異世界ネクロマンサー

珈琲党

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36 簡易式のゴーレム

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 泥人形のゴーレムを試作してから、ずっと俺は考えを巡らせていた。

「失敗ではなかったが、成功とも言えないんだよなぁ……」

 ゴーレムにスケルトンやゾンビと同等の働きを求めようとすると、周囲の魔素を膨大に消費してすぐに行動不能になってしまう。やはり、泥人形では無理があるのか。
 いや、逆に考えたらどうだろうか……。

 そしてある時ふとひらめいた俺は、小さな木の板を相手に実験することにした。
 木の板には、俺の左手の紋様を刻み込んだ。この紋様が俺の力を増幅してるような気がするのだ。その紋様に向かって偽りの魂を吹き込んでやる。この時作った偽りの魂は、スケルトンやゾンビを作る時のものよりもずっと簡素なものをイメージした。
 それは魂というよりも、スマホにインストールされたOSのような、もっと言えば家電のマイコンに入っている制御プログラムのような、そんなごく簡単で小さなものだった。

「よし、魂が入ったぞ!」

 しばらくすると、紋様が青白く点灯して応答があった。

『……ますたー』

「おぉ! 一応ここまでは狙い通りだな。ではでは……」

 俺があれこれと実験をしていると、リサが工場から家に戻ってきた。最近は砂糖や酒の生産は抑えめにしているのだった。代わりに庭いじりに夢中になっている様子だ。

「イチロウ、木の板なんか見つめて、何やってるの?」

「この木の板はな、こう見えてもゴーレムなんだよ」

「えぇ!? ゴーレム? でも、手も足もないよ?」

「まぁな。コイツは機能を極限まで絞った簡易式のゴーレムだからな」

「かんいしき?」

「いろいろ省いて簡単に作ったってことだな。スケルトンたちみたいにあれこれ雑用はできないんだ。歩いたり、物を持ったりすらできない。でも機能をギリギリまで絞ってあるので、その分魔素もほとんど食わない」

「へぇ、それで何ができるの?」

「コイツはな、自分が見聞きしたことを記録できるんだ」

「えぇ!? 目も耳もないよ」

「そんなの、スケルトンたちだってないじゃないか。でも、ものも見えてるし聞こえている。連中は俺たちとは違ったふうに周りを把握してるんだよ。コイツも同じだ」

「そうだったのね……」

「それから、コイツはこれでも俺のしもべだから、俺と会話もできるし、他のスケルトンたちとも通信ができるんだぜ」

「へぇ~」

 リサは一応驚いてはいるが、まだその有用性に気が付いていないようだ。

「これと同じのを作って、行商人たちに持たせようと思ってる。新しい入場用の札としてな」

「ふぅん」

「最初に作ったこれは、お前が持ってろ。何かの時には、そいつに向かって話せば俺とつながるから」

「えぇ!? もしかして遠く離れてても、イチロウと話ができるってこと?」

「あぁそうだよ」

 そう、まさにスマホというかガラケーというか、そんな使い方ができるのだった。俺との通話はスケルトンたちを通してもできるが、これはもっと簡単に気軽に携帯できる。リサは早速家を出て畑の向こうまで走って行った。試してみるらしい。
 すぐに木の板のゴーレムから通信が入った。

『おい、聞こえるか?』

『うん、聞こえる! スゴイねこれ!』

 俺はゴーレムとテレパシー的なものでつながっているので、リサのビックリした顔も見えるしリサの周りの風景も見える。ついでに言うと匂いも分かるし位置も正確に把握できるのだ。

『だろ?』
 
 まぁ俺はゲートのスケルトンを通して訪問者とやり取りしてたし、スマホやインターホンの存在を知っているから新鮮味はないが、そういえばリサはこういうのは初めてなんだな。

『イチロウ、好きよ。チュッ』

『うわっ! なんだよ……。 分かったから、もう戻ってこい』


「もう! ちゃんとイチロウも返してよ!」

 俺が適当な返事をしたから、リサはプリプリ怒っている。

「お前なぁ。それは緊急用に渡したんだからな。しょうもないことに使うんじゃないよ」

「しょうもなくないのに!」

 直後に俺の脇腹に衝撃が走った。

「ぐぇぇ! やめろって!」

『フフフ……。夫婦喧嘩は犬も食わんというが、その通りじゃの』





 ということで、俺は出入りの行商人たちの入場用の札を回収して、代わりに新しく作った札型のゴーレムを渡していった。

「へぇぇ!? これぼんやりと光ってますね……」

 札を渡された行商人たちは、青白く光る紋様を指でなぞったりして、やたらと感心している。

「あぁ、それには魔力が込められているからな。まず偽造は出来ないし、盗難されてもすぐに分かるようになっている」

「すごいですなぁ。裏面に書かれてるのは何です?」

「それは一種の暗号だ。その札を識別するための名前のようなものだと思ってくれ」

 札の裏には行商人たちの名前をカタカナで書き込んである。この国の連中には呪文にしか見えないはずだ。

「ほぉぉ」

「出入りの時にこの札が要るから、失くさないようにしてくれよ」

 俺は通信ができることは彼らには黙っておくことにした。つまらない連絡が入っても面倒だしな。
 とにかく今後、行商人たちの見聞きするものが、ゴーレムを通じて俺に筒抜けになるわけだ。彼らは意味もなく裏切ったりはしないと思うが、何事も念には念を入れておかないとな。
 情報は力だ。特にこんな世界ではなおのことだ。
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