その男、凶暴につき

くま

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ー血塗れの蛮族ー

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『なぁなぁ、勤務終わったら呑みにいこうぜ!』

『お、いいねぇ。最近は魔族も現れないし、門番なんて暇だよなー』

  " 王都:イシュガル"の門を見張る門番たちは、まだまだ終わらない勤務に暇を持て余していた。

『魔物とか現れないかなー。そしたら、そいつを倒して、褒美貰えるのによ』

『そうだな。……ん? あれ見てみろ! 真っ赤な人が歩いてくるぞ。魔族じゃねぇか』

   鉄臭を漂わせて、近づいてくる人型に警戒する門番たち。

『なんだ、ただのガキじゃねぇか。なにがあったか知らないが、お前みたいな奴が来ていい場所じゃない』

『そうだ。分かったら、さっさとお家に帰りな』

   面倒くさそうに、蝿を払うような動作をするが、少年は止まらない。

『お、おい。止まれ! 止まらないと斬るぞ!』

『もしかしたら、本当に魔族かも知れねぇ。どちらにせよ、こんな奴は通せねぇ! 構う事ねぇ、やっちまえ!』

   腰にある剣を抜き、血塗れの少年に襲いかかる2人。

『っが!?』

『ふごっ!?』

   しかし、門番の目には映らぬ程の速度で、拳を撃たれ、その場にひれ伏してしまった。

   少年は、倒れた門番たちなど、目もくれずに門に手をかける。

『はははっ、残念だったな。その門は10人ががりで、やっと開けられるようになって……るん……だよな?』

   自慢気に話してたが、目の前で起きる光景に思わず、相方に問いかけてしまう。

『うわぁ、すげぇ』

   問われた相方は、1人で門を開ける少年に見惚れてしまっていた。

   少年は、軽々と門を開け、正面にそびえ立つ城に向かって、歩を進める。

   途中、血塗れで歩く少年を不審に思った人々が通報したのだろう、衛兵部隊が行く手を遮る。

『止まれーい。ここが"王都:イシュガル"だと知っての蛮行か!? 貴様を連行する! 大人しくお縄につ……っぶぼろぉぉ』

   しかし、立ち塞がった相手がまずかった。
   部隊長らしき者は、少年の裏拳によって吹き飛ばされてしまう。

『た、隊長! おのれぇ』

『やっちまえーっ!』

『『うおぉぉぉ』』

    数十人の衛兵たちが連携をとり、襲いかかる。
    が、少年は歩みを止める事はなかった。
    
    平原を歩くが如く、淡々と歩を進める少年。 
    その後ろでは、痛みと素手で鎮圧された事による屈辱で起き上がれずに、うずくまる衛兵たちがいた。

   王宮に着いてからも、おびただしい量の兵士たちを気にも留めない。
   彼が歩く道には、兵士が石のように転がっていた。
   兵士からしたら、正に災害のようなものに感じる事だろう。


ーーバタンッ

『なんじゃ、騒々しい。勇者様がいらしているのじゃぞ!』

   勢いよく"王の間"の扉を開けたのは、一介の兵士。
   その表情は、恐怖に支配されており、溢れ出す汗が止まらないようだった。

『申し訳ございません! しかし、火急の自体でございます。この王の間に向かって、血塗れの蛮族が向かっております!』

   だが、王は面倒くさそうに一蹴する。

『そんなもの、ここの兵士を総動員すればいいじゃろう。今、勇者様にこの世界を説明しておるのだ。下がれ』

『で、ですが、現在、王宮にいる全兵士が全力で討伐に動いておりますが、足止めすら出来ていない状況であります! 陛下様方は、早くお逃げ……うっ!?』

   懸命に状況を伝えようとする兵士だったが、扉の隙間からニュッと伸びてくる赤い腕に掴まれ、向こう側に引き摺り込まれてしまう。

   ドゴッ! っと、鈍い音が聞こえた後、扉がゆっくりと開かれる。

   そこに立っていたのは、返り血を浴び、全身を真っ赤に染める少年だった。

『な、何奴! 兵士共はなにやっとるじゃ! ゴンザ、やってしまえ』

   王を護っている数人のうちの1人、ゴンザと呼ばれる筋肉隆々の大男は、少年の前に立ちはだかる。
   そして、煌びやかに輝る剣を抜く。
   その剣は、只ならぬ威圧感を感じる品物だった。

『近衛隊隊長、ゴンザ・ソリッド。参る!』

   大男とは思えないほどの、速度で迫るゴンザ。
   岩石のような腕から繰り出される斬撃の風切り音は凄まじい音だった。

「やかましい!」

   斬撃を半身で躱した少年は、半身の状態から捻りを加え、殴り飛ばす。
   
『なななななな、なんじゃと!? お主、魔族か!? なにが望みじゃ!?』

   この王宮で一番強いであろう人物が倒れた事により、焦る王様。

   そんな王様に近づき、拳を突き出す。

「……見てみろ。お、俺のデストマトがこんな姿になってしまった! 原因は、魔素が吸われたからだ! この王宮にな!」

   突き出した拳が開かれ、その掌にはピンポン球程に縮んだデストマトが切なく佇んでいた。

『な、なんの事じゃ!? わ、ワシは知らん!
……魔王。 そうじゃ、きっと魔王のせいじゃ!』

「魔王だと? そいつは何処にいる!?』

   さらに、詰め寄る少年に王様はたじたじになっていく。

『か、確実ではないが、ここから西に向かい、遥か彼方にある"ディストピア"という山の頂上に城を構えていると聞く。だが、魔物・魔族の巣窟で、その麓にすら辿り着いた者はいない』

「……そうか。魔王のせいか。なんか悪いな。この子を大切に埋葬してやってくれ。じゃあな」

   そう言葉を残し、デストマトを渡して、王の間を出ていく。

『なんじゃったんだ!?』

『父上、大丈夫ですか!?』

   座り込む王に、娘であろう少女が添い寄る。

『ちょっとそのトマト見せてもらっていいですか?』

   先程、勇者様と呼ばれた少年は、デストマトを手に取り、そのまま口に放り込んでしまった。

『ゆ、勇者様!? そのような得体の知れない物を口にしては……』

   心配がる一同を尻目に、噛み砕いた果肉と果汁を舌の上で転がす勇者。

『うん。おいしい!』

『……ふぇ!?』

   満面の笑みに、王たちは呆けた顔をしてしまっていた。

『見た目はあんな枯れ果てていたのに、食べてみると、みずみずしくて美味しい。なんて言うトマトですか?』

『そち、この果実はなんと申す』

   王と姫は知らないようで、代わりに、近衛隊の隊員に答える。

『はっ! それは"デストマト"という野菜です。
本来ならそのような茶色く、枯れ果てた物ではなく、
拳程の大きさを持ち、赤黒く、光沢を持つものです』

『ふーん。状態が悪くてこの旨さなのか。強そうだし、何者なんだろう。
王様、この世界には、あんな人が沢山いるの?』

『いや、世界広しと言えど、あのような剛の者は初めてじゃ。誰か知っておるか?』

   その場にいる全員が知らないようで、力なく首を横に振る。

   勇者と呼ばれる少年は、血塗れの少年が立ち去った扉を見つめ、思いに耽る。

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