カスタムキメラ【三章完結】

のっぺ

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第32話『決意、勝ち取る未来』

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 騎士団長コタロスとの戦い、すべては俺たちの思惑通りに進んでいた。
 まずリーフェの歌魔法発動前に行った一連の接近戦、大剣で地面を割りまくったのは相手の機動力を削ぐことだけが目的じゃない。あれで砂煙が舞い上がりやすい環境を整え、煙幕胞子と合わせて騎士団長の視界を奪った。
 終盤戦でココナが乱入してきたのも作戦の一つだ。あくまで敵は俺だけと印象付け、とどめの一撃を準備する時間を稼いでもらった。岩砲弾の連射で煙幕の中にいる騎士団長の位置を特定し、風の跳躍で絶好の攻撃スポットを作り出した。

(――――キメラの力だけでも、歌魔法でも、地形の使い方だけでもない! これまでの戦闘経験、仲間との連携、全部をひっくるめて俺たちはここに来た!!)

 力不足で騎士団長に助けられた情けなさ、抵抗もできず理事長に叩きのめされた悔しさ、全部を成長のバネにして弾んでみせる。そう強く決意する。
 すべてはこの一撃のため、すべては自分たちの力で未来を勝ち取るために。

「――――行くよ、クーちゃん!!」

 リーフェは宣言と同時に投球姿勢を取り、俺を全力投球した。歌魔法の発動者本人ということもあり、身体能力向上の効力は余裕を持って残っている。
 俺は高速で風を切り、真下で構える騎士団長へと向かっていく。予想より早く奇襲に気づかれるが、騎士団長は回避行動を取らなかった。

「……来るがいい、君たちの全力を見せてみろ!」

 真正面からこちらの策を打ち破る気のようで、刃にここ一番の魔力を通した。徹頭徹尾戦闘狂な騎士団長の生き様に敬意を評し、俺は身体を変身させた。

(――――行くぜ! 必殺の一撃を喰らいやがれ!)

 命運を託すのは二角銀狼を倒した岩石の腕だ。俺自身様々な経験を経て成長したからか、変身は元の五秒を大きく短縮して完了する。全長五メートルを超す岩塊は特大の質量弾となり、周囲一帯の空気を揺らして落下していく。
 騎士団長は一切臆さず、鞘から二刀目の剣を抜き放つ。そして地面を蹴り潰して構えを取り、岩石の腕へと果敢に切り掛かった。
 衝突と同時に凄まじい爆風が起き、巻き起こる衝撃波で観客席の声すら消えた。

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ギガガガガガガガガガガァ!!!」

 俺と騎士団長は雄叫びを上げ、全力全開の拮抗を続けた。魔力を纏った刃は金属質な岩肌すらも削ってくるが、あと一歩のところで切断に至れない。
 最終的に刃がひび割れ、剣の方が先に折れた。岩石の腕は勢いのまま騎士団長に直撃し、その肉体を場外にまで吹っ飛ばす。ドォンと轟音が響き渡り、誰もが目の前の光景に目を見張る。時間が止まったかのような静寂が流れた。
 騎士団の面々も固まり、試合の判定員も困惑する。岩石の腕を解除して球体に戻った俺と、地面に上手く着地したリーフェ、二人一緒に土煙の先を見据えた。

「……クーちゃん。騎士団長さん、死んでないよね?」
「……ギギギギウ、ギウ」

 大丈夫と言いたかったが、正直難しかった。勝つために躍起になっていたとはいえ、いくら何でもやり過ぎた。相手は一応人間のはずなのだ。
 顔を青くして場外の壁へ近づくと、散らばった瓦礫が動いた。そこから起き上がったのは額から大量の血を流す騎士団長で、何故か晴れやかな顔をしていた。

「――――ふっ、ふふふふ、ふはははははは! まったく素晴らしい!! 自ら縛りを課し、それを解かれ、ここまで見事な敗北をするとは!!」

 騎士団長は高らかな笑いを上げ、額の血と汗を拭った。痛みなど少しも感じていないようで、目が高揚感で輝いている。頭がおかしくなったのかと不安になった。
 遅れて救護班が駆けつけるが、騎士団長は手で制した。一瞬の跳躍で俺たちの元まで移動し、リーフェの片腕を高く持ち上げて宣言した。

「こたびの勝者は、リーフェとその仲間たち! 王国の守護たる騎士団の長が、その実力を正式に証明しよう! 皆の者、盛大な拍手で称えたまえ!!」

 最初に拍手を行ったのはマルティアだった。周囲の目など気にせず、ありったけの感動を乗せて手の平を叩き合わせている。イジメの件を謝罪した取り巻きも続き、他の生徒からも拍手が上がり始めた。
 闘技場全体が祝福に包まれ、俺とリーフェは顔を合わせる。自分たちの手で勝ち取った勝利を実感し、溢れる思いのまま身を寄せ合った。

「やった……、やったよ! クーちゃん!」
「ギウ! ギウガウ!」
「私たち、あの騎士団長に勝ったんだよ! 自分の力で道を切り開いたんだよ!!」
「ギウッ! ガウッ!」

 嬉しさのまま二人でクルクル回っていると、ココナがふらふら歩きで来た。俺たちは全員で感動を分かち合い、世話になった騎士団長の元に移動した。

「騎士団長、色々と手を尽くして下さり、本当にありがとうございます」
「ふっ、構わないさ。決闘開始前に言った通り、この戦いには大きな意義があった。まさか負けるとは思っていなかったが、それもまた良しといえよう」

 互いに栄誉を称えて握手し、騎士団の所属となる約束を交わした。観客席の騎士団からも歓迎の声が上がり、闘技場全体が大騒ぎだ。

「…………さて、早速だが……おっと」

 一通り会話を済ませたところで騎士団長がふらついた。
 さすがに岩石の腕の一撃は大ダメージだったらしく、待機していた救護班に捕まって迅速に担ぎ出されていった。余韻もくそもない慌ただしさに苦笑すると、リーフェが闘技場の一角を見て「あっ」と声を漏らした。

(…………なんだ?)

 何かいるのかと気になって視線を向けると、教員用の席に理事長がいた。その表情には強い後悔が滲んでおり、リーフェを見つめ一度手を伸ばした。

「……………………」
「……………………」

 二人の間には複雑な空気が流れ、俺は緊張で息を呑む。
 しかし理事長は一言も発さず、身をひるがえして闘技場から去った。リーフェは胸元でギュッと拳を握り込み、土で汚れた腕で目元をグッと拭った。

「……大丈夫だよ、クーちゃん。私はもう、絶対に泣かない」
「ギウ……」
「いつかきっと、理事長の隣に立てるほど強くなる。誰の前でも自分を誇れるほど立派になって、こんなに変われたんだって証明してみせる」

 そう言い切ったリーフェの眼差しは力強かった。後ろ手に結んだ長髪が風に揺れ、日差しを反射させて金髪が黄金の輝きを放つ。空を見上げる後姿は気高かった。
 リーフェは弱い自分と決別するかのように歩き出した。しっかりとした足取りで闘技場の外を目指し、最後は気丈に笑ってみせた。

「じゃあ帰ろっか、クーちゃん! 私たちで掴み取った居場所に!」
「ギウッ!」

 抱えられるのではなく、並び立って地面を踏みしめ歩く。
 俺たちは友として相棒として、新たな日常へと進んでいった。
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