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レジがいなくなった地下は、火が消えたように静かで寒々しく感じられた。
アリシアと二人、その場に残されたロディは頭の中でレジの言葉を反芻する。
――――死んだんだけど、死んでないんだ。
――――世界には戦いたくなくても戦わなくちゃいけない奴らだって大勢いるんだぞ。
――――なんで、この女に良いように言われて、それでも黙ってるんだよ。そんなの、全然お前らしくない。
かつての仲間であり友人でもあるレジは、今のロディには眩しく、遠い存在のように思えた。光が強すぎて直視できない。昔の自分もああだったのかと思うと、なんだか不思議な気分だ。
「大丈夫? ロディ」
隣に佇むアリシアがそっとロディの顔を覗き込んできた。レジの前では敵意を剥き出しにしていたが、ロディの前ではなんともしおらしいものである。声のトーンも全く違う。そんな事を冷静な頭で考えてしまう自分にも嫌気がさした。
エレナが居なくなる前は、世界はもっとずっと単純だと思っていた。毎日生きる事に必死で、余計なことなんて考える暇がなかった。魔王さえ倒してしまえば、幸せは自ずと訪れる。そう信じて疑わなかったあの頃が懐かしい。失ってみて初めて、ロディは自分にとっての平穏を知った。魔王がいない世界が平和なんじゃない。戦いのない世界が幸せなんじゃない。エレナのいる世界がロディにとっての安らぎだったのだ。
例えそこが戦場でも、食べる物に悩まされていても、エレナさえいてくれればそこが至上だったのだ。今になってそんな事を考えてもどうしようもないけれど、どうしてもその想いは消す事が出来なかった。魂がそれに囚われてしまったように、毎日飽きもせずに思い出す。思い出してはまた、彼女を死なせてしまったという事実に打ちのめされる。その繰り返しだ。
ロディだって、このままではいけない事くらいわかっていた。どんな状況でも、どんな心境でも、時間は一定の速度で流れていくのだから。ここに来たばかりの頃は12歳の子供だったロディも、気づけば17歳の青年へと成長していた。村長からは孫娘であるアリシアとの縁談を勧められ、出会った頃は自分より背の高かったレジの身長もいつの間にか抜いていた。落ち込んでいていも腹は減るし、ロディは今も生きている。過去はいつか乗り越えなければならないのだ。
わかっている。わかってはいるのだ。いつまでもエレナとの思い出にしがみ付いていてはいけない事くらい。
けれども、頭でわかっていても、ロディはなかなかこの負のループから抜け出せないでいた。現状を改め、エレナを想う事をやめてしまったら、本当の意味で彼女を失ってしまいそうな、そんな気がして怖かった。恐くて、いろんな物から目をそらして逃げていた。逃げる事で、自分の弱い心を守って来た。だけど、それももう終わりにしなければならない時が近づいているのかも知れなかった。
「なぁ、アリシア」
「なぁに?」
「俺らしくって、どういう事だろうな」
「え?」
目を真ん丸にしたアリシアに、ロディは困ったような笑みを向けた。
「少し、留守にする」
アリシアが止めるのも聞かずに、ロディは走り出した。
かつての仲間であり親友でもあったレジと再会できた事は、素直に嬉しくもあり、辛くもあった。優しい村人たちに甘えて農奴のような生活を送る今の姿をレジに見られる事に抵抗を感じたからだ。レジにも言われたけれど、ロディは変わった。前に進む事を辞め、過去に囚われて心を堕落させた。そんな姿を、誰が好き好んで友達に見せたいと思うだろうか。第一、エレナを失ったあの一件以来、ロディは罪の意識から自分を「裏切り者」だと思い込んでいた。レジや他の仲間たちの隣に並ぶ資格も失われたと思っている。そんな状態で友と再会しても、気まずいだけだった。
だけど、レジの言葉は後になってじわじわとロディの胸に沁みて来た。
言われている最中はどんな内容も責められている気がして、「もう止めてくれ」と逃げ腰になっていたけれど、時間が経って頭も冷えてきた。エレナの事だって最後まで話を聞けていない。ロディにはもう、レジの友達を名乗る資格はないのかも知れないけれど、それでももう一度会って話がしたかった。今のロディは幻滅されても当然な人間だけど、友達にあんな悲しそうな顔をさせたまま黙っていて良いはずもない。
だからロディは地下に広がる村の中を走った。友と、もう一度言葉を交わす為に。
††††††††††††††††††
アリシアと二人、その場に残されたロディは頭の中でレジの言葉を反芻する。
――――死んだんだけど、死んでないんだ。
――――世界には戦いたくなくても戦わなくちゃいけない奴らだって大勢いるんだぞ。
――――なんで、この女に良いように言われて、それでも黙ってるんだよ。そんなの、全然お前らしくない。
かつての仲間であり友人でもあるレジは、今のロディには眩しく、遠い存在のように思えた。光が強すぎて直視できない。昔の自分もああだったのかと思うと、なんだか不思議な気分だ。
「大丈夫? ロディ」
隣に佇むアリシアがそっとロディの顔を覗き込んできた。レジの前では敵意を剥き出しにしていたが、ロディの前ではなんともしおらしいものである。声のトーンも全く違う。そんな事を冷静な頭で考えてしまう自分にも嫌気がさした。
エレナが居なくなる前は、世界はもっとずっと単純だと思っていた。毎日生きる事に必死で、余計なことなんて考える暇がなかった。魔王さえ倒してしまえば、幸せは自ずと訪れる。そう信じて疑わなかったあの頃が懐かしい。失ってみて初めて、ロディは自分にとっての平穏を知った。魔王がいない世界が平和なんじゃない。戦いのない世界が幸せなんじゃない。エレナのいる世界がロディにとっての安らぎだったのだ。
例えそこが戦場でも、食べる物に悩まされていても、エレナさえいてくれればそこが至上だったのだ。今になってそんな事を考えてもどうしようもないけれど、どうしてもその想いは消す事が出来なかった。魂がそれに囚われてしまったように、毎日飽きもせずに思い出す。思い出してはまた、彼女を死なせてしまったという事実に打ちのめされる。その繰り返しだ。
ロディだって、このままではいけない事くらいわかっていた。どんな状況でも、どんな心境でも、時間は一定の速度で流れていくのだから。ここに来たばかりの頃は12歳の子供だったロディも、気づけば17歳の青年へと成長していた。村長からは孫娘であるアリシアとの縁談を勧められ、出会った頃は自分より背の高かったレジの身長もいつの間にか抜いていた。落ち込んでいていも腹は減るし、ロディは今も生きている。過去はいつか乗り越えなければならないのだ。
わかっている。わかってはいるのだ。いつまでもエレナとの思い出にしがみ付いていてはいけない事くらい。
けれども、頭でわかっていても、ロディはなかなかこの負のループから抜け出せないでいた。現状を改め、エレナを想う事をやめてしまったら、本当の意味で彼女を失ってしまいそうな、そんな気がして怖かった。恐くて、いろんな物から目をそらして逃げていた。逃げる事で、自分の弱い心を守って来た。だけど、それももう終わりにしなければならない時が近づいているのかも知れなかった。
「なぁ、アリシア」
「なぁに?」
「俺らしくって、どういう事だろうな」
「え?」
目を真ん丸にしたアリシアに、ロディは困ったような笑みを向けた。
「少し、留守にする」
アリシアが止めるのも聞かずに、ロディは走り出した。
かつての仲間であり親友でもあったレジと再会できた事は、素直に嬉しくもあり、辛くもあった。優しい村人たちに甘えて農奴のような生活を送る今の姿をレジに見られる事に抵抗を感じたからだ。レジにも言われたけれど、ロディは変わった。前に進む事を辞め、過去に囚われて心を堕落させた。そんな姿を、誰が好き好んで友達に見せたいと思うだろうか。第一、エレナを失ったあの一件以来、ロディは罪の意識から自分を「裏切り者」だと思い込んでいた。レジや他の仲間たちの隣に並ぶ資格も失われたと思っている。そんな状態で友と再会しても、気まずいだけだった。
だけど、レジの言葉は後になってじわじわとロディの胸に沁みて来た。
言われている最中はどんな内容も責められている気がして、「もう止めてくれ」と逃げ腰になっていたけれど、時間が経って頭も冷えてきた。エレナの事だって最後まで話を聞けていない。ロディにはもう、レジの友達を名乗る資格はないのかも知れないけれど、それでももう一度会って話がしたかった。今のロディは幻滅されても当然な人間だけど、友達にあんな悲しそうな顔をさせたまま黙っていて良いはずもない。
だからロディは地下に広がる村の中を走った。友と、もう一度言葉を交わす為に。
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