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第2話『確認と目的』
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光の玉の案内で穏やかな流れの小川を見つけ、水をひと飲みして休憩した。よく見てみると水中には魚が何匹かおり、上手く捕獲できれば当面食料には困らなそうだ。
他にも夜に身を隠せそうな木の洞があったり、見た目サクランボのような実をぶら下げた木があったりと、第一拠点としては上等な場所だった。
俺は手ごろな岩に跳ね上がり、光の玉と高さを合わせた。
『…………それじゃあ早速だが、最初に聞かなければならんことがある』
『君の名前とかかな? こうしてキメラになったわけだし、キメラ君なんてのはどう?』
『……シンプル過ぎんだろ。さすがにパスだパス』
マイペースで変な奴である。ただ名前が必要というのは分からないでもない。いずれは誰もが畏怖するような名前にしようと決め、再度本題を切り出した。
『そもそもここはどこだ? 異世界なのは当然として、どんな場所なんだ?』
『ここは異世界イルヴェスタの最大大陸中心に位置するアルマーノ大森林だよ。星としての規模は君がいた地球とおよそ同じで、獰猛な魔物はこの森林にしかいない』
『……ここにしか魔物がいない? じゃあ他の場所には何がいるんだ』
『普通に鳥や魚や獣だよ。君がどんな世界を想像したのかは分からないけど、少なくてもこの世界この時代において魔物がいるのはここだけだ』
俺の中で魔物とは動物の上位種的な立ち位置だ。でも思い返してみれば突然時空を割って現れたり、何者かが悪意で生み出したりと多種多様な存在理由がある。
きっと特定地域にしかいないというのも特段おかしな話ではないのだろう。ここに関しては突っ込んでも仕方なく、さっさと次の重要質問に移ることにした。
『俺がキメラってのは分かったが、どうやって肉体を鍛えるんだ?』
『他の魔物を食べればその性質を受け継ぐことが可能になる。手だったり足だったり、火を噴いたり毒を持ったりと、スキル的な能力さえも手に入れることができるよ』
『とりあえず喰いまくれば強くなるってことか、分かりやすくていいな』
数多の魔物を取り込んで変化していく我が身を想像し、あれと身体を傾けた。
もし際限なく魔物を食い散らかし、イタズラに部位が増えたらどうなるのだろうか。足が十本で首が五つの魔物など見るに堪えない。グロいだけならともかくキモイのはお断りだ。
そこのところはどうなのか聞くと、光は「自分の身体を念じてみて」と言った。
言葉の意味がよく分からなかったが、ここは素直に従ってみた。自分の黒い球体状の身体を思い浮かべ、キメラとは何かを考える。すると脳裏に何か浮かび上がった。
種族 キメラ 名前 無し
総合ステータス
攻撃E 魔攻撃G
防御G 魔防御G
敏捷G 魔力量G
部位
頭 キメラ 首 キメラ
胴体 キメラ 背中 キメラ
右腕 キメラ 左腕 キメラ
腰 キメラ 尻尾 キメラ
右足 キメラ 左足 キメラ
任意スキル 無し
自動スキル 自然治癒(微)
特殊スキル 眷属召喚
その内容はステータス表ともいうべきものだった。
手に入れた魔物の部位を身体の各箇所にセッティングできるらしく、どんなスキルが発動・使用できるのかもしっかり記載されていた。
今の俺は平均Gと貧弱そのもので、魔物全体で見てもほぼ最弱だとみえる。大口と牙のおかげか攻撃はかろうじてEだが、使えそうなのはそれだけだ。
平均的な魔物がどんなものか知りたく、周囲のステータスも調べようとした。しかし虫も野ネズミも、近くで浮く光の玉のステータスすら出てきてくれなかった。
『このステータスが見れるのは俺だけなのか』
『そうだね。そういった情報が可視化されていた方が動きやすいだろうってことで、神様が君に転生特典としてプレゼントしたんだ』
『確かにこれは使えそうだな。で、特殊スキルの眷属召喚ってのは何だ』
『読んで字のごとく、取り込んだ魔物を魔力で生み出して使役できる能力だね。かなりの魔力量を必要とするから、当面はお蔵入りになるだろうけど』
どうやら異世界転生らしいチート能力はくれていたらしい。さっさと強くなって自由自在に使用できるようにし、魔物の軍勢を作ってやろうと考えた。だが、
『まぁ、その特殊スキルには他にも発動条件があるんだけどね』
『…………まじかよ』
そう上手い話はなかった。発動条件は口止めされているようで、自力で探すしかないと言われた。ごねても仕方ないので当面は全ステータスG以上を目指すと決めた。
早速魔物を探しに行こうと決め、小川の方角を頭に入れつつ移動した。もし勝てない相手の場合は光の玉が忠告してくれるとのことで、まずは一体と気合を入れた。
三十分ほど茂みから茂みへと転がっていく途中、光の玉から止まるように言われた。
葉っぱをかき分けて先に目を凝らすと、薄暗い枯葉溜まりの中に大きなキノコを見つけた。よく見て見るとそれは動いており、茶色い傘の下には黒い目が二つ確認できた。
『あれが魔物……なんていうかキモいな』
キノコの魔物の体表は皺だらけで、泥にまみれている。茶色と黄のまだら模様が毒々しく、動きもノソノソと気味が悪い。あんなもの食べるのかと怖気が走った。
しかしここを越えねば始まらない。勇気を出してキノコの魔物に近づくと、俺に気づいて慌てて逃げ始めた。だが動きは遅く簡単に正面へと回りこめた。
『――――てめぇが最初の獲物だ! 往生しやがれ!』
「ギィッ!? イィィィィッ!!?」
グァッと大口を開け、キノコ魔物の身体半分に噛みつく。見た目通り固さはなく、牙は力の許す限りめり込む。微かにだがシイタケのような味が舌から伝わってきた。
このまま噛みちぎろうとすると、キノコ魔物は白い胞子を大量にばら撒いた。それは一瞬でこちらの視界を覆うが、絶対に離すものかと牙により力を込めた。
メシミシリと音がし、ついに俺はキノコ魔物を半分かじり取る。咀嚼しながら呑み込んでいき、意外にも美味な味わいにホッと一息ついた。
『なぁ光の玉、これで喰ったことになんのか?』
『うん、見事だったよ。ステータスを見てごらん』
光の玉に促され、俺は自分を念じてステータスを確認した。
表自体には特段変化はなかったが、頭の片隅にキノコの魔物の姿が浮かんだ。試しに首の部位にキノコを装備するように念じると、球体の後頭部付近にキノコが一つ生えてきた。
首 斑煙茸 任意スキル 煙幕胞子
恐らく『マダラケムリタケ』とは翻訳をかませた魔物の名で、視界を覆ったあの胞子はスキルのようだ。窮地を脱したり戦闘で生かしたりと、まぁまぁ使い道がありそうだ。
試しに煙幕胞子を発動してみると、後頭部に生えたキノコから煙幕が発せられた。俺自身がキノコの性質を得たからか煙たさはなく、視界良好で動くことも可能だった。
『良い魔物教えてくれるじゃねぇか。やっぱお前いい奴だな』
『ふふっ、力になれたなら良かったよ』
『この調子でどんどん魔物を喰って行こうぜ。じゃあ次は……って、どうした?』
先を進もうしたところ、光の玉が動きを止めた。体調でも悪くなったのかと心配すると、心の底から申し訳なさそうな声で告げてきた。
『――――残念だけどここでお別れだ。僕はもう、行かなくちゃならない』
他にも夜に身を隠せそうな木の洞があったり、見た目サクランボのような実をぶら下げた木があったりと、第一拠点としては上等な場所だった。
俺は手ごろな岩に跳ね上がり、光の玉と高さを合わせた。
『…………それじゃあ早速だが、最初に聞かなければならんことがある』
『君の名前とかかな? こうしてキメラになったわけだし、キメラ君なんてのはどう?』
『……シンプル過ぎんだろ。さすがにパスだパス』
マイペースで変な奴である。ただ名前が必要というのは分からないでもない。いずれは誰もが畏怖するような名前にしようと決め、再度本題を切り出した。
『そもそもここはどこだ? 異世界なのは当然として、どんな場所なんだ?』
『ここは異世界イルヴェスタの最大大陸中心に位置するアルマーノ大森林だよ。星としての規模は君がいた地球とおよそ同じで、獰猛な魔物はこの森林にしかいない』
『……ここにしか魔物がいない? じゃあ他の場所には何がいるんだ』
『普通に鳥や魚や獣だよ。君がどんな世界を想像したのかは分からないけど、少なくてもこの世界この時代において魔物がいるのはここだけだ』
俺の中で魔物とは動物の上位種的な立ち位置だ。でも思い返してみれば突然時空を割って現れたり、何者かが悪意で生み出したりと多種多様な存在理由がある。
きっと特定地域にしかいないというのも特段おかしな話ではないのだろう。ここに関しては突っ込んでも仕方なく、さっさと次の重要質問に移ることにした。
『俺がキメラってのは分かったが、どうやって肉体を鍛えるんだ?』
『他の魔物を食べればその性質を受け継ぐことが可能になる。手だったり足だったり、火を噴いたり毒を持ったりと、スキル的な能力さえも手に入れることができるよ』
『とりあえず喰いまくれば強くなるってことか、分かりやすくていいな』
数多の魔物を取り込んで変化していく我が身を想像し、あれと身体を傾けた。
もし際限なく魔物を食い散らかし、イタズラに部位が増えたらどうなるのだろうか。足が十本で首が五つの魔物など見るに堪えない。グロいだけならともかくキモイのはお断りだ。
そこのところはどうなのか聞くと、光は「自分の身体を念じてみて」と言った。
言葉の意味がよく分からなかったが、ここは素直に従ってみた。自分の黒い球体状の身体を思い浮かべ、キメラとは何かを考える。すると脳裏に何か浮かび上がった。
種族 キメラ 名前 無し
総合ステータス
攻撃E 魔攻撃G
防御G 魔防御G
敏捷G 魔力量G
部位
頭 キメラ 首 キメラ
胴体 キメラ 背中 キメラ
右腕 キメラ 左腕 キメラ
腰 キメラ 尻尾 キメラ
右足 キメラ 左足 キメラ
任意スキル 無し
自動スキル 自然治癒(微)
特殊スキル 眷属召喚
その内容はステータス表ともいうべきものだった。
手に入れた魔物の部位を身体の各箇所にセッティングできるらしく、どんなスキルが発動・使用できるのかもしっかり記載されていた。
今の俺は平均Gと貧弱そのもので、魔物全体で見てもほぼ最弱だとみえる。大口と牙のおかげか攻撃はかろうじてEだが、使えそうなのはそれだけだ。
平均的な魔物がどんなものか知りたく、周囲のステータスも調べようとした。しかし虫も野ネズミも、近くで浮く光の玉のステータスすら出てきてくれなかった。
『このステータスが見れるのは俺だけなのか』
『そうだね。そういった情報が可視化されていた方が動きやすいだろうってことで、神様が君に転生特典としてプレゼントしたんだ』
『確かにこれは使えそうだな。で、特殊スキルの眷属召喚ってのは何だ』
『読んで字のごとく、取り込んだ魔物を魔力で生み出して使役できる能力だね。かなりの魔力量を必要とするから、当面はお蔵入りになるだろうけど』
どうやら異世界転生らしいチート能力はくれていたらしい。さっさと強くなって自由自在に使用できるようにし、魔物の軍勢を作ってやろうと考えた。だが、
『まぁ、その特殊スキルには他にも発動条件があるんだけどね』
『…………まじかよ』
そう上手い話はなかった。発動条件は口止めされているようで、自力で探すしかないと言われた。ごねても仕方ないので当面は全ステータスG以上を目指すと決めた。
早速魔物を探しに行こうと決め、小川の方角を頭に入れつつ移動した。もし勝てない相手の場合は光の玉が忠告してくれるとのことで、まずは一体と気合を入れた。
三十分ほど茂みから茂みへと転がっていく途中、光の玉から止まるように言われた。
葉っぱをかき分けて先に目を凝らすと、薄暗い枯葉溜まりの中に大きなキノコを見つけた。よく見て見るとそれは動いており、茶色い傘の下には黒い目が二つ確認できた。
『あれが魔物……なんていうかキモいな』
キノコの魔物の体表は皺だらけで、泥にまみれている。茶色と黄のまだら模様が毒々しく、動きもノソノソと気味が悪い。あんなもの食べるのかと怖気が走った。
しかしここを越えねば始まらない。勇気を出してキノコの魔物に近づくと、俺に気づいて慌てて逃げ始めた。だが動きは遅く簡単に正面へと回りこめた。
『――――てめぇが最初の獲物だ! 往生しやがれ!』
「ギィッ!? イィィィィッ!!?」
グァッと大口を開け、キノコ魔物の身体半分に噛みつく。見た目通り固さはなく、牙は力の許す限りめり込む。微かにだがシイタケのような味が舌から伝わってきた。
このまま噛みちぎろうとすると、キノコ魔物は白い胞子を大量にばら撒いた。それは一瞬でこちらの視界を覆うが、絶対に離すものかと牙により力を込めた。
メシミシリと音がし、ついに俺はキノコ魔物を半分かじり取る。咀嚼しながら呑み込んでいき、意外にも美味な味わいにホッと一息ついた。
『なぁ光の玉、これで喰ったことになんのか?』
『うん、見事だったよ。ステータスを見てごらん』
光の玉に促され、俺は自分を念じてステータスを確認した。
表自体には特段変化はなかったが、頭の片隅にキノコの魔物の姿が浮かんだ。試しに首の部位にキノコを装備するように念じると、球体の後頭部付近にキノコが一つ生えてきた。
首 斑煙茸 任意スキル 煙幕胞子
恐らく『マダラケムリタケ』とは翻訳をかませた魔物の名で、視界を覆ったあの胞子はスキルのようだ。窮地を脱したり戦闘で生かしたりと、まぁまぁ使い道がありそうだ。
試しに煙幕胞子を発動してみると、後頭部に生えたキノコから煙幕が発せられた。俺自身がキノコの性質を得たからか煙たさはなく、視界良好で動くことも可能だった。
『良い魔物教えてくれるじゃねぇか。やっぱお前いい奴だな』
『ふふっ、力になれたなら良かったよ』
『この調子でどんどん魔物を喰って行こうぜ。じゃあ次は……って、どうした?』
先を進もうしたところ、光の玉が動きを止めた。体調でも悪くなったのかと心配すると、心の底から申し訳なさそうな声で告げてきた。
『――――残念だけどここでお別れだ。僕はもう、行かなくちゃならない』
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