雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

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06 生活魔法の使い手カーシャ

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 冒険者ギルドを出て、教えてもらった宿に向かう。空はもう真っ暗だ。
 それなりの規模の町なだけあって、大通りは街灯で明るく照らされている。

「あの――」

 通りを歩いていると、後ろから急に声がかけられた。若い女の声だ。
 立ち止まって振り返ってみると、小柄な娘が立っている。

「俺に何か用か?」

 その娘はゆったりとしたベージュ色のローブを羽織っていて、表情はフードに隠れて分かりにくい。首から銅色のプレートをさげているから、駆け出しの冒険者なのだろう。そして、そのプレートには異能者を表す水晶がはまっており、青く光り輝いている。俺とは系統の違う魔法使いだな。

いかずちのサンダーさん?」

「そうだが?」

 娘はフードを降ろして顔を見せた。
 薄茶色の髪と同じ色の瞳。歳は十代半ばだろうか。いつも微笑んでいるような優しい顔立ちをしている。荒っぽい仕事が多い冒険者には、あまり向いてなさそうだ。娘は形の良い眉を八の字にして、やや間をおいてから話し出した。

「私は魔法使いをしているカーシャといいます。
 突然ですが、私を弟子にしてもらえないでしょうか」

 唐突にも程がある申し出に、しばし固まってしまう。
 客引きにしては斬新すぎるし、そもそも俺をこんな所でひっかけてもあんまり意味はないだろうし。
 しばらく返答できず、娘の顔をまじまじと見るが、真っすぐな眼差しで俺を見返してくる。特に邪気はなく真剣そうに見える。少しくらいなら話を聞いても良いだろう。

「魔法使いと言ってもいろいろだ。君はどんな魔法が使えるんだ?」

 カーシャは一つ頷くと俺に向かって魔法をかけた。
 砂ぼこりにまみれて薄汚れていた俺の服がサァッと綺麗になって行く。服だけではなく、汗ばんでいた体も水浴びをした後のようにサッパリした感じになった。

「お、洗濯の魔法か。なるほど、生活魔法が得意なんだな?」

「はい。他にも、灯りの魔法や治療の魔法、温めの魔法なども使えます」

 生活魔法は普通に生活していく上ではかなり便利で役に立つ。面倒な家事や身の回りの小さな用事が一瞬で片付くのだ。とはいうものの、別に代替の利かないものではないので、その手の魔法を軽く見る者も多い。

 特に冒険者はその傾向が強く、戦いに直接参加できない生活魔法の使い手はハッキリと一段下に見られている。そのため彼らはパーティーメンバーには入れてもらえず、単独で雑用的な依頼を受けていることが多い。せっかくの異能を仕事に生かすこともなく、別な仕事に就いている者もいるくらいだ。

 カーシャもあまり良い仕事にありつけず困っていたのかもしれない。ギルドで俺の名前を偶然聞いて、一か八かで声をかけてきたのかもな。希少な異能者なのに不遇すぎる。同じ異能者として、彼女を助けるのもやぶさかではないと思った。


「弟子入りの申し出はうれしいけど、俺と君の魔法は系統が違う。
 だから、魔法について教えてやれることは何もないんだ」

 カーシャは悲しそうな顔をしてうつむく。

「とはいえ、生活魔法はなかなか便利なものだ。
 弟子にすることはできないが、雇ってやることはできる」

 彼女の顔がパッと明るくなった。

「雇っていただけるだけで構いません。仕事は頑張ります!」

 やはり金に困っていたのかもしれないな。

「わかった。じゃあ、1日1万ジェニーでどうだ?」

「そ、そんなに、頂けるのですか⁉」

 彼女は目を丸くする。
 この世界の普通の労働者の賃金は1日3千ジェニーが良いところだ。雑用的な仕事だともっと安い。丸1日働いて2千ジェニーとかざらだ。現代日本に比べれば生活費はだいぶ安いとはいえ、それでもあまり余裕はないだろう。

「俺はしばらくこの町で依頼を受けるつもりだ。
 たいていは危険が伴う仕事になる。命がけになるかもしれない。
 そこへ一緒について来てもらうつもりだから、これくらいは当然だろ?」

「わ、分かりました。よろしくお願いいたします」

 彼女はぺこりと頭を下げた。

「よろしく頼む。明日の朝、冒険者ギルドで落ち合おう」

「分かりました!」

 ということで、思いがけず生活魔法の使い手を雇うことになった。




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