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21 バロウズ商会に反撃する
しおりを挟むリサには今は砂糖作りに専念してもらっている。
ストックはまだ十分にあるが、今のうちに作れるだけ作ってもらっているのだった。冬には甜菜が採れなくなるだろうし。
自家製の酒を試しに行商人たちにふるまってみたら、それも結構好評だった。
酒の量産も考えてみようかな。しかし、酒造りにも砂糖が大量にいるしな。
『希代のネクロマンサーのはずが、知らぬ間に商売人になっておるではないか』
『俺だってこの世に生きる人間だからな。霞を食って生きるわけにもいかんし、商人たちとの関係はつないでおかないといけないの』
『ふん、面倒なことじゃのぉ』
『まぁ、生きるってことは面倒なことだろ。そうそう簡単に死ぬわけにも行かんしな』
『こっち側に来るかぇ? フフフ……』
『お前が言うと冗談に聞こえないから困る……。んあ?』
『何じゃ? 妙な声を出しおって』
『まぁた、あのゴロツキどもだよ……、面倒くさいなぁ』
ゲートにいるスケルトンからテレパシー通信が入ったのだった。
スケルトンの目を通してみると、俺の所に来た行商人たちとゴロツキどもがもめているようだ。問題発生だな。ちょっとスケルトンの体を借りて様子をうかがってみる。
「通行料ってなんですか?」
「だから、ここを通るんならその代金をよこしな!」
「いやいや、おかしいでしょう? ここは天下の公道ですよ、何の権限があるんです?」
「いいから出すもん出したら通してやるよ。銀貨十枚な。ほら、出しな!」
「冗談じゃない! そんな金はない! あったとしても、あんた方に払う筋合いはないね」
「じゃぁ仕方ねぇな。ここは通さねぇよ」
「いい加減にしろ!」
ゴロツキどもが通せんぼしているようだ。
くだらない嫌がらせをするものだなぁ……・。とはいえ、放置するわけにはいかない。
「おい! お前らバロウズ商会の手の者だろ? たいがいにしないと命をなくすぞ?」
おれはスケルトンの体を借りてゴロツキどもに警告した。
「な! な、何だよ、スケルトンの分際で口を挟むんじゃねぇ! それにここは街道の上だ。お前らの土地じゃねぇし関係ないだろ!」
「確かに俺の土地じゃぁねぇが、お前らの土地でもねぇよな? それにその商人たちは俺の所の客だ。だから関係はあるんだよ」
「うるせぇ! こっちは腕の立つ者を集めてきてるんだぜ。スケルトンごとき、ものの数じゃねぇよ。お前は引っ込んでろ!」
なるほど、奴の言うように街道には悪そうな連中が三十人ほどたむろしている。
行商人たちもさすがに分が悪いと思っているのか、落ち着かない様子だ。
「お前ら、本当にそれで良いのか? 大魔導師パウム・エンドルフェンの後継者に喧嘩を売ってるんだぞ?」
俺はことさらに諭すように、ゆっくりと師匠の名前を出した。
大魔導師パウムの名前を聞いたゴロツキの幾人かはサッと顔色を変えた。
「おい、悪いが俺は降りる」
「俺もだ」
「俺もそんな話は聞いてなかったぞ」
「これはマズいぜ……」
ゴロツキたちの中からパラパラと離脱者が出始める。
「そうそう、お前たちは賢明だぞ。巻き添えを食いたくなかったら、早くおうちに帰んな」
十人ほどのゴロツキたちが、王都の方へばたばたと逃げ帰ってしまった。
「バカヤロー! こいつが言うのはただの脅しだ! 戻ってこい!」
「いや、脅しじゃねぇよ。最後の警告だ。 いいのか?」
「知るかぼけぇ! まずはお前からバラバラにしてやるよ!」
シャリンと金属がこすれる音が辺りに響く。ゴロツキどもが剣を抜いたのだ。
商人たちが、「うわっ!」と言って後退する。
「よし! スナイパー、あのゴロツキどもを皆殺しにしろ!」
俺は森の中に潜ませているスナイパーたちに命令する。
「「……カシコマリマシタ、ますたー」」
ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュッ!
「な――」
あっという間にゴロツキどもがハリネズミになって街道に転がった。
まさかここまではすまいと侮っていたのだろうが、警告はしたからな。
奴らが先に剣を抜いたから正当防衛だ。そんな法律はないかもしれないけど。
「待たせてすまなかったな。気を付けて商売してきてくれ」
「……あ、ありがとう。助かったよ」
行商人たちはしばらく唖然として棒立ちになっていたが、すぐに商売のことを思い出したのか、そそくさとその場を立ち去った。
「さて、お次はこいつらの死体の処分か……」
『ネクロマンサーとして活躍するのは久しぶりじゃの』
『まぁな。こいつらでひと暴れだぜ』
翌日の昼すぎごろ、王都にあるバロウズ商会の事務所は大混乱に陥った。
ニ十体余りのゾンビがいきなり事務所を襲撃して、何もかも滅茶滅茶に破壊して回ったのだ。ゾンビたちは夕方ごろには全て退治されたが、バロウズ商会の関係者に何人もの重傷者を出すことになり、しばらく休業せざるを得なくなった。
この騒動の原因について事情を悟った者は幾人もいたが、誰もそのことについて言及することはなかった。
「あの時逃げて正解だったな」
「だな……」
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