雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

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10 魔法の系統

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 夕方ごろにカーシャを連れて宿に帰った。
 食堂は飯時なだけあってなかなか繁盛している。


 食堂の親父にたずねる。

「晩飯は何が出るんだ?」

「今日は卵が手に入ったから、肉入りオムレツ。
 それとパンとスープが付いて500ジェニーだ」

「じゃあそれを二人分くれ」

 1000ジェニー銀貨一枚を親父に渡して、空いている席に座る。
 厨房では手伝いの男が忙しくフライパンを動かしてオムレツを量産している。

「おまち」

 ほとんど待つまでもなく晩飯が運ばれて来た。
 オムレツからは湯気が立ち、上手そうな匂いが立ち上っている。オムレツには、この世界ではよく見る野菜を煮詰めたソースがかかっている。

「むぐむぐむぐ……。おいしい!」

 さっそくオムレツを頬張ったカーシャが目を見開いている。
 スープとパンは朝と同じ。美味いから良いが毎日だと飽きそうだな。

「む、このソースはなかなか美味いな」

 ウスターソースとケチャップの中間のような、絶妙な酸味と旨味のバランス。
 オムレツ自体も固すぎず柔らかすぎず程よい焼き加減で、中に入っている肉にもしっかりした味が付けてある。もしかしたら、俺が今まで住んでいた町よりも、ニールの方が料理人の質が高いのかもしれない。この世界の料理は美味くない、という認識を改める必要があるな。

 俺たちは美味い食事を堪能した。


「この娘も一週間ほど滞在する。前金で1万ジェニーで良いんだな?」

「ああ、残りはチェックアウトのときに清算する」

 自分で出そうとするカーシャを制して、1万ジェニー銀貨を親父に渡す。

「で、でも……」

「これぐらいは俺が出すから気にするな」

「お前さんのコレじゃないのか? 二人部屋に変えてもいいんだぞ」

 親父が小指を立ててニカッと笑う。

「違う違う! そうじゃないから!」

 カーシャが真っ赤な顔になっている。

「あ、ありがとうございます」


「明日も朝から仕事だ。しっかり休め」

「はい、おやすみなさい」

 カーシャは今日最後の仕事として洗濯の魔法を俺にかけて、部屋に引っ込んだ。
 俺も自分の部屋に入る。オイルランプを取り出して、暗闇の中苦心して点灯させた。火球の魔法も灯りに使えなくもないが、火力の調節に失敗すると大火事になるからな。基本的には屋内では使えない。

「こういう時は灯りの魔法が欲しいよな」


 残念ながら、俺は灯りの魔法を習得することができない。系統が違うのだ。
 冒険者プレートの水晶の光る色によって、魔法の系統がざっくり分かるようになっている。水晶は普段は透明だが、魔法使いが身につけると、精神力の波長に応じた色で光る。俺が知っているのは赤、緑、青、白の四つだが、もっと他の系統もあるらしい。

 赤の魔法使いは、魔法使いらしい魔法使いだといえる。主に戦闘に便利な魔法を習得できる。俺はソロで活動することが多かったので、色々な魔法をまんべんなく習得している。しかし、たいていの赤魔法使いはパーティーに所属しているので、ある種の攻撃魔法に特化していることが多い。その方が効率が良いからだ。
 緑の魔法使いは、RPGでいうところの僧侶的なやつだ。強力な治療魔法や肉体強化魔法などの、いわゆる支援系魔法を得意としている。解呪や浄化のような、いかにも僧侶っぽい魔法も習得できる。
 青は生活魔法に特化している。習得というよりも生来の特殊能力に近いものだ。使うほどに魔法の腕は上がるが、新しい魔法を覚えたりはできない。
 白についてはほとんど何も知らない。以前、町で一度すれ違ったことがあるだけだ。なんとか話でも聞いておくべきだったと、後になって後悔している。

 なんにせよ、魔法に関することは秘密にされることがほとんどなので、全容を知っている者などどこにも居ないだろうな。


「さてさて、さっそく読んでみるかな」

 買ったばかりの魔法書を取り出す。
 縦40センチ横30センチほど、厚みは5センチ以上はある。ちょっとした凶器として使えそうなほどに重く頑丈に作られている。表紙は木の板になめした動物の革が貼られ、特殊な魔法陣が型押しされている。背の部分にもしっかりとした補強が入っており、小口の部分には金属製の留め金まで取り付けられている。高価な魔法書が型崩れしないためのものだが、それ以外の意味もある。
 本の中身は紙ではなく、薄く伸ばした動物の皮に手書きで文字や図形が書き込まれている。薄く伸ばした動物の皮といっても紙に比べるとだいぶ厚いので、ページ数は本の厚さから想像するほど多くはない。

 俺は一つ深呼吸をしてから、留め金を慎重に外して魔法書を開いた。

「うわぁ……」

 読み進める程に精神力がどんどん削られて、頭がクラクラしてくる。何かしら邪悪な存在がひたひたと忍び寄り、背後からぼそぼそと語りかけてくる幻覚に襲われる。
 魔法書を読むのは普通の本を読むのとは根本から違う。それを読む魔法使いの実力が試されるのだ。魔法使いが未熟だったり、気力体力が万全でなかったりすると、非常に危険なことになってしまう。

「これは結構厄介だぞ。今日はこの辺にしとくか」

 魔法書を開いたままウッカリ寝落ちでもしたら、何が起こるか分からない。しっかりと留め金をかけてからマジックポケットにしまった。
 ふぅっとため息が出てしまう。思った以上に高度な魔法書のようだ。

「今すぐ必要なものじゃないし、追々やっていけば良いだろ」

 疲れていたのか、ベッドに入って目を閉じると、あっという間に眠りに落ちてしまった。




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