26 / 29
26 カツカレー
しおりを挟むバイファの町はなかなか発展しているようで、市場だけでもかなりの規模だった。俺とカーシャは人の波にもまれながら、あっちの店からこっちの店へと、あれこれと買い物をして歩く。
「むむっ⁉ 親父さん。これってカレールーじゃないか?」
露店の食料品屋で意外過ぎるものを見つけて、声が上ずってしまった。
それは見た目といい匂いといい、俺の知ってるカレールーにそっくりだったのだ。
「そうだよ。他に何に見えるだい?」
露店の親父は不審そうな顔をする。
「そ、そうだよな。買うよ。一ついくら?」
「一つ500ジェニーだよ」
思ったよりも良心的な値段だ。
「よし、十個くれ」
親父に5千ジェニー銀貨を渡す。
「まいど!」
親父にさらに銅貨をいくらか握らせて話を聞く。
「これって、この辺りで作ってる物なのか?」
「良くは知らんが、東から来る行商人から仕入れてるんだよ」
「なるほど、ありがとう」
「また来てくれよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「サンダーさん。カレールーって何ですか?」
「スープの素の一種だよ。
スパイスが効いてて美味いんだ。こんど作ってやるよ」
「そうなんですか、楽しみです!」
あらかた買い物が終わった俺たちは、遅めの昼飯を食べに適当な定食屋に入った。
「いらっしゃい!」
「ここは何を出してるんだ?」
「メニューがありますんで、お好きなものをどうぞ」
普通の庶民的な店なのに、メニューがあるとは珍しい。
俺はメニューを見てひっくり返りそうになった。
「な! カレーライスだと⁉ カツカレーまであるじゃないか!」
口を開けて固まっている俺を見て、店員が冷めた顔をしている。
「なんですかお客さん、妙なことを言って……。
私をからかってるんですか? こんな店ですがカレーぐらいありますよ」
「いや、すまない。俺たちは西からやって来たんだ。ちょっと珍しくてな」
「あぁ、旅のお方ですか。
確かにこちらの町の方が発展してると聞きますね。
それで、何になさるんですか?」
「じゃあ、カツカレー二つと、デザートにチョコレートパフェを二つ」
「はい承りました」
「サ、サンダーさん。
チョコレートパフェって、あのチョコレートパフェですか?」
カーシャはあの日食べたチョコレートパフェの衝撃をずっと忘れられずにいた。ときどき夢にまで出てくるらしい。
「そうだ。あのチョコレートパフェだ」
「で、でも。ものすごくお高いんじゃ?」
俺はカーシャにメニューを見せた。
「500? 5万ジェニーじゃなく、5百ジェニーですか?」
信じられない様子で何度もゼロの数をかぞえている。
「はい、おまちどうさま」
カツカレーが運ばれて来た。
「こ、これがカツカレーですか?
匂いは素晴らしいですが、見た目はずいぶんと変わってますね」
「いいから一口食べてみろって」
「はむ……。こ、これは!
むぐむぐがつがつがつ……止まりません!」
「美味いだろ?」
もう何年ぶりになるのだろうか、カツカレーをじっくりと味わう。
米はややパサついているし、カレーもとろみが足りない感じだが、それでもカツカレーに違いない。炊いた飯とトンカツとカレーのハーモニーの懐かしさに、思わず泣きそうになってしまった。
俺は額の汗を拭うふりをして涙をふいた。
「美味いな……」
「はぁ、こんな美味しい食べ物があるとは……」
「デザートおまち」
カツカレーを食い終えた俺たちの前に、チョコレートパフェが運ばれて来た。
かつて日本にいたころは好きでもなんでもなかったものだが、この世界で見るとなんとも感動的な気分になる。
「ゆ、夢にまでみたチョコレートパフェ……」
カーシャはうっとりとした顔でしばらく鑑賞してから、ようやく口をつけた。
「はぁぁ、幸せです」
「なかなか美味いな」
チョコもアイスも記憶のものよりもずっと濃厚に感じる。
俺たちは普段よりも豪華な昼飯を堪能したのだった。
「3千ジェニーで間違いないよな?」
「なんですかお客さん、値切ろうっていうんですか?」
「いや、違う違う! 逆だよ。こんな安くて良いのかと思ってな」
千ジェニー銀貨三枚渡して店を出た。
「まいどあり~!」
「なかなか良い店だったな」
「ですね。毎日でも通いたいくらいです」
「はっはっは、毎日は飽きるぞ?」
「そんなことないですよぉ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カーシャとだべりながら街中をウロウロしていたら道に迷ってしまった。
「ありゃぁ、どっちだっけ」
「困りましたね……」
そろそろ日が落ちそうな時間だ。
メインの大通りから外れてるようで、人通りが全然ない路地だ。辺りの様子からして、治安の悪そうなエリアだな。知らない間にスラム街に入ってしまったらしい。
迷路のように枝分かれした路地は、角を曲がるたびにどんどん様子がおかしくなってくる。しばらく路地を歩いていると、4・5人の男たちが前から道を塞ぐように歩いてきた。
「これは面倒だな。引き返そうぜ」
「は、はい」
くるっと後ろを振り返ると、そこにも男たちが道を塞いで立っていた。どうやら囲まれてしまったらしい。男たちは無言で距離を詰めてくる。よく見ると連中はナイフや棒切れを手にしている。とても友好的な雰囲気とは言えないな。
「このまま黙って通してくれるなら、多少は恵んでやってもいいんだが……」
男たちがニヤリと嫌な笑いを顔に浮かべた。
一人の男が決定的なことを口走る。
「多少じゃねぇよ、全部いただく。命もな。
そっちの娘はなかなか悪くねぇな。死ぬまで楽しませて――」
その男は目を見開いて、突然パタッと倒れた。
隣にいた仲間が男の様子を見る。
「え? お、おい! しっかりしろ!」
「お前たちがその気なら。俺もその気で抵抗するしかないな」
男たちの一人が、俺の首にかかっている冒険者証に気づいた。
「やべぇ! こいつ魔法使いだ!」
「に、逃げろ!」
男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。路地には、気を失った男が一人転がっている。
「仲間を見捨てて逃げるなよ、まったく……。
カーシャ、俺の背中におぶさるんだ」
「えぇ⁉」
「いいから早くしろ」
「は、はい」
俺はカーシャを背負って、浮遊の魔法で宙に飛び上がった。
「ひえぇぇぇぇ!」
「しっかり掴まってろよ」
「はひぃ」
その場でぐるっと見回して方向を確認する。
「なるほど、あっちか。よし、このまま飛んでいくぞ」
「ひいぃぃぃぃぃぃ!」
俺は大通り目指して真っすぐに飛んだ。
夕闇せまる街の空にカーシャの悲鳴が響くのだった。
0
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる