12 / 29
12 アルゴ村
しおりを挟む俺たちは日暮れ前にはアルゴ村に到着した。
完全に日が落ちる前に今晩の宿を探さないといけない。
たまたま通りかかった村人に話しかける。
「すまない。宿を探してるんだが……」
「この村には宿なんかねぇです。旅の途中でお寄りになったんですかぃ?」
「いや、ゾンビ討伐の依頼を受けてニールからやって来たんだ」
「ああ、冒険者の方々ですかい!
んだったら、村長さとこへ行くがいい。この先のでかい家だわ」
「そうか、ありがとう」
村長の家はすぐに見つかった。
家のまばらな集落の中に、でかい家がドカンと建っていた。
「こんばんは!」
「はぁい、何かね?」
扉越しに返事が返ってきた。
「ゾンビ討伐の依頼を受けて来た者ですが」
「少々お待ちを!」
扉が開いて初老の男が顔を出した。
「これは失礼しました。村長のグリファです」
「俺は冒険者のサンダー、この娘は助手のカーシャといいます」
首の冒険者証と依頼書を村長に見せる。
「なんと! 銀級魔法使いのお方ですか。これは心強い!
遠いところよくお越しくださいました。
もう日が暮れますので、今晩はこちらにお泊りになって下さい。
なにぶん貧しい村ゆえ、たいした物は用意できませんが……」
「泊めてもらえるだけで十分ですよ。よろしく頼みます」
「よろしくお願いします」
その晩はそこそこ盛大な歓待を受けた。
夜遅くまで飲めや歌えの大宴会。カーシャは早々に撃沈して寝床に引っ込んでしまった。大変ありがたいことではあったが、早めに眠って明日に備えたかった俺としては、なかなか微妙な気分だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「んが⁉ あ、朝か……」
途端にのどの渇きと頭の痛みが襲ってきた。
水で割ったワインを取り出してゴクゴクとのどを鳴らして飲む。
「ふぅぅぅ……」
「おはようございます。お目覚めですね」
よく眠れたらしいカーシャは朝から元気だ。
「ああ、おはよう。
すまないが、洗濯の魔法と治療の魔法をかけてくれないか」
「はい、わかりました」
とたんに体がさっぱりして、頭がスッキリ冴えてくる。やはり彼女を雇っておいて正解だった。
「はぁ、助かった。ありがとう」
早々に依頼を果たして引き上げないと体を壊しそうだ。
歓迎してもらえるのはありがたいんだがな……。
朝食の後、村長に現場に案内してもらった。
「あの先の墓場なんですが、かなりの数になります」
「今いるゾンビは全部、以前に埋葬された元村人なんですか?」
「ええ、おそらくはそうでしょう。見知った顔が多いです。
まぁ、見分けがつかなくなった者もそれなりにいますが……」
「なるほどねぇ。
ところで、この依頼は以前にも出してませんでしたか?」
「そうです、よくご存じで。
ゾンビ討伐の依頼を出すのは、実はこれで4回目なんです。
前回までは鉄級魔法使いの方にお願いして、祓ってもらっていたんです。
儀式をして墓場を清めてから、もう一度埋葬し直すということをしていました。
しかし3回もやってもらってこの通りですからね……。
ほとほと困っているところですよ」
祓ったということは、浄化の魔法だろうな。たしかに浄化の魔法はアンデッドに効果がある。しかし、その効果は永続的なものではない。
「それで、そのゾンビたちは墓場から出て人を襲ったりは?」
「いいえ。不思議なことに墓場の中をグルグル回るだけでして……」
「なるほど。良く分かりました」
俺たちは墓場が良く見える位置まで移動した。
確かに村長の言う通り墓場の中をゾンビたちが整列してグルグル回っている。これは明らかに悪霊によるものではないな。術者がどこかにいて操っているに違いない。しかし術者はどこだろう。
墓場の外れから怪しく嫌なオーラが噴出している。これはもしかしたら……。
「カーシャ、何か感じるか?」
「はい。すごく嫌な雰囲気です」
「どの辺りが一番強い?」
カーシャが指をさす。墓場ではなく、そこから少し離れた祠のようなものを。
なるほど、カーシャはやはり魔法の才能がありそうだな。
「村長さん。あの祠には何がまつられているんです?」
「ああ、あれは行き倒れの旅人を弔うためのものですよ。
この辺りでは、数年に一人くらいはそういうことがありますからね」
「その中に魔法使いふうの仏さんはいませんでしたか?」
「そうですな……。確かにいたかもしれません」
これは少々厄介なことになるかもしれない。この依頼を断るべきか少し迷ったが、カーシャにとって良い経験になるだろうし、やってみるか。
愛用の杖を取り出して、半目になってしばし精神を集中すると、カッと目を見開き守りの魔法を展開する。即座に金色に光る半透明のドームが俺たちを包んだ。
「おぉ!」
「こ、これは⁉」
「ちょっとばかり危険かもしれないので、防御用の魔法を使いました。
なるべくこの中でジッとしていてください」
「「はい!」」
「村長さん。申し訳ありませんが、あの祠を破壊します」
「……分かりました。この怪異が収まるのであれば構いません」
「では、いきますよ」
ドォン!
祠に衝撃の魔法をぶつけて吹き飛ばす。祠の下は空洞になっていた。空洞の中に無縁仏が放り込まれているのだった。
しばらく見ていると、穴から何かがするっと出てきた。そいつは空中にふわりと
とどまり周りを見まわしていたが、すぐに俺たちを見つけた。
ボロボロのローブを身にまとったミイラ。目玉のあるべき場所には紅い光がぼぉっと灯っている。恨みを抱えたまま死んだ魔法使いのなれの果てだ。
「うわっ!」
「あ、あれは……」
「あれはリッチだ」
リッチは炎の両目に憎しみをたたえて、俺たちを指さす。
「はねあぅのえうぇぁぁえい!!」
何を言っているのかは分からなかったが、明るい挨拶ではなさそうだ。
奴の指先に小さな炎が灯ったと思ったら、瞬時にサッカーボールほどになった。
「火球の魔法だ! 伏せろ!」
リッチの放った火球はゴゥっと音を立ててあっという間に俺たちに迫る。俺たちに衝突する数メートル手前のところで、火球は守りの魔法に弾かれて、明後日の方向へ飛んで行った。
「た、助かった……」
「はぁぁ……」
「安心するのはまだ早いぞ」
リッチは炎の両目にさらなる憎しみをたたえて俺たちを指さした。
「がおうえおうおぺえあえじぇ!!」
ガガン! ドゴォン!
瞬時に稲光がドーム状に広がり、轟音が鳴り響く。
「うわぁぁぁ!」
「きゃぁぁ!」
念入りに練り上げて展開した守りの魔法だが、いつまでもつかは分からない。
今まで意味もなくグルグル回っていたゾンビたちも、隊列を組んで俺たち目がけて行進を始めた。このままでは非常にマズい。
リッチには魔法も効かないし、通常の攻撃もほぼ弾かれてしまう。ありとあらゆる魔法を駆使して冒険者を追い詰める、最強にして最悪の魔物。ダンジョン内でばったり遭遇でもしたら、熟練冒険者でも死を覚悟するしかないと言われている。
生者に対して無限の恨みを抱き、相手が息絶えるまでどこまでも追いかけてくるのだ。それこそ瞬間移動にさえ追従してくるらしい。
そんなリッチにも弱点はある。どこかに隠されている本体を破壊すればいいのだ。普通はそんなもの簡単に分かるわけがないのだが、今回だけは分かる。
俺は制限を解除した最大級の衝撃の魔法を、祠の下の空洞の内部で発動させた。
ズドム!
体が一瞬宙に浮くほどの衝撃が地面を伝わる。
「ぎゃっ!」
「きゃぁ!」
「ぶっぽぺえいんぅ⁉」
リッチの両目から炎が消えて、宙に浮いていた体がぱさっと地面に落下した。
行進していたゾンビたちも、パタパタとドミノ倒しのように倒れていく。
「よし、やったぞ!」
「お、終わりましたか?」
「はぁぁぁ……」
村長とカーシャが地面にへたり込んだ。
「「「おーい!」」」
音を聞きつけた村人たちがやって来た。
村人たちの手によって、ゾンビ化していた遺体はまた埋葬し直され、祠も元に戻された。この騒動の原因になった魔法使いの死体は、俺が火球の魔法で灰になるまで完全に焼却した。
「これでもう大丈夫でしょう」
「「「おぉぉぉぉ!」」」
俺の宣言に村人たちが沸き立った。
「この度はどうもありがとうございました。
ゾンビの討伐だけでなく、原因まで始末してくださった。
さすがは銀級の魔法使い様、まさかリッチの討伐までなされるとは」
「いやいや、当然のことをしたまでのこと」
さっさと村長に署名をもらって帰ろうとしたが、何のかんのと引き留められて、結局その晩も大宴会となるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる