不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党

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28 魔法使い

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 ジャンヌにもその日記を見せてみた。
 ちなみにジャンヌは、俺のところに来た当初から日本語が読めていた。本人もひどく不思議がっていたが、もともと本人が持っている教養が関係しているのではないかと思う。素養が高いほど習得が早いのだろう。ホビットよりも、ドワーフの方がはるかに早く日本語が読めるようになってたしな。


「ふぅむ、これは興味深い。この日付なんだが、そもそも今はいつなのだろう。
 この日記が書かれてから、どれくらいの年月が流れたのだ?」

「俺も実は良く分からないんだ。
 あくまでも俺の勝手な推測だが、だいたい五十年くらいは経ってると思う」

 電波時計を動かしているが、いまのところ日時が補正される様子はない。電波の発信基地がやられているのかもしれない。

「五十年か……、とするとこの日記の主も、もうこの世にはいないかもな。
 ここに書かれている避難所はどの辺りにあるんだろうか」

「隣の県としか書かれてないからな……」

 隣と言っても一つだけではなく、三つもある。その県のどの街にあるのかも分からない。むやみに探しに行っても、無駄足になる可能性が高いだろう。

「俺としては、場所が分かっている大学の方を先に調べたいんだが」

「確かにそうだな。その大学は近いのか?」

「おおよそ、馬で半日ってところかな」

「私もそこへ連れて行ってもらえないだろうか?」

 できれば彼女には留守番を頼みたかった。俺の留守中に何かあっても嫌だしな。とはいえ、出先で調査するなら、人手があった方が良いのも確かだ。

「分かった。手伝いを頼む」

「承知した!」


 俺たちは日記に書かれていた某大学へ向かうことにした。
 それほど遠くはないが、ポチ達魔狼の縄張りの外になってしまう。
 今回はポチを連れていかずに、ホビットたちの護衛を任す。

「ちょっと気になる所があるので調べてくる。
 二日ほど留守にするから、あとを頼む」

「「「はい、領主様!」」」

「じゃぁポチ、彼らのことを頼んだぞ」

「わふわふ!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 俺たちは夜明け前に出発した。
 ジャンヌはサファイア号に騎乗し、俺は靴にダメージが出ない程度の、ほどほどの速度で並走する。

「ブラドは疲れないのか?」

「これくらいなら全く疲れない」

「そうなのか。なっ、なんならタンデムでも良いのだが……」

「サファイア号が疲れてしまうだろ」

 この調子なら、おおよそ二時間で着くが、領地の外は道の状態が悪いだろうから、その倍はかかると予想する。久しぶりの小旅行だ。気を引き締めていかないとな。

 最終兵器のヤツメウナギは邪魔になるので置いてきた。あれが必要な大型の妖魔がいたら逃げるつもりだ。今回は調査が目的で、なるべく戦闘はしたくない。ジャンヌは戦いたがるだろうが……。


 約五時間後。まだ午前中といえなくもない時刻。
 俺たちは大した苦労をすることもなく、某大学のキャンパスにいた。

「問題はここからだな」

 あの日記には、大学のどの研究室で怪しい研究が行われていたのか書かれていなかった。週刊誌の記事も同様だった。
 学部ごとに全然違う場所にあるタイプの大学だと、ちょっと面倒くさかったが、幸いにして一つのキャンパス内に全部揃っているタイプだった。もちろん棟は違うが、それでもだいぶマシだ。

「普通に考えると理科系だとは思うが……」

 俺たちはまず、理学部や工学部の棟を丹念に調べて回った。施錠されたドアもあったが、今の俺にはそんなもの関係ない。ノブごとねじ切って解錠すればいいのだ。
 しかし、どこも無人で何かが行われている形跡すらない。どこもかしこもうっすらとホコリがつもり、ネズミ一匹出入りした気配もなかった。
 電源は全て落ちているし、そんな中で動き続けている装置など何もなかった。

 俺たちは考えるのをやめて、端から順に全ての棟を見て回ることにした。
 あちらの棟からこちらの棟へ、ひたすら機械的に調べていく。

 とある棟の前に立った時に、奇妙な違和感を感じた。確かに目の前に建っているのに、何か現実味を感じない。

「ジャンヌ、何か感じるか?」

「妙な感じがする。ここにあるのに、無いように感じる。だまし絵の様だ。
 うっかりしていると、この建物ごと見落としかねないな」

 ともかく俺たちは、その棟の中へ入り、順番に部屋を確認していくことにした。
 俺の超感覚が訴えている。ここには精神操作系の魔法がかけられていると。

 しかし、そんなものはバンパイアの俺にはほとんど効果がないのだった。若干の違和感を覚える程度だ。ジャンヌも騎士として鍛えられているせいか、この種の魔法には強いらしい。そういえば、彼女もサラの術にもはまらないしな。

 ある部屋の前で俺たちは立ち止まった。ここが怪しい。

『〇〇超心理学研究室』

 施錠されていたドアをぶち壊して中へ入る。
 一般的なウナギの寝床タイプの細長い部屋だ。左右の壁には本棚がずらりと並び、突き当りには窓。大き目の机と椅子が、窓を背にするようにこちら向きに置かれている。

 変わっているのは床の装飾だ。ごく普通のリノリウムの床に、赤くぼぉっと光る線で描かれた、いわゆる魔法陣がある。中心には黒い石のようなものが置かれている。

「オカルト的なやつか?」

「なんと面妖な……」


 ふと視線を上げると、誰もいなかったはずの部屋の奥、机の向こう側の椅子に一人の老人が腰かけていた。俺の超感覚をもってしても、気づくことができなかった。
 こいつは人間じゃないな。

「なにぃ!?」

 ジャンヌが驚きのあまり声を上げる。
 その老人は落ち着き払った声で言った。

「ノックが無かったようだが、まぁ、いいとしましょう。
 それで、何の用だね?」

「これは失礼。人がいるとは思わなかったもので。
 ちょっとした噂があって、調査に来たんだ」

「なるほど、調査ですか……。
 私は異世界の友人たちと、ただ話をしていただけなんですが」

「へぇ、どんな話?」

「彼らがどうしても、こちらに出てきたいというのです」

 彼らって、まさか悪魔とか、そういうものだろうか。
 ジャンヌは息を呑んで、俺たちの会話を聞いている。

「私は彼らの言うとおりに儀式を行いました」

「まさか、それであの災害が起きたのか?」

「災害? それはいったい何のことでしょうか?
 私は幾度も幾度も、儀式を試みましたが、結局は成功しませんでした。
 彼らはこの世界に適合できなかったのです」

 その老人はふぅっとため息をついた。

「それは残念だったな。それで、今は何をしているんだ?」

「私はあきらめきれませんでした。
 そして、私はこの身を魔術に捧げることにしたのです!」

 穏やかだった老人の顔つきが、突然邪悪なものに変わった。

「力の代償として良心を奪われた私はながらく
 リミット技の研究成果が生み出す魔王軍最大最強の魔神を行動に移していたが、  一万年の夢の終わりに自分を見失う世界へのロダンを開いたのだ!」

「……なるほど」

 よくわからんが、暗黒面に堕ちたのだろう。

「おい、ブラド。何かマズい気がするぞ」

 ジャンヌはロングソードを抜いて身構える。
 俺の勘もジャンヌと同じく危険を察知していた。

「魔導院では幻の0組に所属する私の邪魔を……
 破滅へ導くと言葉にすると陳腐になるのだ……それを人類が望むのなら、
 死ここにあり……たとえ力及ばずとも戦うのみ剣が折れ矢が尽きても闘うため!
 拳は最強の武器ではなく最後の武器なのだ!」

 話の意味は良く分からんが、とにかく激おこのご様子だ。

「とくと味わえ!
 最も恐ろしく忌々しい人間の闇の具現化のその血の運命さだめ
 紅蓮の炎で生き別れた弟の兄が魂の器を焼くがよい」

 奴は左手を伸ばして、俺を指さした。
 指先から真っ赤に燃えた火球が出現し、俺をめがけて飛んできた。

「うわっ!」

 俺は突然の魔法攻撃に慌てつつも、なんとか火球をかわす。
 ぼふっと音を立てて本棚を突き破り、その奥のコンクリートの壁にも穴が開く。
 なんといういかさま能力か。
 ジャンヌが叫ぶ。

「ブラド、そいつはリッチだ! 魔法使いのなれのはてだぞ。気を付けろ!」

 なるほど、そういう奴がいるのか。
 
「現在を幻想に変えし行為、と預言書にも記されている。消え去れ!」

 奴がまた俺に左手を伸ばす。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 俺は一気に距離を詰めて、奴の脳天めがけてロングソードを振り下ろした。
 ロングソードの切っ先が音速をはるかに超え、ゴォンと音を立てる。
 火球を飛ばす前にぶった斬ってやる。成仏しろ!

 その刹那、奴が謎の呪文を呟く。

「キンキンキンキンキン!」

 ロングソードがキィンと音を立てて弾かれ、勢い余って床に食い込んだ。

「えぇっ!?」

 あまりの奇妙さに、俺はただ驚くしかなかった。
 すかさずジャンヌも間合いを詰め、得意の突きを奴に放つ。しかし、

「キンキンキンキンキン!」

 ジャンヌの剣もキィンと音を立てて弾かれるのだった。

「なんだと……」

「本当の私は……誰なのかな? 魔導窮理終末の開宴など。
 誰よりも愚か……しかしそれ故に誰よりも賢いなり」

 こいつはマズい。
 俺たちは一旦距離を取って、奴と向かい合う。
 何を言ってるのかは分からんが、手練れの魔法使いなのは確かだ。

 いったいどうすれば……。
 ふと魔法陣の中心に置かれた黒い石が気になる。

「もしかして、こっちが本体とか?
 ジャンヌ、その石を攻撃しろ!」

「人間の憎しみを喰らう私の核晶コア……まだそう呼ばれていた時代……
 ……それに、私はただ……ここから見ているしかない」

「うぉぉぉぉ!」

 ジャンヌがその石にロングソードを叩き込み、一刀両断した。
 バガッ!

「なぜかつて不死狩りに家族を奪われた私の最終形態がわかった。
 それとも感情に任せて私を殺しますか?」

 椅子に座っていたリッチがフッと姿を消す。
 床の魔法陣の赤い光も、次第に暗くなりやがて消えていった。
 ブツンと小さな音がすると、いままで頭の中にあった違和感が消えた。
 たぶんこれで大丈夫。

「とにかく疲れたな……」

「ハァハァ……同感だ」


 詳しいことは良く分らないが、リッチの怪しいたくらみは阻止できたようだ。
 念のために他の部屋も調べてみたが、特に何も見つからなかった。
 俺たちは念のためにそこで一日過ごし、翌日我が家に帰った。






※ノムリッシュ翻訳を利用しました
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