言うか、何となく事が起こりそうだとは感じていると思うよ?だからこそここで偽の情報を流す。支離滅裂、それでいて何故か整合性の取れてしまう情報をね」
「支離滅裂で…整合性のとれる情報?」
「神聖ルギアナード帝国がガザルト王国に対して宣戦布告をする」
「はあっ?!!」
とんでもない事を言うレギエルデ。
そんなことになればゾザデット帝国での作戦などしている場合ではなくなってしまう。
慌てふためく私に、レギエルデは軽くため息をついた。
「もちろんフェイクだ。でも衝撃は測り知れないでしょ?」
「っ!?う、うん」
「実はそのために僕とコメイはルギアナード帝国に行っていたんだよ。それからそのあとゾザデット帝国のミュライーナ第一皇女とも会談を行った」
「っ!?」
「凄いね彼女の情報。…僕はね、使えるものは全部使うって決めたんだ。君が、美緒が覚悟したように…僕も覚悟を決めた。だからさ…」
そう言い私の手を優しく取るレギエルデ。
暖かい彼の手のひらの感触。
心が落ち着いてくる。
「まだ君に無辜の民は殺させないよ?君は悪魔ザナンクを確実にとらえてほしい。マキュベリアと協力してね…僕だって頭に来ているんだよ?以前のルートでアイツが君とマキュベリアにした事…」
そう言って少し怖い顔をする。
酷い事…
レギエルデも記憶、あるんだね…
ああ。
やっぱりすごい。
何度だってきっと私はかなわない。
でもそれは。
本当に嬉しい事なんだ。
「コホン…僕たちのギルドの力、戦力だけじゃない、陰謀だって最強だってこと、見せつけてやろうよ」
「…うん!」
※※※※※
そして始まる作戦の初動。
我がギルドの誇る諜報部隊、さらにはマール、ミルライナ、ミカの『忍びの文字』を含むジョブを持つ3人も参戦。
既に分かっている、皇帝の兄であるグラリアド公爵とつながりのある貴族9名。
その領地へと彼らは工作活動を開始するため移動していった。
※※※※※
ゾザデット帝国東部の町イストヒル。
グラリアド公爵の右腕と言われているズアリューク伯爵の治める街。
そのはずれに佇む酒場。
ひっそりとしたその店にはフードをかぶり、さらに隠匿の魔法で身を包んだものが3名で何やら話し合いを行っていた。
「…おい、聞いたか?…いよいよ神聖ルギアナード帝国が宣戦を布告するらしいぞ」
「…ああ。俺もある筋から聞いた。…世界が動く」
「…奴は…あの男はなんて言っているんだ?」
見るからに怪しい3人。
ちびちびとエールをあおりながらもこそこそと小声で話をつづけた。
「…近々我が帝国でも動きがあるらしい。ゲームマスター?…どうやら皇帝と会談したようだ。…何しろフィリルスやブーダも絡んでいるようだからな…全く。…おとなしく秘境の地にでも籠っていればいいものを」
恐らく情報通なのだろう。
今話をした男はかなりの情報を持っているようだ。
そんな彼らのすぐ隣の席に、今入店した特徴のない男が座り、大きな声で店主に声をかけた。
「おいっ、エールだ。あとつまみも頼む…いやー、酷え目にあった」
「はいよ。ちょっと待ってくれよ。…見ない顔だな。…ここは初めてか?」
「あん?ああ。…俺はガザルトの商会について来たんだがな。来たばかりだってのにいきなり帰って来いって言われてよ…ったく。少しは休ませろってんだ。せっかく魔法の品で大儲けできると思ったのによ」
そう言いテーブルの上に魔石のような物が入った小袋を乱暴にほうり投げた。
「うん?魔石、か?」
「ああ。無茶苦茶色っぽい女が見れる、さらには感じることのできる特性の魔石、仕入れたのによ。…そうだ。店主、安くしてやるからよ、一つどうだ?金貨10枚だ」
「はあっ?金貨10枚?!…話になんねえ」
そう吐き捨てる店主。
いくら魔法の品とはいえ金貨10枚は高すぎる。
その様子に男はにやりと顔を歪めた。
「ははっ。まあそういう反応だよな。…少しだけサービスしてやるよ。…金はとらねえからよ、手を触れてみろよ」
「…絶対に金は払わねえぞ?」
「ああ。約束は守るさ。ほれっ」
おもむろに手を触れる店主。
「っ!?なあっ?!!…………ゴクリ」
突然真っ赤に染まる店主。
そしてなぜか前かがみになり蹲ってしまう。
「クククッ。どうだ?…金貨10枚…安かろう?…おっと、ここまでだ。後は買ってからのお楽しみだ。…手を離しな」
なぜかジト目を向ける店主。
そして懇願を始めた。
「な、なあ。何でも好きなもん注文してくれ。奢るからよ。…だ、だから…少し負けてくれねえか?き、金貨5枚でどうだ?」
「はっ。話しになんねえ。…まあ、そういうことなら…金貨8枚。それ以上はダメだ」
いきなり始まる金額の交渉。
3人の男たちは思わずその様子に視線を向けていた。
「おっと?ククク、何だよ。お客居るじゃねえか…兄さんたち、どうだい?ガザルト謹製のめっちゃエロい魔石だ。…天国へ行けるぜ?」
実はこの男。
美緒たちの諜報部隊が一人、イニギアの変装したものだった。
そしてこの魔石。
美緒渾身の魅了に、コメイの悪ふざけを混ぜたもの。
何とイメージと同時に五感全てを惑わせるもの。
はっきり言って、男性なら確実に沼るものだった。
何しろ出てくるイメージ。
触れた男の深層心理を読み取り、その男の理想そのものがイメージされる仕組みだ。
さらには感じてしまう。
匂い、感触、そして…
イメージとはいえ、『ごにょごにょごにょ』なのだ。
当然だが僅かに呪詛も孕んでいる。
無力化、無気力化。
つまりこの魔石に触れたもの。
数週間は使い物にならなくなってしまう。
東部の街イストヒル―――
無力化に成功した瞬間だった。
恐ろしいほど効率的で、それでいて隙の無い作戦の立案。
リンネはああ言ってくれたけど。
やっぱりかなう気がしない。
「えっと。ねえ美緒?君の作戦、それがベースだよ?君は間違っていない。いうなれば君の作戦は優しすぎるんだよ。軍師はね、戦力を駒と考えるんだ。そして取り敢えず感情を捨てる」
「えっ?駒?…感情を捨てる?」
「うん。いうなれば数値化かな。冷静にまずは数値化して見定めるんだ。例えばマール、居るよね?彼の今のステータス、きっと8000前後だよね」
「う、うん」
「でも彼の攻撃、軽く15000は超えてくるでしょ?だから彼は15000の攻撃の駒」
レギエルデの言葉。
心ある人を駒だと割り切るその方法。
私は思わずいぶかしげな表情を浮かべてしまう。
「ああ。これはさっきも言ったけど『コツ』なんだ。もちろん実際にはそれぞれの感情も考慮する。僕たちはヒューマンだ。感情があるからね」
「う、うん」
「でもベースはこういう事なんだ。何より数値は噓をつかない。大体それこそが鍛錬の目標の一つでしょ?」
私のギルドの仲間たち。
経験を積み数値を上げ、そしてその数値を馴染ませている。
より正確に、安定的に最大値を叩きだすために。
「もちろん皆生きているから数値だけでは測れない。でもそれは確かな指針になりうるものだよ?それと同じく大切なのはその相性だ。怨霊やアンデットに対して聖属性が有利とか、それこそ君とレルダン、ルルーナとか特殊な主従で力を発揮するタイプとかね。これは美緒も分かるでしょ?」
「うん」
「後はどこまで効率を極めるか、それから兵糧とか物資とかね。まあうちはあんまりそこは気にしなくてもいい。何しろみな超越者レベルだからね。作戦はまさに電光石火だ」
通常の軍隊での戦闘ではそういうことが非常に重要になる。
でも我がギルドは幾人もがチートの転移、それから転送ゲートが使えるんだ。
つまり移動とかを考慮に入れなくても良い。
何気にその時点でチート集団だ。
「今までの戦闘は主に相手がはっきりしていた。しかも魔物や悪魔の眷属、怨霊とかね。でも今回は違う。僕が今回重視したいのはね、ズバリ『戦わない』ってことなんだ」
「???…戦わない?」
レギエルデは優しい表情で私を真直ぐに見つめてくる。
そしてニコリと笑みを浮かべた。
「うん。今回まともに戦えば少なくない帝国民が犠牲になってしまう。それは君の望む結果とは大きく違う」
まさにそこが肝だった。
私は敵対するとはいえ、できれば帝国の皆さんを殺したくはない。
でも…
これはまさに戦争。
私は自身の瞳が暗くなっていくのを実感してしまう。
「…そうだね。その決意は重要なことだ。生半可ではこちらに被害が出てしまう。…だからさ、ズルしようと思うんだ」
「…ズル?」
そしてレギエルデはにっこりとほほ笑む。
「君が、美緒がきっとこの世界にきて最初に思っていて実行したこと。つまりは情報だよ。うちの諜報部隊はきっと世界随一のレベルだ。彼等には今日の夜から動いてもらう」
私たちのギルドの命綱。
そう思い設立していた諜報部隊。
私は正確な情報こそが重要だと考えていた。
「うん。だからね、今回は逆に惑わせるんだよ。君の魅了を込めた魔刻石、そして事細かな情報の操作。これらを複合させゾザデット帝国の動き、封じよう。…きっとまともにぶつかるよりも驚くほど敵は減るはずだよ?」
いうなれば搦め手。
そもそも今回はいきなりの電撃作戦だ。
グラード侯爵家の倉庫群を調査したことはきっと伝わっているだろう。
だからきっと悪魔とその眷属は警戒を強めているはずだ。
でも、それらに属する帝国兵の皆さんは…
恐らくまだそういう情報は伝わっていないはずだった。
「もちろん不穏な気配と言うか、何となく事が起こりそうだとは感じていると思うよ?だからこそここで偽の情報を流す。支離滅裂、それでいて何故か整合性の取れてしまう情報をね」
「支離滅裂で…整合性のとれる情報?」
「神聖ルギアナード帝国がガザルト王国に対して宣戦布告をする」
「はあっ?!!」
とんでもない事を言うレギエルデ。
そんなことになればゾザデット帝国での作戦などしている場合ではなくなってしまう。
慌てふためく私に、レギエルデは軽くため息をついた。
「もちろんフェイクだ。でも衝撃は測り知れないでしょ?」
「っ!?う、うん」
「実はそのために僕とコメイはルギアナード帝国に行っていたんだよ。それからそのあとゾザデット帝国のミュライーナ第一皇女とも会談を行った」
「っ!?」
「凄いね彼女の情報。…僕はね、使えるものは全部使うって決めたんだ。君が、美緒が覚悟したように…僕も覚悟を決めた。だからさ…」
そう言い私の手を優しく取るレギエルデ。
暖かい彼の手のひらの感触。
心が落ち着いてくる。
「まだ君に無辜の民は殺させないよ?君は悪魔ザナンクを確実にとらえてほしい。マキュベリアと協力してね…僕だって頭に来ているんだよ?以前のルートでアイツが君とマキュベリアにした事…」
そう言って少し怖い顔をする。
酷い事…
レギエルデも記憶、あるんだね…
ああ。
やっぱりすごい。
何度だってきっと私はかなわない。
でもそれは。
本当に嬉しい事なんだ。
「コホン…僕たちのギルドの力、戦力だけじゃない、陰謀だって最強だってこと、見せつけてやろうよ」
「…うん!」
※※※※※
そして始まる作戦の初動。
我がギルドの誇る諜報部隊、さらにはマール、ミルライナ、ミカの『忍びの文字』を含むジョブを持つ3人も参戦。
既に分かっている、皇帝の兄であるグラリアド公爵とつながりのある貴族9名。
その領地へと彼らは工作活動を開始するため移動していった。
※※※※※
ゾザデット帝国東部の町イストヒル。
グラリアド公爵の右腕と言われているズアリューク伯爵の治める街。
そのはずれに佇む酒場。
ひっそりとしたその店にはフードをかぶり、さらに隠匿の魔法で身を包んだものが3名で何やら話し合いを行っていた。
「…おい、聞いたか?…いよいよ神聖ルギアナード帝国が宣戦を布告するらしいぞ」
「…ああ。俺もある筋から聞いた。…世界が動く」
「…奴は…あの男はなんて言っているんだ?」
見るからに怪しい3人。
ちびちびとエールをあおりながらもこそこそと小声で話をつづけた。
「…近々我が帝国でも動きがあるらしい。ゲームマスター?…どうやら皇帝と会談したようだ。…何しろフィリルスやブーダも絡んでいるようだからな…全く。…おとなしく秘境の地にでも籠っていればいいものを」
恐らく情報通なのだろう。
今話をした男はかなりの情報を持っているようだ。
そんな彼らのすぐ隣の席に、今入店した特徴のない男が座り、大きな声で店主に声をかけた。
「おいっ、エールだ。あとつまみも頼む…いやー、酷え目にあった」
「はいよ。ちょっと待ってくれよ。…見ない顔だな。…ここは初めてか?」
「あん?ああ。…俺はガザルトの商会について来たんだがな。来たばかりだってのにいきなり帰って来いって言われてよ…ったく。少しは休ませろってんだ。せっかく魔法の品で大儲けできると思ったのによ」
そう言いテーブルの上に魔石のような物が入った小袋を乱暴にほうり投げた。
「うん?魔石、か?」
「ああ。無茶苦茶色っぽい女が見れる、さらには感じることのできる特性の魔石、仕入れたのによ。…そうだ。店主、安くしてやるからよ、一つどうだ?金貨10枚だ」
「はあっ?金貨10枚?!…話になんねえ」
そう吐き捨てる店主。
いくら魔法の品とはいえ金貨10枚は高すぎる。
その様子に男はにやりと顔を歪めた。
「ははっ。まあそういう反応だよな。…少しだけサービスしてやるよ。…金はとらねえからよ、手を触れてみろよ」
「…絶対に金は払わねえぞ?」
「ああ。約束は守るさ。ほれっ」
おもむろに手を触れる店主。
「っ!?なあっ?!!…………ゴクリ」
突然真っ赤に染まる店主。
そしてなぜか前かがみになり蹲ってしまう。
「クククッ。どうだ?…金貨10枚…安かろう?…おっと、ここまでだ。後は買ってからのお楽しみだ。…手を離しな」
なぜかジト目を向ける店主。
そして懇願を始めた。
「な、なあ。何でも好きなもん注文してくれ。奢るからよ。…だ、だから…少し負けてくれねえか?き、金貨5枚でどうだ?」
「はっ。話しになんねえ。…まあ、そういうことなら…金貨8枚。それ以上はダメだ」
いきなり始まる金額の交渉。
3人の男たちは思わずその様子に視線を向けていた。
「おっと?ククク、何だよ。お客居るじゃねえか…兄さんたち、どうだい?ガザルト謹製のめっちゃエロい魔石だ。…天国へ行けるぜ?」
実はこの男。
美緒たちの諜報部隊が一人、イニギアの変装したものだった。
そしてこの魔石。
美緒渾身の魅了に、コメイの悪ふざけを混ぜたもの。
何とイメージと同時に五感全てを惑わせるもの。
はっきり言って、男性なら確実に沼るものだった。
何しろ出てくるイメージ。
触れた男の深層心理を読み取り、その男の理想そのものがイメージされる仕組みだ。
さらには感じてしまう。
匂い、感触、そして…
イメージとはいえ、『ごにょごにょごにょ』なのだ。
当然だが僅かに呪詛も孕んでいる。
無力化、無気力化。
つまりこの魔石に触れたもの。
数週間は使い物にならなくなってしまう。
東部の街イストヒル―――
無力化に成功した瞬間だった。
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