カスタムキメラ【三章完結】

のっぺ

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第62話『カイメラ』

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 にゃおん、とわざとらしく喉を鳴らしてカイメラが突っ込んでくる。一回の跳躍で眼前にまで迫り、白虎のような形状をした手を鋭く繰り出した。

カイメラ(人型形態)
攻撃A  魔攻撃C
防御B  魔防御C
敏捷A  魔力量B

クー(人型形態)
攻撃B  魔攻撃A
防御C  魔防御C
敏捷B  魔力量A

 俺は即座に岩石巨人の腕を出し、攻撃を真正面から受け止めた。打撃の振動が鈍く伝わってくるが、岩肌はひび割れなく爪を食い止めた。反撃として岩石巨人の腕を元のサイズに戻し、一帯の大地を薙ぎ払う形で振るった。
 カイメラは空中に跳んで避け、遠くの地面に着地しようとした。俺はもう片方の腕を二角銀狼の顔にし、狙いを定めて暴風をお見舞いした。だが、

「うー、にゃん!」

 カイメラは空中で姿勢を変え、白虎の両手をバシンと叩き合わせた。発生したのは凄まじい衝撃波で、俺が放った暴風は一瞬でかき消えた。

「へぇ、いいじゃない。あなた結構強いのね。聞いてた話だと弱そうな印象だったけど、しっかり場慣れした感じだわ」
「…………俺のことを聞いた? 誰にだ?」
「あら、失言。まぁこれ以上口にしなければ関係ないわ。もうちょびっとだけ本気だそうと思うんだけど、あなたはついてこれるかしら?」

 ニッと猟奇的な笑みを浮かべ、カイメラは疾走した。瞬く間に森の中へと姿を消し、木から木へと跳び移って攻撃の機会を伺い始めた。
 夜が近いせいで視界が悪く、人間の目では動きが捉えられない。俺は別の方策を用意し、神経を集中させて身構えた。カイメラは死角から飛び込んでくるが、接近に合わせて岩石の拳を突き出してやった。

「にゃっ!!」
「はぁっ!!」
 
 拳と拳がぶつかり合い、衝突の余波で真下の地面が割れる。俺は背中から生やした八又蛇の首を前に向け、麻痺毒を連続発射した。弾速の遅さもあって全弾回避されるが、何とか距離を離すことができた。

(…………八又蛇が持つ暗視と麻痺毒のスキル。大空洞で使う機会はあまりなかったが、やっぱり有用だな)

 暗闇による優位性がないと悟ったのか、カイメラは動きを止めた。一度話し合いでもと思うが、殺気の圧が戦闘前より強くなった。
 俺はすかさず八又蛇の口を全門開け、炎を一斉噴射した。両腕もワイバーンの頭に変身させ、十の口から放つ炎で辺り一帯を焼いた。俺自身にも火が迫ってくるが、ワイバーンが有する炎耐性のおかげで無傷だ。

「ちょっと、ここ森よ。山火事でも起こすつもり?」
「木が近くにあったら隠れるだろうが、環境破壊が嫌だって言うなら攻撃をやめろ。そして俺の素性を知っている奴の情報を吐け」
「そうねぇ、勝てたら考えてあげてもいいけど」
「言ったな」

 俺は両肩から亀魔物の頭を生やし、岩砲弾も発射した。火炎と岩で厚い弾幕を張り続け、近接攻撃が得意なカイメラを追い詰めていった。
 カイメラはしばらく手をこまねいていたが、急に足を止めた。そして足元の大岩を片手ですくい上げ、即興で炎を防ぐ壁を築き上げた。

「――――あーあ、ここまでする気はなかったんだけどなぁ。今から少し本気を出してあげるから、着替えが終わるまで待ってなさい」

 その声に合わせて聞こえてきたのはグチャッとした肉の変形音だ。
 大岩を仕切りにして変身しているようで、獣の尻尾が一瞬姿を見せた。

 俺は身体強化魔法を全身に付与し、背からワイバーンの翼を生やした。一回のはばたきで身体を浮かせ、上方から火炎放射を浴びせた。どんな攻撃がきても空中なら優位を取れるという目算があったが、甘い考えだった。

「――――――――」

 天高く鳴り響くのは獣の咆哮で、大岩が細切れに切断された。
 せき止められていた炎が雪崩れ込むが、そこには何もいなかった。
 慌てて視線を巡らせると、近くの大木の上に全長五メートル大の獣がいた。獅子の頭に熊の肉体に針鼠がごとき刺々な背中と、様々な部位が目に映った。

カイメラ(魔獣形態)
攻撃A+ 魔攻撃B
防御A+ 魔防御B
敏捷A+ 魔力量B

 グルルルと喉を鳴らし、カイメラは俺を睨みつける。人型形態時のおちゃらけた雰囲気を消し、捕食者然とした威圧を重々しく放ってくる。
 全力のはばたきで高度を上げるが、カイメラはより高く跳躍した。爪のひと振りで俺を下に落とし、背面の棘を無数に伸ばして落下してきた。

「ぐっ!?」

 岩石巨人の腕を傘にして防ぐが、棘の一部が岩肌に刺さった。腕から伝わる激痛に表情を歪めていると、今度は容赦のないタックルがきた。吹き飛びつつ体勢を立て直すと、そこにとどめの牙攻撃がきた。
 とっさに回避しそうになるが、いやと否定した。俺は手を前に突き出し、頭の中で大海に浮かぶ氷塊を思い描き、氷の大盾を顕現させた。

「ギウニャ!!?」

 あまりにも予想外な防御だったのか、カイメラは目に見えて動揺した。氷の大盾は一撃で粉砕されてしまうが、突進の勢いが止まった。俺は魔力残量に意識を払い、技後硬直で動けなくなったカイメラに水レーザーを放った。

 射角は斜め下から上へ、一閃でカイメラの足を切断する。すぐに新しい足を生やされるが、さらに上から下へと水レーザーを振り下ろした。魔獣の肉体が深く切り裂かれた瞬間、血しぶきの中から驚愕の声が聞こえた。

「ちょっ、何よその魔法は!?」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 俺は思いっきり踏み込み、岩石巨人の拳を打ち込んだ。魔獣の肉体は切断と打撃で二つに分かれ、火の海の先まで転がっていった。焼けた枯れ葉による火の粉が高く舞い上がり、辺りには一時の静寂が流れた。

「…………終わった、か?」

 手ごたえはあったが、キメラは本体を潰さねば意味がない。俺は警戒をしながら炎の奥に進んでいった。
 大体この辺りという地点までくると、ザリッと足音がした。そこにいたのは人型形態に戻ったカイメラで、俺の姿をジィッと眺めてきた。

「……ねぇ、ちょっと聞いてもいいかしら」
「なんだ」
「あなたって町を襲ったこととかある? ごく最近に」
「ないが」

 質問の意図が分からなかったが、素直に答えた。するとカイメラは「あちゃあ」と言って額に手を押し当て、深々と頭を下げてきた。

「――――人違い……、キメラ違いだったわ! ごめんなさい!」
「…………は?」

 一体どういうことなのか、俺はただただ困惑した。
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