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合技

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 かつて、僕は、魔導具士の書で、ある技についての記載を読んだことがある。
 3代前の魔導具士、その魔導具士は、盾使い。
 代々、攻撃用の魔導具に、自身の魔導回路を移植してきた魔導具士にとって、盾に魔導回路を移植した異例の存在であった。

 その魔導具士には、信念があった。
『最強の矛は、最大の防御を兼ねる。しかし、それでは守りきれぬ命がある。私は、全ての人を守りたい。それが私の唯一の願望。だから私は、盾に全てを託す』

 と、魔導具士の書に書いてあった。
 実は、そこにはもっと重要なことが記載されていた。

『盾は、守ることを目的に作られた、兵器の中でも優しい兵器、その可能性は広い。私は一つの事実にたどり着いた。盾は、人々の願いを詰め込むように、多くの魔導を溜め込むことができると、そして、その対象は魔導具だけには止まらない』
 
 盾は多くの魔導を溜め込むことができる、そして、その対象は魔導具だけには止まらない。
 この言葉を僕は思い出していた。
 そして、とっさに一つのことを閃く。

『ナオミが現界させた盾に増幅用魔導回路を設置できれば、ナオミの盾を増強できるのでは』

 どんなに荒い回路だっていい、とにかく、僕の魔導回路の一部をナオミの盾に通すことができ、みんなの魔導を僕を介してナオミの盾に流し込めば、盾の魔導許容量を上昇させることができ、アーシャの攻撃もしのげるのではないか!?


 もうあれこれ考えている暇はない。
 今はとにかく、アーシャの攻撃を防ぎ、姫様を守らないといけない。それが最優先事項だ。
 僕は、マミとヒビト、ナオミに指示を伝える。

「ナオミが盾を現界させたら、マミとヒビトは僕に魔導を注入して!」

 するとヒビトが咄嗟に反応する。

「何を言っているんだ、アスカ、自分の魔導を他人に注入することなんて不可能だ。君だってこの基本事項を知っているはずだ」
「わかっている。だが、今は僕を信じて、従ってほしい。頼む」

 僕の真剣な気迫に押されて、ヒビトは、「アスカ、何か考えがあるんだね」と言い、僕の指示を飲み込んでくれた。

「さあ、死になさい」

 アーシャは、短く言葉を発すると、顔色一つ変えずに、手を振り下ろし、『多弾超圧縮空気弾』を僕らに向けて放つ。
 アーシャの攻撃は僕をめがけて放たれているが、僕の後ろには姫様がいる。
 だから決してこの場から逃げることはできない。

「ナオミ! 盾を!! 僕たちは大切な人を守るために決して倒れることが許されない!」
「了解! 我らの身を守りたもう、『堅牢防壁』」

 ナオミが現界させた盾は、先ほどの威力はなく、アーシャの攻撃によって吹き飛ばされそうであった。
 そして、ナオミも盾を現界せることが辛そうであった。
 そんなナオミの腕を僕は握る。そして、ヒビトとマミは僕の肩に手を置き、僕に対して、魔導を流し込もうとする。

 イメージする。ナオミの手をつたい、盾に僕の増幅用魔導回路を敷設するイメージを。そして願う。

「代々魔導具士を受け継ぎし先代達よ、どうか僕に力を貸してください」

 すると、急に、脳裏に、見慣れぬ人影が浮かぶ。その人影は、何やら呟いていて、僕は、その言葉を自然と呟いていた。

「我が盾は、争いのない世界の創造のために存在し、全ての憎しみを断ち切る。合技『回路活性化《ルート・アクチベーション》」

 次々とアーシャの攻撃が、周りの魔導士達を吹き飛ばし、そして遂に、僕が詠唱した瞬間、アーシャの攻撃が、ナオミの盾に再び接触する。
 ——ドドドドドン

 轟音が鳴り響き、アーシャの攻撃がナオミの盾を打ち砕かんとする。
 周りにいる魔導士達の誰もが、ナオミの盾が撃ち抜かれたと感じた。



 しかし、ナオミの盾は耐えていた。


「え、え、これって、なに?」


 ナオミは、自分が現界させた盾の異変に気付き戸惑う。

「ナオミ大丈夫だから、大丈夫だから、僕を信じて、盾を現界させ続けて」
「う、うん」

 僕は咄嗟にナオミをなだめる。

「ヒビトとマミ、もっと魔導を僕に供給して欲しい!」
「嘘だろ、アスカ、なんで僕の魔導がアスカに流れ込んでいるんだ。こんなことあり得ない」

 ヒビトは明らかに動揺している。

「アスカ君、大量の魔導はによって、アスカ君の体が壊れることなんてない?」

 マミは、緊迫状態でも僕の体のことを心配してくれる。だけど、今はそんなことを気にしている場合ではない。

「マミ、今は、姫様を守ることが最優先事項だから、どんどん僕に魔導を注入して」
「わ、わかったわ」

 マミも、目をつぶり、さらに多くの魔導を僕に注入する。

 ヒビトとマミの魔導が僕に流れ込む。正直、体が内側から圧迫されるようで、苦しい。マミが言っていた体が破裂してしまうかもしれないという予想は、間違っていないのかもしれない。
 僕は、その痛みに耐えながらも、魔導を腕に集め、盾に増設した魔導回路に流し込む。
 僕を伝って、盾に流れ込む魔導によって、盾は、傷つきは修復され、傷つきは修復されを繰り返す。

「うおおおおおおおお」

 僕は、叫ぶことで痛みをごまかし、自分に気合いを入れる。
 それに呼応して、ナオミも叫ぶ。

 段々と、アーシャの攻撃の威力が削がれていく。
 やはり、皇級魔導士は格が違った。ついにナオミの盾は、撃ち抜かれてしまう。

 ——ドーン

 かろうじて、アーシャの攻撃の威力を削いだため、致命傷にはならなかったが、僕ら、チームニベリウムと姫様は後方に飛ばされる。
 また、周りの魔導士達も吹き飛ばされる。

 戦いたい、戦わねばならない。だが、体が、全く動かない。

 姫様は、なんとか上体を起こし、立とうとするが、うまく立てずに座り込んでしまう。
 このままでは、まずい、早く、この状況を打開しなければ。
 だけれども、僕には、もうどうやってこの状況を打開すればいいかわからなかった。
 万策尽きてしまった。
 だから僕は、姫様に這って近づき告げた。

「姫様、お願いです。逃げてください。あなただけでも逃げてください」

 姫様は、涙を浮かべている。先ほどまで、皆を鼓舞するために気丈に振る舞っていた姫様の姿はもうそこにはなかった。
 ユーリ・シルベニスタは、ロイスに抑えられていて、こちらの救援に来れない。
 もはや、勝ち目を見いだすことができないため、姫様は心が折れかけていた。
 僕は、そんなに追い込まれた姫様を守りたかった。しかし、僕にはその力がない。だから、逃げて欲しい。生きて欲しい。生きていれば、いつかまた幸せになれるかもしれない。だから‥‥‥。
 その願いを込めて、姫様に再度「逃げてください」と伝える。

 すると、姫様は大粒の涙を流しながら、首を横に振る。

「わ、私は、アスカを置いて、行くことなんて、できない」

 そういうと、姫様は僕の手をそっと握った。


「惨めなものね、無駄な勇気で負けて、最後は簡単に死ぬんですから。まあいいわ、最後は、最弱魔導で殺してあげるわ。こんな下級魔導で死ぬなんてと後悔しながら燃えて逝きなさい」

 そういうと、アーシャは、中級魔導の『多弾火球』を現界させる。
 そして、放つ。

 あー僕らは死ぬのか。
 僕は、静かに悟る。
 だけど、姫様だけは‥‥‥必ず守りたい。そう強い信念が、僕を突き動かし、激痛が走る体に鞭を打ち、僕は姫様を抱き締め、匿《かくま》う。

そんな状況の時‥‥‥

「俺は、まだ負けてない!!!!」

 そう叫びながら、チームニベリウムの前に立ちはだかる男がいた。

 しかし、まだ、諦めていない男がいた。
 この国を守るために、父の背中を置い続けてきた男が。

 その男は、立ち上がり、叫び声をあげながら、僕らに向かってきたアーシャの攻撃を剣で弾き飛ばした。

 そう、その男は、英雄ユーリ・シルベニスタの息子『ヒビト・シルベニスタ』である。

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