業火の果て(アルファポリス版)

みきかなた

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第7章 宴の夜

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ベッドの上で寝返りを打ちタオルケットを引き寄せようとしたが、何者かに阻止され身動きできなかった。

「シュウ、早く起きて!学園祭に連れて行ってくれるんでしょ!」

沙良がタオルケットを無理やり引き剥がした。

「今日こそアキを紹介して!」

「わかったわかった。」

ゴロリと身体を傾け、柊はフワァとあくびをした。

「念のために言っておくけど、アイツにはベタ惚れの彼女がいるぜ。」

「気にしないわ。」

「略奪する気?」

「恋は駆け引きって言うのよ!」

「張り切りすぎると空回りするから、少し力を抜いておけば。」

柊は沙良を押し倒し、着ていたワンピースを脱がせた。

「まさか、ヤキモチ焼いてるの?」

「沙良にとって俺は何?」

「今更なによ。」

沙良も柊の服を剥ぎ取り、むき出しの肌に舌を這わせた。



「凄い!夏祭りみたい!」

校舎の入口に設営された壮大な装飾門を見上げ、華音は歓声を上げた。

学園祭は中学高校の合同開催で、受験生への学校公開行事も兼ねており、来場者数も多く催し物も工夫を凝らし華やかで魅力的だった。

バンドのライブ演奏や演劇部や吹奏楽部の発表、クラスの展示の他に、文化部や運動部の勧誘を兼ねた模擬店で賑わっていた。

「12時に交代が来るから、それまで暇つぶししてて。」

彬従はバスケ部の模擬店を手伝っていた。

「ヒロトとメグは二人で回ってきていいよ。私はアキを待ってる。」

「じゃあ、あとで合流しよう。」

「ごめんね華音、先に行ってくる。」

久しぶりに逢うという祐都と恵夢に気を使い、華音は二人を見送った。

12時半になりやっと彬従は解放された。2ヶ月ぶりに逢う彬従は、大人っぽく見えた。

「髪が伸びたね。」

華音は思わず彬従の髪を撫でた。

「長すぎる?切りに行く暇が無いんだ。」

「ううん、カッコいい。髪の長いアキって初めてだから、違う人みたいでドキドキする。」

華音はふわりと笑い、彬従も釣られて微笑んだ。

「でも家に帰る時は切ってね。お母さんが嫌がるから。」

「分かった。」

またお母さんかと、彬従は苦笑した。

「今日はホテルに泊まるんだよね。」

「ヒロトがお母さんに頼んでくれたの。」

「俺も外泊許可もらったから、夜もずっと一緒に居られるよ。」

「良かった!ヒロトもメグも、アキといっぱい話したいことがあるって言ってた。」

笑顔で答える華音を、がっかりしながら彬従は見つめた。

「シュウ君には逢った?」

「二学期の始めに話をしたよ。そのあとは全然絡んでない。」

「ケンカしたの?」

「してないよ。華音の言いつけは守ったから。」

突然、彬従は不機嫌になった。

「どうしたの?」

「何が?」

「アキは最近すぐに怒る。」

「怒ってないよ。」

「怒ってるよ。」

「だったら、シュウの話なんかするな!」

「久しぶりに逢うのに、ケンカしたくない。」

華音は彬従の手をぎゅっと握りしめた。

「華音はズルいよ……天然過ぎる。」

赤くなって彬従はうつむいた。

「もう他の子の話はしないわ……」

「俺も悪かった。」

華音は背伸びをして彬従に唇を重ねた。キスを返す彬従の吐息がいつもより熱く感じた。華音は彬従を離さないように首にしっかり腕を絡めた。



模擬店はどこも混雑していた。慣れない暑さが息苦しく、華音は彬従の腕を掴んで座り込んだ。

「どうした?顔色が悪いよ!」

「大丈夫……ちょっとめまいがしただけ……」

「何か飲み物を買ってくる。ここで待ってて。」

彬従は華音を日陰に連れて行くと、人混みに紛れていった。華音はうずくまり息を整えた。しばらく目を閉じていると気持ち悪さは和らいだ。やはり無理は禁物だ、ふうとため息を吐いた。

「華音じゃないか。具合悪いの?」

聞き覚えのある声がした。見上げると柊がのぞき込んでいた。

「シュウ君!」

「やっぱり来ていたんだ。また逢えて嬉しいよ。」

柊はニコニコと笑いかけた。

「私もよ!」

華音は嬉しくてつい跳ねるように立ち上がった。

「あなたが華音ちゃん?シュウから聞いてるわ!」

隣にいた少女が親しげに話しかけてきた。その少女の美しさに、華音は思わず見惚れた。柊と並ぶと似合いの背丈で、華やかな美しい顔立ち、モデルのようなスラリと細い姿態をしていた。

「いとこの由良だよ。」

「初めまして、逢えて嬉しいわ!私は天日由良よ。双子の姉の沙良もいるの。」

由良は人懐こい笑顔で華音の手を取った。

「私も逢えて嬉しいです!」

華音は由良の手を握り返した。

「華音ちゃんとは仲良くなれそう!」

近寄りがたいほど美しい由良だが、中身は普通の女子高生のようで、華音はホッとした。

「沙良さんはどこですか?」

「沙良ならアキに逢いに行ったわ。」

「しっ!」

柊が由良を制した。

「何かあるの?」

華音は柊をにらんだ。

「前に逢ってから、沙良はアキを気に入って、出来れば彼氏にしたいらしくて……一人でコクりに行ったのよ。」

由良が申し訳無さそうに言った。

「私、アキを探してきます!」

華音は走り出した。

「なんでバラすの?せっかく足止めしてたのに。」

柊はムッとした。

「シュウは平気なの?沙良が他の子と付き合っても?」

「どうってことないさ。沙良にとって、俺はただのおもちゃだから。」

「そんなこと言わないで!」

由良は顔を歪めた。

「まずいことにならないように、様子を見てくるよ。」

ポケットに手を突っ込み、柊は歩き出した。



近くの模擬店で冷たいペットボトルのお茶を買った。

「華音、大丈夫かな。」

混雑した中を連れ回すのが心配になった。まだ体調は万全ではないのかもしれない。

突然、トントンと肩を叩かれ振り返ると、そこには以前駅で出逢った美少女がいた。

「また逢えたわね!」

沙良が嬉しそうに言った。

「偶然だね!君も遊びに来たんだ。」

「いとこのシュウに連れてきてもらったの。」

「ああ……シュウもいるのか。」

彬従は露骨に嫌な顔をした。

「シュウが迷惑掛けたみたいでごめん。あの子、考え無しに行動しちゃうのよ。」

「そうだな。」

「ねぇ、少し私と話す時間あるかな?」

「いや、人を待たせてるから。」

「あの写真の彼女?」

「そうだよ。」

「付き合っているの?」

「今のところは幼なじみだけど……」

「じゃあ、私にも彼女になるチャンスがあるのね?」

沙良はニコリと微笑みかけた。色素の薄い青みがかった茶色の瞳が、射抜くように彬従を捕らえた。電流が貫くようなゾクリとした疼きが身体の奥底を揺さぶる。目を逸らそうとしたのにそれすら出来ない。

「あなたに逢えてホントに嬉しい。」

腕を掴むと、沙良はゆっくりと顔を近づけてきた。ビリビリと芯が痺れるのを彬従は感じた。

「悪いけど、俺、好きな子がいるんだ。」

グイッと力を込めて彬従は沙良をはね返した。

「意志が強いのね。私に逆らえる人は初めてよ。」

沙良はあっさりと身を退いた。

「あなたとはちゃんと付き合いたい。」

「友達としてならね。」

「キスしてくれる?」

沙良は目を閉じた。

拒否しなくてはと思いながら、彬従は操られるように頬に唇を押しあてた。身体の芯が熱く煮えたぎり、甘い欲望がじわじわと締め付けるように支配する。

―――ダメだ。そばにいたらヤりたくなる……

「何してるのよアキっ!」

突然、背中を叩かれた。振り向くと、華音が真っ赤な顔で怒っていた。

「あなたが華音ね。ちょっとアキを借りちゃった!」

沙良は悪びれもせず微笑みかけた。

「あなたが沙良さん?」

「沙良でいいわよ。良かったら友達になって!」

沙良はニコリと微笑み、華音の手を握りしめた。

―――この人、アキに本気なんだ……

華音はゾクリと震えた。

「よぉ、無事で良かったな、アキ。」

皮肉な笑みを浮かべながら柊が現れた。

「俺のお姫様に喰われたかと思った。」

「俺には華音がいるからね。」

彬従は華音を抱き寄せ、笑いながらにらみ返した。

「残念ながら、振られちゃった。」

沙良は柊に寄り添った。二人の放つ華やかなオーラに華音は圧倒された。

「またね、華音。」

華音の頬に唇を近づけようとする柊を、彬従がとっさに制した。

「華音に手を出すな。」

「分かった。お前のいない時にする。」

ククッと嗤い、柊は沙良の肩を抱きながら並んで歩き去った。

華音はガクッと力が抜けて座り込みそうになった。しかし彬従がさっとその身を支えた。

「怖かった?」

彬従は頭を撫でた。

「怖くない。むしろ素敵だった。沙良は凄く魅力的な女の子ね。」

「そうかな。華音の方が魅力的だよ。」

欲情に支配された身体がまだ疼いているとは、華音に言えない。

「なんでキスしてたの?」

「してって言われた。」

「誰とでもすぐにキスしないで。」

「華音の彼氏になったらしない。」

「嘘ばっかり。」

「もうみんなのアキでなくていいだろ?華音だけのものにして。」

「絶対ダメ。」

彬従はまた華音の頭を撫でた。

「外は暑いから、校舎の中を回ろう。」

「アキのこと、彼氏にしたら、ホントに誰ともキスしない?」

「約束する。」

「……じゃあ考えておく。」

「今すぐ彼氏にしてくれなきゃダメ。」

「やっぱり辞めた!」

「華音はズルいよ。」

「ヒロトとメグ、どうしてるかな。」

うつむいたまま、華音は彬従の手を取り歩き出した。

彬従はふっと笑って、華音の手を握り返した。



いつまでたっても祐都達と連絡がつかなかった。

「おかしいな。ヒロトはともかくメグが電話もメールもしてこないなんて。」

「私達のこと忘れるくらい仲良くしてるのかも。」

華音はアハハと笑った。

夕方になり、彬従と華音は宿泊するホテルに向かった。そこにも祐都と恵夢の姿は無く、ロビーで待つことにした。

「ヒロト達が来る前に、これを渡しておくよ。」

彬従はリボンの掛かった小さな箱を差し出した。中にはネックレスが入っていた。

「華音の誕生日、授業があって帰れないから、少し早いけどプレゼントなんだ。」

「ありがとう!でも高かったでしょ?」

「夏休み、講習の合間にこっそりバイトしていたんだ。華音がいつも身につけておける物が欲しくて……」

「嬉しい!すごく可愛いよ!」

箱から取り出すと、彬従は華音の首に掛けた。

「アキがそばにいてくれるみたい。」

華音ははにかんでぎゅっとネックレスを握りしめた。

彬従は華音を抱き締めた。

「今夜はずっと一緒にいよう。」

「うん、ヒロトに頼んでみる。」

「なんでヒロトの許可がいるんだよ?」

「だって!お母さんに私のこと頼まれてたから……」

「またお母さんか!」

彬従は思わず頭を抱えた。

「あー!もう来てたのか!」

祐都が走ってきた。

「どうしたの?連絡つかないから心配した。」

「メグは?」

「ケンカした。今夜俺がアキと同じ部屋に泊まるって言ったらキレられた。」

祐都は困り果てていた。

「俺もヒロトとは別の部屋がいい。」

「えぇ?何でだよ!」

「バカかお前は!何のために二部屋取ったんだよ!」

「メグは今どこ?」

「分からない。ホテルの前で別れたんだ。」

「近くにいるかも!探してくる!」

華音は走り出した。

「ヒロトはここで待ってろ!」

彬従も華音のあとを追った。



携帯で恵夢を呼んだが、応えはなかった。

「どこにいるんだろう。お泊まりのこと、あんなに楽しみにしてたのに……」

辺りはすでに暗くなり始めていた。

「駅まで行ってみようか?」

「誰か探しているの?」

背後から突然声を掛けられ、華音も彬従も飛び上がった。

そこには沙良が立っていた。

「もう少し話がしたかったからストーカーしちゃった。」

「マジで君は心臓に悪い。」

彬従はハーッと息を吐いた。

「女の子を見なかった?背の高いショートカットの子、友達なの!」

「ちょっと前に見かけたわよ。駅に行くバスを待っていたわ。」

「駅まで行かなきゃ!」

「車があるから送るわよ。」

華音は沙良のあとについて走り出した。



ホテルから少し離れた場所に黒塗りの車がひっそりと置かれてあった。

「おかしいわ、茜がいない。」

沙良は運転席をのぞき込んだ。

ハンドルに突っ伏している人影が見えた。

「茜!?」

沙良は彼女の脈を計った。華音と彬従は沙良の様子をうかがった。

「良かった、死んではいない。」

「死ぬって……!」

「ごめん、あなた達を巻き込んでしまうかも。」

周りの樹々が突風に煽られざわめいた。

不意に人の気配を感じ、彬従は振り向いた。ナイフが沙良目掛けて振り下ろされようとしていた。

「危ないっ!」

沙良を庇ってナイフを跳ねのけた。刃が車体に当たり、ガッっと鈍い金属音がした。

凶器を持ったその人間は、体勢を立て直しまた襲いかかってきた。

「やめろっ!」

彬従が体当たりして犯人共々地面に転がった。その者は、驚いたことにまだ幼さが残る同じくらいの年頃の少女だった。

少女は激しく抵抗し、彬従と揉み合いになった。

「アキっ!」

華音は悲鳴を上げた。

組み伏し少女を押さえつけ、やっとの事でナイフを取り上げると、少女は大人しくなった。

「やっと逢えたわ、天日のお嬢様。」

地面に押し倒されたまま、少女は沙良を睨みつけた。

「ずっとアンタ達を狙ってたわ……いつもは頑丈なお屋敷に隠れているのに、今日に限って護衛も一人きり。こんなチャンスはまたと無いもの……私や家族の無念をアンタに思い知らせてやる!」

「あなた、名前は?」

「名前を聞いてどうするの?アンタが私の名前を知るはず無いわ!」

少女は彬従の腕をすり抜け、沙良に掴み掛かろうとした。

「やめて!」

そばにいた華音が少女に飛びついた。

「アンタ達はこいつの一族がどんな酷い事をやってるか知らないの!?」

少女は肘を振り回して華音を殴りつけた。

「きゃあ!」

勢いで華音は地面に転がった。

「華音!」

「華音ちゃん!」

沙良が華音に駆け寄った。

「弱い相手で良かったな。」

声のした方向を振り向いた。

柊が小柄な女性と数名の黒服の男達と共に現れた。男達は少女を捕らえ連れ去った。

「お前の愚かな行為のために、茜が傷ついた。」

柊は沙良に近づき、平手で殴り飛ばした。

「何をするんだ!女の子なんだぞ!」

彬従が叫んだ。

「もし凶暴な相手だったら、茜は間違いなく死んでいた。」

彬従の声などまるで耳に入らないように柊は唸った。

「お辞めください!私達のお世話が至らなかったのです!」

「黙れ葵!そうやって甘やかすから沙良がつけあがるんだ。」

柊は容赦なく沙良の胸倉を掴んで立たせ、葵に向かって投げつけた。

「葵、ごめんね……勝手なことをしてごめん。」

「沙良さま……」

沙良は力無く葵と呼ばれた女に抱きかかえられた。

「アキ、華音ちゃん、私を庇ってくれてありがとう……」

沙良は振り返り、眉を寄せ泣きそうになりながら笑顔を作った。

彬従は華音を抱き起こした。傷だらけになったが、きつい表情で目の前を真っ直ぐ見つめていた。

「覚悟して。今日のようなことがこの先きっと君にも起きるよ。」

柊は華音にそう言った。

「覚悟ならしている。高塔の家に生まれた時から。」

華音は凛と柊を見返した。

「君は本当に強いね。」

すっと手を伸ばし、華音を掴むとまた頬にキスしようとした。

「俺の目の前でさせないから。」

彬従がさっと華音を引き離した。

「アキ……お前も覚悟しなよ。別な意味でね。」

柊はふっと嗤った。

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