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僕は魔導具士である

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 急に頭の中に響く声に戸惑う僕。
 そんなことお構いなしに声は響き続ける。

「貴方は望みました。全ての人民を貧困や圧政から救いたいと。しかし、あなたは夢半ばに倒れ、濡れ衣を着せられ、恋人を殺され、最後に処刑された。その時、貴方は願ったのです。悪を挫く力が欲しいと。私は貴方の生き様にに惹かれたため、もしかすると、貴方こそ世界に調和をもたらす存在かもしれないと期待し、貴方にチャンスを与えることにしました。そう、転生するチャンスを。それから貴方は7回転生を繰り返しました。違う世界線に転生したり、スラム街で一生を過ごしたり、富裕層に生まれたこともありました。受験戦争に身を投じていたこともあります。また、魔道も何もない世界に生まれたこともあり、転生したことを思い出せずに一生を終えたこともあります。しかし、貴方は遂に、転生する前と同じ世界に生を受け、着々と力をつけてきました。貴方は言っていた『次こそは世界を守る』と。さあ、今がその時です。悠久の時から目覚め、悪を挫き、世界に調和をもたらすのです」


 一瞬にして多くの情報が脳内に入ってきた。

 僕は思い出した。
 転生してきた本当の意味を。

 僕は数百年前に一度この世界に生を受け、この世界を守れなかった男だ。
 僕は、世界を救うために立ち上がりそして敗れ、仲間や恋人、僕に関わる全ての人達が殺された。
 そして、そこから魔道具士の悪評も始まったのだ。
 全ては僕を陥れるために。

 そう、僕は、家族を殺された前世からだけでなく、その前から何回も何回も転生を繰り返し、またこの世界を守るため転生し続けた‥‥‥。


僕は、初代魔道具士だったのだ。
そうか、僕は、まだ舞えるんだ。

「我が、願いは新羅を超えて、神に届かん、「照見五蘊《しょうけんごうん》」

僕の目の前に黄金の魔法陣が現界し、そこから火球、水球、風球、土球、雷球が次々と飛び出し、ソイニー師匠の隕石を破壊する。

「なんだあいつは、あんな魔導見たことないし、あいつはそもそも体も限界で、魔導も尽きていたんじゃないのか?」

アーシャは、予想外の展開に困惑する。

 僕は、再び、上空にいる天界魔導士達をにらみつけながら、今度は、チームメイトに指示を出す。

「ナオミ、マミ、まだ体を動かせる? 頼みがある。ナオミは、ヒビトを下がらせて欲しい、マミは、僕の後ろに来て、姫様を守って欲しい。」

 ナオミとマミは、僕の異変に戸惑いながらも、静かに頷く。

ナオミは、体に鞭を打ちながらすぐにヒビトのそばに行く。
しかし、ヒビトは、父親の倒れる姿を目撃して、正気でなくなっていた。

「ヒビト、しっかりして、ヒビト、あなたの気持ちはわかるけど、まだ、戦いは終わってないの。ねえ、ヒビト」
「‥‥‥」

ヒビトは、無言で眼が虚ろである。

——パチン

ヒビトの頰が赤くなる。その瞬間、ヒビトの目に生気が戻り、ヒビトは手を頰に当てる。
ナオミが、ヒビトをビンタしたのだ。そして、ナオミは、泣きながらヒビトに告げる。

「ヒビト、あなたがいないと、ダメなのよ。あなたがいて、アスカがいて、マミもいて、全員いるからチーム・ニベリウムでしょ。今動けるのは、姫様をお守りできるのは私たちだけなんだから、取り乱してる暇なんてないのよ。みんなを救いたいんでしょ。お願い立って」

ナオミの感情的な言葉に、ヒビトは胸を打たれ正気になる。

「‥‥‥ごめん、そうだね。僕は、僕は、決意したんだ、必ず人を守るって、だから、お父様の分まで頑張らないと」

ナオミがヒビトを連れてくると、ヒビトは僕を見て疑問を抱く。
「アスカ、一体君は何をしようとしているの?」


 ヒビトは困惑している。
 それは当然である。ヒビトは僕が転生者だなんてことは知らない。
 だが、丁寧に説明している暇はない。

「ヒビト、詳しいことは後で話すから今は、僕の指示に従ってほしい。僕が合図をしたら全力で、僕に魔導を送って欲しい。ナオミは盾で姫様をお守りして」
「それは、可能だけど、僕らだけの魔導じゃ、あいつらは倒せないよ」
「うん、それはわかってる。そこで姫様」

今度は、姫様の方を僕は見る。

「姫様は、ここにいる魔導士達全員に、僕に魔導を供給するように命令してください」
「アスカ、そんなことしたらアスカの体が保ちません。第一、こんな大勢の魔導を一挙に扱える魔導士なんてこの世にいません」
「いや、大丈夫です。姫様、僕を信じてください。これが最善手なんです」

 僕は、姫様の目を見つめ、少し微笑む。

「お願いします。姫様、僕を信じて」
 
姫様は、戸惑いながらも、「分かりました。あなたを信じます」と承諾する。

 話し終えると僕はゆっくりとアーシャとロイス、ナタリーを見据える。

「お話は終わったんですか? 最後の時を過ごさせてあげた私に感謝して欲しいものです。」

 アーシャが高笑いしながら、勝利を確信しながら見下す。

「さて、あなたが、一体どんな手品を使ったか分かりませんが、次に落とす、この巨大な隕石はどんな魔導でも撃ち抜くことは不可能でしょう。死ぬ前に辞世の句でも読んでみますか? そんな時間いらないですよね。さあソイニー、精神支配から逃れようとしないで、隕石を落としなさい」

ソイニー師匠は必死に落とさまいと争う。
そんなソイニー師匠に僕は、優しく、声を掛ける。

「師匠、僕を信じてください。その隕石は必ず防ぎますから、落としてください。もう、師匠の顔が苦痛で歪むところを見たくはありません」
「ダメですアスカ、このメテオバーストは、誰も防げない、私の奥義です。これが落ちれば東京は無くなります」
「大丈夫ですから、信じて、師匠、お願いです」

僕は、これまで見せたことがないほど、真剣な眼差しをソイニー師匠に送る。
だが、師匠はまだ戸惑っている。しかし、その間に、ナタリーが全身全霊の精神支配をかけ、ソイニー師匠は隕石を落とし、メテオバーストを発動させてしまう。

「アスカ! みんなを連れて逃げて!!」

ソイニー師匠の言葉が虚空に響く。

——大丈夫です、師匠。

僕は、心の中でそっと呟き、そして、名刀『一徹』を抜く。

「まさか、この時代でも君に会うことができるとは。僕は嬉しいよ。また無理をさせてしまうが頼むよ『一徹』。それではお願いします、姫様とヒビト」

 姫様は「全員、アスカに全力で魔導を供給せよ」と命を出す。
 王宮東御苑にいる魔導士から一斉に魔導が供給される。

 普通ならこんなに大量の魔導を一身に受ければ、体が爆散してしまう。
 だけど、僕は初代魔導具士から転生してきた魔導具士である。
 魔導具を扱いに長けている者である。
 魔導具士の才を受け継ぐ者は、単に精巧な魔導具を作ることができる者のことを指すのではない。
 仲間から受け継いだ魔導や空中に浮遊している魔導の全てを魔導具に集め、蓄え、そして最大限増幅させることができる、それが知られざる魔導具士の真の力である。
 だが、実際に魔導具士の才を受け継ぐ者でも、この力を発揮できる者は、初代以外いなかった。四代目は気づきかけたが盾にしか応用できなかった。
あまりにも強く、特殊な力なため、誰も理解し使うことができなかった。

 だが、今ここに、魔導具士の真価を発揮する。
 僕は、集められてきた魔導を全て『一徹』に集中させる。

「なんだ、あいつはあんなに沢山の魔導を一身に受けて、無事でいるだと、それにあの魔導量は流石にやばいだろ」

 僕が集めた魔導量を見て、ロイスが狼狽し始める。

「大丈夫です。ソイニーのこの奥義を防いだ者は、1人としていません」

アーシャは、自信満々に答える。


ついに、魔導量が必要量に達する。

「我が命は人民のため、正義を貫き、悪を挫く。その体は一筋の刀身と化し、万物を切り裂く刃となる。悠久の時が世界に変革をもたらそうとも、信念は決して変わらず。幾度裏切られようとも我が願いは変わらず。全ての人々を救うため、全ての人々の幸福のため、我が刀は存在し、我はこの刀を振るう。我が名は、アスカ・ニベリウム。全ての悪を憎み、全ての悪を挫き、全ての悪に改心を迫る魔導具士であり、我は再び世界を救うべく立ち上がる。我が魔導具は全てを切り裂き、後世のための道を切り開かん。『カラドボルグ』」

 僕は詠唱し、そして叫び、一徹を振りかざす。

 名刀『一徹』から轟音とともに一筋の光が放たれ、それは次第に太くなり一直線に光の速さで天界魔導士に伸びていく。

「なんなんだ、あの光は、あんな巨大な光避けらないぞ、緊急だ‥‥‥」

 ロイス達は『緊急脱出』で天界にテレポートしようとしたが、間に合わず光の中に吸収されてしまう。
 そして、光は隕石にも達し、隕石を飲み込み、熱して溶かして蒸発させた。

轟音が鳴り終わると、上空の雲はなくなり、太陽が降り注いできた。
隕石は完全に消失していた。

「アスカ、あなたはまさか‥‥‥」

ソイニー師匠は、何かに気がついたようであるが、すぐにアーシャによって遮られてしまう。

「ソイニーの弟子は一体なんなんだ。あいつは危険すぎる。私の第六感がそう告げる。ナタリー、ソイニーを連れて緊急脱出しなさい。ロイスと私は、あいつだけでも倒すわよ」


アーシャとロイスは僕をめがけて突っ込んでくる。
僕は、初代魔導士の力を使ったが、体が追いつかず、反動で全く動けない。

しかし、そんな状況でまた1人、覚醒する者がいた。
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