その男、凶暴につき

くま

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ーその男、凶暴につきー

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   世界には"魔素マナ"と呼ばれる、力の源が溢れんばかりに漂っている。
   それは、最果てにあるという"世界樹"から溢れ出し、木々を伝い、世界の隅々まで行き渡る。

   この世の万物は、魔素マナを吸い込むと細胞に結びつき、強固なる力"魔力"を生み出す事ができる。
   その反面、上手く結びつかなければ、魔素が体を蝕み、邪悪な存在へと姿を変えてしまう。
    
   人々は、その邪悪な存在を"魔の物"と呼び、恐れていた。
    
   世界樹が出来て以来、魔素による変異は多くの種族に見られ、様々な進化を遂げていた。

   動物や人間が邪悪な存在へと変異した"魔物"
   自我を保ちつつ、邪悪な存在になった"魔族"

   しかし、長い年月を経て、魔物・魔族の中には、邪悪なる力を克服する者が現れ始める。
   邪悪な力を克服した魔の物たちは、その大きな力で人々から神格化され、信仰の対象となり、
   邪悪な力を克服した人間たちは、上手く魔素を取り込み、人間とは姿形の違う種族"亜人"として生活していく。

   しかし、邪悪な力に魅了された者は、そのまま魔族として生きる事を選び、悪の限りを尽くしていた。
    
   その魔族の頂点である悪の化身  ーー魔王。

   魔王による進行は、世界を破滅へと近づけているのだった。



『……っと、ここまでが世界の人々の始まりだよ。亜人は元々、同じ人間なんだから差別は良くないよ! 魔族だって、愛も持って接すれば分かってくれる筈さ! みんなわかったかな?』

『『はーい、先生!!』』

   週に一度、山を越えた教会から、この小さな村に学びを教えに来る神父は、子供たちから大人気だった。

……毎週、毎週ご苦労なこったな。
   
   その光景を、遠目に見つめる少年。
   遠目と言っても、かなりの距離があった。

   少年は、休憩を終えると自慢の農作物の手入れに勤しむ。

「うわぁ、今日も惚れ惚れするほど綺麗だね!」

   この村特産の【デストマト】に頬ずりをしながら、愛情を隠しきれずにいる。

   齢17の少年には、友と呼べる者がいなく、親も早くに他界してしまって、この小さな村の中でも浮いてしまっていた。

   でも、それで良かった。
   少年にとって、農作物は"親"であり"友"であり"妻"なのだ。

   しかし、誰かが"最愛"を持つと、必ずそれを奪おうとする者が現れる。

   俺にとっては、こいつらだ。

『ブヒィィ』

   魔素に侵された動物  ーー魔物だ。
   
   動物は、魔素の影響が出ないヤツも多数にいる。
   実際、少年も豚や牛など家畜として飼育していた。
   
   魔物は動物と違って、魔素による力があるから厄介だ。

……豚の魔物か。

『ブギャァァァッ』

   森林に住む、豚の魔物【クレイジーピッグ】
   
   通常の豚より二回りはデカイそいつは、畑に向かって突進してくる。

   だが、少年にとって、こんな事は日常茶飯事。

   手に持っている草刈り鎌を巧みに使い、畑に入る前に命を刈り取る。

「おっ、レベル上がったかな』

   世界には、レベルという概念がある。

   他者の命を奪う事で、その者が持つ魔素を自分の物に出来るのだ。
   自身が持つ魔素に、他者の持つ魔素の一部を加算し、細胞への結びつきを強くする。
   それにより、身体能力や魔力が上がる。

   レベルの上昇は、自分自身でもなんとなく解る程度であるが、街に出ると他者のレベルが見える物があると聞く。



ーーゴゴゴゴゴゴッ

『きゃー!!』

『ん!? なんだ!?』

『先生、怖いよ~』

   突然の地響きに、村人たちが慌てふためく。


「……っ!?」

   地響きと共に、魔素の流れが変わっていくのがわかる。
   それは、何処かに吸い寄せられるような感覚があるものだった。

   吸い寄せられると言う事  ーーそれは、魔素によって育つ農作物に影響してくる。

「ぬおぉぉぉぉ!!」

   愛情をかけ、尽くしに尽くした"最愛"たちが、しおれていく。

「お、おい! デストマト、光雷人参、大丈夫か!? ……クソ。お前もか、炎上大根!」

   見るも無残に痩せこけた"最愛"たちを抱いて、涙を流す少年。

『みなさん、落ち着いて! 原因は解りませんが、被害はないようです。ですが、万が一のことがあります。私が原因を確かめてきますので、みなさんは家に避難し、外に出ないようにして下さい!』

   地響きが終わり、蟻のように走り回る村人をなだめる神父。

   少年は、かなりの距離を一瞬で詰め、神父を睨みつける。

「被害がねぇだと!? 見てみろ! 俺の大切な者が死んじまったんだぞ!」

   少年の鬼気迫る表情に押される神父は、尻餅をついてしまった。

『ま、まぁまぁ、私がその物らが、しっかりと天へと昇れる様にお祈りしておきますので……』

「絶対だぞ。ところで、この地響きといい、魔素の流れといい、なんなんだ?」

『原因は解りませんが、魔素の流れからして、王都に向かっている様に感じました』

「王都だな。ちょっくら行ってくるわ。お前は、この子たちを労っておいてくれ」

   そう言うと、大切にして抱いていた"最愛"たちを優しく手渡す。
   少年は、そのまま王都に向かって、森へ入っていってしまった。

『ちょっと! その森から向かうのは危険ですよ!? 待って下さい!』

   猛スピードで走る少年には、その声は届かず、尻餅をついたまま、手を伸ばす神父だけが取り残されていた。

『神父様。あの子は大丈夫ですよ』

『ちょ、長老!? でも、あの森は魔物が強く、数も多いです。まだ若い子が1人で行ったら……』

   焦ったような表情で長老に問いかけるが、長老は表情を変えずに、話を続ける。

『森に囲まれるこの小さな村が無くならないのは何故だと思います? 
それは、魔物、盗賊が入ってくると、あの子が全部退治してしまうんですよ。まぁ、あの子は自分の農作物を盗られないようにそうしてるんですがね。
そして、死体や死骸から出る魔素は大地に吸収され、この地は豊かになる。
そのおかげで、農作物はよく育ち、この村は存続出来ているのです。
それをあの子は、幼少の時から続けている。早くに両親が死んで以来ずっとね。大したものですよ』

『は、はぁ』

   それでも、納得いかない神父は、心配そうに森を見つめていた。

   
   少年は、怒りに支配されながら走る。

『グオォォォッ』

「うるせー!」

『ギャアァァッ』

「ぶち殺すぞっ!」

    かなりの頻度で現れる魔物を、次々に斬り伏せていく。

    森を抜ける事には、全身に返り血を浴びて、鼻をつまみたくなるような鉄臭を漂わせていた。

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