異世界ネクロマンサー

珈琲党

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17 酒を造る

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 各所に放ったスケルトンたちを使って、俺は森の地図を作った。まぁ地図と言ってもざっくりとしたものだが。
 森の大きさは縦横三十キロ四方くらいのものだと分かった。小屋はその森のほぼ中央に位置しているようだ。
 森の中には魔法陣がいくつも配置され、特殊な結界がはられている。リサが言うには、魔法を使って覗き見をした者に攻撃し返すというものらしく、いわば攻性防壁というやつだな。

「つまりは、魔法を使って覗き見している魔導師がいるってことだよな」

「うん、貴族がいろいろ知っているのはそういう魔導師を使ってるからだよ。あと、街には情報屋もいるし」

「情報は武器だからな。相応の値段もつくわけか。リサはそういう魔法は使えないのか?」

「そういうのは習ってないよ」

「そうか。俺たちはここにいればとりあえずは安全だし、覗き見されることもないんだけど……」


『周りの情報を得る手段が欲しいということじゃな』

『うん、スケルトンを使ってできることも限りがあるからなぁ。白昼堂々街中を歩かせるわけにはいかないだろうし』


「イチロウって人間のスケルトンしか作れないの?」

「うん? どうゆうこと?」

「だから、鳥のスケルトンとか猫のスケルトンとか、そういうのはダメ?」

「おぉ! その手があったか。良いとことに目を付けたな、偉いぞ!」

 俺はリサの頭をくしゃくしゃにしてやる。

「エヘヘ……」

「おいスナイパー、あの鳥を撃ち落とせ」

「……カシコマリマシタ、ますたー」

 ビュッ! 

 百メートル以内であれば、スナイパーの矢は百発百中だ。
 あっさりと鳥が撃ち落とされた。

 俺は死んだ鳥を拾い上げ、グッと力を込める。偽りの魂を作り上げて、それを注入してやったのだ。
 死んでいた鳥がぶるっと身を震わせて、羽を大きく広げた。

「よし、上手く行ったぞ!」

「鳥のスケルトン?」

「いや、鳥のゾンビだ」

「えぇ~」

「原理的には同じものだから、気にするな」

 俺は作ったばかりの鳥ゾンビを空に放つ。鳥ゾンビはややぎこちなく羽ばたいて空高く舞い上がった。俺は精神を集中して、鳥ゾンビとつながる。

 その瞬間、視界がパッと開けた。空からだと地形がよく分かる。
 なるほど、森の北は丘陵地帯だな。しかし荒涼としていて何もなさそうだな。東にはやっぱり町があるな。少し離れて城が見える。

「ふ~ん、これは面白い!」

「ちょっと! どうなってるのか説明してよ!」

「うん、今は上に飛んでる鳥ゾンビの目から周りを見てるんだよ。森の外に何があるのか確認してるから」

「へぇ~、凄いね!」

「西の方にも町が見えるぞ。城もあるな。南はガザ街道の向こう側は山岳地帯で、これは歩きで超えるのは無理そうだなぁ……」

『ふむ、どれどれ……、ほぉ! これはなかなか愉快な眺めじゃのぉ』

 クロゼルが俺の心を読んで、鳥ゾンビ目線の光景を楽しんでいる。何百年もこの世に存在していても、やはり経験していないことはあるようだ。

「リサはこの辺りの貴族の名前とか知ってるか?」

「えぇ!? そんなの知らないよ」

「そうか」

『クロゼルは知ってるか?』

『ふむ、私の記憶では東の城がカステルハイム伯爵のもの、西がヘッセルバッハ伯爵の城じゃ。ここ最近は大きな戦争もなかったからの、変わっておらんはずじゃ』

『さすが、年の功というやつだな』

『何じゃそれは。お主の国の言い回しかぇ?』

『まぁ、そんなところだ』


「東のカステルハイム伯爵の城までちょっと行ってみるよ」

「えぇ!? なんで貴族の名前を知ってるのよ?」

「俺の守護霊様に教えてもらったんだよ」

「何よそれぇ……」

『フフフ……』


「やっぱり空を飛ぶとすごい速いな! もう町の上を飛んでる。よし、あと少しで城に到着するぞ」
 
 城の堀を越えて城壁の上を通過しようとしたとき。

 バチン!!
 
「ぎゃっ!」

 精神に強烈な衝撃が走った。
 
「イチロウ!」

「くぅぅ、痛てぇ……。鳥ゾンビがやられたらしい」

『ふぅむ、敵もさるものじゃのぉ』


「城にも結界が張られてるのか。一筋縄ではいかないか……」

「だから貴族のところにも魔導師がいるって言ったのにぃ」

「もうちょっと作戦を練ってまた今度やり直そう。今日はもう酒でも飲んで寝るかな……」


「そういえば、そろそろワインがなくなるよ」

「そうか、また買いに行かないとなぁ。あっ、そうか……」

 俺はマクド村から持ってきたワイン樽を引っ張り出してきた。

「それ、空だよ」

「分かってるって。これに濃い目の砂糖水を作って入れるだろ、それからワインの残りを入れて混ぜるわけだ」

「それで?」

「実りの魔法をこれにかけてみてくれ」

「わかった」

 ワイン入りの砂糖水からブクブクと泡がわきあがる。

「わぁ、なにこれ?」

「まぁ、もう少し待て」

 泡が収まったところで、匂いを確認する。

「おぉ! やはりな……」

 濃密なアルコール臭が立ち上がっている。
 ワイン入りの砂糖水だったものを少しコップについでリサに手渡す。

「ほら、飲んでみろよ」

「えぇっ、これって大丈夫なのぉ?」

 リサがおそるおそる口に含む。

「あっ! これお酒だよ!」

「だろ? 酒は意外と簡単に作れるんだよ、味はともかくとしてな」

 砂糖水の糖分を、ワインに含まれている酵母が分解して、アルコールと二酸化炭素を作る。発酵がすすめば、微炭酸のアルコール飲料ができるのだ。実りの魔法によって発酵がより加速し、熟成した酒になったというわけだ。

「もっとたくさん砂糖を入れて、何日か置いとけば、もう少し強い酒になるはずだ」

「へぇ~、イチロウって物知りだねぇ」

 その日、俺たちは干し肉をつまみに自作の酒をしこたま飲んで、いい気分に酔っぱらったのだった。



――――――――――――――――――――――――――


 同日。カステルハイム城。


「領主様! 大変でございます!」

「なんじゃ、慌ておってからに……」

「本日の昼頃、城内に鳥が浸入しまして――」

「鳥がどうしたというのじゃ?」

「その、侵入した鳥はその、すでに死んでおりまして……」

「どうも話が見えてこぬわ。端的に申せ!」

「ははっ! マクドーマンの森より飛来した鳥のゾンビが、結界に弾かれたらしいのです!」

「な、なんじゃとぉ!? 鳥のゾンビじゃとぉ? 何じゃそれは? うぅむ、分からん。マリーナを呼んで参れ!」

「ははっ!」


「領主様」

「うむ。マリーナよ、鳥のゾンビの件じゃが、あれは一体何なのじゃ?」

「ははっ、マクドーマンの森に住む魔導師の仕業に間違いないかと思われます」

「あんなものもを城へよこした意味はなんじゃ?」

「これは、警告のたぐいではないかと……」

「け、警告じゃと!? わしが何をしたというのじゃ? 何もしておらんではないか!」

「領主様が何もしていないということに対して、あ奴めが不満を訴えておるのではないかと思われます。使者を送るなどして、あ奴めの意図をお確かめになるのがよろしいかと存じます」

「うぬぅ……。代替わりをした祝いに何か金品でもよこせ、ということじゃな?」

「はなはだおそれ多いことではありますが……」
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