カスタムキメラ【三章完結】

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第9話『大森林の覇者たち』

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 慎重に音の方角を目指すと、強力な力によってねじ切れた木々を見つけた。
 破壊跡の新しさを見るに、今行われている戦闘の余波を受けたようだ。危険性から来た道を戻るべきか、リーフェはううんと首を横に振るった。

「もしもの時は魔除けの魔石を捨てるよ。魔物さんの背に乗って走れば大抵の魔物からは逃げられると思うし、行くだけ行ってみた方がいいと思う」
「……ギウ」
「もちろん緊急時は私を置いていってもいいから……って、いたっ」

 冗談でも面白くなかったのでリーフェの頭を顎で小突いた。叱ったのはしっかり伝わり、叩いた箇所を手で抑えながら「ごめん」と言った。
 気を取り直し茂みの先へ行くと、急に視界が開けた。辺りには木々の残骸が散乱し、中心地点には三体の巨大な魔物がいた。

 一体目は全長十メートルを超す岩石の巨人で、全体的に武骨な見た目だ。歩くたびに地鳴り起き、拳を振り下ろす度に大地が重く揺れている。
 二体目はとにかくデカく、紺色の鱗が特徴的な長い蛇だ。顔は胴の途中から二つに分かれ、それぞれの口からは炎と冷気が漏らしている。
 三体目は鋭利な鎌を構える巨大なカマキリで、どこか武人的な出で立ちをしている。鎌もギザギザしたものでなく、入念に砥がれた剣のごとき滑らかさだ。

 三者三様の強者たちは一定の距離を保ち睨み合っている。そんな張り詰めた空気を打ち破ったのは、両腕を振り上げて走り出す岩石の巨人だ。
 大気を吹き飛ばす勢いで拳を打ち込み、武人カマキリの顔面を狙う。武人カマキリは軽やかな動きで拳を鎌でいなし、反撃に移る。二つ首の大蛇は接近戦へと移行する二体を狙い、片方の口から火炎を吐き出した。

 切り裂き避け、打ち込み砕け、集団戦は地獄の様相を呈していく。
 それぞれに秀でた部分はあるが、武人カマキリの強さは頭一つ抜けていた。乱戦の最中二つ首の大蛇の胴を寸断し、余力を残して岩石の巨人と相対する。だが武人カマキリに卓越した回避力があるように、岩石の巨人には堅牢な守りがある。
 このまま仕切り直しとなるかと思っていると、岩石の巨人が捨て身の突進を行った。武人カマキリは鎌を下げ、居合の構えを取った。

 両者の肉体が衝突する瞬間、ギンと断ち切り音が鳴り響く。
 視線を上に向けるとそこには切り離された岩石の腕が飛んでいた。
 なんと武人カマキリは一瞬で防御の薄い肩関節を切り裂いたのだ。理解する間に腕は地面に落ち、土を吹き飛ばして俺たちの方に転がってくる。
 とっさにリーフェのローブの首根っこを噛んで跳ぶと、さっきまでいた場所に岩石の腕が滑り込んできた。
 視線を元の場所に戻すと、岩石の巨人はすでに首をはねられ絶命していた。

(…………す、すげぇ)

 レベルが違う、今はそれだけしか分からなかった。
 圧倒的な強さに見惚れていると、リーフェが尻尾をギュッと引っ張った。告げられたのは「早くあの腕を食べよう」という提案だった。

「きっとこの岩の腕は魔物さん以外にもごちそうだと思う。今は戦闘の影響で他の魔物の姿が見えないし、あのカマキリも食事に夢中になってる。チャンスだよ」

 最も過ぎる発言で、急ぎ岩石の腕の傍まで近づいた。
 間近で見ると体表の岩肌はそこらの石と全然違っている。薄っすらとだが鉱石的な反射光を発しているし、かじっても傷一つつかなかった。
 切断された箇所へと回り込むと、血が勢いよく溢れているのを見つけた。早速目についた箇所の肉をかじり取ろうとするが、思った以上に固く力を取り込めなかった。
 仕方がなく血をすすっていると、リーフェが魔物の鳴き声が迫っていると告げた。このままでは何の成果も……と焦っていると、脳裏に岩石の巨人の姿が浮かんだ。

(…………上手くいったのか? でも、あれ……?)

 これまでと違い違和感があった。頭の中に浮かぶのは岩石の巨人の力に間違いないが、そのすべてを手にしたという実感が湧かなかったのである。
 どういうことか試したかったが、これ以上の長居は禁物だ。
 いくらリーフェの魔除けの魔石があったとしても、退路がなくなれば飢え死となる。名残惜しいがここは逃げることに決め、遭遇を避けて帰路についた。
 それから三時間ほど掛けて洞窟に戻り、入り口近くに魔除けの魔石を設置した。魔石の周りを小石で囲み、ツタで簡単に固定する。ちょっとした装飾っぽくなった。

「これで良しっと、魔物さんは大丈夫?」
「ギウ」
「やっぱり見栄えがいい物があると違うよね。どうせなら洞窟の中にも花を飾って、書き物ができるスペースとかも欲しいかも……けほっごほっ」
「ギウ?」

 突然むせたので心配すると、リーフェは大丈夫だと言った。
 とはいえ歩いて疲れたのは事実のようで、壁に背を預けて座った。枕代わりになるべきか考えるが、先に夕食を取りに行くことに決めた。
 真新しい発見がないかと森を彷徨うと、ちょっとした沼地へとたどり着いた。そこにはイノシシほどの大きさの亀型魔物がおり、目が合い次第口から岩を発射してきた。
 その質量と速度はかなりのもので、命中すれば結構な痛手となる。沼の中に居られては一方的に攻撃されるばかりだったが、こちらを狙い沼の外に出てきてくれた。

(――――これは、手に入れた力を試すチャンスか)

 亀の魔物が纏う甲羅はかなりの強度で、通常の接近戦は難しそうだ。一定の距離を保って亀の魔物の周囲を駆け回り、岩の射撃が止んだタイミングで前に出た。
 頭で岩石の巨人の姿を思い浮かべると、何故かすべての変身が解除された。そして黒い球体に戻るのに合わせ、体表の右側部分から巨大な腕だけが構成された。

右腕 岩石巨人 自動スキル 自然治癒(中)、物理軽減(大) 任意スキル 岩石生成

 完成までに掛かった時間は五秒ほど、大質量の一撃は広範囲な攻撃力を持って亀の魔物を押し潰す。腕の真下には血が滲み、周囲の木々もかなりへし折れた。

(…………おおぅ、すげぇ威力だな。そこそこ強そうだったのに一撃かよ)

 早速肉片を食べようとするが、岩石の腕は指の部分しか動かせなかった。色々と頑張るが他の関節はビクともせず、俺は肩関節付近で宙ぶらりんとなった。

総合ステータス
攻撃B  魔攻撃G
防御B  魔防御C
敏捷H  魔力量F

 ステータスを見てみると敏捷がHになっていた。Gより下があったのか。
 今回みたいに跳躍に合わせて変身すればかなりの威力が期待できるが、避けられてしまえば何の意味も成せない。むしろ反撃の隙を与えるだけになる。使いどころが肝心だ。
 亀の魔物の性能は後で確かめようと決め、岩石の腕を消して残骸を食べた。帰りに食用可能な木の実を探し回収し、魔除けの魔石を避けて洞窟に足を踏み入れ……言葉を失った。

「……魔物、さん。はぁ……、おかえり……なさ……い」

 リーフェはぐったり横になり、苦しそうな吐息で脂汗を浮かべていた。慌てて駆け寄って額に触れると、かなりの熱を発していた。
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