異世界トリップして霊獣さまを食べちゃった

木漏れ日

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ひとりでの旅立ち

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いつまでも、そうして3人で湖のほとりにいたかったけれど、そういう訳にもいかない。

「じゃぁ、昨日の話し合いの通り、私から先にいくね。」

「いいか、ナナには身を守る力はほとんどない。癒しの力なんて逆に利用される原因にしかならない。到着したら、なるべく人の目につかないところでお日様が真上にくるまで待つんだ。」

 レイがもう一度念を押すようにいうので、

「大丈夫、まるで心配性の母親みたいだよレイ。もしお昼になってもレイもセンも来なかったら、一番近い神殿まで行って、そこで待ってます」

 この霊山は、誰も入れないように、出入り口は湖にしかない。
 そして湖に飛び込むとどこに出るかは、その時に開いている扉しだいになってしまう。

 つまり3人が同じ場所にたどり着くとは限らない訳だ。
 レイやセンにとって、それは何の問題にもならない。
 新しい冒険がスタートするのだし、なにより霊力を高め、力をつけることを楽しみにしている。
 
 それなのに、ほんの少しの時間を一緒に過ごしただけだというのに、2人は私のことをとても心配して同行しようと言ってくれた。

 実際には、同じ国にたどりつくことすら奇跡だと知っているのに、なんとか守ろうとしてくれている。

 そこで2人に納得してもらった方法が、神殿に行くことだった。

 この世界は、生命の誕生を司る女神ネィセンリーフを祀っている。

 どの町にも女神ネィセンリーフの神殿があって、女神の神殿を巡礼して歩く旅人のために常に門戸が開かれている。

 このシステムは国の権力者にとっても都合がいい。
 人々の動きを監視することができるし、流民の発生で治安が悪化するのを防ぐことができる。

 神殿では教育や、オーラを使った念能力の訓練も無料で受けることができる。
 能力が認められたら、仕事先を斡旋される。

 有能な人材を発掘、育成することができるので、為政者にとっても民にとってもギブアンドテイクの関係が築かれている筈だ。
 
 食事や宿泊代金は喜捨で賄われていて、お金がなければ神殿で仕事をすることもできる。
 私は、神殿の下働きとして雇ってもらうつもり。

 衣食住に不自由はしないし、仕事休みには勉強や念能力の修行ができる。
 霊獣を宿したことは、絶対に秘密にして、念能力を使った癒しを学びたい。

 そうしたら霊力を使って癒しても、目立たなくなる筈だし、人の役に立てる力があるなら、使えるようになりたいから。

 本当は、もう一度レイやセンに会うことは、できないんじゃないかと思っている。
 天球中を旅して、たった1人に出会える確立は低いし、レイもセンも有能だ。

 きっと2人はサーガに謳われるような英雄に成る気がする。
 そしたら私は、そんなサーガを歌いたい。
 実は2人に出会ったことは、秘密にしながら。

 そんなことをつらつら考えていると
「おい、お前は単純バカなんだから、ホイホイと他人にくっついていくんじゃねえぞ。迎えにいくまで、大人しくしていろ」
 と、センが偉そうに言ってくる。

「あのねぇ、昨日も散々いったんだけど、レイもセンも自分のことを優先してね。私のことは大丈夫だから。私は、足手まといになりたくないし、これでも社会人経験があるのだから自活してみせます」

それを聞くと、2人そろって不憫な子を見るような目になるのは、やめて欲しい。

「じゃぁね」
 と手をふって、湖の中に飛び込んだ。

 どんどんと下に落ちていくけど、呼吸はできるし身体が濡れることもない。
 高層階のエレベータ―で下降したときみたいで、なんだか気持ちが悪い。

 足が地面に着いた感覚がして、周りをみると広場のような開けた場所の木陰に出たようだ。

 かなり大きな町のようで、なんと片側2車線の馬車道を、多くの馬車が行きかっていて、馬車道の横には歩道も整備されている。

 道の脇には2階建てのレンガ作りの建物が並んでいて、1階が店舗になっているようだ。
 広場には噴水があって、その周りにはベンチがたくさん並んでいる。
 
 中世のヨーロッパみたいなイメージがする。
 異世界トリップすると中世ヨーロッパのような世界に迷い込むというのは、ほんとだったんだなぁ。

 この広場は屋台が集まっていて、買い食いをする人や、ベンチで食事をする人々の様子は、日本と変わらない。

 噴水があるってことは、上手くいけば上下水道が整備されているかもしれない。
 古代ローマにはお風呂もあったんだから、これは期待できるかもね。

 目立たない場所って、どのあたりかなぁ。
 一応しばらくはこの場所にいた方がいいだろうし。

 あの後、次々にレイやセンも湖に飛び込んだはずだから、もしかしたらこっちに来るかもしれないし。
 迷った末に、最初に到着した木陰に座って待つことにした。

 周りは人が多いから、なにかあれば助けを呼べるだろうし、ちょうど大きな木で広場や道路の人の視線は遮られる。

 私は木にもたれかかって坐ると、なんだか少し気が楽になった。
 西洋人風の人々が、クラシカルな服装で行きかっているけれど、異世界といっても人間であることに変わりない。
 
 獣人の姿もないし、馬車を引くのも普通の馬だし、これなら馴染むのも早そうだ。
 もちろん、この町には人間しかいないという事も、考えられるけどもね。

 人目につきにくい場所って、恋人たちの定位置なんじゃないかと気がついたのは、あちらこちらの木陰から、ちらちらと色鮮やかな色彩の衣が見え隠れしているのを、目にした時だ。

 レイやセンには悪いけれど、すぐに神殿に向かおう。
 自分に住処が決まらないと落ち着かないし、ここがどこだかなるべく情報なんかを集めながら、進むことにしよう。

 霊山にいた時には感じなかったけど、なんだかとてもお腹がすいた。
 次元倉庫には、お金もあったし、まずは食事だよね。

 食事をすることを考えると、途端に元気になったから、我ながら現金だと思う。
 ウキウキしながら屋台のある方に歩きだした途端

 「お嬢さん、迷子ですか。お家の方はどうされたんですか」
と、騎士服を着た2人組に声をかけられた。

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