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「ああ、ちくしょー。むしゃくしゃする!!」
一人で村を出たレジは氷塊の上に『あぐら』をかいて叫んだ。刺すように冷たい風が吹き付けて来て身震いする。
ロディの昔の知り合いだからか、新たな敵襲に気を取られているからなのか、村を出るのは存外容易だった。遥か下方には、村を襲いに来た筋肉質な大男マタイと猫背で細身の眼鏡男ハルルクが見える。エルドをはじめとした村の男たちが数十人がかりで応戦しているものの、レジの見立てでは、残念ながら本気になったマタイとハルルクに勝てそうな村の男はいなかった。
「ま、腐っても本物のゴッドチャイルドだって事だわな」
ゴッドチャイルドは生まれつき特殊な能力を持った能力者の総称である。不死身でも無敵でもないが、常人を逸する力は持ち合わせている。ゴッドチャイルド一人で兵隊100人分の力があるとも言われているのだ。いくら村人が束になっても30人そこらの人数では到底彼らを追い払う事は出来ないだろう。
「でも」
加勢するほどでもなかった。何故ならば、マタイとハルルクの目的が村を潰す事ではないからだ。彼らの目的は…………。
「エレナちゃん、か」
先刻、ミッテ広場にて、レジは毛皮売りの女性にこう尋ねた。「あのゴッドチャイルドはこの国で何をしているんだ? ただ威張り散らしているだけなのか? それとも、何か他に目的が……?」それに、女性は表情を曇らせてこう答えた。「それはね、誰にもわからないんだよ」と。
女性があまりにも深刻そうな顔をして言うので、レジは思わず拍子抜けしてしまったくらいだ。彼女からしてみたら『わからないから怖い』というのもあるかも知れない。だが、毛皮売りの女性はそれ以上に恐ろしい事があるのだと言った。
ミッテ広場周辺に居座っているゴッドチャイルド。彼らは定期的にこの村を訪れているらしい。そしてここから帰ると、いつも決まって力を見せびらかすように上機嫌で暴れまわる。そのせいで、ミッテ広場の人々はゴッドチャイルドが村に足を運ぶ度に普段より一層怯えて過ごさねばならないのだ。
村の男たちが全力で戦っている姿を見る限り、ゴッドチャイルドが村人たちにとって招かれざる客だという事はわかる。また、村自体に関心があると言うより、村の上に聳える氷山の方に彼らの意識は向いているようだった。
「エレナちゃんの能力は治癒および一時的な能力アップ」
毛皮売りの女性の言葉通り、マタイとハルルクがこの村へ足を運ぶ度に力を付けて帰ってくると言うのなら、それはエレナの能力によるものなのではないか。レジはそう踏んでいた。となれば、マタイとハルルクの目指す場所――――あの氷山の中にエレナが眠っているはずだ。
レジは沈んでいた気持ちを振るい立たせ、両頬を叩いて気合いを入れ直した。
結局、ロディとはエレナの話を最後まで出来なかった。今、彼女が置かれている状況がどんなものなのか。それにより、今世界で何が起ころうとしているのか。そして、レジがどれだけロディの力を必要としているのか。もう一度会って、ちゃんと話がしたかった。
「直接会いに行っても、またあの村長の孫娘に邪魔されそうだけどな」
アリシアの気丈な眼差しを思いだし、レジは苦笑した。ロディの力が必要だなんて言ったら、『力だけが目的なら他を当たって』と一蹴されてしまうかも知れない。
「だけど、オレだってここで引く訳にいかないんだ」
ロディが変わってしまったのはエレナが原因だ。それは間違いないだろう。エレナを殺してしまったという罪の意識がロディを別人のように変えてしまった。なら、どんな形であれエレナを再びロディの前に連れて行ったなら、彼も少しは元の自分を取り戻してくれるかも知れない。今はそう期待するしかなかった。
例え幻滅しても、腹立たしくても、それでもやはりロディはレジにとって仲間であり、友逹だから。
「とにかく今はエレナちゃんだな」
レジはマタイとハルルクを尾行すべく、氷の影に身を隠した。
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「ああ、ちくしょー。むしゃくしゃする!!」
一人で村を出たレジは氷塊の上に『あぐら』をかいて叫んだ。刺すように冷たい風が吹き付けて来て身震いする。
ロディの昔の知り合いだからか、新たな敵襲に気を取られているからなのか、村を出るのは存外容易だった。遥か下方には、村を襲いに来た筋肉質な大男マタイと猫背で細身の眼鏡男ハルルクが見える。エルドをはじめとした村の男たちが数十人がかりで応戦しているものの、レジの見立てでは、残念ながら本気になったマタイとハルルクに勝てそうな村の男はいなかった。
「ま、腐っても本物のゴッドチャイルドだって事だわな」
ゴッドチャイルドは生まれつき特殊な能力を持った能力者の総称である。不死身でも無敵でもないが、常人を逸する力は持ち合わせている。ゴッドチャイルド一人で兵隊100人分の力があるとも言われているのだ。いくら村人が束になっても30人そこらの人数では到底彼らを追い払う事は出来ないだろう。
「でも」
加勢するほどでもなかった。何故ならば、マタイとハルルクの目的が村を潰す事ではないからだ。彼らの目的は…………。
「エレナちゃん、か」
先刻、ミッテ広場にて、レジは毛皮売りの女性にこう尋ねた。「あのゴッドチャイルドはこの国で何をしているんだ? ただ威張り散らしているだけなのか? それとも、何か他に目的が……?」それに、女性は表情を曇らせてこう答えた。「それはね、誰にもわからないんだよ」と。
女性があまりにも深刻そうな顔をして言うので、レジは思わず拍子抜けしてしまったくらいだ。彼女からしてみたら『わからないから怖い』というのもあるかも知れない。だが、毛皮売りの女性はそれ以上に恐ろしい事があるのだと言った。
ミッテ広場周辺に居座っているゴッドチャイルド。彼らは定期的にこの村を訪れているらしい。そしてここから帰ると、いつも決まって力を見せびらかすように上機嫌で暴れまわる。そのせいで、ミッテ広場の人々はゴッドチャイルドが村に足を運ぶ度に普段より一層怯えて過ごさねばならないのだ。
村の男たちが全力で戦っている姿を見る限り、ゴッドチャイルドが村人たちにとって招かれざる客だという事はわかる。また、村自体に関心があると言うより、村の上に聳える氷山の方に彼らの意識は向いているようだった。
「エレナちゃんの能力は治癒および一時的な能力アップ」
毛皮売りの女性の言葉通り、マタイとハルルクがこの村へ足を運ぶ度に力を付けて帰ってくると言うのなら、それはエレナの能力によるものなのではないか。レジはそう踏んでいた。となれば、マタイとハルルクの目指す場所――――あの氷山の中にエレナが眠っているはずだ。
レジは沈んでいた気持ちを振るい立たせ、両頬を叩いて気合いを入れ直した。
結局、ロディとはエレナの話を最後まで出来なかった。今、彼女が置かれている状況がどんなものなのか。それにより、今世界で何が起ころうとしているのか。そして、レジがどれだけロディの力を必要としているのか。もう一度会って、ちゃんと話がしたかった。
「直接会いに行っても、またあの村長の孫娘に邪魔されそうだけどな」
アリシアの気丈な眼差しを思いだし、レジは苦笑した。ロディの力が必要だなんて言ったら、『力だけが目的なら他を当たって』と一蹴されてしまうかも知れない。
「だけど、オレだってここで引く訳にいかないんだ」
ロディが変わってしまったのはエレナが原因だ。それは間違いないだろう。エレナを殺してしまったという罪の意識がロディを別人のように変えてしまった。なら、どんな形であれエレナを再びロディの前に連れて行ったなら、彼も少しは元の自分を取り戻してくれるかも知れない。今はそう期待するしかなかった。
例え幻滅しても、腹立たしくても、それでもやはりロディはレジにとって仲間であり、友逹だから。
「とにかく今はエレナちゃんだな」
レジはマタイとハルルクを尾行すべく、氷の影に身を隠した。
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