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1章:始原の森の龍覚者と陽だまりの少女 〜開拓と予兆の始まり〜
第20話:冬籠りの灯火 ~未来への備えと蠢く影~
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本格的な冬が訪れた。
空は鉛色の雲に覆われ、冷たい風が容赦なく吹き付け、時には全てを白銀に閉ざすほどの吹雪が村を襲う。かつてのエルム村ならば、人々は家に籠り、乏しい備蓄食料を分け合いながら、ただひたすら春の訪れを待つだけの、厳しく長い季節だっただろう。
しかし、今年のエルム村は違った。
「うぅ……外は吹雪いてるみたいだけど、家の中はぽかぽかだねぇ」
「ああ。レンさんとティアーナさんが作ってくれた、この床暖房のおかげじゃわい」
「それに、見てごらんよ、この青々とした野菜! まったく、冬にこんなものが食べられるなんて、夢のようだよ」
村の家々――魔力レンガと魔法モルタルで再建され、断熱構造と【微温魔石ヒートプレート】による床暖房が備えられた家々――の中は、外の厳しさが嘘のように暖かく、そして食卓には、村の温室で採れたばかりの新鮮な葉物野菜が並んでいた。燻製肉や保存根菜、蜂蜜ジャムや砂糖を使ったお菓子も加わり、村の食卓は、かつてないほどの豊かさと彩りを見せていた。
「それにしても、レンの考えた床暖房ってのは本当にすごいよな! 足元からじんわり温かいから、体全体が楽になるぜ」
ある日の夕食時。俺の家で、カイルが温かいシチューを頬張りながら満足そうに言った。今日のシチューには、温室で採れたばかりのスピナ(ほうれん草に似た野菜)と、ティアーナが故郷から種を持ってきた月光草(ほんのり光る不思議な葉野菜)が入っている。
「ふふ、レンのアイデアと、ティアーナさんの魔道具技術、それにゴードンさんの技が合わさった、みんなの成果だよ」
アリシアが、いつものように優しい笑顔で付け加える。彼女も、温室で薬草栽培が順調に進んでいることに、とても満足しているようだった。
「ですが、この快適さも、多くの資源を消費した上になりたっていることを忘れてはいけませんね」
ティアーナが、冷静な口調で指摘する。彼女はエルム村での生活にすっかり馴染み、今では俺たちの食卓に自然と加わるようになっていた。しかし、故郷を失った経験からか、常に現状の課題と未来への危機感を忘れない。
「ヒートプレートを動かすための魔石の消費は、予想以上に大きいです。燻製や暖炉に使う薪も、このままでは森の木々がいくらあっても足りなくなるでしょう」
「ああ、分かってる」俺は頷いた。「資源問題は、俺たちが最優先で取り組むべき課題の一つだ。それと……もう一つ、忘れてはならないことがある」
俺の言葉に、カイルとアリシア、そしてティアーナの表情が引き締まる。冬の訪れは、村の外での活動を制限する。それは、森の奥で暗躍する者たちにとっても同じかもしれないが、油断はできない。
「冬の間、俺たちは動けない。だが、それは敵も同じとは限らない。」
強化ゴブリン、強化ウルフ、そしてエルフの里を滅ぼしたローブの人影。彼らの目的は何なのか? そして、次に狙われるのは……?
「この冬は、ただ籠って春を待つだけじゃない。情報を整理し、分析し、そして、春からの行動に備えるための、重要な準備期間にする必要がある」
俺は、テーブルの上に広げられたエルム村周辺の地図――俺が開発した魔法の1つであるマッピングで日々更新しているもの――を指さしながら、仲間たちに告げた。
◇◇◇
翌日、俺たち四人は村の作戦室(俺の隊長室を兼ねている)に集まり、本格的な情報分析会議を開いた。部屋の中央には、大きな木板(ホワイトボード代わりだ)が設置され、そこには俺たちがこれまでに遭遇した異変や敵に関する情報が、キーワードとして書き出されていた。
「まず、整理しよう」
俺は木炭で書き込みながら話し始めた。
「俺たちが最初に遭遇したのは、紫の紋様を持つ強化ゴブリン。そして、それらを率いていたゴブリン・ジェネラルだ」
「奴は最後に『呼び声』『真なる主』という言葉を残して消えたな」
カイルが付け加える。
「そして、私たちが遭遇したのは、異常に統率され、強化されたウルフの群れと、それを操っていたローブの魔術師です。彼は、強力な魔法を使っていました」
ティアーナが、静かだが強い憎しみを込めて証言する。
情報が木板の上に並べられていく。
「こうして見ると、バラバラに見える出来事が、どこかで繋がっているように思えないか?」
俺は問いかけた。
「確かに……強化されたモンスター、紫の紋様、そしてそれを操る存在……。ゴブリンとウルフ、対象は違えど、手口が似ていますね」
ティアーナが冷静に分析する。
「待てよ……」
そこで、黙って腕を組んで考えていたカイルが、不意に口を開いた。
「ゴブリンもウルフも、どっちも『強化』されてて、『紋様』があって、それを裏で糸を引いている奴が居そうってことだろ?襲った場所は違うかもしれねえが、やってることは同じじゃねえか? ってことは……同じ組織の奴らが、別々の場所で何かやってるってことなんじゃねえのか?」
カイルの核心を突く発言。俺たちは思わず顔を見合わせた。
「別々の事件に見えていたが、背後には同じ組織がいて、何らかの目的のためにモンスターを強化・使役していた……!」
「目的……? それは……?」
アリシアが不安そうに言う。
「……例えば、古代遺跡に眠る力や、ジェネラルが言っていた『真なる主』を迎えるための準備……」
俺は考察を続ける。
「私の故郷シルヴァンの郷の近くにも、古い遺跡がありました。もしかしたら、奴らはそこにあった何かを狙って……」
ティアーナが唇を噛む。
真の目的はまだ見えない。だが、点と点が繋がり、脅威の輪郭が少しずつだが、うっすらと見えてきた気がした。
「どちらにしても、このまま放っておくわけにはいかないな」
俺は結論付けた。
「特に、ティアーナの故郷『シルヴァンの郷』には、重要な手がかりが残されている可能性が高い」
「……!」
ティアーナの目が、復讐の炎で再び揺らめく。
「だが、今は冬だ。森の奥深くへの調査は危険すぎる。それに、準備も必要だ」
「……分かっています。焦りは禁物、ですね」
ティアーナは、悔しさを滲ませながらも頷いた。
「よし、決まりだ。春になったら、俺たち四人で『シルヴァンの郷』へ調査に向かう。この冬の間に、そのための計画と準備を徹底的に進めるぞ!」
俺の言葉に、カイル、アリシア、そしてティアーナも、力強く頷いた。
◇◇◇
「シルヴァンの郷」調査計画の準備は、すぐに始まった。
まずは、地図の作成とルート選定。ティアーナが、記憶を頼りに故郷とその周辺の地形、遺跡の位置などを詳細な地図に描き起こしていく。エルフの記憶力は驚異的で、彼女の描く地図は非常に正確だった。俺も【マッピング】で得た情報を提供し、地図の精度を高めていく。
「郷へ向かうルートはいくつかありますが、冬の間に魔物の動きが変わっている可能性も考慮すべきです。比較的安全で、かつ迅速に辿り着けるルートは……ここでしょうか」
ティアーナが指し示したルートは、険しい山道や湿地帯を避けるが、途中、強化ウルフの目撃情報があったエリアを通過する必要がある。
次に、調査目的の明確化。ティアーナの最大の目的は、もちろん仇であるローブの魔術師とウルフの手がかりを見つけることだ。だが、俺たちはそれだけではない。
「黒幕の正体と目的を探るための情報収集。郷に残されたエルフの遺産――特に魔道具に関する記録や物品の回収。そして、もし万が一、生き残りが潜んでいる可能性があれば、その捜索と救出。ティアーナの個人的な遺品回収も、もちろん目的の一つだ」
俺が調査目的をリストアップすると、ティアーナは静かに頷いた。
「私の復讐心は消えません。ですが、今は皆さんと協力し、真実を明らかにすることが先決だと理解しています。無謀な行動は慎みます」
「俺たちはお前の仲間だ。一人で抱え込むなよ」
カイルが、不器用ながらもティアーナを気遣う言葉をかける。アリシアも、優しく彼女の手に触れた。
そして、メンバー構成と必要装備のリストアップ。調査隊のメンバーは、基本的に俺たち四人が中心となる。状況によっては、ヘクターさんやボルグなど、信頼できる援護メンバーを加えることも検討する。
装備は、そして強力な魔物や魔術師との戦闘を想定し、万全を期す必要がある。探索用具(ロープ、ピッケルなど)、十分な食料と回復薬、そして……
「ティアーナ、春までに、何か調査に役立つ新しい魔道具を作ることは可能か? 例えば、遠くの仲間と連絡を取り合えるものとか、敵の気配をもっと広範囲に探れるものとか……」
「通信魔道具と探知魔道具、ですか……。どちらも高度な技術が必要ですが……やってみましょう。レンさんの魔法や知識、ゴードンさんの技術があれば……」
ティアーナの目が、再び魔道具師としての輝きを取り戻す。冬の間の、新たな目標ができたようだ。
◇◇◇
春への準備と並行して、エルム村の冬の日常も着実に進んでいた。
俺、ティアーナ、アリシアの三人は、交代で温室の管理にあたった。【微温魔石ヒートプレート】の魔力供給調整は、魔石の消費を抑えつつ最適な温度を保つための、繊細な作業だ。俺たちは、他の村人やエルフたちにも、魔石の交換方法や簡単な魔力操作を教え、当番制で管理する体制を整えた。温室は村全体の共有財産であり、皆で守り育てていく意識が重要だと考えたからだ。
温室の中では、厳しい冬の外気とは裏腹に、緑の野菜やハーブがすくすくと育ち、村の食卓を彩った。アリシアは温室の一角で薬草栽培にも成功し、貴重な回復薬の材料を安定して供給できるようになった。
「すごいね、レン! これなら、薬が足りなくなる心配も減るよ!」
「ああ。それに、来年はもっと色々な種類の薬草や野菜を育てられるように、温室を拡張する計画も立てないとな」
俺たちは、来春以降の温室拡張計画についても話し合い、必要な土地の準備や、栽培品目の検討などを進めた。
一方、魔道具工房と化したゴードンさんの鍛冶場の一角では、レン、ティアーナ、ゴードンさんによる共同研究開発が熱気を帯びていた。
「ティアーナ、このヒートプレートの魔力回路、もっと単純化して、使う魔石のランクを下げられないか? 低品質な魔石なら、まだ村にも多少の備蓄があるんだが……」
「ふむ……この【銀線草】の代わりに、魔力伝導率の高いこの鉱石の粉末を練り込んだ導線を使えば……。ゴードンさん、この鉱石を髪の毛ほどの細さに加工できますか?」
「馬鹿を言え! ドワーフの技をなめるな! ……まあ、ちと骨は折れるがな」
三人は、それぞれの知識と技術をぶつけ合い、ヒートプレートの省エネ化・低コスト化、継続発光結晶の改良(より明るく、より長持ちするように)、そして春の調査に不可欠な【通信魔道具】と【探知魔道具】の試作に取り組んでいた。失敗と成功を繰り返しながら、彼らの間には種族を超えた技術者としての強い絆が生まれつつあった。
そして、村の訓練場では、カイルとボルグが中心となって、雪が降り積もる中でも自警団の厳しい訓練が続けられていた。エルフも有志で参加をしてもらっている。
「うおおっ! 足場が悪いぞ! もっと腰を落とせ!」
「ボルグ! 側面からの敵(雪玉だが)を想定しろ!」
雪中での移動訓練、寒さの中での体力維持、対ウルフ・対魔法使いを想定した連携訓練、そして新兵器(バリスタ、投石機、魔力爆弾)の習熟訓練。カイルの厳しい檄と、ボルグの熱い指導の下、自警団の若者たちは着実に力をつけていた。
「春には、どんな敵が来ようと、俺たちがこの村を守り抜いてみせる!」
カイルの言葉には、仲間たちへの強い信頼が表れていた。
◇◇◇
長く厳しいと思われたエルム村の冬。だが、それは決して停滞の季節ではなかった。温室の緑が希望を育み、魔道具工房の炉が新たな技術の炎を灯し、訓練場の掛け声が未来への力を鍛える。そして、暖炉を囲む家々では、人間とエルフが互いの物語を語り合い、絆を深めていく。
冬の終わりが近づき、硬く凍てついていた大地から、雪解けの水の音が聞こえ始める頃。俺たち――レン、カイル、アリシア、そしてティアーナ――は、春からの「シルヴァンの郷」調査に向けて、最終的な準備を整えていた。ティアーナが仲間たちと協力して作り上げた、改良型の通信魔道具と探知魔道具。ゴードンさんが鍛え直した武器と防具。アリシアが備蓄した回復薬と特殊な薬草。そして、俺たちが冬の間に高めた連携力と、それぞれの力。
「準備は、できたな」
俺が言うと、三人は力強く頷いた。
「ああ。いつでも行けるぜ」
「うん。皆で、必ず真実を見つけようね」
「……はい。故郷のために、そして……この村のために」
ティアーナの瞳には、まだ復讐の炎が燻ってはいるが、それだけではない、未来への決意の光もまた、確かに宿っていた。
森の奥に潜む脅威は、依然として存在する。調査行は危険に満ちているだろう。だが、俺たちには仲間がいる。育まれた絆がある。そして、守るべき場所がある。
春の訪れと共に、俺たちの新たな冒険が始まろうとしていた。
空は鉛色の雲に覆われ、冷たい風が容赦なく吹き付け、時には全てを白銀に閉ざすほどの吹雪が村を襲う。かつてのエルム村ならば、人々は家に籠り、乏しい備蓄食料を分け合いながら、ただひたすら春の訪れを待つだけの、厳しく長い季節だっただろう。
しかし、今年のエルム村は違った。
「うぅ……外は吹雪いてるみたいだけど、家の中はぽかぽかだねぇ」
「ああ。レンさんとティアーナさんが作ってくれた、この床暖房のおかげじゃわい」
「それに、見てごらんよ、この青々とした野菜! まったく、冬にこんなものが食べられるなんて、夢のようだよ」
村の家々――魔力レンガと魔法モルタルで再建され、断熱構造と【微温魔石ヒートプレート】による床暖房が備えられた家々――の中は、外の厳しさが嘘のように暖かく、そして食卓には、村の温室で採れたばかりの新鮮な葉物野菜が並んでいた。燻製肉や保存根菜、蜂蜜ジャムや砂糖を使ったお菓子も加わり、村の食卓は、かつてないほどの豊かさと彩りを見せていた。
「それにしても、レンの考えた床暖房ってのは本当にすごいよな! 足元からじんわり温かいから、体全体が楽になるぜ」
ある日の夕食時。俺の家で、カイルが温かいシチューを頬張りながら満足そうに言った。今日のシチューには、温室で採れたばかりのスピナ(ほうれん草に似た野菜)と、ティアーナが故郷から種を持ってきた月光草(ほんのり光る不思議な葉野菜)が入っている。
「ふふ、レンのアイデアと、ティアーナさんの魔道具技術、それにゴードンさんの技が合わさった、みんなの成果だよ」
アリシアが、いつものように優しい笑顔で付け加える。彼女も、温室で薬草栽培が順調に進んでいることに、とても満足しているようだった。
「ですが、この快適さも、多くの資源を消費した上になりたっていることを忘れてはいけませんね」
ティアーナが、冷静な口調で指摘する。彼女はエルム村での生活にすっかり馴染み、今では俺たちの食卓に自然と加わるようになっていた。しかし、故郷を失った経験からか、常に現状の課題と未来への危機感を忘れない。
「ヒートプレートを動かすための魔石の消費は、予想以上に大きいです。燻製や暖炉に使う薪も、このままでは森の木々がいくらあっても足りなくなるでしょう」
「ああ、分かってる」俺は頷いた。「資源問題は、俺たちが最優先で取り組むべき課題の一つだ。それと……もう一つ、忘れてはならないことがある」
俺の言葉に、カイルとアリシア、そしてティアーナの表情が引き締まる。冬の訪れは、村の外での活動を制限する。それは、森の奥で暗躍する者たちにとっても同じかもしれないが、油断はできない。
「冬の間、俺たちは動けない。だが、それは敵も同じとは限らない。」
強化ゴブリン、強化ウルフ、そしてエルフの里を滅ぼしたローブの人影。彼らの目的は何なのか? そして、次に狙われるのは……?
「この冬は、ただ籠って春を待つだけじゃない。情報を整理し、分析し、そして、春からの行動に備えるための、重要な準備期間にする必要がある」
俺は、テーブルの上に広げられたエルム村周辺の地図――俺が開発した魔法の1つであるマッピングで日々更新しているもの――を指さしながら、仲間たちに告げた。
◇◇◇
翌日、俺たち四人は村の作戦室(俺の隊長室を兼ねている)に集まり、本格的な情報分析会議を開いた。部屋の中央には、大きな木板(ホワイトボード代わりだ)が設置され、そこには俺たちがこれまでに遭遇した異変や敵に関する情報が、キーワードとして書き出されていた。
「まず、整理しよう」
俺は木炭で書き込みながら話し始めた。
「俺たちが最初に遭遇したのは、紫の紋様を持つ強化ゴブリン。そして、それらを率いていたゴブリン・ジェネラルだ」
「奴は最後に『呼び声』『真なる主』という言葉を残して消えたな」
カイルが付け加える。
「そして、私たちが遭遇したのは、異常に統率され、強化されたウルフの群れと、それを操っていたローブの魔術師です。彼は、強力な魔法を使っていました」
ティアーナが、静かだが強い憎しみを込めて証言する。
情報が木板の上に並べられていく。
「こうして見ると、バラバラに見える出来事が、どこかで繋がっているように思えないか?」
俺は問いかけた。
「確かに……強化されたモンスター、紫の紋様、そしてそれを操る存在……。ゴブリンとウルフ、対象は違えど、手口が似ていますね」
ティアーナが冷静に分析する。
「待てよ……」
そこで、黙って腕を組んで考えていたカイルが、不意に口を開いた。
「ゴブリンもウルフも、どっちも『強化』されてて、『紋様』があって、それを裏で糸を引いている奴が居そうってことだろ?襲った場所は違うかもしれねえが、やってることは同じじゃねえか? ってことは……同じ組織の奴らが、別々の場所で何かやってるってことなんじゃねえのか?」
カイルの核心を突く発言。俺たちは思わず顔を見合わせた。
「別々の事件に見えていたが、背後には同じ組織がいて、何らかの目的のためにモンスターを強化・使役していた……!」
「目的……? それは……?」
アリシアが不安そうに言う。
「……例えば、古代遺跡に眠る力や、ジェネラルが言っていた『真なる主』を迎えるための準備……」
俺は考察を続ける。
「私の故郷シルヴァンの郷の近くにも、古い遺跡がありました。もしかしたら、奴らはそこにあった何かを狙って……」
ティアーナが唇を噛む。
真の目的はまだ見えない。だが、点と点が繋がり、脅威の輪郭が少しずつだが、うっすらと見えてきた気がした。
「どちらにしても、このまま放っておくわけにはいかないな」
俺は結論付けた。
「特に、ティアーナの故郷『シルヴァンの郷』には、重要な手がかりが残されている可能性が高い」
「……!」
ティアーナの目が、復讐の炎で再び揺らめく。
「だが、今は冬だ。森の奥深くへの調査は危険すぎる。それに、準備も必要だ」
「……分かっています。焦りは禁物、ですね」
ティアーナは、悔しさを滲ませながらも頷いた。
「よし、決まりだ。春になったら、俺たち四人で『シルヴァンの郷』へ調査に向かう。この冬の間に、そのための計画と準備を徹底的に進めるぞ!」
俺の言葉に、カイル、アリシア、そしてティアーナも、力強く頷いた。
◇◇◇
「シルヴァンの郷」調査計画の準備は、すぐに始まった。
まずは、地図の作成とルート選定。ティアーナが、記憶を頼りに故郷とその周辺の地形、遺跡の位置などを詳細な地図に描き起こしていく。エルフの記憶力は驚異的で、彼女の描く地図は非常に正確だった。俺も【マッピング】で得た情報を提供し、地図の精度を高めていく。
「郷へ向かうルートはいくつかありますが、冬の間に魔物の動きが変わっている可能性も考慮すべきです。比較的安全で、かつ迅速に辿り着けるルートは……ここでしょうか」
ティアーナが指し示したルートは、険しい山道や湿地帯を避けるが、途中、強化ウルフの目撃情報があったエリアを通過する必要がある。
次に、調査目的の明確化。ティアーナの最大の目的は、もちろん仇であるローブの魔術師とウルフの手がかりを見つけることだ。だが、俺たちはそれだけではない。
「黒幕の正体と目的を探るための情報収集。郷に残されたエルフの遺産――特に魔道具に関する記録や物品の回収。そして、もし万が一、生き残りが潜んでいる可能性があれば、その捜索と救出。ティアーナの個人的な遺品回収も、もちろん目的の一つだ」
俺が調査目的をリストアップすると、ティアーナは静かに頷いた。
「私の復讐心は消えません。ですが、今は皆さんと協力し、真実を明らかにすることが先決だと理解しています。無謀な行動は慎みます」
「俺たちはお前の仲間だ。一人で抱え込むなよ」
カイルが、不器用ながらもティアーナを気遣う言葉をかける。アリシアも、優しく彼女の手に触れた。
そして、メンバー構成と必要装備のリストアップ。調査隊のメンバーは、基本的に俺たち四人が中心となる。状況によっては、ヘクターさんやボルグなど、信頼できる援護メンバーを加えることも検討する。
装備は、そして強力な魔物や魔術師との戦闘を想定し、万全を期す必要がある。探索用具(ロープ、ピッケルなど)、十分な食料と回復薬、そして……
「ティアーナ、春までに、何か調査に役立つ新しい魔道具を作ることは可能か? 例えば、遠くの仲間と連絡を取り合えるものとか、敵の気配をもっと広範囲に探れるものとか……」
「通信魔道具と探知魔道具、ですか……。どちらも高度な技術が必要ですが……やってみましょう。レンさんの魔法や知識、ゴードンさんの技術があれば……」
ティアーナの目が、再び魔道具師としての輝きを取り戻す。冬の間の、新たな目標ができたようだ。
◇◇◇
春への準備と並行して、エルム村の冬の日常も着実に進んでいた。
俺、ティアーナ、アリシアの三人は、交代で温室の管理にあたった。【微温魔石ヒートプレート】の魔力供給調整は、魔石の消費を抑えつつ最適な温度を保つための、繊細な作業だ。俺たちは、他の村人やエルフたちにも、魔石の交換方法や簡単な魔力操作を教え、当番制で管理する体制を整えた。温室は村全体の共有財産であり、皆で守り育てていく意識が重要だと考えたからだ。
温室の中では、厳しい冬の外気とは裏腹に、緑の野菜やハーブがすくすくと育ち、村の食卓を彩った。アリシアは温室の一角で薬草栽培にも成功し、貴重な回復薬の材料を安定して供給できるようになった。
「すごいね、レン! これなら、薬が足りなくなる心配も減るよ!」
「ああ。それに、来年はもっと色々な種類の薬草や野菜を育てられるように、温室を拡張する計画も立てないとな」
俺たちは、来春以降の温室拡張計画についても話し合い、必要な土地の準備や、栽培品目の検討などを進めた。
一方、魔道具工房と化したゴードンさんの鍛冶場の一角では、レン、ティアーナ、ゴードンさんによる共同研究開発が熱気を帯びていた。
「ティアーナ、このヒートプレートの魔力回路、もっと単純化して、使う魔石のランクを下げられないか? 低品質な魔石なら、まだ村にも多少の備蓄があるんだが……」
「ふむ……この【銀線草】の代わりに、魔力伝導率の高いこの鉱石の粉末を練り込んだ導線を使えば……。ゴードンさん、この鉱石を髪の毛ほどの細さに加工できますか?」
「馬鹿を言え! ドワーフの技をなめるな! ……まあ、ちと骨は折れるがな」
三人は、それぞれの知識と技術をぶつけ合い、ヒートプレートの省エネ化・低コスト化、継続発光結晶の改良(より明るく、より長持ちするように)、そして春の調査に不可欠な【通信魔道具】と【探知魔道具】の試作に取り組んでいた。失敗と成功を繰り返しながら、彼らの間には種族を超えた技術者としての強い絆が生まれつつあった。
そして、村の訓練場では、カイルとボルグが中心となって、雪が降り積もる中でも自警団の厳しい訓練が続けられていた。エルフも有志で参加をしてもらっている。
「うおおっ! 足場が悪いぞ! もっと腰を落とせ!」
「ボルグ! 側面からの敵(雪玉だが)を想定しろ!」
雪中での移動訓練、寒さの中での体力維持、対ウルフ・対魔法使いを想定した連携訓練、そして新兵器(バリスタ、投石機、魔力爆弾)の習熟訓練。カイルの厳しい檄と、ボルグの熱い指導の下、自警団の若者たちは着実に力をつけていた。
「春には、どんな敵が来ようと、俺たちがこの村を守り抜いてみせる!」
カイルの言葉には、仲間たちへの強い信頼が表れていた。
◇◇◇
長く厳しいと思われたエルム村の冬。だが、それは決して停滞の季節ではなかった。温室の緑が希望を育み、魔道具工房の炉が新たな技術の炎を灯し、訓練場の掛け声が未来への力を鍛える。そして、暖炉を囲む家々では、人間とエルフが互いの物語を語り合い、絆を深めていく。
冬の終わりが近づき、硬く凍てついていた大地から、雪解けの水の音が聞こえ始める頃。俺たち――レン、カイル、アリシア、そしてティアーナ――は、春からの「シルヴァンの郷」調査に向けて、最終的な準備を整えていた。ティアーナが仲間たちと協力して作り上げた、改良型の通信魔道具と探知魔道具。ゴードンさんが鍛え直した武器と防具。アリシアが備蓄した回復薬と特殊な薬草。そして、俺たちが冬の間に高めた連携力と、それぞれの力。
「準備は、できたな」
俺が言うと、三人は力強く頷いた。
「ああ。いつでも行けるぜ」
「うん。皆で、必ず真実を見つけようね」
「……はい。故郷のために、そして……この村のために」
ティアーナの瞳には、まだ復讐の炎が燻ってはいるが、それだけではない、未来への決意の光もまた、確かに宿っていた。
森の奥に潜む脅威は、依然として存在する。調査行は危険に満ちているだろう。だが、俺たちには仲間がいる。育まれた絆がある。そして、守るべき場所がある。
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小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
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