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55 アークメイジの実力
しおりを挟む行商人に貸し出したゴーレムは、全てハイプリーストにクラスチェンジしてある。
ハイプリーストは、鉄壁の絶対防御魔法と、完全回復魔法が使えるのだ。
単なる護衛としてなら十分以上の働きをするだろう。
ちょっと前に、行商人が山賊に襲われたことがあったから、そろそろこういう要望が出るだろうとは思っていた。王都周りのゴロツキどもなら、板ゴーレムの紋章で追い払えるが、俺のことを知らないよそ者だと効果がないしな。
ちょうどいいタイミングでゴーレムが出来上がっていたので、渡りに船という感じだったのだ。あまりあれこれと手を出すのは良くないが、俺としては新しいゴーレムたちを試したいという気持ちもあった。
護衛という用途なら、スケルトン・ビショップでもスケルトン・ニンジャでも問題なくこなせるだろうが、なにせスケルトンだからなぁ。行商人たちは見慣れているから抵抗はないだろうが、一般の領民たちはそうではないのだ。行く先々で騒動が起きるのは目に見えている。
一見すると人形にしかみえないゴーレムは、行商人たちのお供にはピッタリだろう。
行商人に貸し出したゴーレムは五体。
手元に残ったゴーレムのうち二体をハイプリーストに、三体をアークメイジにした。
俺としてはやはり、アークメイジの魔法の威力を確認しておきたいところだ。
「じゃあ、あの岩に向かって、崩壊の魔法を使って見てくれ」
俺は畑のわきにあったそこそこ大きな岩を指さす。重さは数トンはあるだろう。
前から邪魔だと思っていたが、移動させるのが面倒で放置していたものだ。
「……カシコマリマシタ、ますたー」
アークメイジはスッと手のひらを岩に向けると、すぐに手をおろした。
何の音もしないし、見た目も変化がない。
すると、そこに一陣の風が吹いた。
岩の側面からさらさらと砂が舞ったかと思うと、一気に岩全体が崩れ落ちたのだ。
岩のあった場所には、目の細かい砂の山が出来ていた。
「おぉぉ! すげぇなコレ」
『ほぉ、分子のつながりを断ち切ったわけじゃな』
魔法にうるさいクロゼルが感心している。
確かにスケルトンの魔法とはちょっと系統が違う珍しい魔法だろうな。
生き物に使ったらどうなるんだろう……。
まぁ、なんにしても邪魔な岩が片付いたのはありがたい。
「よし、じゃあ次は雷の魔法だ。向こうの木にぶつけてみろ」
「……カシコマリマシタ、ますたー」
アークメイジが目標の木の上空を指さす。
数秒後、木の真上に真っ黒な積乱雲が出現した。
待つことしばし。
ズゴゴォォン!
耳をつんざくような轟音とともに稲光が走り、木が真っ二つに裂けた。
その直後に木の周りだけに雨が降って、しばらくすると雲が消えた。
「ひぇぇ~! コイツ天候を操作したぞ! とんでもねぇな……」
『ふむ、発動までにやや時間がかかるが、威力は申し分ないのぉ』
「イ、イチロウ、雷が落ちたわ!」
工場で作業していたリサが飛び出してきた。
「すまん。さっきのはコイツの魔法だ。
木が一本倒れたが問題ない」
「もう! ビックリしたじゃない……。
でも、体は小さいのにスゴイ魔法を使うのね」
「あぁ、威力だけならウイザードよりも強力かもしれんぞ」
「ちょ、ちょっと! なんかスゴイ音がしたけど。なんなのよ?」
地下で寝ていたベロニカも起きてきた。
ピノッキオを胸に抱きかかえている。やっぱりペット扱いしてるらしい。
「わるい。コイツの魔法を試してみたんだよ。思っていたよりも強烈だった」
「なによ! いい夢見てたのに!」
「夢ぇ? お前は夢なんか見ないんじゃなかったのか?」
「うっ……。た、たとえよ。例え。それぐらいいい感じに寝てたの!」
「知らんよ。もう一回、寝直せばいいだろうが。
まぁなんにしても、コイツはとんでもねぇぞ。ちょっとした兵器だ」
陶器のゴーレムたちは粘土でいくらでも量産できるのだ。
百体ぐらい作れば、この国を征服できるかもしれない。
まぁ、そんな面倒くさいことは頼まれてもしないけど……。
『それはそれで面白そうじゃがな、フフフ……』
『嫌だよ。俺はのんびりと暮らしたいの!』
『せっかくの能力なんじゃ。お主はもっと野望を持たねばならんぞ』
『野望なんか食えないし。豊かで平和な生活の方が大事だよ』
『フフフ……』
「その子たちを増やすの?」
「そうだなぁ……。ちょっと強力すぎて、使いどころがわからん。
もうしばらく様子見したほうがいいかもしれん」
「そうね。わかった」
「もう、変な時間に起きたからお腹がすいたわ。なにか作りなさいよ」
ベロニカがまだブチブチ文句を言っている。
「しょうがねぇなぁ……。ちょっと早いが、晩飯にするか?
イノシシ肉がまだあったから、トンカツがいいかな」
「いいねぇ!」
揚げ物が好きなリサが賛成する。
「じゃぁ、それでいいわ。早く作りなさいよ」
コイツ……。
俺たちは手分けをして食事の支度を始めた。
「おい! ベロニカ、お前も手伝えよ。卵くらいは割れるだろ?」
「嫌よ。手が汚れるじゃないの」
「テメェ……。 じゃあそいつにさせるからな。
おいピノッキオ、お前が卵を割れ」
「ちょ、ちょっと。私の子に勝手に命令しないでくれる?」
「残念でした。マスターである俺様の命令が最優先なのだ」
「……カシコマリマシタ、ますたー」
「ほらな」
「ぐぬぅ……」
「だいたい、せっかくの労働力を使わないでどうするんだよ。
リサのチャッキーを見ろよ」
チャッキーはリサの指示を聞きながら、ちょこまかと動き回っている。
ベロニカに猫かわいがりされているピノッキオよりも、リサの手足として働いているチャッキーのほうがずっと動きが良い。チャッキーはリサの雑用をこなすだけで、クラスチェンジできるレベルに早くも達しているのだ。つまりリサがそれだけこき使っているってことでもある。
「ほら、揚がったぞ。冷めないうちに食え食え」
トンカツだけじゃなく、ニャガ芋やニンジンなんかの野菜もどんどん揚げていく。
「シャクシャク……。よく揚がってるわ、まぁまぁね。グビリ、ぷはぁ~」
ベロニカは起きてそうそう酒をぐびぐびやっている。
「むぐむぐ、おいひぃ!」
「うん、やっぱりトンカツには特製ソースが合うな」
リサお手製のソースの製法は俺も知らない。何かしらの魔法を使っているのでは、と思うほど様々なものに合うのだった。
リサならキューピーマヨネーズやカゴメのケチャップも再現できるかもしれない。塩、砂糖、卵、酢、油、トマト……、あらかたの材料はそろっているわけだからな。
「鹿肉のカツも揚げるか?」
「うん! どんどん揚げて!
今日は魔法たくさん使ったから、お腹空いてるんだ」
小さい体のいったいどこに入るのか、リサが凄い勢いで平らげていく。
ベロニカも黙々とリサに追従している。吸血鬼のベロニカは本来食事は必要ないが、食欲は残っているのだ。大酒を飲みながらリサ並みに食うのだった。
俺がこの中では一番少食なのかもしれない。
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