不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党

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17 幽霊を見た

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 俺たちが住んでいる市庁舎のすぐ近くには市立図書館がある。
 ここも庁舎と同じく頑丈な造りで、異界震の被害がほとんどなく、蔵書もおおむね無事な状態で残されていた。ネットが死んでいるこの世界では、やはり紙媒体の情報源は貴重だ。結局、非常時にはローテクが強いのだ。

 ホビットたちはここが結構お気に入りらしく、暇な時はここに来て本を眺めてすごすのだという。ほとんどのホビットは、日本語がまだ・・あまり読めないので、絵本や漫画、きれいな写真入りの図鑑が特に彼らには人気だ。

 恐ろしいことに、小学生レベルの日本語なら読めるようになったホビットもそれなりにいる。彼らは児童書や童話なんかを読んでいる。

「どうだ、面白いか?」

「はい、面白いです。
 なにより、こんな貴重なものを好きに読めて幸せです」

「そうか」

 彼らの世界では、本はまだ貴重なものだったらしい。
 印刷ではなく手書きで写されたもので、数も少なかったとか。
 そもそも読み書きできる者もそれ程多くなかったという。

「でも、お前たちは結構読み書きできるよな?」

「はい、それが不思議なんです。
 私もこちらに来る前は、自分の名前くらいしか読めませんでした。
 しかし、あの嵐で飛ばされている最中に、何かを見たんです」

 彼らが言うには、あの異界震に巻き込まれている最中、こちらの世界の言葉が頭に刷り込まれたというのだ。こちらに来た直後は良く分からなかったが、俺に会ってここで生活しているうちに、じわじわと思い出しつつあるということらしい。
 学習するというよりも、植え付けられた記憶を取り戻している感じだという。

「不思議なこともあるもんだなぁ」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 俺はドワーフたちに頼まれていた本を担いで鉱山にやって来た。
 彼らは引きこもり体質で、図書館まで出向くことは好まず、基本的にはずっと鉱山で作業していたいのだという。ということで、定期的に俺が注文を聞きに来たり、本を届けたりしてる。
 ドワーフたちが読むのは、主に機械関係の本、基本的な化学や電気関係の本も読む。彼らは根っからの技術屋らしい。

「ふむ、ホビットたちもそうか。わしらも同じような感じじゃな。
 あの時に何かがドッと頭の中に入って来たんじゃ。
 それを今少しずつ思い出しているような恰好じゃの」

「そういうことか。
 確かに文字をちゃんと教えた覚えはないんだよなぁ。
 俺たちのこの文字って、後から外国人が覚えるのは至難の業らしいぜ。
 それをいつの間にかスラスラ読んでるんだから、不思議だったんだよ」

「確かにの。かなり特殊な文字体系なのはよう分かるわぃ。
 それゆえに柔軟性があって、便利でもあるようじゃな」

 ドワーフもホビットたちも結構努力家なので、下手すると俺が、この世界の知識で置いていかれるかもしれない。もともと俺は凡人だったから、十分にありえるな。



 ドワーフの鉱山を出て庁舎に帰る途中、不思議な妖魔に遭遇した。
 たいていの妖魔は攻撃的で、なにかしらの殺気をまとっているので、すぐに察知できるのだが、それは違った。
 目の前に突然現れたような感じがした。そいつは目の前にあっても、現実味がなく、出来の悪いホログラム映像のような感じだった。
 全体的にノイズがはいったようなザラザラした肌合いの、人のような何か。

「幽霊……なのか?」

 この体になって恐怖をあまり感じなくなったせいか、それを冷静に分析できた。
 ただただ不思議で、ジッと観察していると、唐突にそれは消えた。

「あっ、消えた」

 何がなんだかわからず、マヌケなことを言う。
 ともかく、危険は感じなかった。やっぱりただの幽霊なのかもしれん。


 後日、ドワーフやホビットたちに訊くと、やはり彼らの中の何人かは、あれを見たことがあるらしい。彼らもあれに襲われるようなことはなく、しばらくすると消えたという話だった。
 鉱山や森が突然飛ばされてくることに比べれば、ささいなことだったが、妙にひっかかる現象だ。俺はしばらくの間、なるべく注意深く周りを見渡すようにしていたが、そのうちそのこと自体を忘れた。









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