薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

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第4章 火山のドラゴン編

140話 心残り

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 私とブラックが森の入り口から大木のある広場に向かうと、そこには精霊が待っていたのだ。

「舞、帰るのですね。」

「ええ。
 その前にドラゴンの様子を見せてもらえるかしら?」

 私がそう言うと、精霊は封印の石を見せてくれたのだ。
 中のドラゴンは静かに眠っているようだった。
 いつ目覚めるかわからないが、もう一度話をしたいと思ったのだ。
 そう、『ありがとう』と言いたかったのだ。

 封印の石を精霊が受け取ると、大きな魔法陣を広場に一瞬で作ったのだ。
 それはこの世界に来た時と同じで、優しい光の文字やラインで作られていた。

「ありがとう。
 人間の世界の魔法陣が燃えてしまって、まだ使えないの。
 あなたに頼まないと帰れないのよ。
 いつも助けてくれて本当にありがとう。」

 私がそう言うと、精霊は嬉しそうに話したのだ。

「大丈夫ですよ。
 また種を持って行ってください。
 何か困ったことがあったら、私を呼んでくださいね。」

 そう言って私の手を取り、また種を三粒置いたのだ。
 私は頷いて精霊を見ると、精霊はチラッとブラックを見たのだがブラックは黙ったままで、今までにない二人の不思議な雰囲気を感じたのだ。
 無言が少し続いたのが何だか居心地が悪かった。

「・・・じゃあ、二人とも元気で。
 今度はのんびりと遊びに来るわね。」
 
 私がそう言うと、ブラックは私を引き寄せ頭を撫でたのだ。

「舞、きっとですよ。
 ずっと待ってますから。
 指輪はいつもはめていてくださいね。」
 
 これでブラックともしばらくは会えなくなる。
 次にいつ会えるかわからないと思うと、とても切なくなったのだ。
 私は頷いた後、少し涙ぐんだ目でブラックを見上げたのだ。
 すると、ブラックは私の肩に手を置き顔を近づけてきたのだ。
 私は精霊の前だったのでとても恥ずかしくなり、すぐにブラックから離れ魔法陣に移ったのだ。
 そして、ヨクからもらった光の鉱石を取り出し頭上に振りまいた。
 いつものように私は綺麗な光に包まれたかと思うと、あっという間に辺りが見えなくなったのだ。
 そして光の霧が消えると見慣れた自分の部屋が現れたのだ。

 元の世界に戻って来た・・・。

 私は逃げるようにこっちの世界に戻ってしまったが、ブラックが気を悪くしてないだろうかと少し心配になった。
 だが、後悔しても簡単には戻れない場所なのだ。
 また光の鉱石をカクに送ってもらわないと私は転移出来ない・・・。
 私はブラックから貰った指輪を見てため息をついた。
 所詮は魔人と人間であり、時間の流れが違うのだ。
 頭で考えれば、ブラックを慕う事が正しいとは言えないかもしれない。
 しかし・・・私はその事を考えるのをやめた。
 
 それにしても、精霊とブラックの緊迫した雰囲気は何だったのだろう。
 私の勘違いだろうか。
 何だか気になる事を残して今回は戻ってしまい、心残りが多かった。

 私は部屋の時計の日付を見たのだ。
 この場所を出発してから九日しか経っていなかった。
 予定通りに帰ってこられてホッとしたのだ。
 私は着替えてそっと一階に降りていくと、父の気配は無かった。
 薬華異堂薬局の本店は少しひんやりした空気で、漢方薬の匂いで満たされていた。
 それは私の気持ちを落ち着かせてくれる大好きな匂いであった。
 そこにつながる調剤薬局の方からは何人かの患者さんが来ているようで、話し声が聞こえたのだ。
 私はそっと玄関に靴を置くと、また自分の部屋に戻る事にしたのだ。

            ○

            ○

            ○

 魔人の国の森の中では、舞があっという間に転移した後二人は黙って立っていた。 
 精霊が魔法陣を広場から無くすと、先に口を開いたのだ。

「・・・ブラック、逃げられましたね。」

 ブラックは、そう言う精霊を見て強がるように言ったのだ。

「舞は恥ずかしかっただけですよ。
 精霊、あなたが近くにいましたから。」

 実際はブラックの言った通りなのだが、ブラックは少し焦っていたのだ。
 もしかしたら、精霊に勘違いされたら困ると思ったのだろうか。
 あんな目で見つめるのだから、自分の事を好きでいてくれると思っていた。
 しかし、精霊の言うように逃げられたのも事実だ。
 舞から言葉で何か言われたわけでもない。
 今後いつ会えるかわからないのに、あっという間に帰ってしまったのだ。
 いや、しかし・・・。
 ブラックは疑心暗鬼に陥ってしまったようで、ブツブツと自問自答していた。

 そんなブラックを見て精霊は小声で言ったのだ。

「・・・しっかりしないと私がさらいますよ。」

 だが、ブラックには聞こえてなかったようだ。

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