雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

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26 カツカレー

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 バイファの町はなかなか発展しているようで、市場だけでもかなりの規模だった。俺とカーシャは人の波にもまれながら、あっちの店からこっちの店へと、あれこれと買い物をして歩く。

「むむっ⁉ 親父さん。これってカレールーじゃないか?」

 露店の食料品屋で意外過ぎるものを見つけて、声が上ずってしまった。
 それは見た目といい匂いといい、俺の知ってるカレールーにそっくりだったのだ。

「そうだよ。他に何に見えるだい?」

 露店の親父は不審そうな顔をする。

「そ、そうだよな。買うよ。一ついくら?」

「一つ500ジェニーだよ」

 思ったよりも良心的な値段だ。

「よし、十個くれ」

 親父に5千ジェニー銀貨を渡す。

「まいど!」

 親父にさらに銅貨をいくらか握らせて話を聞く。

「これって、この辺りで作ってる物なのか?」

「良くは知らんが、東から来る行商人から仕入れてるんだよ」

「なるほど、ありがとう」

「また来てくれよ」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「サンダーさん。カレールーって何ですか?」

「スープの素の一種だよ。
 スパイスが効いてて美味いんだ。こんど作ってやるよ」

「そうなんですか、楽しみです!」


 あらかた買い物が終わった俺たちは、遅めの昼飯を食べに適当な定食屋に入った。

「いらっしゃい!」

「ここは何を出してるんだ?」

「メニューがありますんで、お好きなものをどうぞ」

 普通の庶民的な店なのに、メニューがあるとは珍しい。
 俺はメニューを見てひっくり返りそうになった。

「な! カレーライスだと⁉ カツカレーまであるじゃないか!」

 口を開けて固まっている俺を見て、店員が冷めた顔をしている。

「なんですかお客さん、妙なことを言って……。
 私をからかってるんですか? こんな店ですがカレーぐらいありますよ」

「いや、すまない。俺たちは西からやって来たんだ。ちょっと珍しくてな」

「あぁ、旅のお方ですか。
 確かにこちらの町の方が発展してると聞きますね。
 それで、何になさるんですか?」

「じゃあ、カツカレー二つと、デザートにチョコレートパフェを二つ」

「はい承りました」

「サ、サンダーさん。
 チョコレートパフェって、あのチョコレートパフェですか?」

 カーシャはあの日食べたチョコレートパフェの衝撃をずっと忘れられずにいた。ときどき夢にまで出てくるらしい。

「そうだ。あのチョコレートパフェだ」

「で、でも。ものすごくお高いんじゃ?」

 俺はカーシャにメニューを見せた。

「500? 5万ジェニーじゃなく、5百ジェニーですか?」

 信じられない様子で何度もゼロの数をかぞえている。

「はい、おまちどうさま」

 カツカレーが運ばれて来た。

「こ、これがカツカレーですか?
 匂いは素晴らしいですが、見た目はずいぶんと変わってますね」

「いいから一口食べてみろって」

「はむ……。こ、これは!
 むぐむぐがつがつがつ……止まりません!」

「美味いだろ?」

 もう何年ぶりになるのだろうか、カツカレーをじっくりと味わう。
 米はややパサついているし、カレーもとろみが足りない感じだが、それでもカツカレーに違いない。炊いた飯とトンカツとカレーのハーモニーの懐かしさに、思わず泣きそうになってしまった。
 俺は額の汗を拭うふりをして涙をふいた。

「美味いな……」

「はぁ、こんな美味しい食べ物があるとは……」

「デザートおまち」

 カツカレーを食い終えた俺たちの前に、チョコレートパフェが運ばれて来た。
 かつて日本にいたころは好きでもなんでもなかったものだが、この世界で見るとなんとも感動的な気分になる。

「ゆ、夢にまでみたチョコレートパフェ……」

 カーシャはうっとりとした顔でしばらく鑑賞してから、ようやく口をつけた。

「はぁぁ、幸せです」

「なかなか美味いな」

 チョコもアイスも記憶のものよりもずっと濃厚に感じる。
 俺たちは普段よりも豪華な昼飯を堪能したのだった。


「3千ジェニーで間違いないよな?」

「なんですかお客さん、値切ろうっていうんですか?」

「いや、違う違う! 逆だよ。こんな安くて良いのかと思ってな」

 千ジェニー銀貨三枚渡して店を出た。

「まいどあり~!」


「なかなか良い店だったな」

「ですね。毎日でも通いたいくらいです」

「はっはっは、毎日は飽きるぞ?」

「そんなことないですよぉ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 カーシャとだべりながら街中をウロウロしていたら道に迷ってしまった。

「ありゃぁ、どっちだっけ」

「困りましたね……」

 そろそろ日が落ちそうな時間だ。
 メインの大通りから外れてるようで、人通りが全然ない路地だ。辺りの様子からして、治安の悪そうなエリアだな。知らない間にスラム街に入ってしまったらしい。
 迷路のように枝分かれした路地は、角を曲がるたびにどんどん様子がおかしくなってくる。しばらく路地を歩いていると、4・5人の男たちが前から道を塞ぐように歩いてきた。

「これは面倒だな。引き返そうぜ」

「は、はい」

 くるっと後ろを振り返ると、そこにも男たちが道を塞いで立っていた。どうやら囲まれてしまったらしい。男たちは無言で距離を詰めてくる。よく見ると連中はナイフや棒切れを手にしている。とても友好的な雰囲気とは言えないな。

「このまま黙って通してくれるなら、多少は恵んでやってもいいんだが……」

 男たちがニヤリと嫌な笑いを顔に浮かべた。
 一人の男が決定的なことを口走る。

「多少じゃねぇよ、全部いただく。命もな。
 そっちの娘はなかなか悪くねぇな。死ぬまで楽しませて――」

 その男は目を見開いて、突然パタッと倒れた。
 隣にいた仲間が男の様子を見る。

「え? お、おい! しっかりしろ!」

「お前たちがその気なら。俺もその気で抵抗するしかないな」

 男たちの一人が、俺の首にかかっている冒険者証に気づいた。

「やべぇ! こいつ魔法使いだ!」
「に、逃げろ!」

 男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。路地には、気を失った男が一人転がっている。

「仲間を見捨てて逃げるなよ、まったく……。
 カーシャ、俺の背中におぶさるんだ」

「えぇ⁉」

「いいから早くしろ」

「は、はい」

 俺はカーシャを背負って、浮遊の魔法で宙に飛び上がった。

「ひえぇぇぇぇ!」

「しっかり掴まってろよ」

「はひぃ」

 その場でぐるっと見回して方向を確認する。

「なるほど、あっちか。よし、このまま飛んでいくぞ」

「ひいぃぃぃぃぃぃ!」

 俺は大通り目指して真っすぐに飛んだ。
 夕闇せまる街の空にカーシャの悲鳴が響くのだった。





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