その男、凶暴につき

くま

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ー魔王ー

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『なんか面白い事ねぇかな』

『うーん、また人間でも捕まえて遊ぶか?』

   日もすっかり落ち、漆黒の闇の中、焚き火を前に暇を持て余すのは獣人の魔族2名。

『そうするか。丁度、真夜中だしな』

『おう。この時間なら、こっそり行けば騒がれずに攫ってこれる』

   なんとも物騒な話をしながら、立ち上がる魔族たち。
   
『ん? なんか近づいて来てね? かなり速いぞ!?』

『本当だ。あれ、人間じゃない? 手間省けたじゃん!』

   目の前に迫る玩具に、自慢の牙・爪を光らす。


『っな!? 加速し……ただ……と!?』

   その玩具は加速し、手に持つ草刈り鎌で、2人の魔族を肉塊に変える。
   

『シャアァァァ……ッジャ!?』

『なんだあいつ?……っぶほ!?』

『ギャアァァァ……ッギャ!?』

   少年の進路に立とうもんなら、すぐさま肉塊に変えられていく魔物・魔族たち。
   恐れ知らずの者たちですら、その光景を見た瞬間に道を開けてしまっている、


『オルベ~、なんか面白い事ないか? 』

『そんな出来事、そうそう起きませんよ。大体、魔王様は何万年生きていると思っているんですか? 
大抵の出来事には、心1つ動きませんよ』

   オルベと呼ばれる者は、見た目は20代前半で、東の島国の特産である着物に羽織を重ねて、袴を履いている。

    魔王と呼ばれる者は、同じく東の島国で作られた、着物よりも、ラフな甚平という物を着ていた。
    見た目30代後半の魔王は、腰掛ける王座に背中を預け、うちわを仰ぐ。

    見た目こそ人間に近い二人だが、その額には角が生えており、人間とは似て非なることが見て取れる。

『お前、その格好熱くねぇの?』

『いえ、私はそんな貧弱ではないので』

『あれ? バカにしてる? 俺っち、プッチーンって来ちゃったよ』

『……魔王さま。どうやら、ここに人間が近づいて来ているようですね』

『話変えたね!? 人間がここまで来れるわけねぇじゃん? バカにしてるよね? おっ? おっ?』

   馬鹿にした様な顔で、オルベを挑発する魔王。
   
   その時、王座の正面にそびえ立つ扉が開かれる。

『ん? 本当に人間じゃん。……なんか用?』

   その瞬間、魔王からは凄まじい程の殺気が放たれる。

「おま……せい……にんじ……が」

『何言ってるか聞こえねぇよ』

「お前のせいで、俺の大切な物たちを失ったんだぁぁぁぁぁ!」

   少年は、目にも止まらぬスピードで魔王にまで詰め寄り、鎌を振り降ろす。
   だが、その鎌が当たる瞬間、動きを止めてしまった。

「……なんだよ、お前」

   視線の先には、首に刀を突きつけているオルベの姿があった。

『お前こそなんだ? ここに来る途中に、多くの魔族がいた筈だ。何者だ』

「人間だ。目の前に立つ者は斬った』

   その答えに魔王の指が、ピクッと動く。

   不穏な気配を感じ、咄嗟に離れる。

『小僧、大切な者を失ったと言ったな。誰だ?
家族か? 友か? それとも、愛する者か?』

   魔王のその言葉に歯を食いしばる。

「全部だ。俺の全てと言ってもいい物を失ったんだ。……見てみろ。こんな姿になってしまった光雷人参を!」

   それを見たオルベは、表情を曇らせる。

『あの魔素の動きはそういう事だったか。魔王様、また勇者が召喚されたようです。
しかも、作物の魔素まで吸う程の力がある魔法陣を使ったみたいですね。今回の勇者はかなり手強いかと。……魔王様?』

   オルベの忠言など耳に入ってない魔王の目は輝いていた。
   まるで、子供が初めて玩具を買ってもらった時の様な寸分の曇りもない、ワクワクに溢れている輝きだった。

『っぶ、ぶははははっ! 面白い! 面白いぞ、小僧!
家族でも、友でも、愛する者でもなく、ただの人参の為にこの魔王の所まで来たか! これは傑作だ!
それに、俺っちの殺気で死ぬどころか、衰えぬ闘志。僅かな違和感でその場を離れる判断力。そして、それらを可能にする身体能力。気に入ったぞ!』

   豪快に笑う魔王に、込み上がる恨みが隠しきれずに体が動くが、突然目の前に現れたオルベが立ちはだかる。

   睨み合う両者だが、そこに魔王が割って入る。

『やめろやめろ。お前、名前は?』

「……ブンゴ」

『ブンゴか。その仕業は俺っちの所為じゃない。
しかも、あの辺一帯では当分、作物は育たんだろう。
どうだ、俺っちと契約してみんか?』

   そのキラキラした瞳と、魔王の所為ではないと言う言葉に、溢れ出る闘気が消え去る。

「嫌だ。お前の下に就きたくない」

『就かなくていい。じゃあ、こうしよう!
ここから、遥か北にある俺っちが統治する森がある。
その森はクソ広いし、今回の影響を少ししか受けてないから、そこで作物を育て上げればいい。
契約内容は、その森の魔素を俺っちに提供する事。
そうだな、月々50000魔素でいいぞ?』

   破格の内容を提示し、食い下がる魔王。

「……わかった。だが、魔素の数値の渡し方がわからん。そもそも詳しい数値など解る筈もない」

『それなら大丈夫だ。人間の通信具を真似て作った"魔水晶"という物が森の中心に浮かんでおる。
それに貯蓄された魔素は、決まった日に俺の所に勝手に送られるから問題ない。
はい、これ説明書とカタログね』

   2冊の書を強引に渡される。
   魔王はそこで止まる事なく、話を続ける。

『森には、ゴブリン3体と魔狼3匹しかいないけど上手く使ってやって。
それに、その森の近くには、この辺一帯とは別の王都があるけど、気にしないよね?
かなり広いから、今回は魔水晶の所に飛ばしてやるよ。まぁ詳しくは説明書読んで~。
このネックレスして。これで契約成立。
それじゃ、行ってらっしゃい。ばいばーい』

   喋り続ける魔王に、反論する余地なく契約させられ、その勢いのまま、転送されてしまった。


『ふぅ、やっぱり転移魔法は疲れるな』

   汗が垂れる体に、うちわの風を吹き付ける。

『いいので? 彼奴、かなり出来る者だったではありませんか。勇者も召喚されましたし、後に、脅威になるのでは?』

   心配するオルベの気持ちなど考えず、魔王はウキウキしていた。

『いいよ。だって、面白そうじゃん!
それに、あいつも勇者も俺っちに敵うわけないし。
殺せるもんなら殺してほしいよ。まったく。
大事なのは、ただ生きることより、死ぬまでにどれだけ楽しみを増やせたか。だよ。
お前も、あと数千年生きれば分かるよ』

『は、はぁ』

   呆れるオルベだが、それ以上の問答は無駄と悟り、いつもの立ち位置へと戻る。

魔王は、部屋の影に浮かばせてある魔水晶を目の前まで動かし、そこに映されるブンゴを覗く。

『さぁ、ブンゴ。俺っちを楽しませてくれよ!』


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