異世界トリップして霊獣さまを食べちゃった

木漏れ日

文字の大きさ
18 / 32

ナナの婚約者候補

しおりを挟む
 癒しの姫君奪還をかかげて、オルタナ神教団が神殿を襲うかもしれないという噂のために、人々が神殿に来ることができないかもしれない。

 それがわかっていたから、癒しの開始は、早朝の4時~その日付が変わる直前まで、1時間ごとに行うと周知させてあった。

 安全だと見極めてから神殿に来る人が多いだろうから、早朝に2人しかいないのは不思議でもなんでもなかった。

 けれど、その病人を連れてきた青年は、私をいともたやすく攫っていった、あの若と呼ばれていた男だったのだ。

 一瞬戸惑いを見せた私に、センはいぶかしそうな顔をする。
 センは、若を見たことがないから、今ここにセンが探していた敵がいるとは全く予想していない。

 それでも、私は何も言わずに、フルートを奏でた。

 癒しの力は、すぐに青年が連れていた老人を包み込み、まるでしわくちゃのミイラのようだった男は、驚いたことに、逞しく覇気に溢れた戦士の姿を取り戻した。

 病気というよりは、何かの呪いにでもかかっていたのではないだろうか。

「なるほど、癒しの姫君の力は実に大したものだな、お前が気に入る筈だの、ノヴァーリス。」

「爺が言ったことを本気にとるなおやじどの、姫君に挨拶をしていくか?」

「ふむ、少し話をしても良いかな?」

 私はどうすればよいかわからなくなって、センを見た。

「いや、話をすることはできない、病が癒えたならさっさと帰ってくれ。」

 センが代わって返事をしてくれた。

 センは既に戦闘態勢に入っていて、しかも剣を手にしながらも、額にはじっとりと汗をかいている。

「それほど警戒するな、お若いの。今はこれで帰るとしよう。そこの姫は、我が息子ノヴァーリスの嫁として迎えよう。後日改めて持参金を持って挨拶に参る。」

「なっ!おやじどの、オレは別に嫁にするとは言っておらんぞ!」

「やれやれ、ドバスはお前が番を見つけたと言っておったが、ドバスの目が狂ったというのか。お前は。」

「番!あれがオレの番なのか!」

 ノヴァーリスと言われた男は、あの砂漠の中で、私を何度も呼んでは驚いた顔をしていた時と、全く同じ顔をした。

「なるほど、そういう事だったか、ぬかったわ。」

「そうとも、お前は間抜けだよ。番を見つけてそれを逃がしたのだからな。」

「お前ら、いったい何を言ってるんだ!」
 センがいきり立つと

「元気のよい坊主だ。なにも取って食おうとは、言っておらん。砂漠の民の長、デュランダル・ネビュラスだ。アイオロス・ウィンディア王に伝えるがよい。砂漠の長の名に懸けて、レティシア・ウィンディア姫を、我が息子ノヴァーリス・ネビュラスの嫁とすると。」

「勝手なことほざいてるんじゃねえぞ。」

「それはどうかな坊主、王に伝えるがよい。砂漠の民の力、王には咽喉から手が出るほど欲しかろうよ。」

 そんなやり取りに気を取られていると、いつの間にか私は、ノヴァーリスに抱きかかえられていた。

「このまま、攫ってもよいが、おやじ殿はどうやらアイオロス王と話がしたいらしい。しばし待たれよ番殿。」

 そう言ってノヴァーリスは私に口づけをした。

「えっ……」

 一瞬なにが起きたか全くわからなかった。
 キスされた!それに気づいたときには、羞恥で身体中が熱くてたまらなくなった。

「おや、おや、真っ赤になって、可愛い人だね。私の番殿は。」
 このうえなく楽しそうにノヴァーリスは、そういうと

「大丈夫だよ、安心して待っておいで、うぶな娘を好みに育てるのも、楽しそうだ。」

 クスクスと笑いながら、今度は額にキスを落とし、ノヴァーリスと、その人騒がせな父親は去っていった。

 私は、へなへなと床に座り込んでしまった。
 腰が抜けて立てなかったのだ。

「ちくしょー、勝手なことを言いやがって!ナナ安心しろ。王様があんな話を受ける訳がない。一体全体なんでこんなことになっちまったんだか」

 それからもセンは色々と言っていたが、全然頭に入らなかった。

 キスという単語が私の頭の中をぐるぐると廻り、呆然としてしまっていたから。

 全く立ち直ることができない状態で、通信装置でセンがレイに報告と言う名の憤りをぶつけるのを聞いていた。

 今夜、私たちは癒しが終わり次第、王都の王様執務室に転移してくるようにという指示をうけた。

 どうやらレイの機嫌は氷点下のブリザード状態らしいが、もしかしたら王様も同じかもしれない。

 挨拶に来るっていってたけど、それっていったい何時なの?
 なんかもう嫁決定みたいな言い方してたよね。

「オイ、オイ大丈夫かナナ。まさかとか思うがお前今まで、彼氏とかいなかったのか?」
 と、聞かれたので思わずこくりと頷いてしまった。

 センにからかいの種を与えたことを後悔することになるのは、この後のことだ。
 何しろ、私にはまったく余裕というものがなかったのだ。

「まじかぁ、オレ今まで付き合った女、3人いるぜ、お前モテなかったのか?」
 とても残念な人を見る目でセンは言った。

「うそ、高校生で彼女3人もいたの!」

「バッ馬鹿かお前、ちゃんとひとりづつ付き合ってたぞ、二股なんかしてねぇし。小学校の時告られた女が最初で、2番目の女は、高校が違って自然消滅。今カノが高校の剣道部のマネージャーだったんだけど、これも自然消滅だな。異世界にきちゃったしさ。」

「はぁー、あんたって凄いのね。」

「こんなの、普通だろ、お前がうぶすぎるんだろ、アーだから12歳なんだ。けど今時小学生でも彼氏持ってるぞ。」

 センが私の精神を容赦なく攻撃してくる。
 わ、わかったからもう勘弁して!

「それよりも、セン、お仕事よ、2回目を始めるわよ。」

 ようやく立ち直った私は、それから仕事に集中しはじめた。 

 あまり来ないかもしれないと、思っていたのに、神殿の警備兵が悲鳴をあげるほど、毎回、毎回、満員になった。

 今回は1日しかない、ということと、次回も必ず開催されるかわからないという思いから、かなり遠方から、無理して参加した人も多い。

 午後になると、私はふらふらになって、癒しが終わるや否や、倒れ込んでしまった。
 
 レイやメリーベルが心配して、早めに切り上げるように勧めてくれるけど、希望を抱いて、必死に神殿に辿り着く人たちを思うと、そんなことができる訳ない。

 神殿の舞台裏にベッドを入れてもらって、仕事がすんだらベッドで休みながら、ともかくも、最後までやり遂げることに専念する。

 とくに最終の回は、必死で間に合うように、強行軍で神殿まで来た人ばかりだったから、癒しを受ける人も、施す私もお互いに満身創痍の状態だった。
 
「終わった~。」

 やり遂げた達成感を全身で味わっていると

「そんな呑気にしてていいのかよ。レイと王様が手ぐすねひいて待ってるんだぞ。」

 え~ん、どうしよう。
 あんまり忙しくて、すっかり忘れてた。
 
 というか考えることを避けていた。
 ノヴァーリスが私を攫った男だということを、センには言っていない。

 メリーベルは気づいたと思うから、きっとレイには伝わっているはず。
 どうしよう?

 どうして私、ノヴァーリスのこと言わなかったんだろう。
 私を殺しかけた男を、レイは必死で捜索してくれてた。

 それを知っていたのに、私は何も言わずに癒してしまったんだ。

 うわーん、怖いよう。
 ぜーったい、氷点下ブリザードのレイさまと対面することになる。

「うわぁー、セン助けて!」

「知るか、自業自得だろ、あの男だろ、お前を攫ったの。」

「へっ!なんでわかったの?」

「あのおやじ、すげぇ念能力を持ってた。近づいたら殺されるかと思って怖かった。この世界にきて、オレがマジにビビったのってあん時だけだ。」

 そういえば、センは額にびっしり汗をかいていた。

「それにあの男、あれは人間か?」
 センの問いかけに、私は目を見開いた。

 そーだ、なんか変だったんだ。
 ノヴァーリスからは霊力が感じられたんだ。

 出会いから今まで、あまりにも衝撃的な状態だったから、センに言われるまで気がつかなかった。
 
 もしかしたら、ノヴァーリスは霊獣なのかもしれなかった。
 それってかえって問題を複雑にしていないか?

 私たちは頭を抱えこんだ。
 こうなったら、レイや王様たち保護者軍団に全部ぶっちゃけてお任せしよう。
 そうしよう。

 半ばやけっぱちになって、私たちは王様とレイの待つ執務室に転移した。

  執務室につくと、レイが待ち構えていて、素早く私を布でくるむと、ソファーにすっぽりと居心地ようく収まるように丁寧に調整しながら座らせてくれる。

 さすがにおかん気質のレイですね。
 と、ちょっと安心したけれど、レイの目は笑っていなかった。
 
 かなり怒ってらっしゃいますね。

「レイ、この格好、王様に非礼なんじゃ……」
 と言いかけると

「娘が、何を言う。」
 と、王様が私の言葉をさえぎる。

「おとう様、ありがとうございます。」
 ほっとしてお礼を言うと

「なんか、恋人が出来たらしいね。父親にも内緒なのかな?」

 王様もすごーくお怒りモードです。
 もう、泣いていいですか?

 レイがギロっとにらんだので、センが素早く今日おきた出来事を説明する。

 いつもは脳筋に見られがちだけど、この子とっても頭がいい。

 端的に必要な情報を伝えていく。
 それは、王様やレイが手に入れていた情報と一致したらしい。

 なんのことはない。
 ふたりとも情報は全部握っていて、あとは突合せする段階だったみたい。

 「厄介ですね。」
 と、レイがため息をつくと

「そうだが、確かに砂漠の民の協力が得られるなら、帝国と講和に持っていける。カードが揃うからな。危ない均衡を保ちながらとはいえ、戦争を終えられるのは事実だ。」

 王様は為政者らしく冷静に損得を天秤にかける。

「どういうことだ。なんで砂漠の民にそんな力があるんだ?」

 センが質問したが、私も同じことが聞きたい。

 王様の答えは、私には衝撃的だった!。




 

 





 

 

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

追放後に拾った猫が実は竜王で、溺愛プロポーズが止まらない

タマ マコト
ファンタジー
追放された元聖女候補リラは、雨の森で血まみれの白銀の猫を拾い、辺境の村で慎ましく生き始める。 猫と過ごす穏やかな日々の中で、彼女の治癒魔法が“弱いはずなのに妙に強い”という違和感が生まれる。 満月の夜、その猫が蒼い瞳を持つ青年へと変化し、自らを竜王アゼルと名乗る。 彼はリラの魔力が“人間では測れない”ほど竜と相性が良いこと、追放は誤解と嫉妬の産物だったことを告げる。 アゼルの優しさと村の温かさに触れ、リラは初めて「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...