37 / 53
37.マジック・ミラー
しおりを挟む
小屋に帰ってきたエミリア嬢とルイーズ嬢は、部屋に入ったところで立ち止まってまわりを見回した。
「この光る網のようなものは、なんだい?」
そっか、ルイーズ嬢たちが出ていったときは、色はつけてなかったもんな。アルバートが、これは防音壁だって説明した。
「こんなふうに光ってる防音壁は初めてみたよ」
「防音魔法の範囲を感知できないバカぞろいだからな。わざわざ目に見えるようにしてやるという、無駄な手間をとらされた」
「なるほど、境界に色をつけたわけだ」
会話ができるように、俺たちとアルバートは防音壁の外にいた。ルイーズ嬢が、何気なく境界を越えようとする。
「待て、おまえは入るな。箒スズメだけだ」
「えっ、わたしですか。あの、なぜ……?」
エミリア嬢の疑問にアルバートが答えようとしたけれど、そのまえに彼女の名前が呼ばれた。いまだ足元のおぼつかないオードリー嬢が、防音壁の内側から出てきたんだ。
「エミリア。なにもきかず、アルバートさまのことを信じて」
「はい!? ええと、わたし、そもそもアルバートさまのことを疑ったりしてませんがっ」
「これが終わったら、わたくしからあなたに話すことがあるの。だから、どうかそれまではアルバートさまの言われたとおりにして。お願いだから」
とりつくろう気力も体力もないのか、オードリー嬢が必死に言いつのる。口調も、それが素なのか、少し砕けてる。エミリア嬢は、頭まで下げそうな彼女にたじろいで、あたふたしながら「わっわかりましたっ」とうなずいた。
気力を使いきったのか、オードリー嬢はいまにも倒れそうだ。アルバートが、そんな彼女をさっきまで自分が座っていた窓際の椅子にエスコートする。
俺はルイーズ嬢に、絶対に防音壁の中に入ってこないようにって注意をした。
「わざわざ邪魔なんかしないさ。なにをするのか知らないけど、安心してやっておくれ」
ルイーズ嬢は、いろんなことをうすうす察してるんだろう。それでも俺が解呪してるところをみせてしまって、「お察し」を「事実」にはしたくない。
防音壁の内側に入ると、エミリア嬢はさっきオードリー嬢がいた椅子に座ってた。
「エミリア嬢、これからすることは、アレにかかわっている」
「あれ、ですか? なんでしょう……?」
「今年の夏茶会で騒動があったね。それにまつわる、大変困るアレだ」
「呪いですか!? わたし、やっぱり呪われてしまったんでしょうかっ」
エミリア嬢が呪われてないのは、この反応だけでわかる。呪われた人間は、自分がどういう状態なのかを嫌でも自覚せざるをえない。逆にいえば、自分が呪われてるかどうかわからないっていうことは、グラン・グランの呪いにかかってないってことだ。
当事者だったら、「呪い」っていう単語だって口にしたくないだろう。
「チュンチュンわめきたてるな、耳がつぶれる」
「で、でも、もし呪われてるなら……わたしのいまの状態が呪いのせいなら……っ」
「おまえにできることはなにもない。いや、一つある。黙っていろ」
まちがった想像で不安にさせるより、さっさと終わらせたほうがいいよね。
防音壁の見え方を、また変えた。壁の外にいるオードリー嬢とルイーズ嬢が、ぎょっとしたみたいにこっちに顔を向ける。光の反射と透過をいじって、防護壁の表面を鏡みたいにして、内側をみえなくしたんだ。でも、こっちからは向こうが普通に見える。
「防音壁の音の伝わり方とおなじようなものか」
壁の見え方をアルバートに説明したら、そういわれた。うーん、内側から外側の情報はとれるけど逆は無理っていう効果だけをみると、そうともいえるのかな。原理はまったく違うんだけどね。
エミリア嬢の意識を奪ったら、アルバートがあわてて彼女の肩をつかんだ。
「眠りの魔法だな。事前に言ってくれよ」
「さっきも見ていただろうが。予測しろ」
エミリア嬢の魔法紋は、左の二の腕の内側にあった。隣に座って、彼女の魔法紋を手のひらで包む。
保護鍵は五分で開いた。彼女の鍵は、「金、銀、白金」の古イスヴェニア語だった。
俺の魔力を送りこんで、接触をはかる。
エミリア嬢の魔力量は、レベル三まで充分に使えそうなくらいあった。ものすごく細い魔力の筋が上半身、とくに両腕に大量に伸びている。細かい魔法をよく使ってるんだろうな。属性は火が主で大気もいけて、ほんの少しだけ土も使えそうだ。
「なんだ、ちっぽけな魔術式だな!」
グラン・グランの魔術式はすぐみつかった。予想では、エミリア嬢がオードリー嬢に「似る」ための指示がたくさんあるんじゃないかと思ってたんだ。だけどこの魔術式は、「特定の指令を受けたら、その通りに発動する」っていうだけのものだった。
なるほどな。オードリー嬢にからみついてた魔術式は、エミリア嬢が彼女の「どの部分」に「どのよう」に「どの程度」まで「同一になる」のかが細かく指示してあった。その情報をまとめてエミリア嬢に送る指令もあった。だからエミリア嬢のほうには、送られた情報を「実行しろ」っていう魔術式さえあればいいんだ。
頭いいな! それに汎用性がある。
おなじように他人に影響する呪いがあっても、呪いごとに違う魔術式を書かなくていい。元の呪いで条件を設定すれば、相手のところで発動させるための魔術式はおなじものが使える。それに魔術式は簡単な構造であればあるほど誤発動の可能性が減るし、本人への負担や影響が少なくなる。
量の少ない魔術式だったから、特定して消去するのは難しくなかった。
それから念入りに探ったけど、こっちに緑の小鬼はいなかった。よかった。またブスブス攻撃を受けたら、神経を削られるところだった。
「この程度か。ものたりん」
楽でよかったっていう本音とは逆の悪態をついてしまう。
エミリア嬢からグラン・グランの魔術式を取り除く。魔力接続を切って、目を開ける。
最初に見えたのは、アルバートの背中だった。
なんだか部屋が騒がしい。
「あなたと話すことなどありませんわ!」
「ほう。そんな言い逃れ、裁判所で通用するでしょうかね」
どうした、物騒な単語が聞こえてきたぞ。
アルバートはテーブルをはさんだ向こう側で、俺とエミリア嬢を守るように身構えてる。なにが起きてるんだって隣に行ったら、オードリー嬢が扉をはさんで言い合ってた。
「そもそもここはオレの家です。扉に鍵をかけて立てこもるなんて、非常識きわまりない真似はやめてくださいよ」
「ここはチャップマン男爵の家で、この小屋はエミリアが男爵から借り受けたものです。三男であるあなたの持ち物ではありませんわね」
「くっ。エミリア! そこにいるんだろう、なぜ黙ってる。扉を開けろ、この役立たずが!」
わあ、外の怒鳴り声には聞き覚えがあるなぁ。エミリア嬢のお兄さんのロバートだ。この人、俺が誰かと魔力接続するたびに、部屋に入れろって騒動を起こさないと気がすまないのか?
オードリー嬢が扉越しに会話してるのは、人をここに入れられないからだ。俺が邪魔するなって言ったのもあるけど、防音壁が鏡みたいになっちゃってるからな。部屋の中央に巨大な半円形の鏡があったら、おかしいし怪しいだろう。
眼鏡をかけて護衛の格好になってるアルバートが、状況を簡単に説明してくれた。
「起きたか、ノア。君とエミリア嬢が意識を失ってから、三〇分もたっていない。五分くらい前にロバートが外に来て、オードリー嬢に会わせろといいだした。みなには、ノアの魔法がかかってるから私か君以外は扉を開けられないと教えてある。いまは、彼を追い払おうとしている最中だ」
「箒スズメの処置は終わった。完璧にな。煩わしければ、あのクズを入れても問題ない」
早いな、ってアルバートが驚いた。そして、「だが『天輝夜の女神』はどうする?」って訊かれた。
天輝夜の女神ってなんだっけ。そうだ、ロバートが女版の俺をみてそう呼んでたな。
「先に帰ったとでも言え、ボンクラ」
「彼は、女神さまにずいぶん執着しているようにみえた。エミリア嬢の友だちが屋敷から帰ったかどうかを、確認しているかもしれない。それは、まあ、なんとか言いくるめるとしてもだ。このあとノアが護衛のふりをするなら、彼と話してはいけない」
なるほど、それはそうだ。なにを言っても、ロバートにケンカを売ることになるだろうからね。そう返したら、それだけじゃないってアルバートは首を横に振った。
「ノアの口調は、その、独特だろう。だから、さっきの『天輝夜の女神』と似ていると思われたら厄介だ」
あー、そういう心配もあるか。それにロバートは短気っぽいから、俺につかみかかってきて眼鏡が外れでもしたら大変だ。色違いだし男だけど、素顔はあの女神とやらだからな。さっきのワンピース女神はどうした、俺とどんな関係だって騒がれたら面倒だ。
護衛の俺がおとなしくしていれば、やりすごせるかもしれない。でもロバートが俺にからんできたら、どうなるかわからない。危険性が少ない方法をとったほうがいいんだろうなぁ。
「箒スズメ、起きろ。犬にも劣るおまえの兄が来たぞ」
睡眠魔法を解くと、エミリア嬢が目をこすった。大丈夫そうなのを確認してから、俺は眼鏡をかけて防音壁とすべての防護魔法を解除した。
「ひ、ひょえええっ!?」
エミリア嬢の悲鳴が部屋中に響きわたる。なにごとかとこっちを見たオードリー嬢とルイーズ嬢が、顔を引きつらせた。
「なっ、あなた、えっ?」
「きみ……まさか……ノアくんか?」
「とんだ愚問だな! 俺は、俺以外の何者でもない。この至高の位置には、何人たりともたどり着くことはできない」
「あ、たしかにノアくんだ。……君たち、人目を忍んで三人でなにしてたのさ」
なんにもしてないよ! いや、エミリア嬢からグラン・グランの魔術式を引きはがしたけどね。でもルイーズ嬢の言い方だと、いかがわしいことをしてたみたいにきこえるじゃないか。
俺が白黒反転してワンピース姿になったことと、三人で防音壁の中にいたことは関係ない。だけどそれを説明するには、オードリー嬢の名誉と最初のロバートの乱入から話さなきゃいけない。長くなるし、いまそんな時間はないしって悩んでたら、さっさと扉が開いてしまった。
「なんだ、いまの声は! やっぱりエミリアがいるんだな。おまえ、早く扉を……うわあっ!?」
力任せに扉を押してたんだろう。魔法が解かれた扉はあっさり開いて、表で騒いでたロバートが転がりこんできた。
「この光る網のようなものは、なんだい?」
そっか、ルイーズ嬢たちが出ていったときは、色はつけてなかったもんな。アルバートが、これは防音壁だって説明した。
「こんなふうに光ってる防音壁は初めてみたよ」
「防音魔法の範囲を感知できないバカぞろいだからな。わざわざ目に見えるようにしてやるという、無駄な手間をとらされた」
「なるほど、境界に色をつけたわけだ」
会話ができるように、俺たちとアルバートは防音壁の外にいた。ルイーズ嬢が、何気なく境界を越えようとする。
「待て、おまえは入るな。箒スズメだけだ」
「えっ、わたしですか。あの、なぜ……?」
エミリア嬢の疑問にアルバートが答えようとしたけれど、そのまえに彼女の名前が呼ばれた。いまだ足元のおぼつかないオードリー嬢が、防音壁の内側から出てきたんだ。
「エミリア。なにもきかず、アルバートさまのことを信じて」
「はい!? ええと、わたし、そもそもアルバートさまのことを疑ったりしてませんがっ」
「これが終わったら、わたくしからあなたに話すことがあるの。だから、どうかそれまではアルバートさまの言われたとおりにして。お願いだから」
とりつくろう気力も体力もないのか、オードリー嬢が必死に言いつのる。口調も、それが素なのか、少し砕けてる。エミリア嬢は、頭まで下げそうな彼女にたじろいで、あたふたしながら「わっわかりましたっ」とうなずいた。
気力を使いきったのか、オードリー嬢はいまにも倒れそうだ。アルバートが、そんな彼女をさっきまで自分が座っていた窓際の椅子にエスコートする。
俺はルイーズ嬢に、絶対に防音壁の中に入ってこないようにって注意をした。
「わざわざ邪魔なんかしないさ。なにをするのか知らないけど、安心してやっておくれ」
ルイーズ嬢は、いろんなことをうすうす察してるんだろう。それでも俺が解呪してるところをみせてしまって、「お察し」を「事実」にはしたくない。
防音壁の内側に入ると、エミリア嬢はさっきオードリー嬢がいた椅子に座ってた。
「エミリア嬢、これからすることは、アレにかかわっている」
「あれ、ですか? なんでしょう……?」
「今年の夏茶会で騒動があったね。それにまつわる、大変困るアレだ」
「呪いですか!? わたし、やっぱり呪われてしまったんでしょうかっ」
エミリア嬢が呪われてないのは、この反応だけでわかる。呪われた人間は、自分がどういう状態なのかを嫌でも自覚せざるをえない。逆にいえば、自分が呪われてるかどうかわからないっていうことは、グラン・グランの呪いにかかってないってことだ。
当事者だったら、「呪い」っていう単語だって口にしたくないだろう。
「チュンチュンわめきたてるな、耳がつぶれる」
「で、でも、もし呪われてるなら……わたしのいまの状態が呪いのせいなら……っ」
「おまえにできることはなにもない。いや、一つある。黙っていろ」
まちがった想像で不安にさせるより、さっさと終わらせたほうがいいよね。
防音壁の見え方を、また変えた。壁の外にいるオードリー嬢とルイーズ嬢が、ぎょっとしたみたいにこっちに顔を向ける。光の反射と透過をいじって、防護壁の表面を鏡みたいにして、内側をみえなくしたんだ。でも、こっちからは向こうが普通に見える。
「防音壁の音の伝わり方とおなじようなものか」
壁の見え方をアルバートに説明したら、そういわれた。うーん、内側から外側の情報はとれるけど逆は無理っていう効果だけをみると、そうともいえるのかな。原理はまったく違うんだけどね。
エミリア嬢の意識を奪ったら、アルバートがあわてて彼女の肩をつかんだ。
「眠りの魔法だな。事前に言ってくれよ」
「さっきも見ていただろうが。予測しろ」
エミリア嬢の魔法紋は、左の二の腕の内側にあった。隣に座って、彼女の魔法紋を手のひらで包む。
保護鍵は五分で開いた。彼女の鍵は、「金、銀、白金」の古イスヴェニア語だった。
俺の魔力を送りこんで、接触をはかる。
エミリア嬢の魔力量は、レベル三まで充分に使えそうなくらいあった。ものすごく細い魔力の筋が上半身、とくに両腕に大量に伸びている。細かい魔法をよく使ってるんだろうな。属性は火が主で大気もいけて、ほんの少しだけ土も使えそうだ。
「なんだ、ちっぽけな魔術式だな!」
グラン・グランの魔術式はすぐみつかった。予想では、エミリア嬢がオードリー嬢に「似る」ための指示がたくさんあるんじゃないかと思ってたんだ。だけどこの魔術式は、「特定の指令を受けたら、その通りに発動する」っていうだけのものだった。
なるほどな。オードリー嬢にからみついてた魔術式は、エミリア嬢が彼女の「どの部分」に「どのよう」に「どの程度」まで「同一になる」のかが細かく指示してあった。その情報をまとめてエミリア嬢に送る指令もあった。だからエミリア嬢のほうには、送られた情報を「実行しろ」っていう魔術式さえあればいいんだ。
頭いいな! それに汎用性がある。
おなじように他人に影響する呪いがあっても、呪いごとに違う魔術式を書かなくていい。元の呪いで条件を設定すれば、相手のところで発動させるための魔術式はおなじものが使える。それに魔術式は簡単な構造であればあるほど誤発動の可能性が減るし、本人への負担や影響が少なくなる。
量の少ない魔術式だったから、特定して消去するのは難しくなかった。
それから念入りに探ったけど、こっちに緑の小鬼はいなかった。よかった。またブスブス攻撃を受けたら、神経を削られるところだった。
「この程度か。ものたりん」
楽でよかったっていう本音とは逆の悪態をついてしまう。
エミリア嬢からグラン・グランの魔術式を取り除く。魔力接続を切って、目を開ける。
最初に見えたのは、アルバートの背中だった。
なんだか部屋が騒がしい。
「あなたと話すことなどありませんわ!」
「ほう。そんな言い逃れ、裁判所で通用するでしょうかね」
どうした、物騒な単語が聞こえてきたぞ。
アルバートはテーブルをはさんだ向こう側で、俺とエミリア嬢を守るように身構えてる。なにが起きてるんだって隣に行ったら、オードリー嬢が扉をはさんで言い合ってた。
「そもそもここはオレの家です。扉に鍵をかけて立てこもるなんて、非常識きわまりない真似はやめてくださいよ」
「ここはチャップマン男爵の家で、この小屋はエミリアが男爵から借り受けたものです。三男であるあなたの持ち物ではありませんわね」
「くっ。エミリア! そこにいるんだろう、なぜ黙ってる。扉を開けろ、この役立たずが!」
わあ、外の怒鳴り声には聞き覚えがあるなぁ。エミリア嬢のお兄さんのロバートだ。この人、俺が誰かと魔力接続するたびに、部屋に入れろって騒動を起こさないと気がすまないのか?
オードリー嬢が扉越しに会話してるのは、人をここに入れられないからだ。俺が邪魔するなって言ったのもあるけど、防音壁が鏡みたいになっちゃってるからな。部屋の中央に巨大な半円形の鏡があったら、おかしいし怪しいだろう。
眼鏡をかけて護衛の格好になってるアルバートが、状況を簡単に説明してくれた。
「起きたか、ノア。君とエミリア嬢が意識を失ってから、三〇分もたっていない。五分くらい前にロバートが外に来て、オードリー嬢に会わせろといいだした。みなには、ノアの魔法がかかってるから私か君以外は扉を開けられないと教えてある。いまは、彼を追い払おうとしている最中だ」
「箒スズメの処置は終わった。完璧にな。煩わしければ、あのクズを入れても問題ない」
早いな、ってアルバートが驚いた。そして、「だが『天輝夜の女神』はどうする?」って訊かれた。
天輝夜の女神ってなんだっけ。そうだ、ロバートが女版の俺をみてそう呼んでたな。
「先に帰ったとでも言え、ボンクラ」
「彼は、女神さまにずいぶん執着しているようにみえた。エミリア嬢の友だちが屋敷から帰ったかどうかを、確認しているかもしれない。それは、まあ、なんとか言いくるめるとしてもだ。このあとノアが護衛のふりをするなら、彼と話してはいけない」
なるほど、それはそうだ。なにを言っても、ロバートにケンカを売ることになるだろうからね。そう返したら、それだけじゃないってアルバートは首を横に振った。
「ノアの口調は、その、独特だろう。だから、さっきの『天輝夜の女神』と似ていると思われたら厄介だ」
あー、そういう心配もあるか。それにロバートは短気っぽいから、俺につかみかかってきて眼鏡が外れでもしたら大変だ。色違いだし男だけど、素顔はあの女神とやらだからな。さっきのワンピース女神はどうした、俺とどんな関係だって騒がれたら面倒だ。
護衛の俺がおとなしくしていれば、やりすごせるかもしれない。でもロバートが俺にからんできたら、どうなるかわからない。危険性が少ない方法をとったほうがいいんだろうなぁ。
「箒スズメ、起きろ。犬にも劣るおまえの兄が来たぞ」
睡眠魔法を解くと、エミリア嬢が目をこすった。大丈夫そうなのを確認してから、俺は眼鏡をかけて防音壁とすべての防護魔法を解除した。
「ひ、ひょえええっ!?」
エミリア嬢の悲鳴が部屋中に響きわたる。なにごとかとこっちを見たオードリー嬢とルイーズ嬢が、顔を引きつらせた。
「なっ、あなた、えっ?」
「きみ……まさか……ノアくんか?」
「とんだ愚問だな! 俺は、俺以外の何者でもない。この至高の位置には、何人たりともたどり着くことはできない」
「あ、たしかにノアくんだ。……君たち、人目を忍んで三人でなにしてたのさ」
なんにもしてないよ! いや、エミリア嬢からグラン・グランの魔術式を引きはがしたけどね。でもルイーズ嬢の言い方だと、いかがわしいことをしてたみたいにきこえるじゃないか。
俺が白黒反転してワンピース姿になったことと、三人で防音壁の中にいたことは関係ない。だけどそれを説明するには、オードリー嬢の名誉と最初のロバートの乱入から話さなきゃいけない。長くなるし、いまそんな時間はないしって悩んでたら、さっさと扉が開いてしまった。
「なんだ、いまの声は! やっぱりエミリアがいるんだな。おまえ、早く扉を……うわあっ!?」
力任せに扉を押してたんだろう。魔法が解かれた扉はあっさり開いて、表で騒いでたロバートが転がりこんできた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー
みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。
魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。
人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。
そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。
物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる