異世界ネクロマンサー

珈琲党

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18 伯爵の使者

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 ある日の朝。

 小道の哨戒任務しょうかいにんむについてるニンジャから連絡が入った。
 ここ最近は、スケルトンたちとテレパシー的なやり取りをすることが多くなった。なにせ直接口で指示を出すよりも、正確に早く伝わるからだ。距離的なへだたりも関係がない。俺はどこにどのスケルトンがいて何をしているのか、瞬時に知ることができるのだ。ネクロマンサーとしての腕が上がったんだろうな。


『……ホウモンシャアリ、ますたー』

 俺はニンジャの目を借りて、訪問者を確認した。
 男が一人、荷物を満載した馬を引いている。身なりが良く姿勢も良い、どこか役人のような雰囲気だ。

『クロゼルはどう思う?』

 クロゼルは俺の心を透視して男を確認した。それにしても、結構高度な通信をしているのかもしれない。

『ふむ、見たところ貴族の使者じゃの。話を聞くぐらいなら構わんじゃろ』

『なるほど』

 俺はニンジャの体を借りて、その訪問者に問いかけてみた。カメラ付きのインターフォンで会話してるみたいだな。

『失礼ですが、どういったご用件でしょうか?』

 その男はひどく驚いた様子だったが、それでもなんとか返事を返してきた。

『わ、私はカステルハイム伯爵様の使者である! ここに住む魔導師殿にお会いしたい。お取次ぎをお願いする』

『……分かりました。ご案内いたしますのでどうぞ』

 俺はそのままニンジャに案内させることにした。

『そ、そうかよろしく頼む』

 それから数時間後、ニンジャに案内されて伯爵の使者が小屋にやって来た。

「これはどうも、初めまして、パウム・エンドルフェンの後継者のイチロウと申します。こちらは同じく魔導師のリサです」

「初めまして、使者様」

 俺たちは愛想よく自己紹介をして、使者を小屋に案内する。

「ちょうど良い時間ですから、食事でもとりながらゆっくりお話をしましょう」

「……これは、かたじけない」

 タイミングよく鹿が捕れていたので、鹿肉のステーキをふるまうことにした。付け合わせは余りに余っているニャガ芋で作ったマッシュポテトと、ナースとカブーラの塩漬け。味付けが塩だけなのが残念なところだが……。

「おぉ! これは豪勢ですな! むぐむぐ……、味もなかなかのものですぞ! ……むぐむぐ、うん、これは旨い!」

「よろしければ、自家製の酒もありますで、どうぞやってください」

「おぉ、これはこれは。ゴクリ……、ほほぉ、この酒もなかなかのものですなぁ!」

 俺は味を少々心配していたが、全く問題なさそうだ。伯爵の使者は存分に食事と酒を堪能している様子だ。

 食事が一段落したところで俺は話を切り出した。

「それで、使者殿は今回どのようなご用向きでおいでになったのですか?」

「そうでした。食事があまりに素晴らしくて、忘れるところでしたよ、ハハハ。伯爵様からイチロウ殿へお祝いの品をお届けに参ったのです」

「お祝い? さて、どういったお祝いなのでしょうか?」

「イチロウ殿がパウム女史の後継に就任された、そのお祝いということです。パウム女史はカステルハイム伯領随一の魔導師でしたからな」

 なるほど、ここら辺りはカステルハイム伯が治めているってことなのか。

「……はぁ、そうですか。う~ん、それはありがたいのですが、やはりお祝いの品は受け取れません。お気持ちだけで結構ですから」

「いや、しかしそれでは困るのです! 私としてもイチロウ殿に受け取っていただかなければ、伯爵様に申し訳が立たないのです」

 使者の顔が青くなる。

「そうは言われましてもねぇ……」

「そこをなんとか! どうか、よろしくお願いします!」

 確かに、このまま帰ると子供の使いになってしまうかな。

「……それでしたら、ご提案があるのですが……」

「それは、どういったものでしょうか?」

「私どもに、この森の管理を正式に任せていただきたいのです」

「……そ、そうは言われましても……、具体的にはどのような?」

「森にまつわる面倒事は全て私どもで解決しましょう。その代わりに一定の自治を認めて頂きたいのです。まぁ、現状はすでにそうなっているわけですが、伯爵様のお墨付きということであれば、より良い働きができるかと思います」

「……なるほど。しかし私の一存では決められませんので……」

「当然、一定の税も納めるつもりです。私としましてはそうですねぇ、年に砂糖を一壺でどうかと考えているのですが……」

「さ、砂糖ですと! そんな貴重なものをどのように?」

 俺はあらかじめ用意しておいた砂糖の入った壺を取り出す。

「作り方についてはお教えできませんが、こちらをご覧になってください」

「な、何と! 失礼ながら、本当にこの中に砂糖が詰まっているのですか?」

 俺は壺の中の砂糖を全てテーブルに出す。

「どうぞ、ご確認ください」

「そうですか、では……、おぉ、確かに砂糖ですな! こ、この分量を毎年納めていただけると?」

「はい、とりあえずこの砂糖はお近づきの印ということで、伯爵様に差し上げます、税としては改めて別途お納めしますので」

「な! よ、よろしいので?」

「えぇ、もちろんです。私どもに森を任せるという内容の公文書さえいただければ」

「なるほど、イチロウ殿のお考えはしかと伯爵様へお伝えいたします」

「そうですか、よろしくお願いいたします。これは使者殿への個人的な贈り物です。どうぞお持ち帰りください」

 と言って俺は砂糖の小袋と酒を使者へ手渡した。

「こ、これは! かたじけない」

 伯爵の使者は上機嫌で帰っていったのだった。


「ふ~ぅ、疲れたぁ」

「なんか、普段のイチロウと全然違った。貴族みたいな話し方するのね」

「ハハハ、会話っていうのは相手に合わせてやった方が上手く行くんだよ。相手が貴族の部下だったから、それに合わせただけのことだよ」

「ふ~ん、それで上手く行ったの?」

「あぁ、手ごたえはあったよ。あとは、あの使者の働きしだいだけどな。まぁそのうち返事が返ってくるはずだ」

「へぇ! お祝いでもする?」

「まぁ、それは良い返事が返って来てからだな」


――――――――――――――――――――――――――


 数日後。
 カステルハイム城。

 カステルハイム伯と執事が話をしている。

「祝いの品がそのまま返ってきたときには肝が冷えたものじゃが、なるほど、森をよこせということじゃったか。しかし、これは悪くない取り決めかも知れんな」

「確かにあの森の扱いは、私どもとしても少々持て余していたところでございます。その管理を全て押し付けた上で、税までとれるということですから、使者殿の交渉はなかなか上手く行ったようですな」

「うむ。それに名目上、あの魔導師どもはわしの配下ということになるのじゃ。まぁ、実際いうことを聞くかどうかは別にして、こちらが攻撃される心配は減ったのじゃからな」

「それにしても、あの砂糖はなかなのものです。どこから持ってきているのかは存じませんが、この辺りで簡単に手に入るような物ではありません」

「ふむ、我が領としては不利益がないと思われる。あやつらの気が変わらぬうちに決めてしまおうぞ! さっそく使者に返事を持たせるのじゃ」

「ははっ!」


「これでようやく肩の荷を降ろせるわぃ」

 カステルハイム伯爵はグイっと伸びをした。久しく味わうことがなかった清々しさを感じたのだった。
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