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第28話『作戦会議』
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俺とリーフェは新たな目標を得た。その達成のために『倒すべき人物』がいるが、これは理事長のことではない。騎士団長のコタロスだ。
大前提としてアルマーノ大森林に入れるのは騎士団のみで、一般人は領域に足を踏み入れることすら不可能。また正規ルートで騎士団所属を目指そうとした場合、厳しい修練過程と実務試験で数年を要する問題が出てくる。だが、
騎士団長ならばそれらの問題を突破可能だ。騎士団長には団員を増やせる任命権限があり、指名を受ければ即日で騎士になれる。戦うのはそれが一番実力を示しやすいからで、本人の性格的に乗ってくる確信があったからだ。
俺たちは夜のうちに騎士団の詰め所へ赴き、騎士団長の元へ向かった。緊張と共に扉をくぐると、静かな眼差しが俺たちを値踏みしてきた。
「リーフェ嬢、そして使い魔のクー、よく来てくれた」
「こちらこそ、お時間を作っていただきありがとうございます」
「ギウ」
テーブル席に座るよう促されるが、リーフェは立つことを選択した。すると騎士団長はフッと鼻を鳴らし、数枚の紙を手に持ってデスクから立った。
「事の経緯は理事長から伺い、ココナからの報告にも目を通している。リーフェ嬢の力は野放しにできぬため、騎士団で丁重に保護する準備を進めている」
「そのような配慮をしていただき、心から感謝します。……ですが」
「客人扱いは納得できない、と。一応話は聞いているが、思わぬ行き違いがあるかもしれない。君の口から言ってもらって構わないかな」
「はい」
リーフェは一度深呼吸し、心を落ち着けて言い放った。
「――――私とクーちゃんに、アルマーノ大森林へ行く許可を下さい。もっと直接的に用件を述べると、騎士団に入団させていただきたく存じます」
「面白い提案だが却下だ。君は自分の立場と年齢を理解しているのか?」
「もちろん分かっています。でも決して無理ではないはずです」
「ほう、続けたまえ」
騎士団長は興味あり気にリーフェを見た。そこに否定の感情はなく、リーフェがどれだけ本気か見定めようとする意志が感じられた。
「……今日の課外授業の時、騎士団長は『わたしに一太刀入れれば騎士団に入団させる』と言っていました。あれは嘘ですか? またその場限りの約束ですか?」
「違う。騎士科の生徒には授業でも伝えたが、わたしが講師契約をした一週間の間ならば達成可能としている。みな乗り気で剣を振るってくるよ」
「なら私でもチャンスがありますね」
「ふふふ、まぁそうかもしれないな」
発言が気に入ったのか騎士団長は不敵に口角を上げた。その上で「だが君はもう学園の生徒ではないのでは?」と告げた。リーフェは理事長から二日の猶予をもらったことを伝え、まだ学園の所属だろうということを伝えた。
「理事長は厳しい人ですけど約束は守る人です。だから大丈夫かと」
「なるほど、身内の君が言うのなら信用しよう」
「……ただここまで言いましても、私の要求は勝手なものです。騎士団は常に忙しいですし、団長自身の都合もあります。ですから……」
「あぁ、すべてキャンセルしよう。決闘は明日の昼でいかがかな?」
あまりの快諾ぶりに俺もリーフェも驚く。すると騎士団長はデスクの方から俺たちの元へと歩いてきた。
「正直な話し、リーフェ嬢とクーの力は騎士団のモノとして運用するのが最善と考えている。提案は願ったり叶ったりというわけだ」
「……それならわざわざ戦わなくてもよいのでは?」
「いや、そうはいかない。騎士団の面々は実力主義、何の成果も出さずに特別扱いをすれば不信感を抱かせる。分かりやすい結果が必要だ。…………それに」
一度言葉を溜め、騎士団長は嬉しそうに怖い顔をした。
「――――わたし自身が君たちとの戦いを心待ちにしている。一番の理由はそれだ」
その発言と共に殺気が放たれ、周囲の空気がビリビリ震えた。俺とリーフェは同時に息を呑むが、怖気づくことだけはしなかった。
騎士団長は魔術学園内にある闘技場の使用許可を取り付けると言い、そこに生徒と騎士団の面々を招くと言った。さすがに一般開放まではしないそうだが、現時点でもかなりの観客が集まってくると想定された。
「理事長、許可出しますかね……」
「問題ない。実を言うと闘技場の使用許可はもう取ってある。一部教師と生徒たちから腕前を披露して欲しいと言われ、明日行う予定となっていたのだ」
「私の参加は伏せられるということでしょうか?」
「あぁ、上手くいけば理事長にひと泡ふかすことができるだろう。まぁ最も、それで戻ってきてくれと言われても渡す気はないのだが」
くくっと笑い、騎士団長は俺たちを送り出した。廊下にはココナが待機しており、どういう話になったのか心配そうに聞いてきた。
「明日魔術学園で騎士団長と戦うことになったよ。大体想定通りに行ったかな」
「…………そうか。やはりというか何というか、あの人もあの人だな」
「騎士団長の戦闘癖とか、苦手なこととか、いくつか聞いてもいい?」
「……私が応えられることなら構わない。ただ有益かどうかは微妙だぞ?」
十分すぎる返答で、俺たちは騎士団長の執務室から離れた。
作戦会議を行うのはリーフェ用にあてがわれた客室で、ココナも泊っていくことになった。ツインのベッドに漆塗りの家具と、中々上等な空間だ。
魔術機構を組み込んだキッチンも備わっており、会議前に腹ごなしとなった。リーフェは手持ちの肉を酒と調味料で煮込んで味付けし、丁寧に皿へ盛りつけてからテーブルへと運んできた。
「はい、クーちゃんとココナちゃん」
「ギウ!」
「ありがとう。……ん? 私の分は二人のと違うのか?」
「ちょっと事情があってね。ココナちゃんが食べるとお腹壊すかもしれないから」
「お腹を壊す? まさか腐りかけの肉でも食べる気なのか?」
疑問を浮かべるココナだが、俺は肉の正体に気づいていた。
リーフェが調理したのは蜥蜴男からの採取品、この世界で禁忌とされている魔物の肉だ。リーフェは歌魔法の発動に魔物を食べたことが関わっていると予想した。実際にキノコ魔物を食った翌日に効果があり、信憑性は高そうだ。
「ギギウ、ギギギガガウ」
「二角銀狼でどこまで行けるかってクーちゃんは言ってるんだけど、実際どう?」
「……率直な感想を言うと厳しいな。騎士団長の速度と攻撃力に対応するには足りない。か細い可能性に賭けるならば、高い防御力で持久戦を仕掛けるべきだ」
「防御力……、あのトカゲの魔物で上手くやれないかな」
「ギギウ、ギウ」
俺個人としては「やれそう」という意見だ。
蜥蜴男そのものはあっさり切り殺されたが、あれは持ち前の防御力を過信したためだ。キメラが持つスキルは乗算可能であり、スライムの物理軽減(微)等を駆使すれば耐久を底上げできる。
「――――ギウッ! ギウガガウ!」
ようやく俺の出番がきた。湧き上がる戦闘意欲を声に乗せて吠えた。
大前提としてアルマーノ大森林に入れるのは騎士団のみで、一般人は領域に足を踏み入れることすら不可能。また正規ルートで騎士団所属を目指そうとした場合、厳しい修練過程と実務試験で数年を要する問題が出てくる。だが、
騎士団長ならばそれらの問題を突破可能だ。騎士団長には団員を増やせる任命権限があり、指名を受ければ即日で騎士になれる。戦うのはそれが一番実力を示しやすいからで、本人の性格的に乗ってくる確信があったからだ。
俺たちは夜のうちに騎士団の詰め所へ赴き、騎士団長の元へ向かった。緊張と共に扉をくぐると、静かな眼差しが俺たちを値踏みしてきた。
「リーフェ嬢、そして使い魔のクー、よく来てくれた」
「こちらこそ、お時間を作っていただきありがとうございます」
「ギウ」
テーブル席に座るよう促されるが、リーフェは立つことを選択した。すると騎士団長はフッと鼻を鳴らし、数枚の紙を手に持ってデスクから立った。
「事の経緯は理事長から伺い、ココナからの報告にも目を通している。リーフェ嬢の力は野放しにできぬため、騎士団で丁重に保護する準備を進めている」
「そのような配慮をしていただき、心から感謝します。……ですが」
「客人扱いは納得できない、と。一応話は聞いているが、思わぬ行き違いがあるかもしれない。君の口から言ってもらって構わないかな」
「はい」
リーフェは一度深呼吸し、心を落ち着けて言い放った。
「――――私とクーちゃんに、アルマーノ大森林へ行く許可を下さい。もっと直接的に用件を述べると、騎士団に入団させていただきたく存じます」
「面白い提案だが却下だ。君は自分の立場と年齢を理解しているのか?」
「もちろん分かっています。でも決して無理ではないはずです」
「ほう、続けたまえ」
騎士団長は興味あり気にリーフェを見た。そこに否定の感情はなく、リーフェがどれだけ本気か見定めようとする意志が感じられた。
「……今日の課外授業の時、騎士団長は『わたしに一太刀入れれば騎士団に入団させる』と言っていました。あれは嘘ですか? またその場限りの約束ですか?」
「違う。騎士科の生徒には授業でも伝えたが、わたしが講師契約をした一週間の間ならば達成可能としている。みな乗り気で剣を振るってくるよ」
「なら私でもチャンスがありますね」
「ふふふ、まぁそうかもしれないな」
発言が気に入ったのか騎士団長は不敵に口角を上げた。その上で「だが君はもう学園の生徒ではないのでは?」と告げた。リーフェは理事長から二日の猶予をもらったことを伝え、まだ学園の所属だろうということを伝えた。
「理事長は厳しい人ですけど約束は守る人です。だから大丈夫かと」
「なるほど、身内の君が言うのなら信用しよう」
「……ただここまで言いましても、私の要求は勝手なものです。騎士団は常に忙しいですし、団長自身の都合もあります。ですから……」
「あぁ、すべてキャンセルしよう。決闘は明日の昼でいかがかな?」
あまりの快諾ぶりに俺もリーフェも驚く。すると騎士団長はデスクの方から俺たちの元へと歩いてきた。
「正直な話し、リーフェ嬢とクーの力は騎士団のモノとして運用するのが最善と考えている。提案は願ったり叶ったりというわけだ」
「……それならわざわざ戦わなくてもよいのでは?」
「いや、そうはいかない。騎士団の面々は実力主義、何の成果も出さずに特別扱いをすれば不信感を抱かせる。分かりやすい結果が必要だ。…………それに」
一度言葉を溜め、騎士団長は嬉しそうに怖い顔をした。
「――――わたし自身が君たちとの戦いを心待ちにしている。一番の理由はそれだ」
その発言と共に殺気が放たれ、周囲の空気がビリビリ震えた。俺とリーフェは同時に息を呑むが、怖気づくことだけはしなかった。
騎士団長は魔術学園内にある闘技場の使用許可を取り付けると言い、そこに生徒と騎士団の面々を招くと言った。さすがに一般開放まではしないそうだが、現時点でもかなりの観客が集まってくると想定された。
「理事長、許可出しますかね……」
「問題ない。実を言うと闘技場の使用許可はもう取ってある。一部教師と生徒たちから腕前を披露して欲しいと言われ、明日行う予定となっていたのだ」
「私の参加は伏せられるということでしょうか?」
「あぁ、上手くいけば理事長にひと泡ふかすことができるだろう。まぁ最も、それで戻ってきてくれと言われても渡す気はないのだが」
くくっと笑い、騎士団長は俺たちを送り出した。廊下にはココナが待機しており、どういう話になったのか心配そうに聞いてきた。
「明日魔術学園で騎士団長と戦うことになったよ。大体想定通りに行ったかな」
「…………そうか。やはりというか何というか、あの人もあの人だな」
「騎士団長の戦闘癖とか、苦手なこととか、いくつか聞いてもいい?」
「……私が応えられることなら構わない。ただ有益かどうかは微妙だぞ?」
十分すぎる返答で、俺たちは騎士団長の執務室から離れた。
作戦会議を行うのはリーフェ用にあてがわれた客室で、ココナも泊っていくことになった。ツインのベッドに漆塗りの家具と、中々上等な空間だ。
魔術機構を組み込んだキッチンも備わっており、会議前に腹ごなしとなった。リーフェは手持ちの肉を酒と調味料で煮込んで味付けし、丁寧に皿へ盛りつけてからテーブルへと運んできた。
「はい、クーちゃんとココナちゃん」
「ギウ!」
「ありがとう。……ん? 私の分は二人のと違うのか?」
「ちょっと事情があってね。ココナちゃんが食べるとお腹壊すかもしれないから」
「お腹を壊す? まさか腐りかけの肉でも食べる気なのか?」
疑問を浮かべるココナだが、俺は肉の正体に気づいていた。
リーフェが調理したのは蜥蜴男からの採取品、この世界で禁忌とされている魔物の肉だ。リーフェは歌魔法の発動に魔物を食べたことが関わっていると予想した。実際にキノコ魔物を食った翌日に効果があり、信憑性は高そうだ。
「ギギウ、ギギギガガウ」
「二角銀狼でどこまで行けるかってクーちゃんは言ってるんだけど、実際どう?」
「……率直な感想を言うと厳しいな。騎士団長の速度と攻撃力に対応するには足りない。か細い可能性に賭けるならば、高い防御力で持久戦を仕掛けるべきだ」
「防御力……、あのトカゲの魔物で上手くやれないかな」
「ギギウ、ギウ」
俺個人としては「やれそう」という意見だ。
蜥蜴男そのものはあっさり切り殺されたが、あれは持ち前の防御力を過信したためだ。キメラが持つスキルは乗算可能であり、スライムの物理軽減(微)等を駆使すれば耐久を底上げできる。
「――――ギウッ! ギウガガウ!」
ようやく俺の出番がきた。湧き上がる戦闘意欲を声に乗せて吠えた。
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