10 / 59
第2章 センパイと過ごす学校生活
第10話 センパイ、お昼休みも一緒なんですか
しおりを挟む
4時間目の授業が終わると、私はカフェテリアへと足を向けた。
すると、美幽センパイも浮遊しながらついてきた。
「旭ちゃん。お弁当じゃないの?」
「はい。たいていはカフェテリアで食べています」
お母さんを亡くし、お父さんも仕事で忙しいわが家では、お弁当を食べたければ自分で作るしかない。
もちろん、そういう日もある。
けれども、毎朝お弁当を作り続けるのは大変で。
毎日欠かさずお弁当を用意するお母さんたちはとってもすごいと思う。
美幽センパイは私を気にかけてくれている。
「でも、クラスのみんなが教室で食べている時に、旭ちゃんだけカフェテリアで一人きりじゃ、友だちもできにくいんじゃないかしら。やっぱり、ここは私がお弁当を作ったほうが……」
「そ、そんなっ。私、カフェテリアのランチも好きですから」
私はバタバタと手をふって断った。
美幽センパイはなにかと世話を焼きたがる。けれど、うちの事情で美幽センパイに迷惑はかけたくない。
それに、お父さんに見られたらと思うとぞっとする。
フライパンやら食材やらが宙に浮かび、勝手に料理ができていく光景はもはや怪奇現象でしかない。
お父さんが目撃したら、きっと口から泡を吹いてひっくり返っちゃうよ。
まもなくカフェテリアに到着し、入口付近に置かれた券売機の列に並ぶ。
「すごーい。さすがに混んでいるわねー」
「それはもう、お昼休みですから」
上級生と一緒に並んでいると、自分の背の低さがますます際立って、どうしても気後れしてしまう。
私にとって上級生はまだ怖い存在だ。美幽センパイをのぞいて。
「旭ちゃん、どれにするの?」
「日替わりランチにします。今日はアジフライ定食なので」
「好きなの、アジフライ?」
「いえ、そういうわけじゃ。ただ、日替わりランチっておかずがたくさんついていて、お得なんですよ」
美幽センパイにそう説明し、ふと疑問が浮かんだ。
「ところで、センパイの好きな食べ物ってなんですか?」
「うーん、なんだろ。私、なにも食べられないから」
「そうでした。すみません」
「ううん。でも、見た目はオムライスが好きよ。ケチャップでかわいいイラストを描くの、楽しそう」
美幽センパイはムフフと怪しい笑みをこぼす。
どうせかわいいメイドさんがケチャップで絵を描く場面でも想像しているのだろう。美幽センパイ、かわいい女の子が好きだから。
「あーあ、私に幽霊になる前の記憶があればなあ。そうすれば、好きな食べ物だって思い出せるのに」
美幽センパイが残念そうに天を仰ぐ。
「きっと、センパイのことだから食事にこだわりを持っていたんでしょうね」
「どうしてそう思うの?」
「だって、料理が得意だし、おきれいですから」
「ふふっ、ありがとう。たしかに食事には気をつかっていたかもね。もう美容と健康のためなら命も惜しくはないって感じで」
「それで死んじゃったら意味ないじゃないですか」
私はつい吹き出してしまった。まったく、おかしなことを言うセンパイだ。
そういえば、この間、若杉先生が無理なダイエットはいけないって言ってたっけ。
美幽センパイの言葉は冗談にせよ、命をけずるような食生活なら改めなくちゃいけない。身体を悪くしたら、きっと悲しむ人たちがいるだろうから。
食券を手に入れ、カウンターに進む。そこで料理を受け取るとトレイに乗せ、カフェテリアの奥まった空席にちょこんと座った。
美幽センパイは向かいの席に静かに腰を下ろし、私が食べるのをまじまじと見つめている。
私はアジフライを口に運ぼうとして、手を止めた。
「あの……そんなにじっと見られると食べにくいんですけど」
「うふふ、気にしないで。いっぱい食べる旭ちゃんが好きよ」
仕方なく、下を向いてもぐもぐと口を動かす。
それから少し目線を上げて美幽センパイの表情をうかがうと、私を眺めながらとにっこりと目を細めていた。
「……はぁ」
私はトレイから食器をすべて机上に移した。
そして、美幽センパイの顔の前にトレイを立て、見られないように壁を作った。
「もう、恥ずかしがり屋さんなんだから」
美幽センパイは楽しげに笑う。
私はムスッとした顔で箸を動かし、食事を進めた。トレイで防げば、さすがの美幽センパイもあきらめるでしょ。
と思ったら。
「ムダよ、旭ちゃん。私、すり抜けられるもん」
なんと、美幽センパイの顔がトレイを突き抜けて私に迫ってきた。
「きゃあぁーっ!?」
あまりにシュールな光景に、思わず叫び声を上げてしまった。
カフェテリアにいた生徒の視線が、いっせいに私に集中する。
「す、すみません! お騒がせいたしましたっ!」
私は勢いよく立ち上がり、ペコペコ平謝り。
「もう、センパイのせいですからね!」
「あはは。ごめんごめん」
私が非難の目を向けると、美幽センパイはたいして反省していない軽い調子て謝ってきた。
そして、優しい目で告げた。
「旭ちゃんに友だちができるまで、お昼休み、ずっと一緒に過ごしてあげるね」
私は悩ましげにため息をつき、声を返す。
「……友だちができても、ずっと一緒にいていいですよ」
すると、美幽センパイも浮遊しながらついてきた。
「旭ちゃん。お弁当じゃないの?」
「はい。たいていはカフェテリアで食べています」
お母さんを亡くし、お父さんも仕事で忙しいわが家では、お弁当を食べたければ自分で作るしかない。
もちろん、そういう日もある。
けれども、毎朝お弁当を作り続けるのは大変で。
毎日欠かさずお弁当を用意するお母さんたちはとってもすごいと思う。
美幽センパイは私を気にかけてくれている。
「でも、クラスのみんなが教室で食べている時に、旭ちゃんだけカフェテリアで一人きりじゃ、友だちもできにくいんじゃないかしら。やっぱり、ここは私がお弁当を作ったほうが……」
「そ、そんなっ。私、カフェテリアのランチも好きですから」
私はバタバタと手をふって断った。
美幽センパイはなにかと世話を焼きたがる。けれど、うちの事情で美幽センパイに迷惑はかけたくない。
それに、お父さんに見られたらと思うとぞっとする。
フライパンやら食材やらが宙に浮かび、勝手に料理ができていく光景はもはや怪奇現象でしかない。
お父さんが目撃したら、きっと口から泡を吹いてひっくり返っちゃうよ。
まもなくカフェテリアに到着し、入口付近に置かれた券売機の列に並ぶ。
「すごーい。さすがに混んでいるわねー」
「それはもう、お昼休みですから」
上級生と一緒に並んでいると、自分の背の低さがますます際立って、どうしても気後れしてしまう。
私にとって上級生はまだ怖い存在だ。美幽センパイをのぞいて。
「旭ちゃん、どれにするの?」
「日替わりランチにします。今日はアジフライ定食なので」
「好きなの、アジフライ?」
「いえ、そういうわけじゃ。ただ、日替わりランチっておかずがたくさんついていて、お得なんですよ」
美幽センパイにそう説明し、ふと疑問が浮かんだ。
「ところで、センパイの好きな食べ物ってなんですか?」
「うーん、なんだろ。私、なにも食べられないから」
「そうでした。すみません」
「ううん。でも、見た目はオムライスが好きよ。ケチャップでかわいいイラストを描くの、楽しそう」
美幽センパイはムフフと怪しい笑みをこぼす。
どうせかわいいメイドさんがケチャップで絵を描く場面でも想像しているのだろう。美幽センパイ、かわいい女の子が好きだから。
「あーあ、私に幽霊になる前の記憶があればなあ。そうすれば、好きな食べ物だって思い出せるのに」
美幽センパイが残念そうに天を仰ぐ。
「きっと、センパイのことだから食事にこだわりを持っていたんでしょうね」
「どうしてそう思うの?」
「だって、料理が得意だし、おきれいですから」
「ふふっ、ありがとう。たしかに食事には気をつかっていたかもね。もう美容と健康のためなら命も惜しくはないって感じで」
「それで死んじゃったら意味ないじゃないですか」
私はつい吹き出してしまった。まったく、おかしなことを言うセンパイだ。
そういえば、この間、若杉先生が無理なダイエットはいけないって言ってたっけ。
美幽センパイの言葉は冗談にせよ、命をけずるような食生活なら改めなくちゃいけない。身体を悪くしたら、きっと悲しむ人たちがいるだろうから。
食券を手に入れ、カウンターに進む。そこで料理を受け取るとトレイに乗せ、カフェテリアの奥まった空席にちょこんと座った。
美幽センパイは向かいの席に静かに腰を下ろし、私が食べるのをまじまじと見つめている。
私はアジフライを口に運ぼうとして、手を止めた。
「あの……そんなにじっと見られると食べにくいんですけど」
「うふふ、気にしないで。いっぱい食べる旭ちゃんが好きよ」
仕方なく、下を向いてもぐもぐと口を動かす。
それから少し目線を上げて美幽センパイの表情をうかがうと、私を眺めながらとにっこりと目を細めていた。
「……はぁ」
私はトレイから食器をすべて机上に移した。
そして、美幽センパイの顔の前にトレイを立て、見られないように壁を作った。
「もう、恥ずかしがり屋さんなんだから」
美幽センパイは楽しげに笑う。
私はムスッとした顔で箸を動かし、食事を進めた。トレイで防げば、さすがの美幽センパイもあきらめるでしょ。
と思ったら。
「ムダよ、旭ちゃん。私、すり抜けられるもん」
なんと、美幽センパイの顔がトレイを突き抜けて私に迫ってきた。
「きゃあぁーっ!?」
あまりにシュールな光景に、思わず叫び声を上げてしまった。
カフェテリアにいた生徒の視線が、いっせいに私に集中する。
「す、すみません! お騒がせいたしましたっ!」
私は勢いよく立ち上がり、ペコペコ平謝り。
「もう、センパイのせいですからね!」
「あはは。ごめんごめん」
私が非難の目を向けると、美幽センパイはたいして反省していない軽い調子て謝ってきた。
そして、優しい目で告げた。
「旭ちゃんに友だちができるまで、お昼休み、ずっと一緒に過ごしてあげるね」
私は悩ましげにため息をつき、声を返す。
「……友だちができても、ずっと一緒にいていいですよ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる