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それぞれの戦い
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その後しばらくは、うつらうつらする時間が過ぎた。
私がぼんやりと目を開けた時見えたのは、メリーベルの心配そうな顔だった。
「メリーベル、良かった無事だったのね。」
「姫さま、目が覚めましたね。どこか苦しくはございませんか?」
「大丈夫よ、それよりもセンはどこ?センは無事なの?」
「ご無事でございますとも。今呼んで参りますね。」
扉がいきおいよく開いて、センが顔を覗かせた。
「ナナ、起きたって?」
「セン、無事でよかった。怪我はない?皆は無事なの。あの後どうなったの?」
「オレは無事さ、それよりナナはもう大丈夫なのか?」
「姫さまは安静にするよう医師から言われていますから手短にお願いしますね。」と、メリーベルが答える。
「あの後のみんなの様子が知りたいの?どうなったの?怪我人は?だれか亡くなったの?」
センの話では、不意打ちを免れたのと、センの援護もあってこちら側の被害は少なくて済んだそうだ。
けれども、いくら攻めても逃げようとしないので、オルタナ教団側では、かなりの死傷者がでたということだ。
そのために、戦闘に時間がかかり、敵味方入り乱れての乱戦のせいで、メリーベルが私の誘拐を知らせることができたのは、かなり時間がたってからだった。
聖女部隊襲撃のニュースは、皇宮にすぐに知らされたが、セーラ皇女と私が親しいのを知っていた側近が、私の誘拐をセーラには知らせていなかったらしい。
センたち守護隊は、主な街道を封鎖したが、今からおもえば誘拐犯は砂漠に逃げた後だったために、警戒網から外れてしまっていた。
調略活動中のレイに、誘拐の情報が入ったのは私が消えて4日目のことで、すぐに守護隊に、皇宮への撤退を命じ、レイとセンが皇宮でセーラに会って、アンクレットを起動させるよう依頼したのが、誘拐されてちょうど6日目だったんですって。
不眠不休で駆けつけてくれたんだろうなぁ。
センはアンクレットのことさえ知っていたら、もっと早く助けられたのに、と悔しそうだった。
「レイはどうしているの?」
と聞いたら、王都に戻ってお仕事の真っ最中らしい。
襲撃犯は砂漠の民みたいだから、特定するのに手こずっているんですって。
「セン、ここにいて少しお話をして欲しいの。」
「甘えん坊だな。いいけど何を話す?」
「そうね、あの日のことを話して、私たちが天球であった日のことを……」
センは話してくれた。
それはとても長い話になって、何度もメリーベルが止めにきたけど、そのたびに目顔で黙らせた。
センと一緒に事故にあったのは、同じ剣道部の仲間だったこと。
幼馴染の親友も一緒だったこと。
私が、大木に向かって駆け出すのを見て、思わず追いかけたこと。
霊獣の実を飲み込んだ時の恐怖。
仲間を見殺しにして自分だけが助かった罪悪感。
せめて命の恩人である私を守ろうと決意したこと。
そして私が攫われた日、いくら攻撃しても命を捨ててくるオルタナ教徒の目が怖ろしくて堪らなかったこと。
あまりにもたやすく命を刈り取る自分が、自分で信じられないと思ったこと。
地球にいる、両親や兄弟のこと。
将来は警官になりたかったこと。
ゲームが好きだったこと。
思い出すままに、心のままに話しながら、センは号泣していた。
それは少年があるべき未来を奪われた、ありのままの姿だった、
センがちゃんと泣けたこと。
そして過去と決別できたこと。
辛いことを辛いと言えたことに、私は安堵した。
ずっとセンは、私を守ることだけに固執していたけれど、これでやっとセンの人生の時は動きだしたんだ。
それだけでも誘拐された甲斐はあったのかもしれない。
私はサクラにお願いをして、センと一緒に寝て貰った。
センは馬鹿にするなピンクめ!と怒ったけれど部屋から追い出しはしなかった。
センが寝室で寝入ったころ、メリーベルに頼んでいた人物がやって来た。
「夜中にごめんなさい、ダン。」
「呼び出したのは、癒し巡回のスケジュールのことか?」
「ええ、私とセンだけなら転移を使うこともできるわ。最初の予定日は、明後日。明後日アステル神殿で癒しを行うことはできる?守護隊には第二の予定地エトワール神殿に向かってもらう」
「つまり民衆には、アステル神殿で予定通り癒しが行われると周知させて、オルタナ教団には、アステル神殿は捨てて、エトワールが癒しの場所になると思わせることはできるか?と聞いているのか?」
「ええ、出来るかしら、ダン。」
「姫君の仰せのままに。」
大仰に礼をしてダンは引き受けてくれた。
「ダン、たぶん3日は持たないわね。2日は大丈夫かしら?無理なら1日目の真夜中に最終回を行うわ。間に合わない人もでると思うけど。」
「1日だけにしておく方がよいだろうな。予定が狂えば民が襲撃のとばっちりをくらう。」
「わかりました、それでは、1日目の真夜中に最終回を行います。その日だけは夜間の出入りを認めてもらうように、私からお願いしておきます。無理を言います。ありがとうダン。」
ダンが出ていくと、メリーベルが
「今度こそ、お休みください。明日は忙しくなりますから。」
といって、夜着を整えてくれた。
翌朝は多くの人に頭を下げた。
守護隊は、若い侍女を私の身代わりにたてて、エトワール神殿に向かった。
アステル神殿長には夜間通行に便宜を図ってもらえるように、大司祭さまからのお手紙を添えて依頼状を、早馬で届けた。
もっとも怒ると思ったセンは、私の警護をあっさり認めてくれた。
「オレがいれば、警護隊は必要ないぜ。」
という頼もしい言葉と一緒に。
一番怒ったのはセンではなく、セーラ皇女だった。
「危ない目にあったばかりなのに、民衆の前に出るなんて危険すぎますわ。」
オルタナ教団も、謎の誘拐者も私の命を狙ってはいないこと。
もしも危ないと思ったらサクラを呼ぶこと。
センが、私から離れることさえなければ、センの防御をかいくぐれるはずがないこと。
もしも私が又さらわれたとしても、セーラのアンクレットがある限り安全なことを、口を酸っぱくして説明した。
皇帝陛下からは、ねぎらいの言葉を頂戴し、無茶をしないように釘を刺された。
レイには、昨夜のうちに計画の了承を貰ってあった。
レイの計算でも成功率は高かったけど、一番不安なのは、オルタナ教団が狙っているという噂がある中で、本当に病人がくるのか?ということだった。
たったひとりの為でも、お役目は全うするつもりではあったけれど。
そうして、私としては最も気の重い仕事があった。
それはオルタナ教団員の癒し。
敵であっても命を救う事にちゅうちょなんてしない。
嫌なのは、聖女として異様なほど崇拝する目に晒されることだった。
同じ人間だと思ってもらえずに、一方的に崇拝され、祭り上げられるのが気持ちわるかったから。
けれども苦しんでいる怪我人を見捨てることはできなかったので、私は自分の心の平穏の為だと言い聞かせて、治療所に向かった。
どうしても直接会いたくなかったから、天幕の外側から、惑星の名前を持つ曲を奏でた。この場に一番ふさわしいような気がしたから。
治療を始める前に拘束していたから、天幕の外まででてくる人はいなかったけど、聖女降臨だの、やはりオルタナ教は正しかっただの。聖女は我々の味方だなどという声を聞くと、やはり切なかった。
人間にとって、時として命を懸けて守らなければならないものがあることは知っている。
けれども、自分達のみが正義だと他者をかえりみることなく一方的に断罪するのは、理解できなかった。
こんな時には、自分の霊力がなぜ癒しなんだろうかと思ってしまうけれど、こうやって癒していくのが、私の戦いなのだろう。
それぞれがそれぞれの場所で、自分の戦いをするのだ。
そして私の戦いの場、アステル神殿の第1回目は、老人を連れた青年が居ただけだった。
しかも、その青年の顔を、私はつい最近みたばかりだっだ。
私がぼんやりと目を開けた時見えたのは、メリーベルの心配そうな顔だった。
「メリーベル、良かった無事だったのね。」
「姫さま、目が覚めましたね。どこか苦しくはございませんか?」
「大丈夫よ、それよりもセンはどこ?センは無事なの?」
「ご無事でございますとも。今呼んで参りますね。」
扉がいきおいよく開いて、センが顔を覗かせた。
「ナナ、起きたって?」
「セン、無事でよかった。怪我はない?皆は無事なの。あの後どうなったの?」
「オレは無事さ、それよりナナはもう大丈夫なのか?」
「姫さまは安静にするよう医師から言われていますから手短にお願いしますね。」と、メリーベルが答える。
「あの後のみんなの様子が知りたいの?どうなったの?怪我人は?だれか亡くなったの?」
センの話では、不意打ちを免れたのと、センの援護もあってこちら側の被害は少なくて済んだそうだ。
けれども、いくら攻めても逃げようとしないので、オルタナ教団側では、かなりの死傷者がでたということだ。
そのために、戦闘に時間がかかり、敵味方入り乱れての乱戦のせいで、メリーベルが私の誘拐を知らせることができたのは、かなり時間がたってからだった。
聖女部隊襲撃のニュースは、皇宮にすぐに知らされたが、セーラ皇女と私が親しいのを知っていた側近が、私の誘拐をセーラには知らせていなかったらしい。
センたち守護隊は、主な街道を封鎖したが、今からおもえば誘拐犯は砂漠に逃げた後だったために、警戒網から外れてしまっていた。
調略活動中のレイに、誘拐の情報が入ったのは私が消えて4日目のことで、すぐに守護隊に、皇宮への撤退を命じ、レイとセンが皇宮でセーラに会って、アンクレットを起動させるよう依頼したのが、誘拐されてちょうど6日目だったんですって。
不眠不休で駆けつけてくれたんだろうなぁ。
センはアンクレットのことさえ知っていたら、もっと早く助けられたのに、と悔しそうだった。
「レイはどうしているの?」
と聞いたら、王都に戻ってお仕事の真っ最中らしい。
襲撃犯は砂漠の民みたいだから、特定するのに手こずっているんですって。
「セン、ここにいて少しお話をして欲しいの。」
「甘えん坊だな。いいけど何を話す?」
「そうね、あの日のことを話して、私たちが天球であった日のことを……」
センは話してくれた。
それはとても長い話になって、何度もメリーベルが止めにきたけど、そのたびに目顔で黙らせた。
センと一緒に事故にあったのは、同じ剣道部の仲間だったこと。
幼馴染の親友も一緒だったこと。
私が、大木に向かって駆け出すのを見て、思わず追いかけたこと。
霊獣の実を飲み込んだ時の恐怖。
仲間を見殺しにして自分だけが助かった罪悪感。
せめて命の恩人である私を守ろうと決意したこと。
そして私が攫われた日、いくら攻撃しても命を捨ててくるオルタナ教徒の目が怖ろしくて堪らなかったこと。
あまりにもたやすく命を刈り取る自分が、自分で信じられないと思ったこと。
地球にいる、両親や兄弟のこと。
将来は警官になりたかったこと。
ゲームが好きだったこと。
思い出すままに、心のままに話しながら、センは号泣していた。
それは少年があるべき未来を奪われた、ありのままの姿だった、
センがちゃんと泣けたこと。
そして過去と決別できたこと。
辛いことを辛いと言えたことに、私は安堵した。
ずっとセンは、私を守ることだけに固執していたけれど、これでやっとセンの人生の時は動きだしたんだ。
それだけでも誘拐された甲斐はあったのかもしれない。
私はサクラにお願いをして、センと一緒に寝て貰った。
センは馬鹿にするなピンクめ!と怒ったけれど部屋から追い出しはしなかった。
センが寝室で寝入ったころ、メリーベルに頼んでいた人物がやって来た。
「夜中にごめんなさい、ダン。」
「呼び出したのは、癒し巡回のスケジュールのことか?」
「ええ、私とセンだけなら転移を使うこともできるわ。最初の予定日は、明後日。明後日アステル神殿で癒しを行うことはできる?守護隊には第二の予定地エトワール神殿に向かってもらう」
「つまり民衆には、アステル神殿で予定通り癒しが行われると周知させて、オルタナ教団には、アステル神殿は捨てて、エトワールが癒しの場所になると思わせることはできるか?と聞いているのか?」
「ええ、出来るかしら、ダン。」
「姫君の仰せのままに。」
大仰に礼をしてダンは引き受けてくれた。
「ダン、たぶん3日は持たないわね。2日は大丈夫かしら?無理なら1日目の真夜中に最終回を行うわ。間に合わない人もでると思うけど。」
「1日だけにしておく方がよいだろうな。予定が狂えば民が襲撃のとばっちりをくらう。」
「わかりました、それでは、1日目の真夜中に最終回を行います。その日だけは夜間の出入りを認めてもらうように、私からお願いしておきます。無理を言います。ありがとうダン。」
ダンが出ていくと、メリーベルが
「今度こそ、お休みください。明日は忙しくなりますから。」
といって、夜着を整えてくれた。
翌朝は多くの人に頭を下げた。
守護隊は、若い侍女を私の身代わりにたてて、エトワール神殿に向かった。
アステル神殿長には夜間通行に便宜を図ってもらえるように、大司祭さまからのお手紙を添えて依頼状を、早馬で届けた。
もっとも怒ると思ったセンは、私の警護をあっさり認めてくれた。
「オレがいれば、警護隊は必要ないぜ。」
という頼もしい言葉と一緒に。
一番怒ったのはセンではなく、セーラ皇女だった。
「危ない目にあったばかりなのに、民衆の前に出るなんて危険すぎますわ。」
オルタナ教団も、謎の誘拐者も私の命を狙ってはいないこと。
もしも危ないと思ったらサクラを呼ぶこと。
センが、私から離れることさえなければ、センの防御をかいくぐれるはずがないこと。
もしも私が又さらわれたとしても、セーラのアンクレットがある限り安全なことを、口を酸っぱくして説明した。
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そうして、私としては最も気の重い仕事があった。
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敵であっても命を救う事にちゅうちょなんてしない。
嫌なのは、聖女として異様なほど崇拝する目に晒されることだった。
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けれども苦しんでいる怪我人を見捨てることはできなかったので、私は自分の心の平穏の為だと言い聞かせて、治療所に向かった。
どうしても直接会いたくなかったから、天幕の外側から、惑星の名前を持つ曲を奏でた。この場に一番ふさわしいような気がしたから。
治療を始める前に拘束していたから、天幕の外まででてくる人はいなかったけど、聖女降臨だの、やはりオルタナ教は正しかっただの。聖女は我々の味方だなどという声を聞くと、やはり切なかった。
人間にとって、時として命を懸けて守らなければならないものがあることは知っている。
けれども、自分達のみが正義だと他者をかえりみることなく一方的に断罪するのは、理解できなかった。
こんな時には、自分の霊力がなぜ癒しなんだろうかと思ってしまうけれど、こうやって癒していくのが、私の戦いなのだろう。
それぞれがそれぞれの場所で、自分の戦いをするのだ。
そして私の戦いの場、アステル神殿の第1回目は、老人を連れた青年が居ただけだった。
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