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45.職人の矜持

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 エミリア嬢のデザイン帳には、輪になって流れる金色の波と泡が描かれていた。
 俺には、そんなふうに見えた。
 うねる金の細い筋が、打ち寄せる波や川を思わせる。その流れがあちこちで跳ねて、丸い泡をたくさん生んでる。泡には色とりどりの宝石がはめこまれてた。宝石の色は泡の先が一番濃くて、下にいくにつれ同系色で薄い色が使われてるから、先端のきらめきが溶けて水を七色に染めてるみたいだ。
 これ、冠だ。
 台座が波で、ポンポンわきたつ泡が飾りになってる。せせらぎや水の跳ねる音が聴こえてきそうで、見てると気持ちがはずんでくる。これを描いた人自身が、心から楽しんで意匠したのが伝わってくる。

「初めて見るわ」
「はい。誰にも、オードリーさまにも見せたことがありません」

 エミリア嬢の指先が、描かれた冠のかたちをたどる。

「ウーンデキム祭のことをきいたとき、最初にわたしが作りたいと思ったのはこの冠でした」

 エミリア嬢がくちびるを噛む。

「でも、無理なんです。わたしの技術では、これを作れない。だから杯の案を出しました。もしわたしに職人の矜持があるとすれば、それはこの画です。生み出してあげたいのに、わたしの未熟さのせいで、どうにもできない。それが悔しくてたまりません」

 エミリア嬢が矜持を賭けるのは、名誉にじゃなくて彼女の頭の中にある図案を作り上げることになんだな。そして矜持が傷つけられるのは、技術が足りなくて図案が図案のままで終わってしまうことにだ。

「誰か、作れる人がいるなら……」

 頭の中の案が日の目をみないくらいなら、自分じゃなくてもいいから誰かにこの宝飾品を作ってほしい。そういう考えだから、エミリア嬢はロバートに盗作されてもあまりこだわらないんだろう。
 オードリー嬢は、冠のデザイン画をじっとながめてる。

「エミリア、この冠を作るためにできないことは、なに?」
「ほとんど全部です。たとえば……ええと……」

 説明しようとしたエミリア嬢だけど、すぐにことばにつまってしまった。どう言えばいいのかって頭をかしげてる。彼女は作業部屋に行くと、引き出しを開けて十五シーエムほどの長さの赤味がかった長方形の金属を取り出した。

「本当は金を使うんですけど、練習なので銅でやります」

 作業部屋の窓側にある石の長机に銅の棒をおくと、エミリア嬢がその前に座る。俺たちは彼女をかこむように立った。
 エミリア嬢が、銅の棒を上から両手で包んだ。

「火魔法よ。わたしにできる限りの高温で、わたしが望む限りの時間、両手に留まりなさい。発動」

 レベル一の火魔法の呪文だ。ただし漠然と火を燃やすとかじゃなくて、手全体に高い熱をまとわせてる。数分くらいたつと、手の中で銅が溶け始めた。
 両手で銅をこねて、伸ばしたり丸めたりする。指がせわしなく動いて、糸のようになった銅が空中をくるくると舞う。銅の糸は、根本は太くて先にいくほど細くなる。まっすぐ伸びてるんじゃなくて、複雑な曲線を描いてる。
 エミリア嬢の指が整えていく数本の銅の糸は、デザイン画の冠にあった泡の部分を思い起こさせた。

「火魔法よ、左手から去りなさい。大気魔法よ、可能な限り冷たく、私が望む限りの時間、左手に留まりなさい。発動」

 左手が、銅の糸を素早くなでる。冷やそうとしてるんだろう。でも冷却が充分じゃなかったようで、銅はかたちを崩して天板の上に崩れ落ちた。
 溶けた銅を加工し始めて崩れるまで、数分もなかった。

「どうしても、こうなってしまうんです」
「冷やせないのが問題なの? それなら、水や氷を使えばいいんじゃないかしら」

 エミリア嬢は首を横に振った。それはもう試したけれど、水に漬けるために金属を動かすと、どうしても思った形状が保てないらしい。空中にかたちができた瞬間にそれを留めたいというのが彼女の望みだった。

「わたしの水魔法で、エミリアちゃんが作る端から冷やしていこうか?」
「それも、人に頼んでやってみたことがあるんです……」

 エミリア嬢は乗り気じゃなかったけど、念のためにやってみることになった。
 俺にはだいたい結果が予測できたけど、試さないと納得できないだろうし止めなかった。その代わり、俺たち全員に簡単な防御魔法をかけた。
 さっきとおなじように、エミリア嬢が銅でかたちを作る。彼女が「いまです」と声をかけると、ルイーズ嬢が水魔法で銅を冷やした。だけど魔法の効きが悪かったようで、水は銅に接することなく跳ね返って、銅線はとろっと下に落ちた。

「あれ、濡れてない……?」

 水をかぶったはずのエミリア嬢が、自分の体を見回した。

「ノアが全員に魔法をかけている」
「ノアくんがわたしたちに害のある魔法を使いはしないだろうし、わたしもアルバートも無効化しなかったんだ」
「わたくし、気がつきませんでしたわ」
「わたしもです……」

 オードリー嬢とエミリア嬢が、魔法が使われたことをわかってた二人に尊敬のまなざしを向ける。傲慢な俺の喉は、ハッとバカにしたような笑い声を出した。

「そいつらの実力じゃないぞ。魔法遮断の魔道具をもっているだけだ」

 人間は誰でも魔力をもってて、ある程度の自衛はしぜんにやってる。普通に生活してたらめったに風邪にかからないみたいに、人や世界が放出してる魔力から身を守ることができてるんだ。だけど強い魔法を向けられる可能性がある場合は、魔法を遮断できる魔道具をもっておくことが多い。これ、高位貴族には必須の防護品だったりする。
 魔法を遮る魔道具には、すべての魔法を自動的に排除するものや特定の種類の魔法だけを無効化するもの、魔法の使い手によって起動が変わるもの、使用者の任意で発動させるものとか、いろんな種類がある。
 王子のアルバートや侯爵令嬢のルイーズ嬢は、さぞ高性能の魔道具を身につけてるんだろう。俺も自作したのをもってる。防御魔法が使えるっていっても、一日中発動させなきゃいけないような重要人物じゃないから、魔道具のほうが楽で便利なんだ。

「魔法が遮断できるのに、どうしてノアさまはお二人にも防護魔法をかけたんですか?」
「低能」
「もう少し説明してもらえると……」
「低能は、いまなんと言った」
「えっ、魔法が遮断できるのに、ノアさまは――」
「魔法は遮断できる。では、いま、きさまらにかかりそうになったものはなんだ」
「水のことですか? それがなにか……」
「むしろ無能か」
「そこまでいいます!?」
「散った水は魔法か!」
「違います! ……あっ」

 魔法遮断はあくまで魔法にしか効かないから、物理的な防御にはならないんだ。水はルイーズ嬢の魔法で作られたけど、水自体に魔力があるわけじゃないから防げない。
 それにこの物理防御は、実験を続けるならこのあとも必要になると思うんだよな。

「わたしの魔力が弱かったようだね。もう少し強い水魔法を当ててみるよ」

 もう一度、今度はルイーズ嬢が強めに魔法を使った。すると水が瞬間的に水蒸気になって、銅は粉々にはじけ飛んだ。ほらね。これ、物理的に防御しないと水蒸気や銅の破片で火傷したり怪我するんだ。
 初歩の魔法実験で起こりそうな事故は、ちょっとは知ってるのだ。自分が通ってきた道だからね!
 そのあともアルバートたち四人は知恵を出し合って、銅を冷やす方法を考えた。だいたいは魔法の種類や使う瞬間を変えてみるとか、魔法なしで氷や水をザバザバかけるとか、そんなことだった。
 いま、ここでできる方法では、思った効果は得られなかった。それ以外の方法もたいていはエミリア嬢が試してたし、そうでないやり方はあんまり成功しそうになかった。
 エミリア嬢が、椅子に座ったままペコッと頭を下げた。

「ありがとうございます……。でも、やっぱりわたしにはこの冠が作れないんだと思います」
「バカが。作れるに決まっている」

 彼女の失敗を観察して、制作過程を何度もみせられて、いろいろわかったことがある。だからそう言ったら、四人が一斉にこっちに顔を向けた。

「なぜノアはそう思うんだ?」
「まず、他人の魔法で冷却できないのはあたりまえだろう。きさまにそんな高度な方法を使えるはずがない」
「ノアさま……? 他人の魔法じゃダメって、どうしてですか?」
「どうしてだと? なぜ、きさまがそんな質問をする」

 俺はエミリア嬢と顔をつき合わせた。眼鏡の奥の目は、純粋な疑問を浮かべてる。
 あれ、もしかして。

「きさま、素材を魔法で操っているのを自覚できないほど無能なのか?」

 眼鏡の奥の疑問はなくならない。なんと、そうだったのか。

「きさまの魔法は、高温の発生だけに作用しているわけじゃない。銅に魔力を流して、思うかたちになるように誘導している。だからきさまの魔力を帯びた銅に他人の魔法をぶつけても、反発して受けつけないか、打ち負かされて壊れるかのどちらかになるのは当然だ」
「えっ? わたしが銅に、魔力を?」
「きさまの魔力は銅に細かく入っている。ある人間が使っている魔法に他の人間の魔法の効果を加えるということは、単純化していえば元の魔術式に変更を加えるということだ。それを、きさまらのような素人ができるとでも思ったのか、愚か者が」
「えっ、ええっ? もしわたしが銅に魔力を込めてるなら、素人もなにも、あとから魔法の効果を加えることなんてできませんよね?」
「はあ? 魔法同期の理論くらいきいたことがあるだろう!」
「ないです!」

 元気のいい否定をありがとう。うわあ、魔法同期について、エミリア嬢は知らなかったのか。

「魔法使いたちがそれぞれ異なる魔法を使って、一つの効果を生み出すことはある。だが異なる魔法を同期させるには、事前の準備もしくは高度な技術がいる。はあ、こんな説明をしなければならないような無知蒙昧を相手にしているのか、俺は」
「同期……、準備……。じゃあ、さっきから銅線を他の人の魔法で冷やそうって、がんばってたのは……」
「時間の無駄でしかないな」
「どうして、もっと早く言ってくれなかったんですか!?」
「当然、そんなことは承知のうえで、魔法を同期させられるのかを検証していると思うだろうが! 自分の魔法の効果範囲さえ把握できていないウスノロがいるなど、俺の想定外だ!!」

 自分の魔法がなににどれくらい効いてるのかを把握するのは、魔法の授業の初期に習うことだ。でも、無意識で使ってるうえに効果がわかりにくい魔法だと、自分がそうしているということに気づけない場合がある。それがいまのエミリア嬢だ。
 俺は魔力が視えるし気配を追えるから、エミリア嬢が銅の塊全体に自分の魔力を流してるのは一目瞭然だったんだよ。
 みんな、無理なのは承知のうえで、魔法同期を成功させようとしてるんだと思ってた。そもそも理論を知らなかったなんて想像しなかったんだよ!

「だいたいきさまは、魔法の使い方が下手すぎる。無駄ばかりなうえ、指示があいまいだ。その程度の詠唱で作用していることのほうが驚きだ」
「それは、だって、わたしはノアさまみたいなすごい魔法使いじゃありませんから……!」
「俺がすばらしい魔法使いなのは事実だが、それとおまえが稚拙なことになんの関係がある」

 エミリア嬢が、「……ないですけど」って不服そうにくちびるをとがらせる。

「じゃあノアさまは、どうすれば冠が作れるかわかるんですか」
「きさまが作れるのは明白だろう」
「うそ!」

 だんだんエミリア嬢が俺に意見を言ってくるようになってる。怖がられて泣かれるより、よっぽどいい。

「ほう、きさまは俺を嘘つき呼ばわりするのか。いい度胸だな」
「ちちち違います、嘘は、えっと、嘘つきはわたしですっ」

 でも、すぐ元にもどってしまった。どうして自分が嘘つきなんだよー。

「きさまが自分の魔法で素材を冷却すればいいだけだ」
「それができないから、困ってるんです……!」
「やり方が悪い」
「いいやり方があるんですか? いったい、どうやるんです?」
「検証がいる」

 物体を急速に冷やす方法はいくらでもある。ただ、エミリア嬢ができることにしなきゃならないんだよな。
 考えをまとめるために、思ったことを口に出していく。

「箒スズメが使える魔法は火と大気だな。大気をもっと冷やすか? いや、気体は熱を伝えにくいから期待するほど下がらないだろう。一番簡単なのは銅を水か氷で覆うことだが、あのバカは水魔法が使えない」
「すみません……」
「は? なにを謝っている? きさまの無能さはわかりきっている。そんなことは想定済みだ、黙っていろ」

 実際、「やれる」と思うんだ。だから、どうすれば実現できるかを模索してるわけだ。こういうことに頭を使うのはすごく楽しい。
 そうだな、やりながら考えてみるか。
 俺は、机の上の銅に右の人差し指を乗せた。
 銅はどれくらい熱くすれば融けたんだっけ、習ったけどおぼえてないや。エミリア嬢が消費してた魔力量はだいたいわかるけど、彼女の魔法紋を使った魔力変換の効率を知らないからあんまり目安にならない。熱しすぎて気化させちゃ駄目だし、低めの温度から始めてみよう。
 銅は、五〇〇度では硬いままだった。そこから一〇〇度ずつ上げていったら、一一〇〇度あたりで融解しだした。
 銅の一部をつまんで持ち上げると、みにょーんと伸びて途中で切れた。もう一度おなじことをして、エミリア嬢がやってたみたいに俺の魔力を銅に通す。バネみたいに巻いてみようとしたんだけど、魔力をかよわせただけでは銅は思うようなかたちにならなかった。これは魔力量じゃなく、俺のあやつり方の問題だろう。慣れてきたら、もう少し作りたいかたちに近づけられそうだ。

「箒スズメは、意図的に銅を魔力で操作しているわけじゃない。無意識に、魔力を微細に調整して望むかたちをつくっている。はあ、まったく、無意識ほど厄介なものはないんだがな! つまり、形状を維持する魔法を使わせるのは危険ということだ。下手に魔力操作を意識させると、これまでできていたことができなくなるかもしれない」

 童話の大歯ロバの話といっしょだ。ある行商人が、山道を歩くのに退屈して、自分が引いている大歯ロバを「おまえは、右と左と前と後ろ、どの脚から歩き出すんだい」ってからかった。それまで普通に歩いていた大歯ロバは、急に脚をどう動かしたらいいのかわからなくなってしまった。そのあげく大歯ロバは四本の脚をもつれさせて転んで背中の荷物ごと谷底に落ちてしまい、行商人は大損をしましたとさっていう笑い話だ。
 おんなじように、物を作るときの魔力操作にエミリア嬢が意識を向けたら、混乱して、それまで作れていた物ができなくなるかもしれない。だから、銅に流す魔力をいじるのは却下だ。
 みょんみょんと銅を伸ばしたりもどしたりしながら、他の方法を考えてみる。

「火魔法、もしくは大気魔法で温度を下げる方法だな。真空? 意味がないな。温度を高めるのは、火魔法でなくてもできる。空気を圧縮して温度を高めて銅を融かし、そのあと気圧を下げて冷やすか? いや、そこまで気圧の変動が激しいとかたちも変わるだろうな。ふむ、しかし、空気の圧力を高めるやり方なら、箒程度でもできるか……?」

 ちょっと実験してみよう。
 念のために窓を開けておく。それから周囲の空気をすごーく圧縮して、左の手のひらに集めた。かなりの熱が発生する。これを急速に冷やすと、液体になる。冷やすとき、沸点の高い酸素をとりのぞいたら、残るのは液体窒素だ。液体窒素の温度を測ると、マイナス二〇〇度弱だった。
 おっし、成功!
 空気の液体化には、じつは苦い思い出がある。
 魔法で気体を圧縮できるんじゃないかって思いついたとき、塔じゃなくて屋敷の部屋で実験したのが悪かった。深く考えずにやってみて、液体酸素を爆発させてしまったんだ。
 液体窒素はごくごく少量だったし、ヤバイと思った瞬間周囲に防護壁を張ったから、大きな被害はでなかった。だから俺は実験の結果を隠そうとしたけど、まあバレるよね。結果、父さまと執事と侍女長に大目玉をくらって、罰として屋敷の周囲を二〇周走らされたのだった。
 だから、液体酸素を取り除くのも、液体窒素をあつかうのも、充分に注意した。
 熱くした右の人差し指と親指で銅をつまんで持ち上げる。
 みょみょーん。
 下から上に伸びた銅線に、左手の液体窒素をまとわせた。

「ん? 思ったほど冷えないな。ああ、そうか、銅が熱すぎて液体窒素がすぐ気化するのか」

 銅に液体窒素がふれると、すぐに蒸発してしまう。気体になっちゃうと熱を伝えにくいんだよなあ。とりあえず、気体になったら液体の窒素と置き換えるようにしてみるか。効率が悪いけどしかたない。
 銅線を作っては、液体窒素で瞬間的に冷やすことを繰り返す。温度や置き換えのやり方、液体窒素での銅線の覆い方なんかをいろいろ変えてみる。
 実験の甲斐があって、銅線をグニャグニャに曲げるのと同時に急速に冷やして、そのかたちを保たせることができた。
 おっし、完成!

「よし。箒スズメ、あとはおまえがおなじことをするだけだ」

 さあエミリア嬢、思ったものが作れるよ! よかったね!
 そう思ったのに、肝心の彼女はぼーっと突っ立ってるだけだ。あれ、どうしたんだろう。

「おい、箒?」

 もう一回呼びかけたら、エミリア嬢は俺の手元に集中させてた視線を上げた。それから高速で頭を左右に振った。

「おんなじことって言われても、ノアさまがなにをしてたのか、ぜんぜんわかりませんっ」
「見ていただろうが! どれだけ無能なんだ!」
「無能でいいです! だって、ほんとうに、なにがなんだか……!」

 エミリア嬢の肩に、ルイーズ嬢が手をおいた。

「こればかりはエミリアちゃんに同感だよ」

 反対側の肩をオードリー嬢ががっしりつかんで、エミリア嬢を自分のほうに引きよせる。

「わたくしも、ノアさまの手に水や煙のようなものが現れたのは見ましたが、それ以外はさっぱりわかりませんでした」

 とどめにアルバートが、エミリア嬢の背後に立つ。

「そういうわけだ。まず、君がなにをしたのか説明してくれるか、ノア」

 なるほど、液体窒素について知らなければ、俺がしていたこともわからないか。知識として知ってたとしても、生成されたものを見ただけでその正体を突き止めるのは難しいかもしれない。俺の魔法は詠唱がないから、よけいに見当がつかないんだろう。
 俺は手順をいちいち解説しながら、また液体窒素を作って銅線を冷却した。そして大気を冷やすだけでは熱伝導が悪いから、この方法をとったって説明した。

「さあ、これで、きさまのように才能がない愚鈍でも金属を冷やせることがわかっただろう。なら、とっととやれ」
「できませんっ」
「なんだと!?」

 ここまで教えたのに、なぜだ。どうしてエミリア嬢は、さっきより激しく頭を振ってるんだ。
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