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第6章 消えたセンパイ
第41話 センパイ、また事件です!
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瞳子ちゃんと友だちになって、学校生活は以前よりずっと明るくなった。
これまで、教室のみんなは私のことを独り言をつぶやく変な子だと思っていたかもしれない。
特に、教室の女王様である瞳子ちゃんからは、いつもけげんな目を向けられていた。
それが、「瞳子ちゃん」「旭」と名前で呼び合う仲になったのだから、みんなも驚いただろう。
以来、クラスメイトからも声をかけてもらえるようになり、会話の輪に加わる機会もしぜんと増えていった。
私以上に変化があったのが吉乃ちゃんだ。
吉乃ちゃんと瞳子ちゃんが口論となって以来、二人は犬猿の仲だと思われていた。
ところが、二人があの夜を境に急に親しい間柄になったものだから、誰もがびっくり仰天!
吉乃ちゃんは女王様を相手にしてもけっして折れない頼れる存在として尊敬を集め、クラスの人気者となっていった。
ただ、当の吉乃ちゃんはそんな周囲の目の変化をまるで気にしていないようで。
ダンスの授業になると、先生の目を盗んではマイペースに優雅な日本舞踊を舞ってみせ、みんなをくすくす笑わせるのだった。
一方、私はあいかわらずダンスが上達しない。
美幽センパイがとなりで教えてくれるのだけど、よほどリズム感がないのか、4月が終わろうとする今になっても上手に踊れずにいた。
瞳子ちゃんは腰に手を当て、不満顔だ。
「もう、旭ったら。いつぞやのあのキレッキレのダンスはなんだったのよ」
「あの時は頭を強く打って、意識がなかったんだよね。だから、なんで上手に踊れたのか私にも分からないんだ」
ほんとうは美幽センパイに身体を乗っ取られたからなのだけど、瞳子ちゃんには絶対に言えない。
だって、学校を愛する瞳子ちゃんにとって、幽霊は学校にいてはならず、なにより気を失うくらい怖い存在なのだから。
「あっきれた。それなら実技テストの前にはまた頭を打たなきゃね。なんなら私が叩いてあげようか」
「えー。それはいやだなぁ」
私があわてて両手で頭をおおうと、瞳子ちゃんはおかしそうに笑った。
春の陽光を浴びて花々が美しく咲くように、私の生活も鮮やかに色づいていく。
私は友だちに囲まれ、こんな楽しい毎日がずっと続くものと思いはじめていた。
けれども、家庭科室の件が解決したのも束の間、新たな事件が起きた。
ある日の放課後、私は図書室のカウンターで本の貸し出しの仕事をしていた。
すると、同じく図書委員の小町センパイが私に教えてくれた。
「旭ちゃん。あの話、聞いた?」
「あの話ってなんです?」
「司書室に卒アルが並んでるじゃん? あれが、いつの間にか順番がばらばらにしまわれていたんだって」
普段司書の先生が過ごしている司書室には、卒業アルバムや文集、修学旅行のしおりなどが保管されている。
私も一度だけ司書室に入り、その様子を見たことがあった。
「誰かが司書室に侵入して見ていたということですか?」
「それが、目撃者が一人もいないんだって。いつ、誰が司書室にもぐりこんで卒アルを眺めていたのか? 謎は深まるばかりさァ」
小町センパイはお手上げとばかりに肩をすくめる。
もしかして、また花子センパイのしわざかな?
この間も図書室からケーキ作りの本を借りていったし。ほかにも時おりここに足を運んでは、恋占いや運勢の本をよく借りていく。……って、足はないけど。
ちなみに、私は最近『花子さん』ではなく『花子センパイ』とお呼びするようになった。
だって、美幽センパイの友だちだし、なにより私よりずっと長く生きている人生のセンパイにちがいないのだから。
でも、もし花子センパイじゃなかったら、犯人はいったい誰なんだろう?
どうか生徒のいたずらであってほしい。
もうこれ以上の怪奇現象はこりごりだ。
図書委員の仕事を終え、昇降口にやって来る。
すると、美幽センパイが壁に背をあずけて私を待ってくれていた。
「旭ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です。センパイ、ずっとここで待っていてくださったんですか?」
「まあね。今日は旭ちゃんとお話がしたい気分だったから」
美幽センパイの言葉に、心がぱっと明るくなる。
美幽センパイが私を求めてくれている。そう思うと嬉しくて、しぜんと口元がゆるんでしまう。
夕暮れ時の通学路を美幽センパイと二人で歩く。
「今度は図書室の卒アルが荒らされていたみたいなんです。センパイはいったい誰が犯人だと思います?」
私の足からは長い影が伸び、美幽センパイの身体は一点の黒い影も落とさずにいる。
美幽センパイはうつむき、影を映さないアスファルトを見つめながら歩いていた。
「あの、センパイ。ちゃんと聞いてます?」
「えっ? ああ、ごめんなさい。なんだっけ?」
「もう、センパイったら」
私はぷくっと頬をふくらませ、美幽センパイの顔を見上げる。
「どうしちゃったんですか? センパイ、今日はなんだか元気がないみたい」
「うん、ちょっとね」
美幽センパイの瞳が悲しげに揺れている。
いつもなら「そんなことないよ」と笑って、持ち前の明るさを発揮しそうなのに。
夕焼け色の街を背景にして、美幽センパイが私の前に立ち、手を差し出す。
「旭ちゃん、稲荷神社に寄っていきましょうか。旭ちゃんに大事なお話があるの」
「別にいいですけど……」
大事なお話ってなんだろう?
私は疑問に感じながら、そっと美幽センパイの冷たい手を取った。
これまで、教室のみんなは私のことを独り言をつぶやく変な子だと思っていたかもしれない。
特に、教室の女王様である瞳子ちゃんからは、いつもけげんな目を向けられていた。
それが、「瞳子ちゃん」「旭」と名前で呼び合う仲になったのだから、みんなも驚いただろう。
以来、クラスメイトからも声をかけてもらえるようになり、会話の輪に加わる機会もしぜんと増えていった。
私以上に変化があったのが吉乃ちゃんだ。
吉乃ちゃんと瞳子ちゃんが口論となって以来、二人は犬猿の仲だと思われていた。
ところが、二人があの夜を境に急に親しい間柄になったものだから、誰もがびっくり仰天!
吉乃ちゃんは女王様を相手にしてもけっして折れない頼れる存在として尊敬を集め、クラスの人気者となっていった。
ただ、当の吉乃ちゃんはそんな周囲の目の変化をまるで気にしていないようで。
ダンスの授業になると、先生の目を盗んではマイペースに優雅な日本舞踊を舞ってみせ、みんなをくすくす笑わせるのだった。
一方、私はあいかわらずダンスが上達しない。
美幽センパイがとなりで教えてくれるのだけど、よほどリズム感がないのか、4月が終わろうとする今になっても上手に踊れずにいた。
瞳子ちゃんは腰に手を当て、不満顔だ。
「もう、旭ったら。いつぞやのあのキレッキレのダンスはなんだったのよ」
「あの時は頭を強く打って、意識がなかったんだよね。だから、なんで上手に踊れたのか私にも分からないんだ」
ほんとうは美幽センパイに身体を乗っ取られたからなのだけど、瞳子ちゃんには絶対に言えない。
だって、学校を愛する瞳子ちゃんにとって、幽霊は学校にいてはならず、なにより気を失うくらい怖い存在なのだから。
「あっきれた。それなら実技テストの前にはまた頭を打たなきゃね。なんなら私が叩いてあげようか」
「えー。それはいやだなぁ」
私があわてて両手で頭をおおうと、瞳子ちゃんはおかしそうに笑った。
春の陽光を浴びて花々が美しく咲くように、私の生活も鮮やかに色づいていく。
私は友だちに囲まれ、こんな楽しい毎日がずっと続くものと思いはじめていた。
けれども、家庭科室の件が解決したのも束の間、新たな事件が起きた。
ある日の放課後、私は図書室のカウンターで本の貸し出しの仕事をしていた。
すると、同じく図書委員の小町センパイが私に教えてくれた。
「旭ちゃん。あの話、聞いた?」
「あの話ってなんです?」
「司書室に卒アルが並んでるじゃん? あれが、いつの間にか順番がばらばらにしまわれていたんだって」
普段司書の先生が過ごしている司書室には、卒業アルバムや文集、修学旅行のしおりなどが保管されている。
私も一度だけ司書室に入り、その様子を見たことがあった。
「誰かが司書室に侵入して見ていたということですか?」
「それが、目撃者が一人もいないんだって。いつ、誰が司書室にもぐりこんで卒アルを眺めていたのか? 謎は深まるばかりさァ」
小町センパイはお手上げとばかりに肩をすくめる。
もしかして、また花子センパイのしわざかな?
この間も図書室からケーキ作りの本を借りていったし。ほかにも時おりここに足を運んでは、恋占いや運勢の本をよく借りていく。……って、足はないけど。
ちなみに、私は最近『花子さん』ではなく『花子センパイ』とお呼びするようになった。
だって、美幽センパイの友だちだし、なにより私よりずっと長く生きている人生のセンパイにちがいないのだから。
でも、もし花子センパイじゃなかったら、犯人はいったい誰なんだろう?
どうか生徒のいたずらであってほしい。
もうこれ以上の怪奇現象はこりごりだ。
図書委員の仕事を終え、昇降口にやって来る。
すると、美幽センパイが壁に背をあずけて私を待ってくれていた。
「旭ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様です。センパイ、ずっとここで待っていてくださったんですか?」
「まあね。今日は旭ちゃんとお話がしたい気分だったから」
美幽センパイの言葉に、心がぱっと明るくなる。
美幽センパイが私を求めてくれている。そう思うと嬉しくて、しぜんと口元がゆるんでしまう。
夕暮れ時の通学路を美幽センパイと二人で歩く。
「今度は図書室の卒アルが荒らされていたみたいなんです。センパイはいったい誰が犯人だと思います?」
私の足からは長い影が伸び、美幽センパイの身体は一点の黒い影も落とさずにいる。
美幽センパイはうつむき、影を映さないアスファルトを見つめながら歩いていた。
「あの、センパイ。ちゃんと聞いてます?」
「えっ? ああ、ごめんなさい。なんだっけ?」
「もう、センパイったら」
私はぷくっと頬をふくらませ、美幽センパイの顔を見上げる。
「どうしちゃったんですか? センパイ、今日はなんだか元気がないみたい」
「うん、ちょっとね」
美幽センパイの瞳が悲しげに揺れている。
いつもなら「そんなことないよ」と笑って、持ち前の明るさを発揮しそうなのに。
夕焼け色の街を背景にして、美幽センパイが私の前に立ち、手を差し出す。
「旭ちゃん、稲荷神社に寄っていきましょうか。旭ちゃんに大事なお話があるの」
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