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第2章 違えられた未来(前編)
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「アキ、ミドりんが生徒指導室に来いって言ってたよ。」
ガラリと教室のドアを開け、恵夢が彬従を呼んだ。練習着を着終えたばかりの彬従は口をへの字に曲げた。
「あの人バスケ部顧問のくせに、これから部活だって知らないのかよ。」
「何やらかしたの?」
「別に何もしてないぞ。」
「だったらなんで呼び出されるの。」
両手を腰に当て、恵夢は彬従をにらんだ。
「とにかく行ってくる。ヒロトに練習任せたって言っといて。」
「もうすぐ大会なんだから早く戻って来てね!」
「了解!」
上着を羽織ると恵夢に手を振り、彬従は生徒指導室に向かった。
ドアを開けると、タバコの煙がもうもうと立ちこめていた。
「教室でタバコ吸うなよ、先生のくせに。また榎倉に怒られるよ。」
彬従は窓を次々開けていった。
「アキがなかなか来ないからだろ。」
クラス担任の緑川は灰皿にタバコを押し付けた。
「進路調査票に『就職希望』なんて嫌がらせ書いて、余計な仕事増やさないでくれない?」
「本気なんだけど。」
「アホか。県内一優秀な高校にトップで合格出来るアキが何言ってんだ。」
「独立したい。これ以上、親父の世話になりたくない。」
不貞腐れたように頬を膨らませ、彬従は椅子にどさりと座った。
「ケンカでもしたのか?」
「仲が悪いのは昔からだよ。」
「あの調査票、マズいことに榎倉先生に見つかっちまってさ。それでお前の親父さんに連絡が行って、これから面談することになったんだ。」
「嘘だろ?親父が来る訳ない!」
「ああ、親父さんは都合が悪いって言うんで、代わりに高塔のかーちゃんが来てるんだ。今校長室に挨拶に行ってるぜ。」
彬従は青ざめ、頭を抱えた。
「ちょっと待って、茉莉花さまが来てるの?」
「お説教してもらえ。自業自得だろ。」
無意識に緑川は次のタバコを取りだそうとし、彬従に手を叩かれ止められた。
トントンとドアが叩かれた。校長、学年主任の榎倉、そしてスーツ姿の茉莉花が入ってきた。
「なんだ吉良!ちゃんと制服を着て来い!」
開口一番榎倉が怒鳴りつけた。
「すいません。急だったんで吉良にはさっき面談があることを伝えました。この後バスケ部の練習があります。もうすぐ県大会がありますから。」
緑川が彬従を庇った。
「まあまあお座り下さい。高塔さん、お忙しいなかお越しくださってありがとうございます。」
校長に椅子を勧められ、茉莉花は礼を述べ腰を下ろした。
「彬従君は大変優秀なお子さんです。勉強もスポーツも抜きん出ていますから将来楽しみでしょう。」
「ええ、昔から悪ふざけが過ぎることもありましたけど。」
茉莉花がふっと口の端を上げて笑った。寒気を感じ、彬従はブルッと身を縮めた。
「わざわざこちらに伺ったのは、今回のことだけでは無いんですよ。」
目を伏せ穏やかに茉莉花は続けた。
「彬従の進路について、良い機会ですから先生方にもご相談に乗っていただきたいと思いまして。」
「と言いますと?」
「仰るとおり、彬従は素晴らしい才能を持っています。将来は私達一族のために大いに役立ってもらいたい。そのためにこの子の父親とも相談して、県外の優秀な進学校に進ませたいと考えていた所なんです。」
茉莉花の言葉に、彬従は耳を疑った。
「俺は華音と同じ地元の高校に行きます。」
「あなたには明るい未来がある。多くの経験を得て、大きく成長すべきです。」
笑わない目で茉莉花は彬従を見据えた。
「我々の出来うる限りを尽くして、彬従君を優秀な高校に進学させますよ。」
校長と茉莉花の世間話が続いたが、彬従の頭には何も入ってこなかった。
茉莉花たちが部屋を出て行ったあとも、彬従はすぐに椅子から立ち上がれずにいた。
「元気だせよ。」
緑川が慰めた。
「俺、あの家から追い出されるのかな。」
「まだ決まった訳じゃないだろ?進学するのはアキなんだから。」
「俺達にとって、茉莉花さまの意見は絶対なんだ。」
彬従はうなだれた。緑川はタバコに火をつけ、煙をふうっと吐き出した。
「俺は教職に就いて初めてこっちに来たから全然知らないけど、高塔んちっていわゆる地元の名家なの?校長や榎倉先生までペコペコしてただろ。」
「この地方の企業はほぼ高塔財閥の傘下にあって、茉莉花さまがその総裁をしているんだ。」
「ふぇぇまるでドラマみたいだねぇ。確かに高塔のかーちゃん、切れ者って感じだな。」
うつむいたまま彬従はうなずいた。
「俺もヒロトも高塔家ゆかりの人間だ。将来は高塔家と華音を守っていくんだ。」
「アキって見た目爽やかで何の苦労も無さそうなのに、家庭環境はかなり複雑だよねぇ。」
緑川はポンと肩を叩いた。
「もし本当に県外に進学することになったら、学校選びは俺も手伝ってやるよ。」
「サンキューミドりん!」
「お前らそのミドりん言うの止めろぉ。俺は担任だぞ!」
「そういやミドりんって先生だったな!」
彬従はわざと明るく笑った。
体育館に戻るとすでに練習は始まっていた。テキパキと部員に指示を出す祐都を彬従はぼんやりと眺めた。
「戻ってきたなら練習しなよ!」
背中を思い切り恵夢に叩かれた。
「ミドりんの話、何だった?」
「進路調査票にデタラメ書いたら、華音のお母さんを呼び出されて怒られた。」
「なんで華音のママが来るの?」
「俺んち母親がいないから、茉莉花さまが母親代わりなんだ。親父は絶対来ないから……」
「そうなんだ……」
恵夢は普段とは別人ほど暗い顔の彬従に困惑した。
「何かあった?茉莉花さまが来てたらしいな。」
祐都も心配そうにやってきた。
「俺、県外の高校に行かされるかもしれない。」
彬従はうなだれ、茉莉花の話をした。
「やっぱりこの前のアレがバレたんじゃない?」
「何よその話?」
「こいつ、華音に誘われて一晩一緒に寝たんだよ。」
「華音って意外と大胆ね!」
「母親なら可愛い娘のそばにケダモノを置いておきたくないだろ。」
「ケダモノじゃねーよ!第一何もしてないんだぜ。」
「お前が手を出さないなんてあり得ないだろ?」
「……華音が目を覚ます前に、ちょっと胸を触っただけ……柔らかくて気持ち良くて、ホント、生殺しだったんだ。」
真っ赤になる彬従を見て、祐都はゲラゲラ笑った。
「華音、危機一髪じゃない。そんなことしてるから追い出されるのよ!」
「茉莉花さまに釘を刺されただけだよ。俺たちみんな同じ高校に行けるさ!」
のん気な祐都や恵夢と話し、彬従はホッとした。
部活が終わり自転車置き場に行くと、華音が待っていた。
「今日、お母さんがアキと面談しに来たってホント?」
心配そうに華音が尋ねた。
「進路のことでね。榎倉が呼び出したんだ。」
「何か言われた?」
「バカなことして怒られただけだよ。心配すんな。」
グリグリと華音の頭を撫でた。
後ろの荷台に華音を乗せ、彬従は家に向かった。背中に触れる柔らかな感触が、彬従の胸を熱っぽく震わせた。
「ねぇアキ、私とずっと一緒にいてね。」
「当たり前だよ。高校も大学もその先も、俺は華音とずっと一緒だよ。」
広い背中に頬を押し付け、腰に回した腕で華音はぎゅっと彬従に抱きついた。
家に着いても、二人は離れ難く佇んだ。
「キスしていい?」
彬従は華音の長い髪に指を通した。
「アキって最近そればっかり。」
「華音を見てるとキスしたくなる。」
「いいよ。」
彬従を見上げて、華音は目を閉じた。柔らかな唇に触れると彬従は夢中になって何度も愛撫した。細い腕を絡め、華音も彬従を抱き寄せた。
「華音、俺のこと彼氏にして。」
「ダメ。」
「俺は他の女なんか興味無いよ。」
「アキはダメ。みんなのものだから。」
そう言いながら、華音は彬従の口に舌を差し入れ自ら絡めた。身体中を熱い鼓動が駆け巡る。
「アキ……アキ……どこにも行かないで。」
「お前こそ茉莉花さまに何か言われてるんじゃないのか?」
彬従はグイと華音を引き離した。
「何のこと?」
キョトンとして華音は彬従を見上げた。
「……遅くなるから帰ろう。」
「着替えたら夕ご飯食べに来てね。練習が大変だから、いっぱいご飯食べてね。」
「分かった。すぐに行く。」
ニコリと笑って背を向けると、彬従は自分の家に入っていった。
「アキ……ごめんねアキ……」
華音はぎゅっと胸元を掴んだ。
華音は教室の窓からぼんやりと外を眺めた。数日前から下腹部の鈍い痛みが続いている。月経の時の痛みに似ているが、それよりもじんわり身体の奥を締め付ける。
「華音どうしたの?顔色が悪いよ。」
クラスメイトの理沙と満里奈が声を掛けてきた。
「アレのせいかな?お腹痛くって。」
「鎮痛剤持ってるよ。飲む?」
「大丈夫、だと思う。」
「あたしは中間テストの結果を親に見せるかと思うと頭が痛いよ!」
「おんなじだぁ。」
華音達はケラケラと笑った。
「中間テストの順位、アキがまた1番だって!」
「バスケ部は県大会に行くんでしょ?凄いよね!いつ勉強してるんだろう?」
「アキなら夜中遅くまで起きて勉強しているよ。部屋の明かりがずっとついてるから。」
「アキと幼なじみなんていいな!」
「あんな軽薄男になるとは思わなかったけどね!」
華音は立ち上がったが、痛みを感じてうずくまった。
「部活休んで帰った方がいいんじゃない!?」
「そうする……」
「家まで送ろうか?」
「大丈夫。」
華音は理沙達に別れを告げ、のろのろと歩いた。
「華音、帰るの?部活は?」
昇降口で声を掛けられ、振り向くと練習着を着た彬従が立っていた。
「お腹が痛いの……」
「大丈夫かよ、顔が真っ青だぞ!俺、一緒に帰ってやるよ。」
「アキこそ部活でしょ?」
「いいよ、今日バレー部の練習試合で体育館が使えないから外でロードワークなんだ。ヒロトに頼んでくる。」
「でも、もうすぐ県大会じゃない。」
「いいって、ちょっと待ってて。」
背を向け歩き出した途端、ガタンと大きな音がした。
ぐしゃりと華音が倒れていた。
「華音っ!華音っ!」
呼びかけても身動きすらしなかった。
「どうしたの!?」
後から来た恵夢が悲鳴を上げた。
「保健室に連れて行くから、メグは華音の鞄持ってきて!」
彬従は華音を抱え上げた。
「アキ……血が!」
華音の太ももを伝って、血が次々流れた。
持っていたタオルを華音の腰に巻き、彬従は保健室に急いだ。
ガラリと教室のドアを開け、恵夢が彬従を呼んだ。練習着を着終えたばかりの彬従は口をへの字に曲げた。
「あの人バスケ部顧問のくせに、これから部活だって知らないのかよ。」
「何やらかしたの?」
「別に何もしてないぞ。」
「だったらなんで呼び出されるの。」
両手を腰に当て、恵夢は彬従をにらんだ。
「とにかく行ってくる。ヒロトに練習任せたって言っといて。」
「もうすぐ大会なんだから早く戻って来てね!」
「了解!」
上着を羽織ると恵夢に手を振り、彬従は生徒指導室に向かった。
ドアを開けると、タバコの煙がもうもうと立ちこめていた。
「教室でタバコ吸うなよ、先生のくせに。また榎倉に怒られるよ。」
彬従は窓を次々開けていった。
「アキがなかなか来ないからだろ。」
クラス担任の緑川は灰皿にタバコを押し付けた。
「進路調査票に『就職希望』なんて嫌がらせ書いて、余計な仕事増やさないでくれない?」
「本気なんだけど。」
「アホか。県内一優秀な高校にトップで合格出来るアキが何言ってんだ。」
「独立したい。これ以上、親父の世話になりたくない。」
不貞腐れたように頬を膨らませ、彬従は椅子にどさりと座った。
「ケンカでもしたのか?」
「仲が悪いのは昔からだよ。」
「あの調査票、マズいことに榎倉先生に見つかっちまってさ。それでお前の親父さんに連絡が行って、これから面談することになったんだ。」
「嘘だろ?親父が来る訳ない!」
「ああ、親父さんは都合が悪いって言うんで、代わりに高塔のかーちゃんが来てるんだ。今校長室に挨拶に行ってるぜ。」
彬従は青ざめ、頭を抱えた。
「ちょっと待って、茉莉花さまが来てるの?」
「お説教してもらえ。自業自得だろ。」
無意識に緑川は次のタバコを取りだそうとし、彬従に手を叩かれ止められた。
トントンとドアが叩かれた。校長、学年主任の榎倉、そしてスーツ姿の茉莉花が入ってきた。
「なんだ吉良!ちゃんと制服を着て来い!」
開口一番榎倉が怒鳴りつけた。
「すいません。急だったんで吉良にはさっき面談があることを伝えました。この後バスケ部の練習があります。もうすぐ県大会がありますから。」
緑川が彬従を庇った。
「まあまあお座り下さい。高塔さん、お忙しいなかお越しくださってありがとうございます。」
校長に椅子を勧められ、茉莉花は礼を述べ腰を下ろした。
「彬従君は大変優秀なお子さんです。勉強もスポーツも抜きん出ていますから将来楽しみでしょう。」
「ええ、昔から悪ふざけが過ぎることもありましたけど。」
茉莉花がふっと口の端を上げて笑った。寒気を感じ、彬従はブルッと身を縮めた。
「わざわざこちらに伺ったのは、今回のことだけでは無いんですよ。」
目を伏せ穏やかに茉莉花は続けた。
「彬従の進路について、良い機会ですから先生方にもご相談に乗っていただきたいと思いまして。」
「と言いますと?」
「仰るとおり、彬従は素晴らしい才能を持っています。将来は私達一族のために大いに役立ってもらいたい。そのためにこの子の父親とも相談して、県外の優秀な進学校に進ませたいと考えていた所なんです。」
茉莉花の言葉に、彬従は耳を疑った。
「俺は華音と同じ地元の高校に行きます。」
「あなたには明るい未来がある。多くの経験を得て、大きく成長すべきです。」
笑わない目で茉莉花は彬従を見据えた。
「我々の出来うる限りを尽くして、彬従君を優秀な高校に進学させますよ。」
校長と茉莉花の世間話が続いたが、彬従の頭には何も入ってこなかった。
茉莉花たちが部屋を出て行ったあとも、彬従はすぐに椅子から立ち上がれずにいた。
「元気だせよ。」
緑川が慰めた。
「俺、あの家から追い出されるのかな。」
「まだ決まった訳じゃないだろ?進学するのはアキなんだから。」
「俺達にとって、茉莉花さまの意見は絶対なんだ。」
彬従はうなだれた。緑川はタバコに火をつけ、煙をふうっと吐き出した。
「俺は教職に就いて初めてこっちに来たから全然知らないけど、高塔んちっていわゆる地元の名家なの?校長や榎倉先生までペコペコしてただろ。」
「この地方の企業はほぼ高塔財閥の傘下にあって、茉莉花さまがその総裁をしているんだ。」
「ふぇぇまるでドラマみたいだねぇ。確かに高塔のかーちゃん、切れ者って感じだな。」
うつむいたまま彬従はうなずいた。
「俺もヒロトも高塔家ゆかりの人間だ。将来は高塔家と華音を守っていくんだ。」
「アキって見た目爽やかで何の苦労も無さそうなのに、家庭環境はかなり複雑だよねぇ。」
緑川はポンと肩を叩いた。
「もし本当に県外に進学することになったら、学校選びは俺も手伝ってやるよ。」
「サンキューミドりん!」
「お前らそのミドりん言うの止めろぉ。俺は担任だぞ!」
「そういやミドりんって先生だったな!」
彬従はわざと明るく笑った。
体育館に戻るとすでに練習は始まっていた。テキパキと部員に指示を出す祐都を彬従はぼんやりと眺めた。
「戻ってきたなら練習しなよ!」
背中を思い切り恵夢に叩かれた。
「ミドりんの話、何だった?」
「進路調査票にデタラメ書いたら、華音のお母さんを呼び出されて怒られた。」
「なんで華音のママが来るの?」
「俺んち母親がいないから、茉莉花さまが母親代わりなんだ。親父は絶対来ないから……」
「そうなんだ……」
恵夢は普段とは別人ほど暗い顔の彬従に困惑した。
「何かあった?茉莉花さまが来てたらしいな。」
祐都も心配そうにやってきた。
「俺、県外の高校に行かされるかもしれない。」
彬従はうなだれ、茉莉花の話をした。
「やっぱりこの前のアレがバレたんじゃない?」
「何よその話?」
「こいつ、華音に誘われて一晩一緒に寝たんだよ。」
「華音って意外と大胆ね!」
「母親なら可愛い娘のそばにケダモノを置いておきたくないだろ。」
「ケダモノじゃねーよ!第一何もしてないんだぜ。」
「お前が手を出さないなんてあり得ないだろ?」
「……華音が目を覚ます前に、ちょっと胸を触っただけ……柔らかくて気持ち良くて、ホント、生殺しだったんだ。」
真っ赤になる彬従を見て、祐都はゲラゲラ笑った。
「華音、危機一髪じゃない。そんなことしてるから追い出されるのよ!」
「茉莉花さまに釘を刺されただけだよ。俺たちみんな同じ高校に行けるさ!」
のん気な祐都や恵夢と話し、彬従はホッとした。
部活が終わり自転車置き場に行くと、華音が待っていた。
「今日、お母さんがアキと面談しに来たってホント?」
心配そうに華音が尋ねた。
「進路のことでね。榎倉が呼び出したんだ。」
「何か言われた?」
「バカなことして怒られただけだよ。心配すんな。」
グリグリと華音の頭を撫でた。
後ろの荷台に華音を乗せ、彬従は家に向かった。背中に触れる柔らかな感触が、彬従の胸を熱っぽく震わせた。
「ねぇアキ、私とずっと一緒にいてね。」
「当たり前だよ。高校も大学もその先も、俺は華音とずっと一緒だよ。」
広い背中に頬を押し付け、腰に回した腕で華音はぎゅっと彬従に抱きついた。
家に着いても、二人は離れ難く佇んだ。
「キスしていい?」
彬従は華音の長い髪に指を通した。
「アキって最近そればっかり。」
「華音を見てるとキスしたくなる。」
「いいよ。」
彬従を見上げて、華音は目を閉じた。柔らかな唇に触れると彬従は夢中になって何度も愛撫した。細い腕を絡め、華音も彬従を抱き寄せた。
「華音、俺のこと彼氏にして。」
「ダメ。」
「俺は他の女なんか興味無いよ。」
「アキはダメ。みんなのものだから。」
そう言いながら、華音は彬従の口に舌を差し入れ自ら絡めた。身体中を熱い鼓動が駆け巡る。
「アキ……アキ……どこにも行かないで。」
「お前こそ茉莉花さまに何か言われてるんじゃないのか?」
彬従はグイと華音を引き離した。
「何のこと?」
キョトンとして華音は彬従を見上げた。
「……遅くなるから帰ろう。」
「着替えたら夕ご飯食べに来てね。練習が大変だから、いっぱいご飯食べてね。」
「分かった。すぐに行く。」
ニコリと笑って背を向けると、彬従は自分の家に入っていった。
「アキ……ごめんねアキ……」
華音はぎゅっと胸元を掴んだ。
華音は教室の窓からぼんやりと外を眺めた。数日前から下腹部の鈍い痛みが続いている。月経の時の痛みに似ているが、それよりもじんわり身体の奥を締め付ける。
「華音どうしたの?顔色が悪いよ。」
クラスメイトの理沙と満里奈が声を掛けてきた。
「アレのせいかな?お腹痛くって。」
「鎮痛剤持ってるよ。飲む?」
「大丈夫、だと思う。」
「あたしは中間テストの結果を親に見せるかと思うと頭が痛いよ!」
「おんなじだぁ。」
華音達はケラケラと笑った。
「中間テストの順位、アキがまた1番だって!」
「バスケ部は県大会に行くんでしょ?凄いよね!いつ勉強してるんだろう?」
「アキなら夜中遅くまで起きて勉強しているよ。部屋の明かりがずっとついてるから。」
「アキと幼なじみなんていいな!」
「あんな軽薄男になるとは思わなかったけどね!」
華音は立ち上がったが、痛みを感じてうずくまった。
「部活休んで帰った方がいいんじゃない!?」
「そうする……」
「家まで送ろうか?」
「大丈夫。」
華音は理沙達に別れを告げ、のろのろと歩いた。
「華音、帰るの?部活は?」
昇降口で声を掛けられ、振り向くと練習着を着た彬従が立っていた。
「お腹が痛いの……」
「大丈夫かよ、顔が真っ青だぞ!俺、一緒に帰ってやるよ。」
「アキこそ部活でしょ?」
「いいよ、今日バレー部の練習試合で体育館が使えないから外でロードワークなんだ。ヒロトに頼んでくる。」
「でも、もうすぐ県大会じゃない。」
「いいって、ちょっと待ってて。」
背を向け歩き出した途端、ガタンと大きな音がした。
ぐしゃりと華音が倒れていた。
「華音っ!華音っ!」
呼びかけても身動きすらしなかった。
「どうしたの!?」
後から来た恵夢が悲鳴を上げた。
「保健室に連れて行くから、メグは華音の鞄持ってきて!」
彬従は華音を抱え上げた。
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