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巻き込まれたトリップ
「離せってば! 私は嘘なんてついてない。わたしの方が本物なんだってば!」
ナオがいくら叫んでも、兵士たちはぎりぎりとナオの腕を締め上げると引きずるようにして連行してきます。
騒げば騒ぐほど、きつく締めあげられるので、とうとうナオは大人しく連行されていきました。
酷い。
なんで誰も信じてくれないんだろう。
嘘なんてついてないのに……
そう思うとナオの胸は悔しさでいっぱいになりました。
今までだってずっとそうでした。
友達と喧嘩になると、最後には施設育ちの子供だからひねくれているのだとか、施設で育つような子供と遊んではいけないなどと言われるのです。
喧嘩なんて本当は双方共に言い分があって、それがぶつかりあって喧嘩になるものです。
なのにいつだって、ナオの言い分を聞いてくれる大人なんていないのです。
やっぱりか。
やっぱりここでも同じなんだ。
ナオを信じてくれる人なんている訳なかったんだ。
兵士の詰所の奥に設けられた薄暗い独房の中の隅っこにしゃがみ込んで、ナオは絶望に打ちひしがれていました。
ギィーと音を立ててドアが開きましたが、ナオは膝を抱えて俯いたまま顔をあげることもしませんでした。
どうせ、何を言っても無駄に決まっています。
「お前が異世界から来たというのは本当か?」
お腹に響くような重々しい声が、独房に響き渡りました。
ナオが顔をあげると、いかにも貴族らしい重厚な衣装を身にまとった男が、じっとナオを見つめています。
生まれついて人に傅かれてきたかのような、威厳に満ちた男でした。
「本当だったらどうだって言うのさ! どうせ信じやしないくせに!」
男の威風に気おされまいと、ナオは精一杯声を張り上げたつもりでした。
けれども所詮は日本という安全な世界で生まれ育った小娘に過ぎません。
ナオの声はしゃがれて微かに咽喉から漏れるだけでした。
その男はじっとナオのそんな姿を観察すると、納得したようです。
「この娘を、私の館に連れてこい」
そう言い捨てて、帰ってききます。
公爵の従卒だという年配の男性が、優しくナオに話しかけました。
「無茶なお嬢さんですね。自分がどれほどの大罪を犯したのかすら気づいていないらしい。今のお方は現国王の弟君で、公爵閣下ですよ。 そしてあなたが糾弾した人物は公爵閣下の御子息の婚約者だ。それを公然と誹謗したのだから、あなたは打ち首になるところだったのですよ」
「だって、私は嘘なんてついていない。あいつは偽者なんだ。だって私は本当に異世界から来たんだから」
ナオはそう言いましたが、打ち首と聞いて恐怖のあまりガタガタと震えています。
「そのことについては、これからご説明があります。いいですか。これは年長者からの忠告ですよ。大人しくして逆らわないことです。そうすればきっと悪いようにはなりませんからね」
ナオは公爵閣下の従卒に連れられて、公爵邸の図書室へと案内されました。
「ふぁぁ」
従卒の男に案内されて、図書館に足を踏み入れたナオは思わず感嘆の声をあげてしまいました。
これが個人の蔵書を集めた図書館とは思えません。
ナオが知る限り学校の図書館よりもずっと立派です。
ナオは大学と言う所に行ったことがありませんから、そう思ったのかもしれません。
少なくともナオが知っている図書館が、おんぼろに思えるほど公爵邸の図書館は素晴らしかったのです。
ナオの瞳はキラキラと輝き、口角は思わず上がってしまいました。
勉強嫌いのナオですが、実は本を読むのは好きなんです。
物語の世界にいると、現実の苦しさが忘れられ夢を見ることができます。
同じ理由でナオは歌やコスプレも大好きで、だからアイドルになりたいと思っていました。
ナオは図書館の中央にあるソファーに案内されると、そこに座って待っているように言いつけられました。
けれどもナオは座ることなく、ゆったりと図書館の中を歩き回っています。
あんまりにも高価そうな本ばかりで、手に取るのはためらわれたのですが、その背表紙を見ているだけでうっとりとしてしまうのです。
「どうだ?」
公爵は短く従卒に問いました。
「確かにあの娘は、異世界から来たようです。身分というものを理解しておりませんし、警戒心もかなり薄い。これはこの世界の住人ではありえません。なにしろ公爵家に連れ込まれたというのに、怯えるどころが目を輝かせて本を眺めておりましたから」
「ふむ。そんなところはロッテに似ておるな。ロッテよりは、かなり思慮も胆力も足りなそうだが」
「殿下。それはあの娘が可愛そうです。シャルロットお嬢様よりもずっと年下のようですし、しかもあの壁外で生き抜いてきたのですから。まぁ、確かに考えなしの小娘ですがね」
思わず従卒は殿下と呼びかけてしまいました。
彼は公爵が幼いプリンスだったころから傍で仕えてきたのです。
「そう心配せずとも、あの娘を酷くは扱わぬよ。あれはまだ子供だと言いたいのであろう」
公爵は己の忠実な部下を優しく宥めてやりました。
なるほど。
この従卒を味方に付ける程度の資質は持っているようだ。
公爵は、従卒の人を見る目を信用していたのです。
公爵と公爵夫人が並んで図書館に入っていくと、ナオはいかにも楽しそうに本の背表紙を眺めている最中でしたが、2人の姿をみて、ぎこちなくはあっても、丁寧に礼をしました。
「そんなに緊張しなくてもいいわ。こちらにお掛けなさい。ミリー、その娘に付き添ってあげてくださいね」
ミリーと呼ばれたのは、公爵夫人と同じ年ごろのおっとりとした女性でした。
「お嬢さん。初めまして。私はエミリア・レイナ・シンクレア。男爵夫人の肩書を持っております。こちらのシャルロット嬢の親御さんであるシンクレイヤ侯爵家の一族に連なるものです。今はクレメンタイン公爵夫人の依頼を受けて、シャルロット嬢の付き添いをしております」
ナオはすっかり混乱していました。
目の前の女性はどうやら貴族の一員で、でも青銀の姫に仕えているみたいです。
貴族というのは、偉そうで働かないものだと思い込んでいたナオにとって、おっとりとはしていてもやり手らしいシンクレア男爵夫人はとっつきにくい人でした。
貴族になっても、こんなおばさんがいつもお目付け役に付いているなんて、貴族なんて案外面倒なものかもしれないと、ようやくナオは気が付きました。
それにどうやら異世界から来た娘は、シンクレイヤ侯爵令嬢という肩書まで手に入れているみたいです。
ミリーという女性を紹介されただけで、ここまで色々と察することのできるナオは、自分でいうほどおバカではなさそうです。
公爵夫人に勧められてナオたちが席についてすぐに、公爵家の次男であるセドリックとその婚約者のシャルロットがやってきました。
この国の筆頭魔術師だというセドリックは、青銀の瞳と、ほぼ水色に近い薄い菫色の髪を持っていました。
そして青銀の乙女は噂通り、青銀の髪と菫色の目をしていて、到底日本人どころか地球人とも思えない色を纏っています。
しかも肌だって、真っ白で肌理の細かい美しい肌をしています。
「来たわね、偽者!」
ナオはせっかくの従卒の忠告も忘れて叫んでいました。
だって、青銀の髪と菫色の瞳ですよ。
そんな人間が地球からやってくるわけありません。
「若槻美緒・28歳・みずがめ座・東京都出身・商社勤務・経理担当・成王大学社会学部卒・転移したのは半年前」
いきなり青銀の姫がそんなことを口走ります。
ナオはあっけに取られてポカンとシャルロットを見つめてしまいました。
「姓名・異界での年齢・星座・出身地・在学学校名。異界から来たのなら言えるわよね」
シャルロットの挑戦的な言い方にナオを負けじと答えました。
「水沢奈緒・16歳・ふたご座・神奈川県出身・星和高校1年・半年前に壁外に落ちて異界渡の姫の噂を聞いたの。あなたも転移者だとは思わなくって。てっきり私のふりをした偽物だと思ったの。ごめんなさい」
ナオは素直に謝りました。
確かにおかしな色合いを纏っていますけれど、このシャルロットという人も日本から来たに違いありません。
シャルロット嬢はため息をつくと、図書館にいた人々に言いました。
「残念ですけれども、この娘は私と一緒に異世界に落ちたみたいですね。この娘は学生で、こちらの年齢では8歳です」
それを聞いてナオは驚きました。
やっぱり地球と異界では年齢の数え方が違うみたいです。
「なに? どういうことなの? こっちでは6歳とかって言われていたんだけど、地球とこっちでは年齢の数え方が違うの?」
「そうですねぇ。およそ地球の半分の年齢がこちらの年齢になるんですよ。だから菜緒は8歳ですね」
シャルロット嬢にそう言われて、ナオは「ぐぇ」と変な声をあげてしまいました。
それを見て、公爵家の方々が眉を顰めています。
そんなことは気にもとめずにナオは質問を続けました。
「じゃぁさ。なんであんたはそんなに変な色になっているのさ?」
そうなんです。
これが黒髪で黒い瞳だったら、いくらナオだっていきなり偽者呼ばわりはしません。
青銀の髪に菫色の瞳だったから、偽者だと信じたのです。
「そうねぇ。異界渡りの姫は番を見つけるとその色に染まると言われているんですよ。私はセディの番なのでこの色に染まったのです」
なるほど。
さっきセドリックがナオが変な色だと言った時、むっとした顔でナオを睨んだのは、自分の色だったからなんですね。
ナオはようやく得心しました。
「ふーーん。それでその色なのかぁ。ごめんね。偽物と間違えて。だってテンプレにあるでしょ。こうヒロインが偽物のせいでひどい目に遭うって話。てっきり私が本物の異界渡りの姫でさぁ。あんたが偽物って思い込んだんだよね」
なんでもこの天才魔術師は、子供のころに読んだ異界渡りの姫の物語に夢中になって、人生を異界から人を召喚する魔方陣を作り出すことにささげてきました。
そしてとうとう異世界から自分の番を呼び出すことに成功したのです。
「青銀の乙女と魔術師」
というオペラは、そんな魔術師と異界渡りの姫の恋物語なのです。
だから異界渡りの姫が2人いるのは変な話なのでした。
この国の天才魔術師が自分の番の姫を召喚したのは事実です。
ナオはその異界渡りの姫は自分だと思い込んだのです。
じゃぁなんで異界渡りの女の子が2人になったんでしょう?
みんながそんな疑問に頭を悩ましている時に、魔術師のセドリックは魔方陣の紙を見ながら叫びました!
「しまったぁ! 番が見つからない時には保険として、前向きな若い女の子を召喚って条件付けといたんだよ。係累がなくて異界でも生活できる逞しさを条件にしてね。番が見つかればキャンセルされるようにしといたのに、キャンセルの部分が薄くなって消されてるわ。だから番と若くて元気な女の子の2人が召喚されちゃったんだよ!」
魔術師さまは疑問が解決してすっかり満足そうですが、全員の冷たい視線が一斉に魔術師に注がれるのに気づくとガタガタと震えだしました。
犯人はお前か!
しかも保険ってどういう意味だなんだ?
純愛じゃなかったのかよ!
図書館にいた人々は、そう突っ込んでいたのです。
ナオがいくら叫んでも、兵士たちはぎりぎりとナオの腕を締め上げると引きずるようにして連行してきます。
騒げば騒ぐほど、きつく締めあげられるので、とうとうナオは大人しく連行されていきました。
酷い。
なんで誰も信じてくれないんだろう。
嘘なんてついてないのに……
そう思うとナオの胸は悔しさでいっぱいになりました。
今までだってずっとそうでした。
友達と喧嘩になると、最後には施設育ちの子供だからひねくれているのだとか、施設で育つような子供と遊んではいけないなどと言われるのです。
喧嘩なんて本当は双方共に言い分があって、それがぶつかりあって喧嘩になるものです。
なのにいつだって、ナオの言い分を聞いてくれる大人なんていないのです。
やっぱりか。
やっぱりここでも同じなんだ。
ナオを信じてくれる人なんている訳なかったんだ。
兵士の詰所の奥に設けられた薄暗い独房の中の隅っこにしゃがみ込んで、ナオは絶望に打ちひしがれていました。
ギィーと音を立ててドアが開きましたが、ナオは膝を抱えて俯いたまま顔をあげることもしませんでした。
どうせ、何を言っても無駄に決まっています。
「お前が異世界から来たというのは本当か?」
お腹に響くような重々しい声が、独房に響き渡りました。
ナオが顔をあげると、いかにも貴族らしい重厚な衣装を身にまとった男が、じっとナオを見つめています。
生まれついて人に傅かれてきたかのような、威厳に満ちた男でした。
「本当だったらどうだって言うのさ! どうせ信じやしないくせに!」
男の威風に気おされまいと、ナオは精一杯声を張り上げたつもりでした。
けれども所詮は日本という安全な世界で生まれ育った小娘に過ぎません。
ナオの声はしゃがれて微かに咽喉から漏れるだけでした。
その男はじっとナオのそんな姿を観察すると、納得したようです。
「この娘を、私の館に連れてこい」
そう言い捨てて、帰ってききます。
公爵の従卒だという年配の男性が、優しくナオに話しかけました。
「無茶なお嬢さんですね。自分がどれほどの大罪を犯したのかすら気づいていないらしい。今のお方は現国王の弟君で、公爵閣下ですよ。 そしてあなたが糾弾した人物は公爵閣下の御子息の婚約者だ。それを公然と誹謗したのだから、あなたは打ち首になるところだったのですよ」
「だって、私は嘘なんてついていない。あいつは偽者なんだ。だって私は本当に異世界から来たんだから」
ナオはそう言いましたが、打ち首と聞いて恐怖のあまりガタガタと震えています。
「そのことについては、これからご説明があります。いいですか。これは年長者からの忠告ですよ。大人しくして逆らわないことです。そうすればきっと悪いようにはなりませんからね」
ナオは公爵閣下の従卒に連れられて、公爵邸の図書室へと案内されました。
「ふぁぁ」
従卒の男に案内されて、図書館に足を踏み入れたナオは思わず感嘆の声をあげてしまいました。
これが個人の蔵書を集めた図書館とは思えません。
ナオが知る限り学校の図書館よりもずっと立派です。
ナオは大学と言う所に行ったことがありませんから、そう思ったのかもしれません。
少なくともナオが知っている図書館が、おんぼろに思えるほど公爵邸の図書館は素晴らしかったのです。
ナオの瞳はキラキラと輝き、口角は思わず上がってしまいました。
勉強嫌いのナオですが、実は本を読むのは好きなんです。
物語の世界にいると、現実の苦しさが忘れられ夢を見ることができます。
同じ理由でナオは歌やコスプレも大好きで、だからアイドルになりたいと思っていました。
ナオは図書館の中央にあるソファーに案内されると、そこに座って待っているように言いつけられました。
けれどもナオは座ることなく、ゆったりと図書館の中を歩き回っています。
あんまりにも高価そうな本ばかりで、手に取るのはためらわれたのですが、その背表紙を見ているだけでうっとりとしてしまうのです。
「どうだ?」
公爵は短く従卒に問いました。
「確かにあの娘は、異世界から来たようです。身分というものを理解しておりませんし、警戒心もかなり薄い。これはこの世界の住人ではありえません。なにしろ公爵家に連れ込まれたというのに、怯えるどころが目を輝かせて本を眺めておりましたから」
「ふむ。そんなところはロッテに似ておるな。ロッテよりは、かなり思慮も胆力も足りなそうだが」
「殿下。それはあの娘が可愛そうです。シャルロットお嬢様よりもずっと年下のようですし、しかもあの壁外で生き抜いてきたのですから。まぁ、確かに考えなしの小娘ですがね」
思わず従卒は殿下と呼びかけてしまいました。
彼は公爵が幼いプリンスだったころから傍で仕えてきたのです。
「そう心配せずとも、あの娘を酷くは扱わぬよ。あれはまだ子供だと言いたいのであろう」
公爵は己の忠実な部下を優しく宥めてやりました。
なるほど。
この従卒を味方に付ける程度の資質は持っているようだ。
公爵は、従卒の人を見る目を信用していたのです。
公爵と公爵夫人が並んで図書館に入っていくと、ナオはいかにも楽しそうに本の背表紙を眺めている最中でしたが、2人の姿をみて、ぎこちなくはあっても、丁寧に礼をしました。
「そんなに緊張しなくてもいいわ。こちらにお掛けなさい。ミリー、その娘に付き添ってあげてくださいね」
ミリーと呼ばれたのは、公爵夫人と同じ年ごろのおっとりとした女性でした。
「お嬢さん。初めまして。私はエミリア・レイナ・シンクレア。男爵夫人の肩書を持っております。こちらのシャルロット嬢の親御さんであるシンクレイヤ侯爵家の一族に連なるものです。今はクレメンタイン公爵夫人の依頼を受けて、シャルロット嬢の付き添いをしております」
ナオはすっかり混乱していました。
目の前の女性はどうやら貴族の一員で、でも青銀の姫に仕えているみたいです。
貴族というのは、偉そうで働かないものだと思い込んでいたナオにとって、おっとりとはしていてもやり手らしいシンクレア男爵夫人はとっつきにくい人でした。
貴族になっても、こんなおばさんがいつもお目付け役に付いているなんて、貴族なんて案外面倒なものかもしれないと、ようやくナオは気が付きました。
それにどうやら異世界から来た娘は、シンクレイヤ侯爵令嬢という肩書まで手に入れているみたいです。
ミリーという女性を紹介されただけで、ここまで色々と察することのできるナオは、自分でいうほどおバカではなさそうです。
公爵夫人に勧められてナオたちが席についてすぐに、公爵家の次男であるセドリックとその婚約者のシャルロットがやってきました。
この国の筆頭魔術師だというセドリックは、青銀の瞳と、ほぼ水色に近い薄い菫色の髪を持っていました。
そして青銀の乙女は噂通り、青銀の髪と菫色の目をしていて、到底日本人どころか地球人とも思えない色を纏っています。
しかも肌だって、真っ白で肌理の細かい美しい肌をしています。
「来たわね、偽者!」
ナオはせっかくの従卒の忠告も忘れて叫んでいました。
だって、青銀の髪と菫色の瞳ですよ。
そんな人間が地球からやってくるわけありません。
「若槻美緒・28歳・みずがめ座・東京都出身・商社勤務・経理担当・成王大学社会学部卒・転移したのは半年前」
いきなり青銀の姫がそんなことを口走ります。
ナオはあっけに取られてポカンとシャルロットを見つめてしまいました。
「姓名・異界での年齢・星座・出身地・在学学校名。異界から来たのなら言えるわよね」
シャルロットの挑戦的な言い方にナオを負けじと答えました。
「水沢奈緒・16歳・ふたご座・神奈川県出身・星和高校1年・半年前に壁外に落ちて異界渡の姫の噂を聞いたの。あなたも転移者だとは思わなくって。てっきり私のふりをした偽物だと思ったの。ごめんなさい」
ナオは素直に謝りました。
確かにおかしな色合いを纏っていますけれど、このシャルロットという人も日本から来たに違いありません。
シャルロット嬢はため息をつくと、図書館にいた人々に言いました。
「残念ですけれども、この娘は私と一緒に異世界に落ちたみたいですね。この娘は学生で、こちらの年齢では8歳です」
それを聞いてナオは驚きました。
やっぱり地球と異界では年齢の数え方が違うみたいです。
「なに? どういうことなの? こっちでは6歳とかって言われていたんだけど、地球とこっちでは年齢の数え方が違うの?」
「そうですねぇ。およそ地球の半分の年齢がこちらの年齢になるんですよ。だから菜緒は8歳ですね」
シャルロット嬢にそう言われて、ナオは「ぐぇ」と変な声をあげてしまいました。
それを見て、公爵家の方々が眉を顰めています。
そんなことは気にもとめずにナオは質問を続けました。
「じゃぁさ。なんであんたはそんなに変な色になっているのさ?」
そうなんです。
これが黒髪で黒い瞳だったら、いくらナオだっていきなり偽者呼ばわりはしません。
青銀の髪に菫色の瞳だったから、偽者だと信じたのです。
「そうねぇ。異界渡りの姫は番を見つけるとその色に染まると言われているんですよ。私はセディの番なのでこの色に染まったのです」
なるほど。
さっきセドリックがナオが変な色だと言った時、むっとした顔でナオを睨んだのは、自分の色だったからなんですね。
ナオはようやく得心しました。
「ふーーん。それでその色なのかぁ。ごめんね。偽物と間違えて。だってテンプレにあるでしょ。こうヒロインが偽物のせいでひどい目に遭うって話。てっきり私が本物の異界渡りの姫でさぁ。あんたが偽物って思い込んだんだよね」
なんでもこの天才魔術師は、子供のころに読んだ異界渡りの姫の物語に夢中になって、人生を異界から人を召喚する魔方陣を作り出すことにささげてきました。
そしてとうとう異世界から自分の番を呼び出すことに成功したのです。
「青銀の乙女と魔術師」
というオペラは、そんな魔術師と異界渡りの姫の恋物語なのです。
だから異界渡りの姫が2人いるのは変な話なのでした。
この国の天才魔術師が自分の番の姫を召喚したのは事実です。
ナオはその異界渡りの姫は自分だと思い込んだのです。
じゃぁなんで異界渡りの女の子が2人になったんでしょう?
みんながそんな疑問に頭を悩ましている時に、魔術師のセドリックは魔方陣の紙を見ながら叫びました!
「しまったぁ! 番が見つからない時には保険として、前向きな若い女の子を召喚って条件付けといたんだよ。係累がなくて異界でも生活できる逞しさを条件にしてね。番が見つかればキャンセルされるようにしといたのに、キャンセルの部分が薄くなって消されてるわ。だから番と若くて元気な女の子の2人が召喚されちゃったんだよ!」
魔術師さまは疑問が解決してすっかり満足そうですが、全員の冷たい視線が一斉に魔術師に注がれるのに気づくとガタガタと震えだしました。
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※小説家になろうにも掲載中です。