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第7章 愛はいつもそこにある
第55話 センパイのような人になりたくて
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後日、私は瞳子ちゃんと吉乃ちゃんとともに柳先生の元をたずねた。
もちろん、美幽センパイも一緒だ。
最初、美幽センパイは柳先生に会いに行くのをしぶった。
「私はいいよ、行かなくて。薬子ちゃんに合わせる顔がないし」
「えー、行きましょうよ。柳先生の本音が聞けるチャンスですよ」
「……じゃあ、今回だけよ」
こうして、美幽センパイは今、浮かない顔をして私の背後に浮かんでいる。
相談室をたずねると、柳先生はいつもの癒されるようなスマイルで私たちを迎え入れてくれた。
「あら、浅野さん。今日はお友だちも一緒なの?」
「はい。実は、みんなで調べていることがあって。吉岡美優さんについて教えていただけませんか?」
柳先生はさすがに驚いたけれど、私たちに当時の思い出を語って聞かせてくれた。
「美優ちゃんは優しくて、正義感が強くて、いつも私を守ろうとしてくれて。私がいじめに遭った時、美優ちゃんだけは私の味方になってくれた。……でも、私は美優ちゃんが差し出してくれた手をふり払ってしまった」
「どうしてですか?」
「美優ちゃんを巻きこんでしまうのが怖かったから。もし私のせいで美優ちゃんまでいじめられでもしたら、自分のこと以上に辛いもの」
そうだったんだ。
柳先生は美幽センパイを拒んだんじゃない。
柳先生もまた、美幽センパイを守ろうとしていたんだ。
だから、若杉先生に問いつめられてもいじめの事実を認めず、自分が耐えることで美幽センパイに被害が及ばないようにしていたんだ。
私の背後では、真実を知った美幽センパイが声を上げて泣いている。
柳先生もまた肩を震わせ、ハンカチで涙をぬぐった。
「でも、まさか美優ちゃんが消えちゃうなんて夢にも思わなかったから……。きっと私が傷つけてしまったのね。今となっては後悔してもしきれない。あの時二人で助け合っていたら、今とはちがった未来が待っていたかもしれない」
二人は互いを思うがゆえにすれちがい、傷つけ合ってしまった。
あまりにやるせなくて、胸が押しつぶされそうになる。
どうして優しい人たちが傷つかなくちゃいけないんだろう?
優しさは尊い美徳であるはずなのに。
私は柳先生にたずねた。
「もし美優さんにふたたび会えたら、どんな言葉を伝えたいですか?」
「『ありがとう』と、『美優ちゃんが私を守ろうとしてくれたように、今度は私が子どもたちのことを守るからね』って伝えたいかな」
柳先生は口元をほころばせ、窓に広がる爽やかな青空を見上げた。
「美優ちゃんは今も私たちのことを優しく見守ってくれている気がするの」
「きっとそうですね」
私は後ろで顔を赤らめて涙を流している美幽センパイをちらりと見て、そっと微笑んだ。
こうして、私は日常を取り戻した。
担任の若杉先生は厳しいけれど、私たち生徒を思いやる気持ちもちゃんと伝わってきて、みんなからの信頼を集めている。
柳先生は若くて美人な憧れのスクールカウンセラーとして慕われ、今日もみんなの心を癒してくれている。
瞳子ちゃんは、愛する学校を守りたいという気持ちをいっそう強くしたようだ。
「私、三年生になったら絶対生徒会長になる!」
力強くそう宣言した瞳子ちゃんは、生徒会の仕事のお手伝いをはじめ、早くも頭角を現しはじめているそうだ。
吉乃ちゃんはクラスの人気者でありながら、本人にその自覚はなく、変わらずマイペースに過ごしている。
人間の文化に関心が高く、最近では文芸部員の影響からかアニメに興味津々なようで、
「旭さん。今度一緒にアニメショップに行きませんか?」
と、目をキラキラさせながら誘ってくるのだった。
花子センパイは今も新しい恋を探している。
「旭、恋っていいものよ。旭も恋がしたくなったら言ってね。全力でサポートしてあげるわ。うふふっ♪」
花子センパイは学校にふらりと現れては可憐な笑顔をふりまいて、いつも私の心を明るくしてくれる。
美幽センパイは今も学校で暮らしている。
変化があったとすれば、トイレから相談室に引っ越したことだ。
相談室の壁に飾られた鏡のなかに新居を構え、悩みを抱える生徒たちの話を柳先生と一緒になって聞いているようだ。
「薬子ちゃんががんばっているんだもの。私だってみんなの役に立ちたい」
「えー。センパイは私のことだけ見ていてくれたらいいのに」
「旭ちゃん、もしかして私にかまってもらえなくてさみしくなっちゃった?」
「……ちょっぴりさみしいかも」
「素直に認める旭ちゃん、かわいい!」
「もう、子ども扱いしないでくださ~い!」
こうして美幽センパイと笑い合う時間が、私にとってなによりも幸せだ。
そして、私は。
あいかわらず勉強についていくのは大変だし、運動も苦手なままだ。
この間もダンスの授業でまた足を引っかけて転んでしまった。
すると、吉乃ちゃんと瞳子ちゃんがすぐに駆けつけて、優しい手を差し伸べてくれた。
「旭さん、お怪我はありませんか?」
「もう、なにやってんのよ。私が教えてあげるから、もう一度やってみなさいよ」
私は二人の手を借りて立ち上がった。
私が見上げる先で、美幽センパイは軽やかに宙を舞い、
「がんばれ、旭ちゃん!」
と微笑みながら手をふってくれていた。
私もまた人の目を気にしつつ、美幽センパイにこっそり手をふり返した。
私をいつも温かく見守り、たくさんの愛と勇気をくれた美幽センパイ。
私もいつかセンパイのような優しい人になれるといいな。
生きていくことは大変で、落ちこんで気分が沈んでしまう日もあるし、不安に駆られる夜だってある。
そんな時は、ひそかに思い返してみる。
私には、優しい気持ちでつながれたたくさんの友だちがいることを。
そして、私をいつも見守ってくれている、温かい眼差しがあることを。
私たちは、一人ではむずかしいことも、みんなとならきっと乗り越えられる。
だから、今がどんなに辛くても、悲しくても、手を取り合ってともに生きていこう。
私たちは今、幸せに向かって生きている。
〈 了 〉
もちろん、美幽センパイも一緒だ。
最初、美幽センパイは柳先生に会いに行くのをしぶった。
「私はいいよ、行かなくて。薬子ちゃんに合わせる顔がないし」
「えー、行きましょうよ。柳先生の本音が聞けるチャンスですよ」
「……じゃあ、今回だけよ」
こうして、美幽センパイは今、浮かない顔をして私の背後に浮かんでいる。
相談室をたずねると、柳先生はいつもの癒されるようなスマイルで私たちを迎え入れてくれた。
「あら、浅野さん。今日はお友だちも一緒なの?」
「はい。実は、みんなで調べていることがあって。吉岡美優さんについて教えていただけませんか?」
柳先生はさすがに驚いたけれど、私たちに当時の思い出を語って聞かせてくれた。
「美優ちゃんは優しくて、正義感が強くて、いつも私を守ろうとしてくれて。私がいじめに遭った時、美優ちゃんだけは私の味方になってくれた。……でも、私は美優ちゃんが差し出してくれた手をふり払ってしまった」
「どうしてですか?」
「美優ちゃんを巻きこんでしまうのが怖かったから。もし私のせいで美優ちゃんまでいじめられでもしたら、自分のこと以上に辛いもの」
そうだったんだ。
柳先生は美幽センパイを拒んだんじゃない。
柳先生もまた、美幽センパイを守ろうとしていたんだ。
だから、若杉先生に問いつめられてもいじめの事実を認めず、自分が耐えることで美幽センパイに被害が及ばないようにしていたんだ。
私の背後では、真実を知った美幽センパイが声を上げて泣いている。
柳先生もまた肩を震わせ、ハンカチで涙をぬぐった。
「でも、まさか美優ちゃんが消えちゃうなんて夢にも思わなかったから……。きっと私が傷つけてしまったのね。今となっては後悔してもしきれない。あの時二人で助け合っていたら、今とはちがった未来が待っていたかもしれない」
二人は互いを思うがゆえにすれちがい、傷つけ合ってしまった。
あまりにやるせなくて、胸が押しつぶされそうになる。
どうして優しい人たちが傷つかなくちゃいけないんだろう?
優しさは尊い美徳であるはずなのに。
私は柳先生にたずねた。
「もし美優さんにふたたび会えたら、どんな言葉を伝えたいですか?」
「『ありがとう』と、『美優ちゃんが私を守ろうとしてくれたように、今度は私が子どもたちのことを守るからね』って伝えたいかな」
柳先生は口元をほころばせ、窓に広がる爽やかな青空を見上げた。
「美優ちゃんは今も私たちのことを優しく見守ってくれている気がするの」
「きっとそうですね」
私は後ろで顔を赤らめて涙を流している美幽センパイをちらりと見て、そっと微笑んだ。
こうして、私は日常を取り戻した。
担任の若杉先生は厳しいけれど、私たち生徒を思いやる気持ちもちゃんと伝わってきて、みんなからの信頼を集めている。
柳先生は若くて美人な憧れのスクールカウンセラーとして慕われ、今日もみんなの心を癒してくれている。
瞳子ちゃんは、愛する学校を守りたいという気持ちをいっそう強くしたようだ。
「私、三年生になったら絶対生徒会長になる!」
力強くそう宣言した瞳子ちゃんは、生徒会の仕事のお手伝いをはじめ、早くも頭角を現しはじめているそうだ。
吉乃ちゃんはクラスの人気者でありながら、本人にその自覚はなく、変わらずマイペースに過ごしている。
人間の文化に関心が高く、最近では文芸部員の影響からかアニメに興味津々なようで、
「旭さん。今度一緒にアニメショップに行きませんか?」
と、目をキラキラさせながら誘ってくるのだった。
花子センパイは今も新しい恋を探している。
「旭、恋っていいものよ。旭も恋がしたくなったら言ってね。全力でサポートしてあげるわ。うふふっ♪」
花子センパイは学校にふらりと現れては可憐な笑顔をふりまいて、いつも私の心を明るくしてくれる。
美幽センパイは今も学校で暮らしている。
変化があったとすれば、トイレから相談室に引っ越したことだ。
相談室の壁に飾られた鏡のなかに新居を構え、悩みを抱える生徒たちの話を柳先生と一緒になって聞いているようだ。
「薬子ちゃんががんばっているんだもの。私だってみんなの役に立ちたい」
「えー。センパイは私のことだけ見ていてくれたらいいのに」
「旭ちゃん、もしかして私にかまってもらえなくてさみしくなっちゃった?」
「……ちょっぴりさみしいかも」
「素直に認める旭ちゃん、かわいい!」
「もう、子ども扱いしないでくださ~い!」
こうして美幽センパイと笑い合う時間が、私にとってなによりも幸せだ。
そして、私は。
あいかわらず勉強についていくのは大変だし、運動も苦手なままだ。
この間もダンスの授業でまた足を引っかけて転んでしまった。
すると、吉乃ちゃんと瞳子ちゃんがすぐに駆けつけて、優しい手を差し伸べてくれた。
「旭さん、お怪我はありませんか?」
「もう、なにやってんのよ。私が教えてあげるから、もう一度やってみなさいよ」
私は二人の手を借りて立ち上がった。
私が見上げる先で、美幽センパイは軽やかに宙を舞い、
「がんばれ、旭ちゃん!」
と微笑みながら手をふってくれていた。
私もまた人の目を気にしつつ、美幽センパイにこっそり手をふり返した。
私をいつも温かく見守り、たくさんの愛と勇気をくれた美幽センパイ。
私もいつかセンパイのような優しい人になれるといいな。
生きていくことは大変で、落ちこんで気分が沈んでしまう日もあるし、不安に駆られる夜だってある。
そんな時は、ひそかに思い返してみる。
私には、優しい気持ちでつながれたたくさんの友だちがいることを。
そして、私をいつも見守ってくれている、温かい眼差しがあることを。
私たちは、一人ではむずかしいことも、みんなとならきっと乗り越えられる。
だから、今がどんなに辛くても、悲しくても、手を取り合ってともに生きていこう。
私たちは今、幸せに向かって生きている。
〈 了 〉
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美幽センパイのキャラが、おもしろいです。とってもユニークなストーリーだと思いました。これからの展開が気になります。
ありがとうございます。初めていただいた感想なので、とても嬉しいです。少しでも気に入っていただけたなら、よかったです。今後ともよろしくお願いいたします。