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パロディ罵倒るファンタジー
《《00000100》》=4.電源プラグ引き抜いて終るほど単純じゃないさ
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もう始まっているよ...この言葉を合図にしたかのように先手を取って動いたのはダリアだった。開戦直後の初撃を放つ絶好の機会、隙をついて最初に取った行動...そう、それは誰もが思わず見とれてしまうような美しい所作...これから競う相手に敬意を示すに相応しいお辞儀。そこには相手を攻撃する意図は全く無い。ただ、恭しく膝を曲げ、メイド服の裾を持ち膝折礼風の礼をしているだけ。それにはムイミも少し戸惑った表情を見せていた。しかし...
「...お手柔らかにお願いいたしますね?」
「!」
突如、ダリアの足元で何かが破裂する!ムイミもそれを察し即座に演算したであろう錫杖を投げつけるも一手遅い。その錫杖の行方は白い靄の中へと消え去って行った。先程、ダリアの足元で破裂したのは発煙剤の入ったお手製の煙球。濃い煙は完全にダリアの姿を隠し周囲の視覚情報も阻害していた。
この世界の戦いにおいて視覚情報というのは最も優先されるものだ、極論を言えば相手の頭上に槍を演算し落とし続ければそれだけで勝てるのだから。しかし、現実はそうもいかない。それを行うためには相手との距離を目測で正確に導き出さねばならない、つまり飛び抜けた空間把握能力が必要だ。だからこそ基本的に演算は自分の周囲の把握できる空間内で行うことが多い。しかし、霧や煙などで距離感が上手く認識出来ないと自分が把握できる空間の領域も狭まっていく。
「コれは...本物でスね」
「私が腕に縒りを掛けて作った煙球です。味わってくださいね」
「ッ!」
木々の隙間、後方から飛んで来たナイフをムイミは即座に弾く!そんな攻防が繰り広げられている中...
「ふふっ、単調な攻撃だね。でも...」
「あぁ、着々と追い込んでいってるな」
ルーナとアキリは完全にスポーツ観戦感覚でこの戦いを見ていた。
「ナイフ自体はなんとかなるだろうけど...」
「問題は煙だな」
「ナイフに気をとられている間に周りは完全に煙で覆われてしまっているね」
「てかさっきストーカーちゃんの漢字にルビ振るの忘れてないか?」
「ふふっ、多分めんどくさくなったんじゃないかな」
「作者め...だからあれほどキャラ設定は練っておけと」
「思い付きでこの物語書いてるからね。アレにそんな知能はないよ」
「まぁ、自分で作った設定に首絞められている馬鹿の話はどうでもいい」
「そうだった。今はこの戦いの行く末を...見たいんだけど」
「あぁ、煙でなんも見えねぇ」
気づけばここら一帯が煙に覆われ、方向感覚がなくなる程になっていた。
「...厄介でスね!」
「お褒めに預かり恐縮です!」
煙の外から逃げ場を潰すように飛んでくるナイフ...ムイミ自身に向けて飛んできていればまだいくらでもやりようはあっただろう。しかし、煙の外へ逃げられないように囲うように飛んでくるナイフに翻弄されていた。着々と追い込まれている...だが、逆を言えばそれ以外に目立った動きは今のところない。この煙が本物で演算ではない以上、いずれ煙は晴れるし煙球の残数も決まっている。つまりもうそろそろ何か仕掛けて来ても良い頃合い...ムイミはずっと錫杖でナイフを捌きつつダリアが攻勢に出るのを待っていた。
「...そコデす!」
「...ッ!」
――――――カキン!という金切り音と共にダリアのナイフとムイミの錫杖がぶつかり合う。先程までナイフを投げて牽制に徹していたダリアが煙の中からの奇襲攻撃...接近戦へと切り替えた。しかし、純粋な力勝負...迫り合いではムイミに軍配が上がる。だからこそ止められたら即座に攻撃を打ち切り煙の中へ隠れる...堅実なヒットアンドアウェイ。正面、側面、背後、頭上...予測も出来ない角度からのダリアの連続攻撃にムイミは翻弄されていた。
「おカしいでスね...」
「何かおかしなことがありましたか」
「...ッ!狙いは何でスか?」
「さあ?何でしょうね!」
...今、この時ムイミの脳内ではいくつかの疑問が生じていた。一つ、態々ナイフ投げでの牽制から近接戦に切り替えたのか。二つ、もう煙球を使用していないのに煙が晴れないのは何故か。三つ、どうやってありえない角度から攻撃を仕掛けているのか...。当たり前だが正面にいた人間が即座に背後に移動するなど瞬間移動でもしない限り不可能。仮に瞬間移動する演算が可能だったとして、この煙の中で移動したい場所の座標を正確に把握している?...否、それはない。そもそも、先ほど演算したナイフを投げていたのだから瞬間移動の演算とナイフの演算を並列処理している事になる。可能性としてはかなり低い...というより無いに等しい。となれば重要なのはナイフの方...何かがおかしい。何かを見落としている...
「戦闘中に考え事ですか?」
「!」
間一髪、反らした顔の眼前をナイフが通過する...1Fでも回避が遅れていればその瞬間に勝負が決していた。気が付けば打開策の思案に脳のリソースを割きすぎて錫杖の演算を疎かにしていた。再度、演算し直した錫杖でダリアのナイフを弾きつつこの状況を打開策を練る。...その時ふと、ムイミの視線が弾いたナイフに注がれた。何度か打ち合って少し刃こぼれしたナイフ。
「アぁ、ソういう事でスか...デあれバッ!人は法則を明かし、明かした数の法則に縛られ生きるのだ—――――――『自戒則』」
「ッ!何を!?」
ムイミの克明詠唱『自戒則』...瞬間、ダリアは困惑した。理由は単純、『私はグリセラディブランキアータで母親がメンフクロウで父親がゾで18世紀にフレデリック1世に寄贈された...』
「...っ!」
ダリアの脳内に浮かんだ謎の文字列...意味は分からないし、多分意味などない。大切なのはこの文字列が脳内を支配したという事実...。つまり、ダリアが必死に行っていた全ての演算がこの一瞬で消え去ったのだ。気が付けば眼前スレスレ、ムイミの錫杖をナイフで反らす。
「してやられましたね...」
「ヤっぱりソういうコとでスか」
相手の脳内に不要な情報を送り演算を阻害するムイミの演算...出来ることは殆ど嫌がらせでしかないが戦いにおいてはこの嫌がらせが戦局を左右するほど重要になってくる。現にたった100バイト程度の情報によってダリアのヒットアンドアウェイは完全に封殺されていた。
「やハり演算してイたのはナイフでハなく煙デしたか...本物の煙デ仕込みヲ行イ、準備がデ来たラ煙ヲの方ヲ演算しテ接近戦に切り替えル」
「せっかく頑張って準備したのにこうもあっさりと突破されるとは思いませんでした」
煙が晴れ、ルーナは周囲を見渡し思わず「おぉ」と、感嘆の声を上げる。
「ふふっ、これはこれは」
「どうだ?ダリアの実力は」
「あの短時間でここまで舞台を整えるとは...余程の手際の良さがないとこれは出来ないね」
ルーナが見ているのはムイミを囲うように張られた直径7.5mmの鋼芯ワイヤーロープ...ムイミを奇襲する為に張り巡らせたダリアの足場。最初の煙に紛れて糸を張りつつムイミを牽制、完成後は煙を演算しつつ糸を使っての連続攻撃。さながら糸を使って相手を追い詰める姿はまるで蜘蛛...
「ふふっ、性格の悪さが見て取れるね」
「その理論でいくと接近戦しかしないお前はさながら馬鹿だな」
「なら氷塊撃つことしか出来ない君はアホかな?」
「はっ!いいぜ?その喧嘩買ってやるよ!表出ろや!」
「いや、ここが外だよ」
「やんのかゴラぁ!」
「お嬢様、ややこしくなるので場外乱闘はお止め下さい!」
勝手に始まりかけていた場外乱闘を諫めつつもダリアの脳みそはかつてない程フル回転していた。本来であれば煙が晴れた程度は何も問題がない。相手を逃がさないように再度、四方八方から攻撃を仕掛け追い込んでいけばいいだけだ。ただ、今回ばかりは煙が晴れるのは途轍もなく痛手...というより勝敗にすら関わってくる。何故なら相手がムイミだから...いや、こう言った方が分かりやすいか三メートルの刀を振り回す脳筋だから
「まぁ、そうなるでしょうね」
そう、あの刀を見た時から相性の悪さは把握していた。それでも何とかいつもの戦法で戦えないかと考えた結果が煙球作戦。しかし、それが失敗した今となっては...
「ハぁッ!」
スパンっ!っと張り巡らせた糸がまとめて切り裂かれていく...一応、応戦しようとナイフを構えるがこの距離は刀の射程内。ダリア諸共真っ二つにしようと大太刀が迫ってくる!
――――――プツン!
「っツ!!!」
耳に届いた小さな何かが切れる音、そして踏み込んだ足に僅かに感じだ何かが引っ掛かった感覚...考えるよりも早く、ムイミのとったその行動は七割の直感と二割の反射神経と一割の運によって無意識に行われた。ダリア目掛けて振るっていた大太刀を投げ飛ばし、大きく後ろに体を反らす!瞬間、目の前をナイフが通過する...明らかにダリアが投げた物ではない、では誰が...など考えるまでもない。ワイヤーロープの中に紛れた注意して見ないと気づかない程の細い糸...
「隙だらけですよ?」
「...厄介でスね!」
迫りくるナイフの斬撃!的確に対応しづらい場所を狙って迫ってくる攻撃を紙一重のところで捌く、幸い威力は高くないだが、厄介なのは途中に織り交ぜて放ってくるフェイント...これが実戦であれば一撃喰らうことを前提にカウンターを決めに行った方が早い。しかし、手合わせである以上、全てが敗北に繋がる一撃。判断を誤れば即座にゲームオーバーになってしまう。このままではジリ貧...ムイミはここで一か八かの賭けに出た!
「フっ!」
ムイミは大きく後方に跳ぶ!そして...
「イざ、勝負!――――――人は自らの罪を0で割ろうとする生き物である『虚構割』」
「!」
善性、罪悪感、倫理観...etc。そういった感情をデータとして送り込み攻撃を躊躇、中断させる演算。データを送ることは『自戒則』と同じだが、こちらは感情というデータを送り続けるモノ。し続ける限り、相手は良心の呵責によって攻撃を躊躇い続ける...行動の停止ではなく鈍化。だが、この演算の真骨頂は何をされたか分からない点にある。だからこそ、ダリアは躊躇し、混乱した...そしてそれこそがこの戦局を左右するほどの致命的な隙を生んでしまう!
「この程度でッ!」
何をされたかは分からない。だが、ここで攻めなくてはチャンスはない!ダリアは躊躇する足を無理やり動かし一気に踏み込む!
――――――「ふふっ、それは悪手だね」「あぁ、乗せられたな」
外野の観戦者二人は気づいていた、何故このタイミングでムイミが距離をとったのか...そう、ダリアとムイミの距離は2メートル弱。そしてこれは錫杖の長さと同じ...
「拙の間合いデす!」
左手に持っていた錫杖での薙ぎ払い!どうあっても躱すことは出来ない...確実な決着を齎す一撃!それをダリアは...素手で受け止めた!
「いッたぁあ!!!」
「!?」
左手が真っ赤になり痺れるような痛み、しかしそれを気合でねじ伏せ残った右手でナイフを投げる!
「サせナい!」
「チッ!」
しかし、ここで先ほどのムイミ演算がダリアの手元を僅かに狂わす!ナイフは当たらず空を切り彼方へと飛んでいく!
「コれで、終わり!」
いつの間にか錫杖は消えており、ムイミの足がダリアの耳元で停止していた。
「寸止め...コれで拙の勝ちデす」
「そうですね。そして「――――――ふふっ、メイドさんの勝ちだね」」
「エ?」
ムイミの背後にはいつの間にかルーナが立っていた。そして、何故かその手には見覚えのあるナイフが握られいる。
「...ドういう事でスか?」
「僕は言ったね『お互いに納得の出来る一撃が入ったら終了、ヤバそうな一撃だったら入る前に僕が止める。』ってそして、スーちゃんの頭に当たりそうなナイフをこの通り止めた。だからこの勝負は両方の勝ち...いや、この場合は引き分けと言うべきかな?」
「ソんな、確かにナイフは...ッ!?」
その時、ムイミは気づいた...ルーナが持っているナイフから細い糸が木の枝へ向かって伸びている。そして、更に辿っていくとダリアの右手に巻き付ていた。
「ふふっ、気づいたみたいだね。あの時、ダリアが投げたナイフにはカーブを描いて飛ぶように演算が付与されていた...そして、繋がれた糸は木の枝に引っ掛かって先端がUターンするようにムーちゃんの頭目掛けて戻って来た」
ピンと張った紐の真ん中を押すと両端の先端は自ずと近づく。それと同じように木の枝を起点にダリアの右手に巻き付ていた先端とナイフに繋がれた先端が近づいた結果である。そして、それに気づかなかったムイミはヤバそうな一撃が入りそうだと判断したルーナの介入によって勝ちを逃した...
「流石ダリアだ。よくやった!私の部下に敗北は許されんからな」
「え、そんな軍隊みたいな感じなのかい?」
「お褒めに預かり光栄です」
「全くモってシてやられマした」
「ムイミ様こそ、実践なら完全に負けていましたよ」
「ヨく言いまスね、実践だったらソもソも正面きって戦うタイプじゃナいデシょう」
そういうムイミはそっとダリアに向かって手を伸ばす。ダリアは少し驚いた顔をしたが直ぐにいつもの表情に戻り少し微笑みながらそっと握手を交わした。
「...お手柔らかにお願いいたしますね?」
「!」
突如、ダリアの足元で何かが破裂する!ムイミもそれを察し即座に演算したであろう錫杖を投げつけるも一手遅い。その錫杖の行方は白い靄の中へと消え去って行った。先程、ダリアの足元で破裂したのは発煙剤の入ったお手製の煙球。濃い煙は完全にダリアの姿を隠し周囲の視覚情報も阻害していた。
この世界の戦いにおいて視覚情報というのは最も優先されるものだ、極論を言えば相手の頭上に槍を演算し落とし続ければそれだけで勝てるのだから。しかし、現実はそうもいかない。それを行うためには相手との距離を目測で正確に導き出さねばならない、つまり飛び抜けた空間把握能力が必要だ。だからこそ基本的に演算は自分の周囲の把握できる空間内で行うことが多い。しかし、霧や煙などで距離感が上手く認識出来ないと自分が把握できる空間の領域も狭まっていく。
「コれは...本物でスね」
「私が腕に縒りを掛けて作った煙球です。味わってくださいね」
「ッ!」
木々の隙間、後方から飛んで来たナイフをムイミは即座に弾く!そんな攻防が繰り広げられている中...
「ふふっ、単調な攻撃だね。でも...」
「あぁ、着々と追い込んでいってるな」
ルーナとアキリは完全にスポーツ観戦感覚でこの戦いを見ていた。
「ナイフ自体はなんとかなるだろうけど...」
「問題は煙だな」
「ナイフに気をとられている間に周りは完全に煙で覆われてしまっているね」
「てかさっきストーカーちゃんの漢字にルビ振るの忘れてないか?」
「ふふっ、多分めんどくさくなったんじゃないかな」
「作者め...だからあれほどキャラ設定は練っておけと」
「思い付きでこの物語書いてるからね。アレにそんな知能はないよ」
「まぁ、自分で作った設定に首絞められている馬鹿の話はどうでもいい」
「そうだった。今はこの戦いの行く末を...見たいんだけど」
「あぁ、煙でなんも見えねぇ」
気づけばここら一帯が煙に覆われ、方向感覚がなくなる程になっていた。
「...厄介でスね!」
「お褒めに預かり恐縮です!」
煙の外から逃げ場を潰すように飛んでくるナイフ...ムイミ自身に向けて飛んできていればまだいくらでもやりようはあっただろう。しかし、煙の外へ逃げられないように囲うように飛んでくるナイフに翻弄されていた。着々と追い込まれている...だが、逆を言えばそれ以外に目立った動きは今のところない。この煙が本物で演算ではない以上、いずれ煙は晴れるし煙球の残数も決まっている。つまりもうそろそろ何か仕掛けて来ても良い頃合い...ムイミはずっと錫杖でナイフを捌きつつダリアが攻勢に出るのを待っていた。
「...そコデす!」
「...ッ!」
――――――カキン!という金切り音と共にダリアのナイフとムイミの錫杖がぶつかり合う。先程までナイフを投げて牽制に徹していたダリアが煙の中からの奇襲攻撃...接近戦へと切り替えた。しかし、純粋な力勝負...迫り合いではムイミに軍配が上がる。だからこそ止められたら即座に攻撃を打ち切り煙の中へ隠れる...堅実なヒットアンドアウェイ。正面、側面、背後、頭上...予測も出来ない角度からのダリアの連続攻撃にムイミは翻弄されていた。
「おカしいでスね...」
「何かおかしなことがありましたか」
「...ッ!狙いは何でスか?」
「さあ?何でしょうね!」
...今、この時ムイミの脳内ではいくつかの疑問が生じていた。一つ、態々ナイフ投げでの牽制から近接戦に切り替えたのか。二つ、もう煙球を使用していないのに煙が晴れないのは何故か。三つ、どうやってありえない角度から攻撃を仕掛けているのか...。当たり前だが正面にいた人間が即座に背後に移動するなど瞬間移動でもしない限り不可能。仮に瞬間移動する演算が可能だったとして、この煙の中で移動したい場所の座標を正確に把握している?...否、それはない。そもそも、先ほど演算したナイフを投げていたのだから瞬間移動の演算とナイフの演算を並列処理している事になる。可能性としてはかなり低い...というより無いに等しい。となれば重要なのはナイフの方...何かがおかしい。何かを見落としている...
「戦闘中に考え事ですか?」
「!」
間一髪、反らした顔の眼前をナイフが通過する...1Fでも回避が遅れていればその瞬間に勝負が決していた。気が付けば打開策の思案に脳のリソースを割きすぎて錫杖の演算を疎かにしていた。再度、演算し直した錫杖でダリアのナイフを弾きつつこの状況を打開策を練る。...その時ふと、ムイミの視線が弾いたナイフに注がれた。何度か打ち合って少し刃こぼれしたナイフ。
「アぁ、ソういう事でスか...デあれバッ!人は法則を明かし、明かした数の法則に縛られ生きるのだ—――――――『自戒則』」
「ッ!何を!?」
ムイミの克明詠唱『自戒則』...瞬間、ダリアは困惑した。理由は単純、『私はグリセラディブランキアータで母親がメンフクロウで父親がゾで18世紀にフレデリック1世に寄贈された...』
「...っ!」
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「してやられましたね...」
「ヤっぱりソういうコとでスか」
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「やハり演算してイたのはナイフでハなく煙デしたか...本物の煙デ仕込みヲ行イ、準備がデ来たラ煙ヲの方ヲ演算しテ接近戦に切り替えル」
「せっかく頑張って準備したのにこうもあっさりと突破されるとは思いませんでした」
煙が晴れ、ルーナは周囲を見渡し思わず「おぉ」と、感嘆の声を上げる。
「ふふっ、これはこれは」
「どうだ?ダリアの実力は」
「あの短時間でここまで舞台を整えるとは...余程の手際の良さがないとこれは出来ないね」
ルーナが見ているのはムイミを囲うように張られた直径7.5mmの鋼芯ワイヤーロープ...ムイミを奇襲する為に張り巡らせたダリアの足場。最初の煙に紛れて糸を張りつつムイミを牽制、完成後は煙を演算しつつ糸を使っての連続攻撃。さながら糸を使って相手を追い詰める姿はまるで蜘蛛...
「ふふっ、性格の悪さが見て取れるね」
「その理論でいくと接近戦しかしないお前はさながら馬鹿だな」
「なら氷塊撃つことしか出来ない君はアホかな?」
「はっ!いいぜ?その喧嘩買ってやるよ!表出ろや!」
「いや、ここが外だよ」
「やんのかゴラぁ!」
「お嬢様、ややこしくなるので場外乱闘はお止め下さい!」
勝手に始まりかけていた場外乱闘を諫めつつもダリアの脳みそはかつてない程フル回転していた。本来であれば煙が晴れた程度は何も問題がない。相手を逃がさないように再度、四方八方から攻撃を仕掛け追い込んでいけばいいだけだ。ただ、今回ばかりは煙が晴れるのは途轍もなく痛手...というより勝敗にすら関わってくる。何故なら相手がムイミだから...いや、こう言った方が分かりやすいか三メートルの刀を振り回す脳筋だから
「まぁ、そうなるでしょうね」
そう、あの刀を見た時から相性の悪さは把握していた。それでも何とかいつもの戦法で戦えないかと考えた結果が煙球作戦。しかし、それが失敗した今となっては...
「ハぁッ!」
スパンっ!っと張り巡らせた糸がまとめて切り裂かれていく...一応、応戦しようとナイフを構えるがこの距離は刀の射程内。ダリア諸共真っ二つにしようと大太刀が迫ってくる!
――――――プツン!
「っツ!!!」
耳に届いた小さな何かが切れる音、そして踏み込んだ足に僅かに感じだ何かが引っ掛かった感覚...考えるよりも早く、ムイミのとったその行動は七割の直感と二割の反射神経と一割の運によって無意識に行われた。ダリア目掛けて振るっていた大太刀を投げ飛ばし、大きく後ろに体を反らす!瞬間、目の前をナイフが通過する...明らかにダリアが投げた物ではない、では誰が...など考えるまでもない。ワイヤーロープの中に紛れた注意して見ないと気づかない程の細い糸...
「隙だらけですよ?」
「...厄介でスね!」
迫りくるナイフの斬撃!的確に対応しづらい場所を狙って迫ってくる攻撃を紙一重のところで捌く、幸い威力は高くないだが、厄介なのは途中に織り交ぜて放ってくるフェイント...これが実戦であれば一撃喰らうことを前提にカウンターを決めに行った方が早い。しかし、手合わせである以上、全てが敗北に繋がる一撃。判断を誤れば即座にゲームオーバーになってしまう。このままではジリ貧...ムイミはここで一か八かの賭けに出た!
「フっ!」
ムイミは大きく後方に跳ぶ!そして...
「イざ、勝負!――――――人は自らの罪を0で割ろうとする生き物である『虚構割』」
「!」
善性、罪悪感、倫理観...etc。そういった感情をデータとして送り込み攻撃を躊躇、中断させる演算。データを送ることは『自戒則』と同じだが、こちらは感情というデータを送り続けるモノ。し続ける限り、相手は良心の呵責によって攻撃を躊躇い続ける...行動の停止ではなく鈍化。だが、この演算の真骨頂は何をされたか分からない点にある。だからこそ、ダリアは躊躇し、混乱した...そしてそれこそがこの戦局を左右するほどの致命的な隙を生んでしまう!
「この程度でッ!」
何をされたかは分からない。だが、ここで攻めなくてはチャンスはない!ダリアは躊躇する足を無理やり動かし一気に踏み込む!
――――――「ふふっ、それは悪手だね」「あぁ、乗せられたな」
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「拙の間合いデす!」
左手に持っていた錫杖での薙ぎ払い!どうあっても躱すことは出来ない...確実な決着を齎す一撃!それをダリアは...素手で受け止めた!
「いッたぁあ!!!」
「!?」
左手が真っ赤になり痺れるような痛み、しかしそれを気合でねじ伏せ残った右手でナイフを投げる!
「サせナい!」
「チッ!」
しかし、ここで先ほどのムイミ演算がダリアの手元を僅かに狂わす!ナイフは当たらず空を切り彼方へと飛んでいく!
「コれで、終わり!」
いつの間にか錫杖は消えており、ムイミの足がダリアの耳元で停止していた。
「寸止め...コれで拙の勝ちデす」
「そうですね。そして「――――――ふふっ、メイドさんの勝ちだね」」
「エ?」
ムイミの背後にはいつの間にかルーナが立っていた。そして、何故かその手には見覚えのあるナイフが握られいる。
「...ドういう事でスか?」
「僕は言ったね『お互いに納得の出来る一撃が入ったら終了、ヤバそうな一撃だったら入る前に僕が止める。』ってそして、スーちゃんの頭に当たりそうなナイフをこの通り止めた。だからこの勝負は両方の勝ち...いや、この場合は引き分けと言うべきかな?」
「ソんな、確かにナイフは...ッ!?」
その時、ムイミは気づいた...ルーナが持っているナイフから細い糸が木の枝へ向かって伸びている。そして、更に辿っていくとダリアの右手に巻き付ていた。
「ふふっ、気づいたみたいだね。あの時、ダリアが投げたナイフにはカーブを描いて飛ぶように演算が付与されていた...そして、繋がれた糸は木の枝に引っ掛かって先端がUターンするようにムーちゃんの頭目掛けて戻って来た」
ピンと張った紐の真ん中を押すと両端の先端は自ずと近づく。それと同じように木の枝を起点にダリアの右手に巻き付ていた先端とナイフに繋がれた先端が近づいた結果である。そして、それに気づかなかったムイミはヤバそうな一撃が入りそうだと判断したルーナの介入によって勝ちを逃した...
「流石ダリアだ。よくやった!私の部下に敗北は許されんからな」
「え、そんな軍隊みたいな感じなのかい?」
「お褒めに預かり光栄です」
「全くモってシてやられマした」
「ムイミ様こそ、実践なら完全に負けていましたよ」
「ヨく言いまスね、実践だったらソもソも正面きって戦うタイプじゃナいデシょう」
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