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第47話『討伐戦』
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リーダーからの指示を受けて騎士団員たちは行動を始めた。数日分の調査資料を整理し、武器弾薬のチェックを行い、残った食料品を飛行船内に積み込むなど、滞りなく作業を終わらせていった。
監視塔からの連絡は逐次行われ、武人カマキリが未だ調査基地近辺を徘徊していることを知らせてきた。遠方からは嵐が迫ってきている気配もあり、討伐作戦の開始を予定より早める判断が下った。
「あっ、クー隊員! そっちはどうっすか?」
「ギウ?」
銃火器を飛行船に運んでいるとミトラスが現れた。その手にあるのは青の勇者から贈られたナイフ二本で、柄の末端には丈夫そうな紐がついていた。
「あ、これっすか? あたしなりに使い方を考えてこうしたっす。まずナイフに魔力を送って、こうやって紐を持って振り回すと……ほら!」
ブンと光の刃が飛び出した。縄のおかげでリーチが延長され、最大で六メートル近い攻撃範囲を形成する。一度出現させた魔力刃は十秒ほど継続できるらしく、魔力の込め方次第で威力増強も可能なのだそうだ。
「……イルブレス王国についたら一度没収らしいっすけど、今回の任務では好きに使っていいって許可されたっす。リーダーにしては大盤振る舞いっすね、くひひ」
「ギウ、ガウウン」
「え、簡単に没収を受け入れるかってことっすか? いやいや、そんなわけないです。これはあたしの物っすから、大手柄を立てて報酬としてもらいうけるっす! 絶対やってやるっすよ! おりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」
ミトラスは紐付きナイフをブンブン振り回した。さすがに危ないのでは思っていると、延長された切っ先が塀の一部を傷つけた。ミトラスは急にスンッとなって落ち着き、「趣がある傷っすねぇ」とか言っている。誤魔化すつもりのようだ。
幸い他の団員の姿は……と思っていると足音がした。現れたのはこめかみに青筋を浮かせているリーダーで、プルプル震えるミトラスをガン見した。
「ほう、こんな場所にこんな傷があるとは知らなかった。大手柄だな」
「な、何かここにきたら見つけたっすー……えへへ」
「ふむ、見てみぬフリをしない姿勢は評価する。だがくだらぬ遊びで器物損壊したのは笑い話で済まされん、罰として給仕班を手伝ってこい!」
「はっ、はい! 了解っすっ!!」
ミトラスは美しい敬礼をして走り去っていった。だが建物に入る直前で足を止め、再び猛ダッシュで駆け戻ってきた。
「あたしは地上班っすから、ここでお別れっす! 健闘を祈るっす!」
「ギウ!」
「あと先輩はクー隊員と同じ班ですから、面倒見てあげて欲しいです。それじゃあまたねっす!!」
今度こそミトラスはいなくなった。リーダーは頭痛を抑えるように息をつき、珍しく俺の方を向いて話しかけてきた。
「…………まだオレはお前を信用していない。だが私情で任務を失敗させ、大切な団員たちを命の危機に晒すことはできん。有用な戦力としては認めてやる」
「ギウ、ギガウ」
「ふっ、魔物風情の鳴き声が人の返事のように聞こえるとはな。とんだお笑い草だ。今日は雨じゃなく槍が降るかもしれんな」
「…………ギウ」
リーダーは一瞬だが優しい眼差しで俺を見た。だがすぐに厳しい顔になり、カツカツとした機敏な足取りで団員たちの元に向かっていった。
俺も荷積みの作業に戻ろうとすると、拡声用の魔石で放送があった。どうやら各班の作業が概ね終了したらしく、これから武人カマキリの討伐に移るそうだ。
「――――クーちゃん、ここにいたんだ」
「ギウッ」
「私たちは作戦の要だから、すぐに飛行船へ搭乗だって。さっきココナちゃんとミトラスさんも部隊を連れて出て行ったよ。負けてられないね」
「ギウ!」
俺はリーフェの隣で弾んで移動した。どんな敵相手でも負ける気がしなかった。
定刻になると調査基地の上空に信号弾が撃ち上がった。離れた森から別の信号弾が撃ち上がり、作戦が予定通り進行されていることを確認した。
ただちに飛行船の魔石に魔力が灯され、折りたたまれた帆が広げられる。飛行船はゆっくり上昇を始め、左舷と右舷に装備されている五門ずつの大砲が駆動する。甲板には望遠鏡を持った団員が控え、南東を指差して叫びを上げた。
「――――目標に動きあり! こちらの出方を伺っている模様!」
武人カマキリは一定の距離感で滞空し、攻め込む機会を伺っている。こちらも負けじと左舷を追従させ、いつでも砲撃に移れるように準備した。
「…………船が落ちたら帰れないぞ。本当にやれるのか?」
「でも歩兵が戦うよりは確実だ。これ以上の戦力はないさ」
「…………でもあんな巨大な魔物が相手じゃ」
「戦力はおれたちだけじゃない。やれるさ」
不安気な騎士団員を横目に俺とリーフェは甲板を進んだ。全員の目が向く中でリーフェはポニーテール髪を後ろ手に結い直し、強い目つきと共に手を離した。
最年少の騎士団員の凛然とした姿を見つめ、全員が気を引き締める。俺は「ギウ」と鳴いて傍を離れ、リーフェも軽く手を振って「行こう」と言った。
十秒ほど深呼吸をし、リーフェは歌魔法を発動した。
歌は戦意高揚を促す気高い旋律で、胸中の不安が一気に消し飛んだ。
「――――目標、突撃形態に入りました! 突っ込んできます!」
一度歌魔法の洗礼を受けたからか武人カマキリは速攻を仕掛けてきた。飛行船の速度では回避など到底無理だが、そこは作戦通りだ。一度目の攻撃はグロッサが持つ魔法のイヤリングによる障壁で防ぎきり、次いでリーダーが指示を飛ばした。
「――――今だ! 一斉射撃をお見舞いしろ!!」
こちらの防御で体勢を崩した武人カマキリに激しい射撃が飛ぶ。大砲が轟音を響かせ、銃弾の雨が甲殻に降り注ぐ。歌魔法の力が弾の威力を後押しし、大鎌を振らせることなく巨体を引き離した。
「まだだ、手を緩めるな! 砲弾で地上に叩き落してやれ!」
「了解!!」
大砲は容赦なく武人カマキリへと放たれた。あの高速機動攻撃を行うには距離が足りず、一度飛行船から離れようと飛び去っていく。一定位置から急上昇して再度突っ込んでくるが、そこもこちらの読み通りだ。
「――――――――――」
リーフェは指揮者のように手を揺らし、歌の語気を強めた。すると水平に放たれた砲弾に光が集まり、減速した状態から急加速を始めた。
さらに手が動くと砲弾は連動して軌道を変える。ミサイルのような高速曲線軌道を描き、必殺の突撃姿勢に入った武人カマキリへと向かっていく。
砲弾は見事全弾命中し、攻撃の封じ込めに成功した。
俺は甲板の縁に立ち、吹き荒れる風とリーフェの歌声を感じながら変身した。
(――――さぁ、ここで決着をつけようぜ!)
作り上げるのはここまで頼ってきた二角銀狼を元にした姿だ。右肩と左肩に二角銀狼の顔を二つ配置し、首元に八又蛇を垂らし伸ばす。両前足には蜥蜴男の剛腕を採用し、不安定な甲板から落ちないように姿勢を整える。
名は『キメラオルトロス』、皆を守るために生み出した新たな力だ。
監視塔からの連絡は逐次行われ、武人カマキリが未だ調査基地近辺を徘徊していることを知らせてきた。遠方からは嵐が迫ってきている気配もあり、討伐作戦の開始を予定より早める判断が下った。
「あっ、クー隊員! そっちはどうっすか?」
「ギウ?」
銃火器を飛行船に運んでいるとミトラスが現れた。その手にあるのは青の勇者から贈られたナイフ二本で、柄の末端には丈夫そうな紐がついていた。
「あ、これっすか? あたしなりに使い方を考えてこうしたっす。まずナイフに魔力を送って、こうやって紐を持って振り回すと……ほら!」
ブンと光の刃が飛び出した。縄のおかげでリーチが延長され、最大で六メートル近い攻撃範囲を形成する。一度出現させた魔力刃は十秒ほど継続できるらしく、魔力の込め方次第で威力増強も可能なのだそうだ。
「……イルブレス王国についたら一度没収らしいっすけど、今回の任務では好きに使っていいって許可されたっす。リーダーにしては大盤振る舞いっすね、くひひ」
「ギウ、ガウウン」
「え、簡単に没収を受け入れるかってことっすか? いやいや、そんなわけないです。これはあたしの物っすから、大手柄を立てて報酬としてもらいうけるっす! 絶対やってやるっすよ! おりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」
ミトラスは紐付きナイフをブンブン振り回した。さすがに危ないのでは思っていると、延長された切っ先が塀の一部を傷つけた。ミトラスは急にスンッとなって落ち着き、「趣がある傷っすねぇ」とか言っている。誤魔化すつもりのようだ。
幸い他の団員の姿は……と思っていると足音がした。現れたのはこめかみに青筋を浮かせているリーダーで、プルプル震えるミトラスをガン見した。
「ほう、こんな場所にこんな傷があるとは知らなかった。大手柄だな」
「な、何かここにきたら見つけたっすー……えへへ」
「ふむ、見てみぬフリをしない姿勢は評価する。だがくだらぬ遊びで器物損壊したのは笑い話で済まされん、罰として給仕班を手伝ってこい!」
「はっ、はい! 了解っすっ!!」
ミトラスは美しい敬礼をして走り去っていった。だが建物に入る直前で足を止め、再び猛ダッシュで駆け戻ってきた。
「あたしは地上班っすから、ここでお別れっす! 健闘を祈るっす!」
「ギウ!」
「あと先輩はクー隊員と同じ班ですから、面倒見てあげて欲しいです。それじゃあまたねっす!!」
今度こそミトラスはいなくなった。リーダーは頭痛を抑えるように息をつき、珍しく俺の方を向いて話しかけてきた。
「…………まだオレはお前を信用していない。だが私情で任務を失敗させ、大切な団員たちを命の危機に晒すことはできん。有用な戦力としては認めてやる」
「ギウ、ギガウ」
「ふっ、魔物風情の鳴き声が人の返事のように聞こえるとはな。とんだお笑い草だ。今日は雨じゃなく槍が降るかもしれんな」
「…………ギウ」
リーダーは一瞬だが優しい眼差しで俺を見た。だがすぐに厳しい顔になり、カツカツとした機敏な足取りで団員たちの元に向かっていった。
俺も荷積みの作業に戻ろうとすると、拡声用の魔石で放送があった。どうやら各班の作業が概ね終了したらしく、これから武人カマキリの討伐に移るそうだ。
「――――クーちゃん、ここにいたんだ」
「ギウッ」
「私たちは作戦の要だから、すぐに飛行船へ搭乗だって。さっきココナちゃんとミトラスさんも部隊を連れて出て行ったよ。負けてられないね」
「ギウ!」
俺はリーフェの隣で弾んで移動した。どんな敵相手でも負ける気がしなかった。
定刻になると調査基地の上空に信号弾が撃ち上がった。離れた森から別の信号弾が撃ち上がり、作戦が予定通り進行されていることを確認した。
ただちに飛行船の魔石に魔力が灯され、折りたたまれた帆が広げられる。飛行船はゆっくり上昇を始め、左舷と右舷に装備されている五門ずつの大砲が駆動する。甲板には望遠鏡を持った団員が控え、南東を指差して叫びを上げた。
「――――目標に動きあり! こちらの出方を伺っている模様!」
武人カマキリは一定の距離感で滞空し、攻め込む機会を伺っている。こちらも負けじと左舷を追従させ、いつでも砲撃に移れるように準備した。
「…………船が落ちたら帰れないぞ。本当にやれるのか?」
「でも歩兵が戦うよりは確実だ。これ以上の戦力はないさ」
「…………でもあんな巨大な魔物が相手じゃ」
「戦力はおれたちだけじゃない。やれるさ」
不安気な騎士団員を横目に俺とリーフェは甲板を進んだ。全員の目が向く中でリーフェはポニーテール髪を後ろ手に結い直し、強い目つきと共に手を離した。
最年少の騎士団員の凛然とした姿を見つめ、全員が気を引き締める。俺は「ギウ」と鳴いて傍を離れ、リーフェも軽く手を振って「行こう」と言った。
十秒ほど深呼吸をし、リーフェは歌魔法を発動した。
歌は戦意高揚を促す気高い旋律で、胸中の不安が一気に消し飛んだ。
「――――目標、突撃形態に入りました! 突っ込んできます!」
一度歌魔法の洗礼を受けたからか武人カマキリは速攻を仕掛けてきた。飛行船の速度では回避など到底無理だが、そこは作戦通りだ。一度目の攻撃はグロッサが持つ魔法のイヤリングによる障壁で防ぎきり、次いでリーダーが指示を飛ばした。
「――――今だ! 一斉射撃をお見舞いしろ!!」
こちらの防御で体勢を崩した武人カマキリに激しい射撃が飛ぶ。大砲が轟音を響かせ、銃弾の雨が甲殻に降り注ぐ。歌魔法の力が弾の威力を後押しし、大鎌を振らせることなく巨体を引き離した。
「まだだ、手を緩めるな! 砲弾で地上に叩き落してやれ!」
「了解!!」
大砲は容赦なく武人カマキリへと放たれた。あの高速機動攻撃を行うには距離が足りず、一度飛行船から離れようと飛び去っていく。一定位置から急上昇して再度突っ込んでくるが、そこもこちらの読み通りだ。
「――――――――――」
リーフェは指揮者のように手を揺らし、歌の語気を強めた。すると水平に放たれた砲弾に光が集まり、減速した状態から急加速を始めた。
さらに手が動くと砲弾は連動して軌道を変える。ミサイルのような高速曲線軌道を描き、必殺の突撃姿勢に入った武人カマキリへと向かっていく。
砲弾は見事全弾命中し、攻撃の封じ込めに成功した。
俺は甲板の縁に立ち、吹き荒れる風とリーフェの歌声を感じながら変身した。
(――――さぁ、ここで決着をつけようぜ!)
作り上げるのはここまで頼ってきた二角銀狼を元にした姿だ。右肩と左肩に二角銀狼の顔を二つ配置し、首元に八又蛇を垂らし伸ばす。両前足には蜥蜴男の剛腕を採用し、不安定な甲板から落ちないように姿勢を整える。
名は『キメラオルトロス』、皆を守るために生み出した新たな力だ。
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