カスタムキメラ【三章完結】

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第21話『地下迷宮』

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 課外授業を始めるため、クラス一同は中庭に移動した。すでに騎士科の生徒は到着しており、浮ついた様子で騎士団長を見ている。さっきクラスで起きた反応もそうだが、軍のお偉いさんというよりはスターみたいな扱いだ。

(…………まぁあの顔で強ければそうもなるか。サッパリ系のイケメンなのにしっかり男らしがあるし。戦闘狂っぽいのが玉に瑕だが)

 生徒の十人十色な顔模様を眺めていると、俺たちの元にココナが駆け寄ってきた。鞄の隙間から挨拶するとココナは気の良い挨拶を返してくれた。

「いつもはくじ引きでチーム分けだが、今回は騎士団長の権限でリーフェと一緒に行動することになった。何が起きるか分からないからな」
「普段は三人一組だけど、もう一人はどうなるの?」
「こっちのクラスで欠席がいるので余りが出る。私たちが二人でチームになればちょうどいい感じだ。クーは実質一人とみなせるし、戦力的には十分だろう」

 見知らぬ生徒と行動する必要がないと知り、俺もリーフェも安心した。そして探索についての段取りを交わしていると、教師側から課外授業の解説があった。
 まず探索の目的は遺跡にある魔法時代の遺物を回収してくることだ。ルートはチームごとに指定されており、各所に配置された教師が作業工程や連携を採点する。より多くの遺物を回収すれば点数が伸びるが、危険行為は大幅な減点だそうだ。

「知っての通り、遺物はこちらで用意したものである。実用的にも学術的にも価値が低い物だが、貴重な代物であることに変わりない。諸君らがどれほどの知識と力を蓄え、また遺物の扱いを心得ているか、それを確かめるための授業である」

 白く長い髭を蓄えた老齢の教師が告げ、生徒も即答で返事した。
 探索の懸念点は落盤ぐらいかと思っていると、意外な発言があった。それは「道中の魔物に対する対処」という部分で、魔物がいるのはアルマーノ大森林のみじゃないのかと疑問が浮かんだ。

「詳しい結論はまだ出ていないんだけど、地下にいたおかげで封印魔法から逃れたって話だよ。騎士科の生徒と協力するのも魔物と戦うためなの」
「ギウ、ギウ、ギナウ」
「騎士科の生徒が使い魔を従えてない理由? 単純に魔力が無いと魔物を御すことができないからだよ。魔力持ちは珍しいからね」

 ちなみにココナは魔術科に入れるほど魔力を持っているらしい。だが剣の才能を騎士団長に認められ、市民を守る騎士として活躍する道を選んだ。学園内でも一位二位の腕前があるらしく、その戦いぶりに興味が湧いた。
 一通り教師の話が落ち着つき準備を始めると、人混みの先頭が湧いた。注目を集めているのは騎士団長で、何故か木刀を持って生徒と戦っていた。

「ふっ、打ち込みが甘いぞ! もっと腰を入れてみるがいい!」
「は、はい! うわっ!?」
「さぁ次の挑戦者は誰かな? このわたしに一太刀入れられるのならば、明日にも騎士団への入団を許可しよう! 全力を見せてみたまえ!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 模擬戦の開催理由は探索前のウォーミングアップとのことだ。騎士団の正式入隊という餌をぶら下げられ、騎士科の生徒は血眼になって剣を振るっている。
 元々の段取りにはない行動のようで、関係者のココナと教師陣は困り顔だ。すでに半数以上が倒れているが、戦いの熱量は一向に収まらない。良い家柄の出が多い魔法科の生徒は急な展開にドン引きしていた。
 結局誰一人として手傷を負わせられず、中庭は死屍累々となった。騎士団長は背に装備したマントをなびかせ、天を仰ぎ高らかな笑いを上げた。

「――――ははは、皆元気があって良いことだ。では課外授業を始めようか!」

 ゾンビのごときうめき声を漏らす騎士科の生徒を尻目に、俺たちは移動した。
 騎士団長の実力の一端を知れたのは良かったが、同時に「この国大丈夫か」という感想も抱いた。


 学園の地下に続く入り口は離れにあり、生徒は二列で螺旋階段を降りていった。学園自体が小高い丘の上にあるからか道のりは長く、吹き抜けの先は真っ暗だ。
 行く先を照らすのは照明用の魔石で、淡い緑色の光が特徴的だ。一時間の魔力充填で半日光らせることが可能らしく、値段も安価とのこと。魔法科の生徒は全員持っているようで、リーフェも自分の物を用意していた。

「クーちゃん、もう出ていいよ」
「ギウ」
「ここが学園の地下、推定千年以上昔に建てられた遺跡『明星の大迷宮』だよ」

 その言葉で辺りを見回し、感嘆した。現在地はホール的な場所で、横幅は五十メートル近くあり高さは十メートル弱ある。壁には摩訶不思議な絵と文字が刻まれ、ホール一帯には精巧な石像が設置されている。素晴らしい迫力だ。
 千年以上も地下にあれば老朽化が酷そうなものだが、壁にも天井にも大きな破損は見受けられない。神代の技術で建てられた超常の建造物といった感じだ。

「未だに遺跡の内部構造は把握できてなくて、私たちが入れるのは上層階だけなの。もっと上の学年になれば中層・下層って行けるようになるんだよ」
「ギー、ギウ。ギギウ」
「気に入ってくれたなら良かった。私たちは最初の方の番号だから、順番がくるまで前で待機してよっか。ココナちゃんも行こう」
「あぁ、互いに気を引き締めて行こう」

 そうして待つこと十五分、ついに出番が来た。
 最初に通過するのは長い通路で、奥の部屋から中継点の明かりが確認できる。前衛をココナが担当し、中心にリーフェを置いて俺は後ろを守った。
 無事部屋に到着すると、そこには大きな水路があった。真ん中には丈夫そうな石橋があり、さらに奥には扉が三つほどある。いきなりの分岐点だ。

「前に来た時は左の扉から入ったんだけど、ココナちゃんは?」
「私も左からだな。特に希望はないし、リーフェが行きたい方で構わない」
「………じゃあせっかくだし、クーちゃんが選んでみる?」
「ギャウ!」

 待ってましたとばかりに鳴き、速攻で右の扉を選んだ。理由は一番劣化が酷かったからで、いかにも遺跡っぽい雰囲気があったからだ。
 全員で扉を押して開け、魔石で先を照らした。この道はより下に降りていくものらしく、横幅二メートルほどのまっすぐな階段が伸びていた。

「リーフェ、帰還用の道標は?」
「砕いた魔石を壁に塗っておいたよ。こっちから魔力を通せば反応してくれる」
「ではここからのルートはどうする?」
「支給品の地図には集会場跡と祭壇って書いてあるね。危険を冒さないなら集会場跡に向かうべきだけど、この戦力なら祭壇を目指していいと思う。どう?」

 俺もココナもリーフェの案に乗り、警戒を怠らず進んでいった。
 念のためと思い二角銀狼になるが、魔物は一向に現れなかった。脅威となるのは閉所の圧迫感と暗闇だけで、ちょっと拍子抜けだ。
 何事もなく祭壇へと向かう途中、遠くから声が聞こえた。リーフェとココナは気づいていない様子だが、かなり緊迫した気配があった。

「ギウ、ギガウ、ギガガウ」
「探索で命の危険……? 早々ないと思うよ。中庭での説明にあった通り、各所には先生が配置されているし。問題があったらすぐ上に戻されるはず」
「ギーウ、ギウナウ」
「……悲鳴が途切れない時はどうかって? 遺跡の一部が崩落仕掛けてるとか、教師でも対応できない魔物が現れたとかかな……って、まさか」

 リーフェがハッとなり、ココナが剣を抜いて身構えた。悲鳴は徐々に俺たちの方に近づき、物々しい破壊音が後を追い掛けてくる。危機が迫っていた。
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