薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

文字の大きさ
30 / 181
第1章 洞窟出現編

30話 別の敵

しおりを挟む
 魔人の王であるブラックとは会う事は無いだろうと諦めかけていた時に、声をかけられたのである。
 振り向くとそこには黒髪の長身の男性が立っていたのだ。
 私はあまりに驚いて、言葉が出なかったのだ。

「お嬢さん、怖がらないで。
 何もしませんから。
 少しだけ話をしてもいいですか?」

「ええ。
 私もあなたに聞きたい事があったの。」

 私は落ち着きを取り戻し、答えた。

「あなたはこの世界の人間ではないですよね?
 昔、異世界から来た知り合いにとても似ているのですよ。」

 ブラックは優しく話し始めた。
 500年ほど前に異世界から来たハナさんの話を聞かせてくれたのだ。
 人間との戦争があってからは会えなくなってしまったが、そうなる前は魔人と交流を持っていた人のようだ。
 そして、そのハナさんが生薬やこの世界の鉱石を使い、不思議な薬を作り始めたと知ったのである。
 私の世界での500年前といえば、他国から生薬が伝わり、独自の漢方薬ができる少し前と思われるのだ。
 そんな時代に生薬を熟知した若い女性という事に驚きなのだ。
 
「それにしても、異世界からお嬢さんはどうやってきたのですか?」

 私は転移の魔法陣の話をしたのだ。
 それによってこの世界に来たこと。
 そして、ハナさんが作ったと思われる魔法のような薬の調合の書物がうちに代々受け継がれてきた事を付け加えたのだ。

「ほほう。その魔法陣は私とハナで作ろうとしていたものですね。
 きっと、作ることに成功して、ハナは自分の世界に戻れたんでしょう。
 そうか、よかった。
 やっぱり、お嬢さんはハナと関係があったのですね。」

 昔、ハナさんが自分の世界に戻れるようにと異世界転移の方法をブラックと模索していたようだ。

 異世界に通じる洞窟はその前段階のようなもので、自分の希望する世界ではないが、違う世界に行く事に成功はしたのだという。
 そこが今、魔人達が暮らす世界ということなのだ。
 もともと移住目的の異世界探しでは無かったが、 色々な世界を垣間見ることは出来たようだ。
 一度行った異世界は座標のようなものが刻まれ、また訪れることもできる事がわかったようだ。

 わたしと何かしらの関係がある人がこの世界にいた事にびっくりもしたが、少し納得もできたのである。

「あの・・・人間と戦争を起こすつもりですか?」

 人間のハナさんと仲良くいられたならば、共存も可能などではと思うのだ。

「私としては共存出来ればと思うけど、まだどうするかは決まってないのだよ。
 以前は上手くいかなかったからね。
 ハナに酷い思いをさせた者達もいたのだよ。」
 
 ブラックから、ハナさんに無理矢理闇の薬を作らせた人間達がいた事を聞いたのだ。

 ブラックはそう言うと、急に厳しい顔つきになり、辺りを見回したのだ。
 何かを感じ取ったかのように。

「・・・お嬢さんも気をつけるのだよ。
 魔人だからとか、人間だからとかじゃなく、その人物自体をよく見る事だよ。
 では、また会える時があるといいね。」

 ブラックは洞窟の中に消えていったのである。

 私はブラックの最後の言葉が気になった。
 確かに、人間だからと言って絶対信用出来るとは限らないのかもしれない。
 気をつけなければいけない人物がいなくは無いのだ。
 それにしても、ブラックは何を感じ取ったのだろう。

 少し嫌な予感がしたのである。

 私はカクの家に戻ると帰り支度をする事にした。
 魔人の王であるブラックに会って、少し安心したのである。
 今後どうなるかはわからないが、人間にひどい事をするような人には見えなかったのだ。
 今後はここに住む人たちで考える事なのかもしれないと思ったのだ。

 それに、ハナさんの話を聞いた時、自分がここにいる事はあまり良くない事かもしれないと思ったのだ。
 500年前と同じで、私を利用しようとする人たちが出てきてもおかしくないと思ったのだ。
 私がいる事でみんなに迷惑をかけるのではと、心配になったのだ。
 
 ふと私は違和感を感じたのだ。

 そういえば、カクもヨクもお屋敷に戻ってきてなかった。
 王室に呼ばれて城に行っているはずであったが、いつもに比べて帰りが遅いのである。

 ・・・胸騒ぎがしたのだ。

 急いで城に向かおうとドアを開けた時である。

 そこにはシンブと数人の兵士が立っていたのだ。

 私は何もわからないふりをして、聞いてみたのだ。

「あ、こんばんは。
 まだカク達は戻ってきてないのですが、何か急な会議が入ったのでしょうか?」

「ああ、そうなのですよ。魔人との対応について話し合いが長引いてて。舞殿も参加して欲しく、迎えに伺ったのですよ。」

 朗らかにシンブは答えた。

 明らかにおかしいのである。
 カクやヨクが迎えに来るならともかく、薬師の取りまとめであるシンブが、私を迎えに来る事は考えられないのである。

 とりあえず、何も感じないふりをしてついて行く事にしたのだ。
 城には向かっているのだが、もしかすると王室自体がもう拘束されているのかもしれない。
 そんな不安が出てきたのだ。

 ふと、ブラックが言ったハナさんの話が頭によぎった。

 城に着く前に考えなくては。

 きっとハナさんはとても優しい人だったのだろう。 
 人間も魔人も傷つける事をしたくなかったのだろう。

 ・・・でも、私は違う。
 自分の大事な人や仲間を傷つける人には容赦しない。
 今は、頭を一生懸命働かせるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編。 リーナ視点が主です。 ----- また続けるかもしれませんが、一旦完結です。 ※小説家になろう様にも掲載中。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...