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東京決戦

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「多弾炸裂弾《クラスター》」

 ロイスが無数の爆弾を現界させ、ユーリに放つ。

「熱風旋風《トルネ》」

 ユーリはすかさず火に包まれた旋風を巻き起こし爆弾を全て爆破させそのまま、ロイスに旋風をぶつける。

「瀑布《ニキュロム》」

 ロイスは、上空から大量の水を投下し、旋風をかき消す。

 ロイスとユーリの実力はロイスの方が若干上であったそのまま、
 正確な表現をするならば、ロイスによってユーリは、王宮上空から退けられてしまい、ロイスとユーリは、戦いながら王宮からどんどん離れていってしまう。

 一方、ソイニー師匠の先生、アーシャ達も攻撃を仕掛けようとする。

「ソイニー、あなたは流星落下を使えそう?」
「魔導量が不足しています。最短で30分後に現界可能です」
「そうですか。ならば、30分間時間を稼ぎましょうか。じゃあ、私もユーリ討伐に加勢しましょうかね」

 アーシャは、そう言うと、ロイスに加勢しようとするが、その瞬間‥‥‥

「「火級《ファイアーボール》」」

 ——ドガガガ

 空中に勢いよく、おびただしい数の火球が、アーシャを取り囲むように舞い上がり、アーシャに直撃する。

 アーシャの体からは、土色の煙が溢れ出で、アーシャは空中で音もなく漂う。
 火球は、日本王国魔導士達から、姫様の号令の下放たれていた。


「や、やったか!?」

 火球を放った1人の魔導士が呟く。
 しかし、皇級魔導士を倒すのは、一筋縄ではいかない。
 アーシャの体から放たれていた煙が晴れてくると、そこには、不敵な笑みを浮かべたアーシャが堂々と顕在していた。

「あらあら、あなた達は愚かですね。せっかくユーリが、あなた達が戦いに巻き込まれないように、啖呵を切っていたのに、それを自ら水の泡にするなんて。ユーリも浮かばれませんね」

 アーシャは、上空から大声で、甘くて残酷な声で叫ぶ。その目は、まっすぐと姫様を捉えながら。


「それじゃあ、ご期待通りに、滅ぼしてあげましょう。ナタリー、私たちはこちらの有象無象を相手にしましょうか。お初にお目にかかります。亡国の姫、エリナ・ジャパネーゼ。かわいそうに今から死ぬなんて」
「皇級攻撃魔導士アーシャ。我々はあなた達には屈しません。そして、ユーリだけにこの国を守ると言う重荷を背負わすわけにも行きません。この国は我々の物です。我々は命に代えてでも、この国を守ります。あと、聞きたいことがあります。あなた達はソイニー様に一体何をしたのですか!?」

 そこには、いつもの穏やかで心優しい姫様はなく、一国の主人として、この国を守る責務を背負った姫様が、凛と立ち、アーシャを睨みつける。
 それに対し、アーシャは笑いながら、答える。

「私たちは何もしてないわよ。これはソイニーの意思よ。あなた達がソイニーを邪険に扱ったりしたから、嫌気がさしたんじゃない?」
「私たちはソイニー様を邪険になんて扱っていません」

 姫様は毅然とアーシャに立ち向かう。
 するとソイニー師匠が少し前に進み出て告げる。

「私はそもそも天界攻撃魔導士、あなた達下界人と関わっていたなんて反吐が出ます。下界人は下界人らしく地を這いつくばっていなさい」

 ソイニー師匠は姫様達を見下す。

「ソイニー師匠!」

 ソイニー師匠が声を発した時、僕は我慢できずに叫ぶ。
 ソイニー師匠がぎょろりと目線を僕に向ける。

「ソイニー師匠、どうしてしまったんですか。九州を消滅させたのは師匠じゃないんですよね!」
 僕は、一縷の望みをかけてソイニー師匠に訊く。

「あなたは誰ですか? 誰の許可をもらって私に話しかけてるのですか? 虫唾が走ります。それに、九州を滅ぼしたのは私ですよ。あんなことできるのは私以外にいるはずがないじゃないですか」
「え!?   ソイニー師匠‥‥‥そんな、嘘だって言ってくださいよ」

 ソイニー師匠は冷たく僕をあしらう。
 そんな、ソイニー師匠が九州を滅ぼしたなんて。
 しかも、あんなに冷たい目をするソイニー師匠を僕は見たことがない。

「あれが、ソイニーの弟子か。まずはあいつから可愛がってやろう。『衝撃波《インパクト》』」

 また、アーシャが攻撃を仕掛けると同時に、姫様も「攻撃開始」の合図を出す。

 日本王国魔導士達は各々、魔導攻撃を仕掛ける。
 しかし、次の瞬間、目に見えない空気の振動「衝撃波」が、一瞬にして日本王国魔導士の攻撃をかき消し、そしてそのまま僕らは吹き飛ばされる。

「姫様!」

 ユーリはロイスの相手をしているため、そして、ロイスもユーリが姫様の助けに行けないようにうまく立ち回っているため、上空から叫ぶことしかできなかった。

「おいおい、よそ見をしている暇があるのか!? 『勾玉の光《マガタマノヒカリ》」

 ロイスは、すぐさま指で四角を作り、そこに光を溜めて、ユーリに放つ。

「くっ」

 ユーリは、その光を刀で反射させて受け流すが、受け流すことが精一杯で姫様の元に駆け寄れない。


 そんな中、僕は、アーシャの攻撃で吹き飛ばされながらも、一命は取り留めていた。
 これが皇級魔導士の力なのか。
 王宮東御苑は一瞬にして地獄とかす。
 しかし、御苑の中央から一筋の声が聞こえてくる。

「我が愛は、正義のために『大規模快癒』」

 すかさず姫様が皆の傷を癒し、皆の傷がまたたくまに癒える。

「小賢しい姫だこと。可愛らしかったから、後でいたぶって、私の奴隷にして、天界で飼おうと思っていたけど、いいわ、あなたから死になさい『衝撃弾』」

 アーシャは見えない衝撃弾を姫様に発射する。

「姫様お逃げください!」
 近くにいた魔導士が叫ぶ。
 しかし、姫様に逃げる隙はない。
 幾人かの魔導士は姫様の目の前に盾を現界させるが、それも次々と破壊されていく。

「我が身体を強化せよ『脚力強化《ラピッドエンハンス》』」

 姫様にアーシャの攻撃が届きそうになった時、僕は考えるより先に体が動いた。
 魔導で身体を強化する。
 驚くべきことは、なんとマミも同時に僕の身体を強化したことだ。
 二重に身体強化された僕は、姫様の方に飛び込む。

 ———ドドーン

 姫様がいた場所の地面がえぐられ、土煙が舞い上がる。
 だが、そこには姫様の姿はなかった。

「姫様大丈夫ですか?」
「え、ええ、アスカ。ありがとう」

 僕は間一髪のところで姫様を抱きかかえ、アーシャからの攻撃をかわす。
 そして、立ち上がり姫様の前に立つ。

「僕はまだ迷っています。ソイニー師匠が裏切ったなんてまだ信じられていません。しかし、覚悟を決めます。今の僕の使命は姫様を守ること。僕は命に代えてでもあなたを守ります」
「アスカ‥‥‥」
「姫様は僕の後ろに下がっていてください。チームニベリウム。今こそ真価を発揮する時です」

 僕が叫ぶと、ヒビト、ナオミ、マミは「了解」と叫ぶ。
 僕の周りに仲間が並び、姫の目の前に立つ。

「なかなかしぶといですね。これは避けれますか? 『多段衝撃弾』」

 数個の衝撃弾がアスカ達に向かってくる。

「みんな下がって。私の本気を見せてあげる!」

 そういうとナオミが一歩前に出る。

「さっきはビビって光球すら防げなさそうだったけど、私は、全ての人たちを守りたいがために防衛魔導士になったの。その覚悟をなめてもらっちゃ困るわ、我が命に従いてこの身を守りたもう、堅牢防壁《ソリッジシールド》」

 これまでナオミが限界させてきた盾の中で一際大きな盾が限界する。


「うおおおおおおおおお」

 ナオミが叫ぶ。力強く。
 アーシャが放った衝撃弾がナオミの盾に命中し、衝撃弾の着弾の衝撃で、あたりが何も見えなくなる。

「やっぱり、皇級魔導士は強いわね。後一発で私はもうだめそう」

 ナオミが淡々と述べる。
 土煙が晴れると、ナオミの盾は健在であったが、ナオミの腕からは血が流れ出ていた。
 一発はなんとか根気で乗り切ったが、現実は甘くはなく、ナオミにもしっかりダメージが入っていた。
 すかさず、マミが「ヒーリング」でナオミの傷を癒すが、ナオミの魔導はほとんど尽きかけていた。
 だが、ナオミの行動は、アーシャを動揺させるには十分であった。

「中級魔導士風情が、私の魔導を防いだ!? これはたまげたわ。なるほど、私の攻撃を一度でも防げるなんて、あなたには帝級、さしては皇級になれる見込みがあるみたいね。ならば、尚更有能な若い芽はここで摘んでおかないと。あ、そうだ、それか、あなた、私の弟子にならない? 私の弟子になれば、あなたの力に磨きがかかるわよ」

 アーシャは満面の笑みで、ナオミに問いかける。

「私は、あなたのように、人の命を簡単に奪えるような人が嫌いなの。人にはそれぞれ色々な人生があって、色々苦労しながら、それでも少しばかりの幸せを感受しながら行きてるの。それを理解できないあなたの弟子なんかに決してならないわ」

 ナオミはアーシャを睨みつける。

「やっぱり、下界の魔導士はなんでこうも頭が悪いのか。プライドのために命を捨てる。実に合理的でない。まあ、いいわ。それならば、死になさい『超圧縮弾《バベルドン・アッシャー》」

 そう言うと、アーシャは、先ほどよりも大量の空気を圧縮し始めた。
 あの圧縮弾が放たれれば、僕らは確実に死んでしまう。そう直感が囁くほどに、危険なものだと実感できた。
 しかし、僕らは立ち向かわなければならない。姫様や、皆を守るためにも。
 そして、今僕には仲間がいる。
 その、気持ちが僕の背中を少しばかり押してくれる。

「ヒビト、ナオミ、マミ。僕に力を貸して欲しい」

 僕は、この苦境を一つの技に託すことにする。
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