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1 脅かされた世界の中に

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...この世界はとても残酷だ。
罪のない者達が殺されていく世界。
人と人とが争う世界。
そして、血に塗れた私の手。
この手は2度と元には戻れない...




私は両親が聖剣士である家に生まれ、そして育った。
両親は私のことを立派な聖剣士にするのが夢だとかなんとか言っていたが、私にとってみればいい迷惑にすぎなかった。
だいいちこの世界に本物の剣をふる意味なんてないし、聖剣士じゃなかったら警察沙汰になり得るかもしれないことなのだ。
そんなこともあって、私は聖剣士なんて呼ばれるのが大嫌いだった。
だが、ある日にその考えは全て否定された。
全世界に同時に流されたサイレンとともにこの世界が変わり果てたからである。誰でも名は聞いたことのある有名な科学者達が生き物を殺し、それを楽しむモンスターを開発、増殖させてしまい、それをある悪党グループに悪用されたのである。
それだけではない。モンスターという地球外生命体が急激に増えすぎたことで、世界の空間がねじまがり、歪ができてしまったのだ。その歪は精霊界と人間界の空間をくっつけてしまった。
その結果、人や動物はもちろんのこと、魔力の弱い精霊までもがモンスターに殺されてしまうはめになった。
私は安全な建物に引きこもって、これから一生を過ごすくらいなら悔いのないように戦おうと思った。
たとえ負けて死んでも聖剣士の名に恥のないように。
私はこの時初めて剣をふるという重みをしったのかもしれない...。



私はいつものように次の街へと向かっていた。
この短い日の中で私はいったい何体のモンスターを倒してきたことだろう。そして、助けきれずに目の前でモンスターに殺されていく者を何人見たことだろうか。私が戦う理由は誰かを守る為でも世界のためでもなんでもない。自分の心に嘘をつかないためだけだ。実はこれまでに何度かギルドに誘われたことがあるのだが、全て断ってきた。ギルドというのは、この世界が始まってから作られた制度で、まぁ簡単にいうとチームを組むようなものだ。でも私はギルドに入る者達の気が知れない。だっていつかは目の前で誰かが、ましてや昨日まで仲良くしていた者が殺される姿をみることになるのだ。そんなこと耐えれるわけがない。
だから私はずっと1人で生きていく。そう決めているのだ。そうとなればやはり一刻も早く次の街へと急がなければ。そう思い歩きだそうとした時だった。
森で特訓をしている青年を見つけたのである。
私はその青年のキレのある動きに心を揺るがされた。そんな時、青年はこちらに気づいたようで、振っていた剣をしまい、こちらに向かってきたのである。
真っ白な髪にピンクと黄色の髪があり、その2色の髪だけ膝の位置ほどに伸びている。黄色い瞳に薄桃色の頬で綺麗な顔立ちをしている。その青年が私みたいな貧祖な奴に何をするというのだろうか。
「やあ、こんにちわ。君はどうしてこんなところにいるの?」
青年の質問に私は自分の思いをそのまま口にした。
「...私が自分の心に嘘をつかないため。」
「そっか。でもここらは初級モンスターが沢山いる危険エリアだよ。そんな所に女の子一人で来るなんて、危ないよ?」
「無駄な心配なんてしなくていい。私こう見えても強いんだから。」
じゃあ、と付け加えて私はその場を立ち去ろうとした。そのとき、青年は私の手を掴んだ。
「なに。何の用があるの?」
私は冷たい声と目線を青年にやった。
「僕はどうしてもこの世界を終わらせなければいけないんだ。だから強い仲間を探している。君は強いんだよね?だったら…」
そこまで言われた所で私は少しカチンときた。
「あのねぇ。見ず知らずの他人にいきなり仲間にになろうとか言う普通?しかもこの世界を終わらすなんてどうやって...」
「倒すんだよ。300体のボスモンスターを」
「え...?」
ボスモンスターを倒す?
そんなこと誰にも聞いたことがない。それに私は今までどこにでもいるようなモンスターしか存在しないと思っていた。
「この世界にはどこかにボスモンスターがいるんだ。そいつを全て倒せばこの世界が終わる条件はコンプリートされる。でもボスモンスターは1体倒すごとに他の奴らが強くなっていくんだ。いずれは僕ひとりじゃ勝てなくなる。」
「なぜ...何故そこまで知っているの?」
「僕が...。僕が大精霊3代目候補の精霊だからだよ。」
大精霊3代目候補...?
私もこの世界が始まってから大精霊という存在は何度も耳にしたことがある。精霊界の頂点にたつという1番強い精霊だったはずだ。その大精霊になる予定である精霊が今ここにいるというわけなのだ。
とても信じられる話ではない。
「私は君が大精霊候補だとは思えないな。だって精霊という生き物はそもそも人間とは全く違う姿だからね。でも君は人間そのものじゃないか。」
そう。精霊は人とは全く違う姿形なのだ。例えるなら小さい子が抱いている人形のような姿であり、ほぼ常に空中にういている。私はこの青年がとんでもない嘘をついているようにしか見えなかった。
「うーん。やっぱり信じてもらえないか。しかも仲間になってくれそうもないし...。」
「当たり前じゃない。」
「じゃあこうしよう。君と僕とで勝負する。僕が勝てば仲間になってもらうし精霊ってこと認めてもらうよ?」
「私が勝ったら?」
「そうだねぇ。じゃあ、今僕が持ってる持ち物全部あげるよ。それでどう?」
「そんな約束して、後から後悔するのは君じゃないの?私、死人を増やすつもりじゃないんだけど。」
「僕は後悔しないよ。さあ、どうする」
私が勝てばお金や食料、そして新しい武器が手に入る。その勝負、して損は無いはずだ。
「いいよ。わかった。その勝負うけてたつ。」

こうして聖剣士と精霊の戦いがはじまったのである
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