ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日

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運命の急変

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 ナオが行った子供じみたざまぁは、ナオが思っていた以上に大変な事態を引き起こしてしまいました。

「すっげぇなぁ、オレ銀貨なんてほとんど使ったことねぇぜ」

「それを言うなら金貨なんて初めてみたわ」

 奈緒の喫茶店はコーヒーが5銅貨、アップルパイも5銅貨です。
 そしてコーヒーのお代わりは2銅貨となります。

 カムイたち壁外にいる住人にとって5銅貨あれば家族そろって食事にありつける金額でした。
 そんな高価なコーヒーを、王都の人々は平気でお代わりまでしたのです。

 銅貨10枚で銀貨1枚に、銀貨10枚で金貨1枚の値打ちがあり、カムイたちはみたことすらありませんが、金貨10枚で大金貨になると言います。

 そして本日の売り上げは、なんと30金貨になったのです。
 銅貨3千枚分のも大金が1日で入ってきたので、カムイたちのテンションは上がりっぱなしです。

 そんな風に意気揚々と離宮にたどり着くと、なんだか離宮の人々の様子がおかしいのです。
 ただならない気配にシリルが理由を聞けば、セディがロッテを追い出したというのです。


「なんですって! そんな。ロッテは何も悪くないわ」
 ナオが悲鳴をあげました。

「ナオ! おめえ、何かしたのか」
 カムイに問い詰められて、ナオは自分がしでかしたことを、全部白状しました。

「なんてことなの、ナオ。ロッテさまはこの世界に頼る人もいないんでしょう?」
 アリスが悲鳴に似た声でナオをなじります。

「ごめんなさい。ごめんなさい。セディに意地悪したかっただけなのよ。まさかロッテが追い出されるなんて! どうしよう。ロッテは私と違って壁外でなんて生きていける筈がないわ。ずっと貴族として暮らしてきたんだもの」

 ナオはもうヘナヘナと座り込んでしまいましたが、やがてその目に光が宿りました。

「図書館よ! きっとあそこだわ。だってロッテはあそこに落っこちたんだもの。セディと出会ったのだってあの場所よ。絶対にあそこに帰っている筈よ。私、迎えに行ってくる」

 ナオが叫ぶとカムイたちも一緒に外に出ようとしましたが、それを執事と公爵家の警備兵が押しとどめました。

「なんで、何もしないわ。ロッテを助けにいくだけよ」

「皆様には、館に留まっていただきます。公爵様のご命令です」

 執事はにべもなく言い放ちました。

「じゃぁ、お願い。これだけは伝えてください。図書館を捜索してくださいって。きっとロッテはそこにいますって!」



「まったく、あなたと言う人は。考えなしのおバカかと思えば、こうして真っすぐに正解にたどり着いてしまう。セディの馬鹿も、もうすこし頭を使うことを覚えなければいけませんね」

 ナオ達の前に姿を現したのは、ロビン辺境伯でした。

「ナオ、あなたには確認した筈ですよ。どのようなことになっても責任を取るとね。ロッテは最初、転移術でこの国を出ていくところだったのですよ。あなた達の世界の人間というのは、どうしてこう突拍子もない行動をとるんでしょうかね」

 なんと、ロビンは恐ろしい事実を述べました。
 そんなことになったら、とうていナオの責任などというような甘いものではなくなってしまいます。

 だってロッテの命にもかかわってしまうのですから。

「それで、ロッテは、ロッテは無事なんですか?」

 ナオはすがるような目でロビンに尋ねました。

「ベッキーを付けておきましたからね。うまくやったようです。まぁ、いざとなればベッキーがどこまでもロッテを守る手はずでしたからね。あれは、私の駒として使える程度には有能なのですよ」

 なんということでしょうか。
 公爵家のメイドから侍女に昇格した平民の娘だと思っていたベッキーは、プレシュス辺境伯家の忠実な騎士だったのです。
 
「これからの事は、宰相閣下からお聞きなさい。私は一度館にもどって、セディ坊やにお灸をすえなくてはいけないのでね。ナオ、あなたは明日の朝、私の領地に出立してもらいますからね」

 そうして、もやは何もいえずにぼんやりとしているナオを抱き上げました。

「ふぅむ。困ったことですね。なんて顔をしているんです。私には少女趣味なんてないんですけれどねぇ。そんなに可愛らしい顔をされては、計画を練り直さなければなりませんね。まぁそれもいいでしょう。この私が落ちるのも一興というものだ」

 ロビンは、いかにも可愛いといわんばかりにナオを髪を撫でていましたが、ナオが何の反応も見せないので少しじれたらしい。

 ゆっくりとナオの唇を堪能し始めたので、さすがのナオもじたばたともがきはじめました。

 ロビン辺境伯は暴れる小鳥をぞんぶんに楽しむと、ぐったりとしてしまったナオをソファーにおろして、呆然と事態を見つめていた宰相に声をかけました。

「エル、じゃぁあとは頼んだよ」
 そう言うと、さっさと部屋を出て行きました。



「さすがに、殲滅のロビンだ。女を落とす時も容赦なしだ」

 思わずカムイが独り言を言ったのですが、それを聞いた人々は同感とばかりに、こくこくと首を縦に振っています。

「ちっ、後を頼むって、こんなにぐったりさせちまったら、使いものになんねぇだろうがよ。相手は未だ子供だぜ。少しは手加減をしやがれってんだよ」

 エル、頼むと気安く使いだてされてしまった宰相閣下は、初めての濃厚なキスの洗礼を受けて、まだぼんやりとしているナオを見てため息をつきました。

「あの、宰相閣下。よろしければ私がコーヒーでもいれましょうか?」

 カムイの提案に宰相閣下も頷きました。

「あぁ、ナオにはホットチョコレートを用意してやれ。あれは女子供が落ち込んだときには、けっこういい気付け薬になるんだ」

 宰相閣下がそう言ったので、カムイはすぐさま準備を整えました。

 結局、ナオ、シリル、アリス達には、ホットチョコレート。
 
 エルロイ(宰相閣下の名前)・カムイ・ソルは、カムイスペシャルコーヒーに少しお酒を垂らしたものを飲んでいます。

 どうやらこの一見すると異世界からきた女同士の喧嘩にしか見えない事件にも、裏があったようです。
 カムイたちもロビンやエルが関わっているのなら、もう全てお任せすればよいとすっかり安心していました。

「あのう、つまり全部仕組まれていたんでしょうか?」
 
 シリルが恐る恐る伺いをたてました。

「仕組んだのは相手の方だろうね。異世界渡りの姫を使ってこの国の屋台骨を揺るがしたい勢力があるんだよなぁ。出来れば王家とプレシュス辺境伯が対立すれば、棚ぼただと思う様な一味がね」

「ロッテもナオも貴族という立場の恐ろしさをわかっていないしね。それにうまい具合に相手の手ごまになったのはナオの意思だ。誰も強制はしなかったろう?」

 そう言われてナオはますます小さくなりました。

「いや、仕方ないんだよ。それが奴らの仕事だからね。家族・女・金・嫉妬心・功名心、そんな誰でも持っている弱みを突いて、人を自在に操るのがスパイどもの役目だ。8歳の小娘なんぞ、赤子の手をひねるようなものだからね」

「ただし、ナオ。学ぶチャンスは1度切りだ。異界渡りの姫とはいえ、二度目に同じ過ちをすることは許されないよ」

 ギロっと宰相閣下に睨まれてナオは震え上がりました。
 今となっては、敵がどのような手段で自分を誘導したかはよくわかります。

「それで、ナオには悪女の汚名を着て貰う。クレメンタイン公爵家はナオを社交界から叩きだし、プレシュス辺境伯がナオを修道院に軟禁する」

「はい、私は罪を犯したのですから、どんな罰でも受ける覚悟ができています」

 ナオが健気にそう言えば、エルは噴き出しました。

「いやぁ、あのロビンの顔を見ただけで、私は満足だけれどね。鉄壁ロビンって二つ名は敵に領地を踏ませないという意味以外にも、どんな女にも落ちないって意味があったんだけどねぇ。いやぁ、ロビンの奴、ナオちゃんにメロメロだもんなぁ」

「ナオちゃん。まぁがんばれ! いっそ修道院に軟禁された方がましってくらい、可愛がられることになりそうだからなぁ。 あのロビンがねぇ。いやぁ、いいネタ貰ったわ。ありがとうね、ナオちゃん」

 エルのがんばれ発言で、さっきの有無を言わせぬ濃厚なキスを思いだして、ぼっとナオの顔が真っ赤に染まりました。

 染まったのは顔だけじゃありません。
 髪の色が瞬く間に水色に変わり、細くて美しい水色の髪がするすると真っすぐに腰まで伸びていきます。
 
 しかも羞恥に染まった真っ赤な顔には、キラキラと輝く菫色の瞳が瞬いていました。

 ヒユーとソルが口笛を吹き、カムイが叫びました。

「すっげぇなぁ。さすが一撃のロビンだ! キス1つで女を落としやがった!」

 可哀そうにナオが再起不能になって、クッションに顔をうずめてしまったので、アリスがカムイの頭を叩き、シリルがソルをぶちのめしました。

 ここの男どもにはデリカシーの欠片もありません。



「さてと」

 急に真面目な顔になって宰相閣下が説明をはじめました。

 表向きにはこの離宮と喫茶店はクレメンタイン公爵家が買い戻した形にするということ。

 住居としては図書館近くのペントハウスを2フロア買い上げ済みなので、男女別に住むもよし、カップルで住み分けても良いということ。

 たぶんロッテがダンたちに喫茶店を任せると思うので、ダンたちはそれを受け入れること。

 表向きはナオはクレメンタイン公爵家に暴言を吐き、ダンたちとは喧嘩別れをしたことにすること。

「ナオを悪女にしてしまって気の毒だけれども、今回の作戦がある程度成功したと敵側に思わせておきたいんです。幸い今回の件で敵グループをいぶりだせたので、逆に敵に間違った情報を掴ませたいのでね。協力してください」

 今回、カムイたちにはメリットしかなく、ナオだけが貧乏くじをひくことになりますが、これも自分のまいた種です。



 ナオは素直にそれを受け入れました。
 そこでナオはそのままロビン邸にこっそりと運ばれてしまいました。

 なにしろ水色と菫色に染まったのを見れば、何が起きたかはすぐにばれてしまいます。
 ナオは哀れな虜囚となって、プレシュス辺境へ連れていかれなくてはならないのですから、姿を見られる訳にはいきません。

 ナオの姿を一目見て、ロビンは素晴らしい笑顔になりました。

「何という可愛い小鳥だろう。こうして素直に僕の色に染まってしまうなんてね。よほど純情なんだねぇ。どうしたの。そんなに涙目にならなくてもいいよ。可愛いナオ。もったいない。そんなにすぐに食べてしまったりはしないからね。お楽しみは後にとっておこうね」

 そう言ったくせに、ナオは気が付くと、信じられないくらいロビンについばまれていたんです。
 真っ白な美しいナオのうなじにや襟元には、小さなピンクの花が舞い散っていました。

 ナオをロビンの手から救出したのは、離宮でナオ専属のメイドをしていたアンジェでした。
 どうやらアンジェもロビンの手ごまだったようです。

「仕方ないなぁ。アンジェ。私はセディの相手をしなきゃいけないから、今夜から早朝にかけてはこの居間から離れられないんだ。僕のお姫さまは大事に扱ってよ」

「もちろんですとも、旦那さま。旦那さまよりもよほど優しく扱いますわ。可愛そうにナオさまは少し熱を出したようです。あまりにも目まぐるしい運命の急転ですもの。ゆっくりと休む必要がありますのよ」

 アンジェはいかにも子飼いの手下らしく、ロビンに軽口をたたくと、どうやら本当に熱を出してしまったらしいナオの世話を焼いてくれました。

 どうしたんだろう?
 私はロビンが好きなのかな。

 キスされただけで人を好きになってもいいのかな?
 なんだか胸がドキドキして息が苦しい。

 ナオは生まれて初めての感覚に上手く馴染めずにいましたが、そのすっかり染まってしまった色合いこそがナオの心を代弁していたのでした。

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