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第3章 暗闇の中の光(前編)
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彬従の態度は以前と変わらなかった。ふざけたりからかわれたり優しくされるたび、華音は辛くなった。
学期末が近づき雪が街を埋める頃、同じクラスの陽菜が友達に囲まれて泣いていた。
「どうしたの?」
華音が尋ねると、女子達は一斉に戸惑いを見せた。
「知ってる?アキが女バスの菜月先輩にコクられて、付き合い始めたって!」
「聞いてないよ!」
一瞬、目の前が真っ暗になった。だが華音はわざとおどけてみせた。
「女バスの後輩が盛り上がって、先輩を猛プッシュしたみたい。それで思い切ってアキに付き合ってくれってコクったら、いいよってあっさり言われたって……」
「私だって何回もコクってるよ!」
陽菜は再び泣き出した。
「アキはみんなのものだったのに!」
「なんで特定の彼女作るのよ!」
級友達の嘆きを耳にし、華音も信じ難い思いに沈んでいった。
吹奏楽部の練習が長引き、いつもより遅くに華音は帰り道についた。川沿いの道を歩いていると、チリリンとベルが鳴った。振り向くと彬従が自転車に跨がっていた。
「久しぶりだな。」
「隣り同士なのにね。」
それは、彬従となるべく顔を合わせないように時間をずらして登下校しているからだった。
「アキ、彼女が出来たってホント?」
「ナツキのこと?」
彬従が呼び捨てにしたことに、華音は不意に苛立った。
「女バスの奴らに取り囲まれて、うんって言うまで帰してもらえなくて、仕方無くね。」
「仕方無くなの!?」
「でもないけど。美人だし、バスケの話も通じるし、ヤラせてくれるから。」
「最低!本気で付き合ってるんじゃないの?」
「俺は誰とも本気にはならない。」
彬従は嘲るように笑った。
「付き合ってって言われたら誰とでも付き合うよ、ただし遊びでね。その代わり、然るべき年齢になったら結婚する。茉莉花さまの言う通り、高塔家に相応しい相手とね。」
華音は唖然とした。
「その時華音が当主だったら、俺の結婚相手はお前が決めるのかもね。出来たら華音に似てる巨乳の美人にしてよ。」
「アキなんか大嫌いっ!」
華音は彬従の頬を平手で思い切り殴った。
「お前も早く彼氏作りなよ。」
彬従はぷいと横を向き、自転車で走り去った。
数日後、彬従は一人黙々とシュート練習をしていた。
「なんか悩み事でもあるのかよ。」
振り返ると、祐都がヤンキー座りでこちらをみていた。
「なんでもねぇよ。」
「嘘つけ!アキが真面目に練習するなんて、大抵ヘコんでる時だろ?」
「……華音に大嫌いって言われた。」
「お前が彼氏作れとか言うからだろ。」
「なんで知ってるの?」
「華音が彼氏作ってやるって怒りまくってたって、理沙が言いふらしていたんだよ。んで、勘違いしたヤロウどもがコクりに行って、次々撃沈してるらしい。」
「バカだなぁ。」
彬従はうれしそうに笑った。
「でもないぜ。鳴瀬がしつこく迫ってて、華音が今日あいつに決着付けに行くらしい。」
「はぁ!?ヤラれにいくようなもんじゃないか!」
彬従は顔色を変えた。
「鳴瀬はどこだよ!」
「さあ?」
「確かサッカー部だよな?」
彬従は走り出した。
「そうだけど、どこに行くんだよ!」
祐都は慌てて彬従のあとを追った。
校舎のはずれにあるサッカー部の部室に着き、ドアを開けようとしたが鍵が掛かっていた。
「華音!いるのか!?」
彬従はドンドンと叩いた。
「ここじゃないのかな?」
祐都が辺りを見回した。
「……アキっ!」
部屋の中から華音の叫び声がした。彬従はドアに体当たりしてこじ開け、部室に飛び込んだ。
華音が鳴瀬に口を押さえられていた。
「華音を離せ!」
鳴瀬の胸倉をつかんで引き離し、顔面を殴りつけた。
「何すんだよ!」
「華音に触るな!」
「うるせぇ!アキこそ邪魔すんなっ!」
鳴瀬も負けずに殴り返し、取っ組み合いのケンカになった。
「やめて!やめて!」
華音は叫んだ。
「いいよ、好きにさせておきな。」
祐都が華音を押さえた。
彬従と鳴瀬はしばらく殴り合い、力尽きて床に倒れ込んだ。
「ふざけんな!なんでアキに追い討ち掛けられなきゃなんねぇんだよっ!」
「華音はお前なんかが手を出していい女じゃ無い!」
「アキの女じゃねえだろ!」
カッとなり、彬従は拳を振り上げた。
「お前もいい加減にしろ。」
祐都は彬従の腕をつかんだ。
「アキ!もうやめて!」
華音が彬従の背中にしがみついた。
「バカヤロウ!俺はバッサリ振られただけだ!そんなに華音が大事なら、アキが華音と付き合えよっ!」
鳴瀬は近くにあった椅子を蹴り飛ばした。
華音と彬従はお互いに凍りついたように動かなかった。
「鳴瀬、悪いな、アキと華音は連れて行くから。」
祐都がポンポンと彬従を叩いた。
「いいけど、ドアはお前らが直せよなぁ。榎倉にバレたら部活停止にさせられるぞ!」
「ええっ!あとで直しに来る!」
祐都と彬従は慌てて顔を見合わせた。
彬従達はサッカー部の部室を後にした。華音は彬従にしがみついたままだった。
「一人で鳴瀬に会いに行くなんて、バカなことすんな!アイツはヤリ捨てヤロウなんだぞ!」
「ごめんね……」
華音はウルウルと泣き出した。
「アイツに何かされた!?」
「キスされたっ!」
泣きながらセーターの袖で必死に唇をこする華音の仕草が可愛くて、彬従は笑った。
「キスだけで良かったよ。」
「良くないよ!好きじゃないのにキスするなんて!」
「鳴瀬のキスなんか、俺が忘れさせてやる。」
彬従は両手で華音の頬を包み込み唇を重ね、華音も腕を回して彬従の唇に応えた。
「お邪魔そうだから俺は先に帰るぞー。」
「悪いっ!」
彬従は顔を上げ、ウィンクして見送った。久しぶりに見る彬従の笑顔を、祐都は不安げに見守った。
雪の残る川沿いの道を、華音は彬従に手を引かれて歩いた。大きくて力強い手に、華音は動揺した。
「ごめんねアキ。」
「もう忘れなよ。俺が守ってやるから。」
「……私はアキとは付き合えない。」
「分かってる。」
華音はふらふらと先を歩いた。
「私は高塔家の跡継ぎなの。高塔の家を守るために私は生きていく。だからアキは私と関わらない方がいい。」
「何言ってるんだよ!何があっても俺はお前を守るよ!」
彬従はダッと駆け寄り、震える華音の全てを包み込むように抱き締めた。
「ダメ。」
ドンと彬従は突き放された。
「私のことなんて守らなくていい!」
涙が足元を濡らした。
「華音のバカヤロウ!」
彬従は吐き捨てるように怒鳴ると、華音を残し走り出した。
二月。あふれかえるチョコレートの山を見て、彬従はため息を吐いた。その日はバレンタインデーだった。
「すげーな!デカい紙袋3つ分か。俺なんか義理チョコ5つだけなのに。」
啓太が愚痴った。
「俺はメグにもらった本命チョコ1個で幸せ。」
「お前だってチョコもらいまくりのくせに!メグにバラすぞ!」
啓太はボコボコと祐都を殴った。
「アキ、菜月先輩に逢ってないの?」
祐都はジロリと彬従をにらんだ。
「高校受験が終わるまで逢わない約束してるんだよ。」
「先輩のこと弄んでるんじゃねーぞ。」
「そんなこと、しないから……」
彬従は口ごもった。
高塔の屋敷にチョコレートの山を持って行くと、詩音と季従は中身を広げて大騒ぎした。
「手作りでしかも凝った物ばっかりね!全部本命なんだ。」
手に取ったライバル達のチョコをにらんで美桜はバリバリと対抗心を燃やした。
「これは私から!他のと混ぜないでね!」
同じように凝った手作りチョコを彬従の手に押し付けた。
「しおんもアキにあげる!」
「ありがとう!嬉しいよ!」
二人にもらったチョコを見て、彬従は眉を寄せた。
「華音はチョコ作ってた?」
「昨日みんなで一緒に作ったよ。でも友チョコだけだって。」
「友チョコでもいいから俺にもくれよ。」
台所に行くと、華音がいた。
「どうしたの?何怒ってるの。」
「お前からチョコもらったってヤスに見せびらかされたんだけど。」
「吹奏楽部の女子全員から男子に配ったのよ。ヤスに渡したのは私だけど。」
「なんだそうなのか!じゃあ俺のは?」
「彼女のいる人にはあげない。」
彬従はしゅんとした。
「嘘よ!アキはケーキの方が好きでしょ?今から食べようね。」
冷蔵庫からチョコレートケーキを取り出しニコリと微笑んだ。
「すげーうれしい!」
「アキって変なの!」
華音はケラケラと笑った。
「先週、具合悪かったんだって?」
「大丈夫。ちょっとお腹が痛かったの。心配しなくていいからね。」
彬従はまっすぐ華音を見つめた。手を伸ばし頬を挟むと、唇を求めて背を丸めた。
「彼女のいる人とはキスしない。」
華音は人差し指で彬従の唇を押さえた。
「片付け任せちゃってごめんね!今日はこれで帰るわ。」
家政婦の涼花がドアを開けてニコリとした。
「お疲れ様!洗い物はやっておきます。」
「……茉莉花さまが帰って来たわよ。」
チラリと二人に目配せした。
「かおんちゃん、ケーキまだ~?」
季従と詩音が駆け込んできた。
「今持って行くね!」
「それ、俺のじゃないの?」
彬従は愕然とした。
茉莉花はリビングにいた。チョコの山を見て呆れ、じろりと彬従を睨んだ。
「今年も物凄い数ねぇ。ところで高校のパンフレットには目を通したのかしら?」
「いただいた分は見ました。」
素っ気なく彬従は答えた。
「あなたのためなんだから、良く考えて決めるのよ。」
「分かりました。」
茉莉花が部屋を出て行くと、彬従は詩音や季従と競い合ってチョコレートケーキを食べた。
華音はそっと彬従の隣りに座った。
「お母さんの勧める高校ってどんな所?」
「名前なら聞いたことある名門校ばっかりだよ。しかも全部男子校なんだ。」
「男子校が気に入らないの?」
「違うよ!」
彬従はキュッと華音の頬をつねった。
「お母さんの言うことはちゃんと聞いてね。」
「そしたら、華音と同じ高校には行けないんだよ。俺が別の高校に行ってもいいの?」
華音は黙って寄りかかり、うつむいたまま小さく首を横に振った。彬従はぎゅっと華音の肩を抱き寄せた。
学期末が近づき雪が街を埋める頃、同じクラスの陽菜が友達に囲まれて泣いていた。
「どうしたの?」
華音が尋ねると、女子達は一斉に戸惑いを見せた。
「知ってる?アキが女バスの菜月先輩にコクられて、付き合い始めたって!」
「聞いてないよ!」
一瞬、目の前が真っ暗になった。だが華音はわざとおどけてみせた。
「女バスの後輩が盛り上がって、先輩を猛プッシュしたみたい。それで思い切ってアキに付き合ってくれってコクったら、いいよってあっさり言われたって……」
「私だって何回もコクってるよ!」
陽菜は再び泣き出した。
「アキはみんなのものだったのに!」
「なんで特定の彼女作るのよ!」
級友達の嘆きを耳にし、華音も信じ難い思いに沈んでいった。
吹奏楽部の練習が長引き、いつもより遅くに華音は帰り道についた。川沿いの道を歩いていると、チリリンとベルが鳴った。振り向くと彬従が自転車に跨がっていた。
「久しぶりだな。」
「隣り同士なのにね。」
それは、彬従となるべく顔を合わせないように時間をずらして登下校しているからだった。
「アキ、彼女が出来たってホント?」
「ナツキのこと?」
彬従が呼び捨てにしたことに、華音は不意に苛立った。
「女バスの奴らに取り囲まれて、うんって言うまで帰してもらえなくて、仕方無くね。」
「仕方無くなの!?」
「でもないけど。美人だし、バスケの話も通じるし、ヤラせてくれるから。」
「最低!本気で付き合ってるんじゃないの?」
「俺は誰とも本気にはならない。」
彬従は嘲るように笑った。
「付き合ってって言われたら誰とでも付き合うよ、ただし遊びでね。その代わり、然るべき年齢になったら結婚する。茉莉花さまの言う通り、高塔家に相応しい相手とね。」
華音は唖然とした。
「その時華音が当主だったら、俺の結婚相手はお前が決めるのかもね。出来たら華音に似てる巨乳の美人にしてよ。」
「アキなんか大嫌いっ!」
華音は彬従の頬を平手で思い切り殴った。
「お前も早く彼氏作りなよ。」
彬従はぷいと横を向き、自転車で走り去った。
数日後、彬従は一人黙々とシュート練習をしていた。
「なんか悩み事でもあるのかよ。」
振り返ると、祐都がヤンキー座りでこちらをみていた。
「なんでもねぇよ。」
「嘘つけ!アキが真面目に練習するなんて、大抵ヘコんでる時だろ?」
「……華音に大嫌いって言われた。」
「お前が彼氏作れとか言うからだろ。」
「なんで知ってるの?」
「華音が彼氏作ってやるって怒りまくってたって、理沙が言いふらしていたんだよ。んで、勘違いしたヤロウどもがコクりに行って、次々撃沈してるらしい。」
「バカだなぁ。」
彬従はうれしそうに笑った。
「でもないぜ。鳴瀬がしつこく迫ってて、華音が今日あいつに決着付けに行くらしい。」
「はぁ!?ヤラれにいくようなもんじゃないか!」
彬従は顔色を変えた。
「鳴瀬はどこだよ!」
「さあ?」
「確かサッカー部だよな?」
彬従は走り出した。
「そうだけど、どこに行くんだよ!」
祐都は慌てて彬従のあとを追った。
校舎のはずれにあるサッカー部の部室に着き、ドアを開けようとしたが鍵が掛かっていた。
「華音!いるのか!?」
彬従はドンドンと叩いた。
「ここじゃないのかな?」
祐都が辺りを見回した。
「……アキっ!」
部屋の中から華音の叫び声がした。彬従はドアに体当たりしてこじ開け、部室に飛び込んだ。
華音が鳴瀬に口を押さえられていた。
「華音を離せ!」
鳴瀬の胸倉をつかんで引き離し、顔面を殴りつけた。
「何すんだよ!」
「華音に触るな!」
「うるせぇ!アキこそ邪魔すんなっ!」
鳴瀬も負けずに殴り返し、取っ組み合いのケンカになった。
「やめて!やめて!」
華音は叫んだ。
「いいよ、好きにさせておきな。」
祐都が華音を押さえた。
彬従と鳴瀬はしばらく殴り合い、力尽きて床に倒れ込んだ。
「ふざけんな!なんでアキに追い討ち掛けられなきゃなんねぇんだよっ!」
「華音はお前なんかが手を出していい女じゃ無い!」
「アキの女じゃねえだろ!」
カッとなり、彬従は拳を振り上げた。
「お前もいい加減にしろ。」
祐都は彬従の腕をつかんだ。
「アキ!もうやめて!」
華音が彬従の背中にしがみついた。
「バカヤロウ!俺はバッサリ振られただけだ!そんなに華音が大事なら、アキが華音と付き合えよっ!」
鳴瀬は近くにあった椅子を蹴り飛ばした。
華音と彬従はお互いに凍りついたように動かなかった。
「鳴瀬、悪いな、アキと華音は連れて行くから。」
祐都がポンポンと彬従を叩いた。
「いいけど、ドアはお前らが直せよなぁ。榎倉にバレたら部活停止にさせられるぞ!」
「ええっ!あとで直しに来る!」
祐都と彬従は慌てて顔を見合わせた。
彬従達はサッカー部の部室を後にした。華音は彬従にしがみついたままだった。
「一人で鳴瀬に会いに行くなんて、バカなことすんな!アイツはヤリ捨てヤロウなんだぞ!」
「ごめんね……」
華音はウルウルと泣き出した。
「アイツに何かされた!?」
「キスされたっ!」
泣きながらセーターの袖で必死に唇をこする華音の仕草が可愛くて、彬従は笑った。
「キスだけで良かったよ。」
「良くないよ!好きじゃないのにキスするなんて!」
「鳴瀬のキスなんか、俺が忘れさせてやる。」
彬従は両手で華音の頬を包み込み唇を重ね、華音も腕を回して彬従の唇に応えた。
「お邪魔そうだから俺は先に帰るぞー。」
「悪いっ!」
彬従は顔を上げ、ウィンクして見送った。久しぶりに見る彬従の笑顔を、祐都は不安げに見守った。
雪の残る川沿いの道を、華音は彬従に手を引かれて歩いた。大きくて力強い手に、華音は動揺した。
「ごめんねアキ。」
「もう忘れなよ。俺が守ってやるから。」
「……私はアキとは付き合えない。」
「分かってる。」
華音はふらふらと先を歩いた。
「私は高塔家の跡継ぎなの。高塔の家を守るために私は生きていく。だからアキは私と関わらない方がいい。」
「何言ってるんだよ!何があっても俺はお前を守るよ!」
彬従はダッと駆け寄り、震える華音の全てを包み込むように抱き締めた。
「ダメ。」
ドンと彬従は突き放された。
「私のことなんて守らなくていい!」
涙が足元を濡らした。
「華音のバカヤロウ!」
彬従は吐き捨てるように怒鳴ると、華音を残し走り出した。
二月。あふれかえるチョコレートの山を見て、彬従はため息を吐いた。その日はバレンタインデーだった。
「すげーな!デカい紙袋3つ分か。俺なんか義理チョコ5つだけなのに。」
啓太が愚痴った。
「俺はメグにもらった本命チョコ1個で幸せ。」
「お前だってチョコもらいまくりのくせに!メグにバラすぞ!」
啓太はボコボコと祐都を殴った。
「アキ、菜月先輩に逢ってないの?」
祐都はジロリと彬従をにらんだ。
「高校受験が終わるまで逢わない約束してるんだよ。」
「先輩のこと弄んでるんじゃねーぞ。」
「そんなこと、しないから……」
彬従は口ごもった。
高塔の屋敷にチョコレートの山を持って行くと、詩音と季従は中身を広げて大騒ぎした。
「手作りでしかも凝った物ばっかりね!全部本命なんだ。」
手に取ったライバル達のチョコをにらんで美桜はバリバリと対抗心を燃やした。
「これは私から!他のと混ぜないでね!」
同じように凝った手作りチョコを彬従の手に押し付けた。
「しおんもアキにあげる!」
「ありがとう!嬉しいよ!」
二人にもらったチョコを見て、彬従は眉を寄せた。
「華音はチョコ作ってた?」
「昨日みんなで一緒に作ったよ。でも友チョコだけだって。」
「友チョコでもいいから俺にもくれよ。」
台所に行くと、華音がいた。
「どうしたの?何怒ってるの。」
「お前からチョコもらったってヤスに見せびらかされたんだけど。」
「吹奏楽部の女子全員から男子に配ったのよ。ヤスに渡したのは私だけど。」
「なんだそうなのか!じゃあ俺のは?」
「彼女のいる人にはあげない。」
彬従はしゅんとした。
「嘘よ!アキはケーキの方が好きでしょ?今から食べようね。」
冷蔵庫からチョコレートケーキを取り出しニコリと微笑んだ。
「すげーうれしい!」
「アキって変なの!」
華音はケラケラと笑った。
「先週、具合悪かったんだって?」
「大丈夫。ちょっとお腹が痛かったの。心配しなくていいからね。」
彬従はまっすぐ華音を見つめた。手を伸ばし頬を挟むと、唇を求めて背を丸めた。
「彼女のいる人とはキスしない。」
華音は人差し指で彬従の唇を押さえた。
「片付け任せちゃってごめんね!今日はこれで帰るわ。」
家政婦の涼花がドアを開けてニコリとした。
「お疲れ様!洗い物はやっておきます。」
「……茉莉花さまが帰って来たわよ。」
チラリと二人に目配せした。
「かおんちゃん、ケーキまだ~?」
季従と詩音が駆け込んできた。
「今持って行くね!」
「それ、俺のじゃないの?」
彬従は愕然とした。
茉莉花はリビングにいた。チョコの山を見て呆れ、じろりと彬従を睨んだ。
「今年も物凄い数ねぇ。ところで高校のパンフレットには目を通したのかしら?」
「いただいた分は見ました。」
素っ気なく彬従は答えた。
「あなたのためなんだから、良く考えて決めるのよ。」
「分かりました。」
茉莉花が部屋を出て行くと、彬従は詩音や季従と競い合ってチョコレートケーキを食べた。
華音はそっと彬従の隣りに座った。
「お母さんの勧める高校ってどんな所?」
「名前なら聞いたことある名門校ばっかりだよ。しかも全部男子校なんだ。」
「男子校が気に入らないの?」
「違うよ!」
彬従はキュッと華音の頬をつねった。
「お母さんの言うことはちゃんと聞いてね。」
「そしたら、華音と同じ高校には行けないんだよ。俺が別の高校に行ってもいいの?」
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