異世界トリップして霊獣さまを食べちゃった

木漏れ日

文字の大きさ
16 / 32

檄文と襲撃

しおりを挟む
 王国は幼い少女を使って命を盾に、恭順を迫っている。

 皇国は騙されている。いずれ王国に使い捨てられるぞ!

 聖女は何も知らない傀儡にすぎない。

 政治利用される痛ましい少女を助けよう。

 皇国が、5つの都市を選定して、聖女巡回のスケジュールを発表した途端、どこからともなく、怪文書や檄文が皇国のいたるところで、バラまかれだした。

 それはオルタナ教団と名乗る宗教組織で、女神が生まれる前にいたのは、原初の神オルタナである、ということらしい。

 それでオルタナ教が言うには、癒しの力は、オルタナ神の加護によるもので、聖女はオルタナ神と共にあるべきだと主張している。

 そんなこともあって、私を守る守護隊は、最近ピリピリしている。

 オルタナ教は神の教えを守るための戦いを聖戦と呼んでいて、聖戦で死ねば、天国にいけるとかで、戦いでは死兵になることが多く、恐れられているからだ。

 しかもレイを先頭に守備隊の多くが、帰路にある小国に、王国との同盟を呼びかける調略のために出払っていて、守りが薄くなっている。
 
 まさかこのタイミングでオルタナ教団が出てくるとは、思っていなかったからだ。

 今日も守護隊に向けて檄文が投げ入れられた。

「ねぇ、セン。この檄文と~ても良く出来てるよねぇ。」

「そんなもん、いつまでも読んでねぇで、トレーニングに集中しろ、気が乱れてるぞ。」

「はぁ~い。」

 私はセンと一緒に霊力を高めるための、気のコントロールの真っ最中なんです。
 1日2回も3回も霊力を使うなんて、やったことないし。

 霊力を使った後、体調が悪いと熱をだして寝込むし。
 まぁ気力だけでがんばっている状態です。

 ともかく霊力を増やすことに専念するのが、私のお仕事ですよね。
 セーラさまが恋しいよぉ。
 なんか疲れたよ。
 
 ぶちぶちと心の中で文句を垂れ流していると、なんだか嫌な気配が大勢こちらに押し寄せてくる。
 
「セン、なんだか大勢の敵がこっちに向かってくるよ、守備隊だけじゃ無理みたい。セン、守りを固めておいて。」

「よし、お前はここからでるな。大人しく息を潜めてろ。メリーベルこいつを頼んだぞ。」

 センがでて、しばらくすると。

 天幕の外が騒がしくなって、 怒鳴り合う声がここまで聞こえるようになった。

「聖女さまを、お救いしろ!」

「聖女さまを、政治の道具にさせるな!」

「聖女さまは、我々オルタナ教団がお守りする。」

 ひぇ~ん、なんか危なそうな人たちが来てるみたいですよ。
 なんかこういう狂信的な人たちって、苦手なんだよね。
 話が通じる気がしないんだもん。

 思わずメリーベルにしがみついてしまった。
 
 メリーベルはしっかりと抱きかかえて
「姫さま、大丈夫ですよ。」
 って背中をゆっくりと撫でてくれる。

 私はメリーベルにしがみつきながら、小声で伝える。
「誰か天幕にいる。」
 メリーべルは、太ももに仕込んだ短剣を手に取った。

「ほほぉ!本当になにもできない臆病な子どもじゃな。まぁその方が使いやすいか。」
 誰もいない筈の天幕の隅に、黒いターバンを巻いた男が浮き上がってきた。

「姫さま、逃げて下さい!」
 メリーベルは、短剣を構えると、私を背後にかばって叫んだ。

  私は出口に向かって、すぐに駆けだしたが、その時天幕の入り口から、もうひとりの男が入ってきて、私の腕を捻じりあげる。

「痛い!嫌だ、離して」
 痛みのあまり、涙が滲んでくる。

「おい、この娘か?」

「はい、若。この者が『姫様』と呼んでおりましたゆえ、間違いなかろうかと」
 
 黒いターバンの男は、メリーベルの身体を投げ捨てて立ち上がった。

「メリーベル、メリーベル、いったいメリーベルに何をしたの、離して、離してよ。」
 メリーベルの身体からは、真っ赤な血がどくどくと溢れだしていた。

 拘束が解かれたので、メリーベルの側に駆け寄ると、すぐに治療を行った。

 メリーベルの身体はみるみるうちに回復し、意識を取り戻す。
「姫さま、御無事ですか?」

「大丈夫じゃないのはメリーベルでしょ。まだ起きちゃ駄目よ。たくさん血が流れたんだから」

「ふん、力も本物のようだな。」
 その声を聞いてゾッとする。

 私の力を確認する為だけに、メリーベルに瀕死の重傷を与えることに、なんのためらいも見せなかった。
 
「教団の者どもも、哀れですな。若に利用されてるとも知らず、あの様子では、全員が死ぬまで戦うつもりですぞ。」

「ふん、死ねば天国にいけるそうだから、喜んでるだろ。おかげで上手くいった。それよりも、さっさといくぞ。爺」

 若と呼ばれた男は、ひょいと私を抱え上げると

「しばらく静かにしてもらおう」というなり
 軽く手を私の首元にあてたが、それだけで私は意識を失った。

 私が意識を取り戻した時には、砂漠の真っ只中で、ラクダに揺られていた。
 もっと正確にいえば、身体を布で覆われてそのうえで男の腕でしっかりと抱えられていたのだ。

 私が身じろぎしたことで、男は私が気がついたとわかったのだろう。

「起きたか。口をしっかりと閉じて、ベールで顔を覆っておけ、さもないと砂が口に入って呼吸も苦しくなるぞ。」

 私が声を出そうと口を開くと、たちまち喉に砂が舞い込んできて、ごほっごほっと咳き込んでしまった。

「だから言ったろ。これに懲りたら大人しくしておくことだ。」
 男は愉快そうに笑ったので、むっとしたが、言い返しはしなかった。

 砂漠の旅はとても過酷で、私ひとりでは、ほんの数メートルも歩けそうになかった。

 もともと私はインドア派だし、この新しい身体は幼いうえに、前の身体よりもさらに虚弱だったのだから。

 わずか数メートル歩くのすら、砂に足を取られて進めないのを見ると、男たちは私を好きなようにさせていた。

 男たちにとって、私は放置すればすぐに死んでしまいそうな、あまりにも虚弱な生き物に見えた。

 旅をしてわずか数日で、私はすっかり弱りこみ、熱をだし、うつらうつらとしていることが多くなっていった。

「おい、爺なんだこの生き物は、死んでしまうんじゃないのか?」

「カナリアの霊獣とのことですから、かなり弱い生き物かもしれませんな。まぁ砂漠にカナリアなんぞおりませんし、いたらすぐに死んでしまうでしょうしのう。」

「せっかく苦労して連れ出したというのに、死なれてたまるかよ。爺、進路変更だ。近くのオアシスで、しばらく休むぞ。」

「じゃが、若。王がお待ちかねなんですぞ。」

「殺したら何にもならんだろ。」

「ほほう、若が珍しくご執心じゃ。」

「ぬかせ、行くぞ」

 若と呼ばれた男は、私を大事そうに包むと、またぞろラクダの上に抱え上げた。

 「もうすぐオアシスだ。すぐに楽になるぞ。」
 何度も何度も、そんな声が聞こえていたが、私は目をあけるのも辛かった。

 それでもあまり必死に呼びかけるので、時々は目を開けて微笑んでみせた。
 そうすると男は、びっくりしたように私の顔をまじまじとみるのだ。

 自分で呼びかけておいて、びっくりするなんて変なの。
 そんなことを思っていると、突然

「レティ、レティ、来て!」
 と呼ぶセーラの声があたり一面に響き渡った。

 その途端、私の身体は空間に溶けて転移した。

「レティ、レティ、レティ」
「なんてことなの!すぐに医者を!」

「おい、ナナしっかりしろ、死ぬんじゃねえぞ。」

「ナナ、ナナ、意識をしっかりもって。こっちを見なさい。寝てはだめですよナナ。」

 なんだか沢山の人の声が、ぐわんぐわんとする。
 口の中に何か押し込まれたと思ったら、水が流し込まれたので。ごくごくと飲んだ。

 たっぷりの少し甘しょっぱい水を、嫌という程飲まされて、身体を水に浸たされ、さっぱりとした服を着せてもらった。

「よくがんばったね。もう休んでいいよ。」
 レイのお許しがでたので、私はそのまま意識を手放した。

 


 


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

追放後に拾った猫が実は竜王で、溺愛プロポーズが止まらない

タマ マコト
ファンタジー
追放された元聖女候補リラは、雨の森で血まみれの白銀の猫を拾い、辺境の村で慎ましく生き始める。 猫と過ごす穏やかな日々の中で、彼女の治癒魔法が“弱いはずなのに妙に強い”という違和感が生まれる。 満月の夜、その猫が蒼い瞳を持つ青年へと変化し、自らを竜王アゼルと名乗る。 彼はリラの魔力が“人間では測れない”ほど竜と相性が良いこと、追放は誤解と嫉妬の産物だったことを告げる。 アゼルの優しさと村の温かさに触れ、リラは初めて「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...