異世界トリップして霊獣さまを食べちゃった

木漏れ日

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霊獣さまとのお別れ

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「アハハ、フィヒヒ、クックック、イッヒヒ、」
 ただいま涙目になって、お腹を押さえて笑い転げているのは、紺熊の霊獣さまです。

「くっ苦しい、こんなに笑ったのはかれこれ200年ぶりじゃ」

 なんでも霊獣さまは、人間サイズまで身体を小さくできるそうなので、今は人間サイズになって貰っています。

 霊獣さまの笑いのツボは、どうやら私たちが木の実を食べたことにあるようです。

 異世界トリップして消滅しそうになったから、この世界のものを食べたら、定着できると思って木の実を食べたと話したとたん、紺熊さまはフルフルと震えるといきなりブハッと吹き出したのです。

 センなんて、こいつどうしようもねえなぁと言わんばかりの目つきですし、私も少しイラッとしてしまうけど、レイはさすがに平気な顔をしています。
 
 年の功ってやつですねっと考えていたら、なんだかレイが睨んでるんですけれど、感がいいようなので気をつけなければいけません。

 そんな私たちの気配に気づいたのか、それとも笑い疲れたのか知りませんが、ようやく真面目な顔つきになった紺熊さまは、コホンと咳払いをして真面目くさって話を進めようとします。

「いや、すまん。なにしろお前さん達が食べたのは、霊獣の核になるものだ。わかりやすく言えば、霊獣の卵のようなものじゃ」

「レイが食べたのは銀狐、センは黒獅子、ナナは金のカナリヤの核じゃの。あやつらは生前ずいぶん生意気で気取っておったからの。それが異世界人に飲み込まれたかと思ったら笑ってしまったのじゃ」

「え~。それってものすごく失礼な事ですよね。私たち大丈夫なんでしょうか?なんか罰とかうけちゃうんじゃ……」

 私はびっくりして叫んだ!霊獣さまの核を取り返すために、最悪殺されるかもしれないと思ったからだ。

「いや、この世界にとって霊獣は神聖な獣とされておる。例え異世界人とはいえ、霊獣をその身に宿しているなら、不埒なまねをするものはおらんじゃろ。」

レイさんは、少し考え込むと慎重に質問する。

「その霊獣さまたちの力は、私たちにも使えるものなのでしょうか。彼等はどのような霊獣なのでしょう。又この世界について基本的な事を教えていただけませんか」

 紺熊さまによると、この世界は霊山を中心とする天球という世界なのだという。

 ちょうど地球とは次元を挟んだ双子星のような関係なので、神隠しといわれる異世界トリップが起こりやすく、そこでそのような人々は自動的に霊山に墜ちるようになっています。

 消滅させてしまうのは、非情なようだけれども、地球ではすでに死んでいるわけで輪廻転生の輪に戻す仕組みだそうだ。

 それでもたまに、天球の食べ物を食べることで消滅が免れることがあるようだ。
 さすがに霊獣を食べた人はいないらしいけれど。

 それで肝心の霊獣の力だけれど、銀狐は知将タイプで相手の弱点を見極めて、そこを突くのが得意で霊力自体は大きくないけれども、使い方が上手いタイプ。
 得意技は雷を使う電気系。

 黒獅子は、肉体を鍛えることに霊力を使うタイプで、霊力もかなり多い。
 得意技はあらゆるものを武器化する力。戦闘が得意。

 金の金糸雀は、害意にとても敏感。癒しの効果のある歌が唄える。人型になった時にはフルートを好んで演奏していたんですって。

 私だけ、間違いなく非戦闘員ですね。
 なんでしょうね、害意に敏感って。
 鉱山で真っ先に死ぬ役目ですよね。

 地球にいる時も、人の害意を感じると頭痛がするので、人の多いところは苦手だったのに。

 フルートなんて持ってないと言ったら、霊獣の持ち物は全部自分の次元倉庫にしまっていて、思い浮かべるだけで、取り出せるんですって。

 言われて思い浮かべてみると、倉庫の中身もわかるし、簡単に出し入れできました。
 
 霊獣さまは人化もできるので、今の私たちの髪や目の色は、霊獣さまの影響を受けているみたい。

「それじゃ、私が子どもの姿なのも、霊獣さまの影響なんですね」
って勢いこんで聞いてしまった。
 だって高校生のセンよりも子ども姿なんて、納得いかないですもの。

 なのに紺熊さまは、きっぱりと
「それは精神年齢によるの。つまりお主の精神年齢が12歳という訳じゃ」
 と、ぬかしやがりましたよ。

 おかげでそれ以降、センからまで子ども扱いを受ける羽目に陥ってしまった。
 見た目から先輩扱いしづらかったらしいのだが、紺熊さまの発言ですっかり兄貴気取りだ。

 この天界の人は、オーラと呼ばれる精神力を鍛えて、念動力としたり身体を強化しているので、魔法とは少しおもむきが違うみたい。

 念能力によっては、魔法みたいな力を使えるようになる人もいるけれど、あくまで精神や肉体を鍛え上げることで、使えるようになるんですって。

 霊獣も同じで、紺熊さまも最初は私と同じくらいの大きさで、翼もなかったのが修行を重ねて、オーラの翼を持つようになり、身体も20倍までは大きくできるようになったと言います。

 そして霊獣さまは、1000年たつと霊山に還る。紺熊さまもちょうど1000年目なので霊山に帰ってきたところ、私たちに遭遇したと、とても楽しそうに話してくれた。

 明日、朝日の光を浴びると霊獣さまの姿は消えて、大木だと思っていた霊樹に新しい実が宿る。

 いつの日か、次の霊獣さまがその実から誕生するのだ。

 私たちは、すっかりしんみりしてしまったが、紺熊さまは日が落ちるまでは、修行をつけてくれ、日がくれてからは一晩中、私たちに必要な知識を授けてくれた。

 そして翌日、私たちは湖のほとりに集まって、朝日が昇るのを見つめていた。

 柔らかな陽の光を浴びると、その光にまけないくらいキラキラとした光の粒子となって紺熊さまの身体は、静かに消えていった。

 そうして霊樹には、紺色に輝く美しい実がひとつ、新しく生まれていた。

 それを私たちは、かなり長い間じっと見つめていた。
 とてもとても長いあいだ……。

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