薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

文字の大きさ
16 / 181
第1章 洞窟出現編

16話 薬の効果

しおりを挟む
 救護のテントに負傷者が運ばれてきた。
 ほとんどは、打撲や擦り傷程度であった。

 軍医と言うべき薬師、リョウ=コウカもおり、テキパキと診察をし、それぞれの症状や傷の深さなどを私やカクに伝えてくれた。
 カクはこの世界で行われる通常の処置を行い、私はその症状に見合う薬を選んだのだ。

 ついに、先日カクと一緒に作った薬を使う時が来たのだ。
 みんな飲み込みも問題は無さそうなので、そのカプセルのようなものに入れた薬を飲んでもらう事にした。

 まず、足や腕の打撲で腫れている兵士には

ケイヒ、シャクヤク、トウニン、ブクリョウ、ボタンピ、そして水の鉱石の粉末が入った薬を飲んでもらった。

 もともと打撲で使用される漢方で、短期処方される事があるものなのだ。
 大部分の兵士は同じような怪我であったので、同じ薬を飲んでもらったのだ。
 すると、擦り傷などの改善はなかったが、数分で打撲による腫れや痛みが引いたと、口々に話し出したのだ。

 中には火傷を負った兵士もいた。その兵士には、

キキョウ、カンゾウ、キジツ、シャクヤク、ショウキョウ、タイソウ、そして火の鉱石の粉末が入った薬を飲んでもらった。

 これは発赤や腫れで痛みを伴う化膿や傷で使うのだが、抗生物質のないこの世界では、火傷による化膿が一番心配と思われたからだ。
 飲んだ後、やはり数分で痛みが楽になり、火傷の赤みがほとんど消えたのだ。
 
「これは、すごい!今まで飲んだ薬とは全く違いますね。
 もう、腫れもないし、問題なく動かせます。
 ありがとうございます。」

 負傷した兵士達は、何事もなかったように持ち場に戻ったのである。

 ・・・すごい。
 あの古びた書物に書いてあることは本当だったのだ。兵士たちの回復する姿を見て、驚きしかなかったのだ。

 横にいた軍付きの薬師のリョウは目を丸くして、兵士たちの去った行く姿を見ていた。

「これはどういう事なのでしょうか?
  全く意味がわかりませんよ。
 シウン大将から、今回ここで見ることは他言しない事とキツく言われてはいたのですが、この事なんですね。
 ・・・舞殿でしたね。
 あなたはこの国の人間では無いですよね?」
 
 リョウは疑うような目で私をじっと見て話した。

 確かに、この世界の医療を考えたら、私が魔人か何かと思われてもしかたがないのだ。
 私でさえ、これらの薬は魔法の薬と思うのだから。

 カクが焦ったように話し出した。
 もともと、ヨクから、誰かに説明を求められた時の話は決めてあったのだ。

「ああ、驚きますよね。
 私もそうでした。
 舞は隣国で色々な薬の調合の研究をしている者なのです。
 今回、魔人対策のために特別に王様に呼ばれたわけで、研究中の薬を使用しているので、まだどこにも出ていないのですよ。  
 ですから、他言無用という事なのですよ。
 ははは・・・」
  
 「ほほう。
 そんな素晴らしい薬があるのですね。
 まあ、そういう事にしときましょうか。」

 カクの早口でわざとらしい説明に納得はしていなかったようだが、リョウはそれ以上詳しくは聞いてこなかった。
 
 一通り治療が終わったころ、ヨクがテントに現れた。

「どうだったかな?上手く負傷兵を治すことは出来ただろうか?」

「遅かったですね。
 もう、治療は終わってしまいましたよ。 
 本当に素晴らしかったです。」

 舞は小声でヨクに伝えた。リョウも近くにいるので、余計なことは言わないようにしたのであった。
 
 その時である。
 
 「お話中、失礼します。
 あの、同僚を見てもらいたいのですが・・・。」

遠慮がちに声をかけてきた青年は、何かブツブツと話している同僚を抱えながら入ってきたのだ。

 よく見ると彼らは警備隊で、洞窟で倒れていた人たちだった。
 確か、記憶が少し抜けてはいたが、大きな怪我はしていなかったはず。

「どうしました?
 確か、もう治療は終わっていたはずですよね?」

 リョウが先程見た患者で、覚えていたようだ。
 擦り傷くらいで、薬の必要性もない怪我であった。

「それが、少し前からブツブツ何かを言い出して、洞窟が怖いと騒ぎ出したんです。私は全く記憶が無いのですが、こいつは、洞窟で人影を見たって話してたんです。
 自分の知らないところで、恐ろしい思いをしたのかもしれません。
 どうにか、治すことはできますでしょうか?
 お願いします。」

 その青年は深々と私たちに頭を下げて懇願したのである。
 抱えられた同僚は表情はなく、興奮気味に同じコメントを繰り返すばかりであった。

「うーん、先程ここで見た時とは全く違いますね。
 ちゃんとした会話も厳しそうですね。
 いったいどうしたことやら。」

 リョウは彼を診察しながら困っていた。

 舞から見ても、落ち着きがなく、興奮状態が続いて少し精神に異常をきたしているように見えた。

 そういえば、あれは使えるかも。
 古びた書物の中に書いてある薬で、神経興奮状態を改善させるものがあったはず。
 ただ、精神に働き掛けるものには、光の鉱石の粉末が必要なのだ。
 漢方薬は持参しているが、光の粉末がここには無いのだ。
 私が思案していると、ヨクが話してきた。

「舞、もしやあの薬を考えているかな?
 これを使ってみるかな?」

 ヨクは小さな袋に入った綺麗な粉末を見せてくれた。
 私が何を考えているかわかっていたかのようだった。
 そう、この世界に転移した時に使用したのと同じものであった。

「使って良いんですか?」

「もちろんだとも。
 今使わなくて、いつ使うのじゃ?」

 ヨクはニヤリとして私にその袋をくれたのだ。
 
 カクと一緒に調合の準備をした。

 ソウジュツ、ブクリョウ、センキュウ、トウキ、サイコ、カンゾウ、チョウトウコウが含まれる漢方薬と、光の鉱石の粉末を書物の通りに混合したのだ。

 興奮している彼に飲ませるのは難しいので、数人で動かないように抑えてもらい、 頭にその薬を振りかけてみたのだ。
 その途端その薬は光を増し、彼自身を包むように光った。
 その後、彼の中に吸収されていくかのように消えたのである。
 そして、静かに彼は横たわり、スヤスヤ眠っているような状態になったのだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編。 リーナ視点が主です。 ----- また続けるかもしれませんが、一旦完結です。 ※小説家になろう様にも掲載中。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...