ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日

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暖炉の間でのお話

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 風呂から上がると、待ちかねていた侍女にナオを明け渡すとロビンは、暖炉の間に向かいました。

「神殿の掃除は済んだか?」

「マイロード、かなり入り込んでおりましたようで」

 ふぅとロビンは肘掛椅子に座り込むと、向かいの席を指さしたので、報告した男も椅子に腰を降ろします。
 椅子を勧められると言う事は、話は込み入っていると言う事なのでした。

「それで、敵国のせんはやはりなかったか?」
 
 ロビンは当たり前のようにそう言ったが、ロビンがあれほど警戒している神殿でナオを狙うなど、他国の者に出来る事ではない。

 ましていくらプレシュス辺境伯と王家の確執を狙うにしても、まだ結婚もしていない小娘を狙う理由はないのです。

 他国がナオを狙うとすれば、誘拐だろうと警戒していたのですが、まさか暗殺者が入り込むとは思いませんでした。

 通常の進軍スピードなら、ロビンが神殿に帰国するのは、明日の予定であったし、先ぶれにもそう知らせてていたのです。

 つまりは、ロビンの帰国前にナオを亡き者にする算段だったのだろう。
 ロビン到着の知らせが行ったったのは、おそらく到着の10分前でした。

 そこで焦ってことにおよんで、ロビンに看破されてしまったのだが、問題はその指示がどこから出たかということです。


「マイロード、いっそ王にお立ちになればいかがですか。はっきりいって羽虫の面倒をみながら、相手にするにはバルザック将軍は強敵ですぞ」

「いやなこった。だれが王になどなるものか。どうせ爺さんにおべっかを使おうとする連中だろうが」

「はい、何故ナオさまをアンバー公子にお譲りにならなかったのです。そうすれば問題はここまで大きくはならなかったでしょうに。ナオさまをめとられることは王位継承の意思ありと思われても仕方ないのですぞ」

「ふん、やはり王の取り巻きが先走ったか?」

「はい。異界渡りの姫は青銀の姫君のみ。と申しておりました」

「だからナオには汚名も着せたし、エルや2大公爵家との話もついているのに、小物どもの考える事はいつもこうだ」

「それがわかっていて、何故あえて火中の栗に手を出されたのです。しかも今回は、まるで色ボケの餓鬼のような振る舞いまでされて。プレシュス辺境伯の名声が地に落ちますぞ」

「相変わらず、歯に衣着せぬ奴だな。お前は。アンバーではナオを守れぬ。あれは大所高所が見える奴だ。だから時には女を犠牲にすることも厭わないだろう。それはあんまり可哀そうじゃないか」

「なんと! 閣下は可哀そうなどという理由で、このような大事を引き受けられるというのですかな」


「おい、だんだん地が出ているぞ。今日、ナオはわんわんと泣いたんだ。そりゃ苦しいだろうさ。あんな年で壁外に落とされて、悪名を着せられたあげくに、こんなへき地で、ほとんど知らない中年男に、明日は抱かれようと言うのだ」

「それは、しかし」

「いや、俺は泣いてくれて嬉しかったのさ。どんなにつらくてもいつも明るく元気が信条の娘っ子がさ。殺されかけたあとで、オレを見てわんわん泣くんだぞ。本当に恐ろしければ泣けるもんか。あれはオレに甘えて泣いたんだ。そう思ったら可哀そうでなぁ」

「旦那さまも、年を取りましたな」

「ぬかせ! 責任ってもんがあるだろうよ。勝手にこっちに呼んでおいて政争の道具に使われるなんてことはさせねえよ」

「結局、単に惚れたが負けよって奴じゃぁありませんか。馬鹿らしい」

「おうよ。オレはナオに惚れたのさ。多分あの泣いている姿にやられちまったんだろうなぁ。本気で守りたくなった」

「それで姫君は何も気づいてはおられませんので」

「あぁ、あれは聡い子だからね。裸にひん剥いて風呂につけてやったから、さすがに頭が働かないだろうよ」

「旦那様の優しさってのは、恐ろしくひねくれてますからなぁ。そのうちナオさまに嫌われても知りませんぞ」

「ふん、これでも女の扱いは知っているさ。たっぷり蕩かしてデレデレに甘やかせてやるんだ。見てろよ」

「はい、はい。ご馳走様です。ところで一味は根絶やしにいたしますか?」

「今までは、好きにさせてきたから、向こうもたかをくくっていたんだろうが、ナオに手をだしたのが運の尽きさ。根絶やしにしてかまわん。後で王やクレメンタイン公爵からは嫌味を言われるだろうし、どうせあのアンバーやエルの奴は、俺の弱点を見つけたと喜ぶだろうがなぁ」

「では、仰せのままに。マイロード」

「あぁ、エルには事前に報告だけは入れておくから、ぞんぶんにやれ」

 その言葉が終わらないうちに、男の姿は暖炉の間からかき消えてしまいました。



 そのあとしばらくして執事がやってきました。

「やはりこちらでしたか。旦那さま。ナオさまがご挨拶に見えられました」

 そう言うと、ナオを部屋にいれて、さっさと退出してしまいます。

 ナオは侍女たちに髪を乾かして貰ったらしく、ゆったりとしたガウンに水色の長い髪を真っすぐにたらした姿で現れると、正式な礼をしました。

「ロビン・テディ・デュ・プレシュス辺境伯閣下。本日はありがとうございました」

 ロビンは一瞬怪訝な顔をしましたが、立ち上がるとこちらも正式な礼をとります。

「これはアイリーン・ナオ・リード侯爵令嬢。ようこそいらっしゃいました」

 ロビンは丁寧にナオを先ほど男が座っていた椅子に、座らせると、自分も向かいに腰をおろしました。

「ナオ、一体どうしたと言うんだい。オレはナオに礼を言われるようなことをした覚えはないがなぁ」

 ナオはにっこりとしてロビンを見上げました。

「だって私が泣いているのを、泣き止ませてくださったでしょう? まぁやり方はかなり乱暴だったけれど。私はもうけっこう精神的に疲れ果ててたの。それにたぶんロビンもわかっているように、明日のことも凄く恐ろしくて。けれどおかげ様で、怖くなくなったから」

 すこし口ごもりながらそんなことを言うナオを見て、ロビンは照れてしまいました。


「ナオ、一緒に暖炉の前に座らないか。クッションを積み上げて、そこに一緒に座ろう、そうして2人で朝まで話でもしようか」

 ロビンはクッションを積み上げて、ナオを膝の間に抱きかかえるようにして座りこみました。

「今日は、まだ一緒に眠る訳にはいかないんだ。だからこうして一緒に話をしよう。眠くなったらそのまま眠ってしまいなさい。僕が、ベッドに運んであげるからね」

 ナオがこうしてロビンの意図を察してやってきてくれたことが、ロビンはとても嬉しかったのです。
 その反面、ナオを何もわからない小さな子供扱いをしたことを、恥ずかしくも思っていました。

 ナオは守られるばかりの子供ではありませんでした。
 自分の頭で考えて、ロビンの意図までしっかりと理解してしまえる、聡明な女性だったのです。


「ねぇ、ロビン。わたしね。本当は凄く恐ろしかったのよ」

「ナオ、あれは恐ろしいものじゃないんだよ。それはまるで男の欲望のはけ口みたいに思うかもしれないけれどもね。僕はナオを大事に思っている。だからナオを心を込めて抱きたいと思うんだよ」

「ええ、今日、あんな風にまるでだまし討ちみたいにして、一緒にお風呂に入ったことで、随分と恐怖心が薄らいでいるのに気がついたの。それでロビンが私のためにあんなことをしたんだって気が付いたのよ。それと、ロビン。何か隠したい事があるのね」

「まったく。君っていつも真っすぐに真実にたどり着くんだね。それ程賢そうに見えないのに、いつだって枝葉を切り分けて、真実を見抜いてしまう。君の頭はいったいどうなっているんだい」

 ナオは、そうやって面白がることで、ロビンがナオの質問を上手に逃げているのに気がつきました。
 しかしロビンがそうやってナオに話したくないということは、結局そういうことなのでしょう。

「陰陽の姫君は一人であるべきだと思う人がいるのですね」

「ナオ!」

 ロビンは思わずさけんでしまって、あわててナオを抱きしめました。


「ごめんね、ナオ。僕がナオの悪名を広めたから、ナオを殺そうとする者まで現れてしまったんだ。これはひとえに僕の作戦ミスだよ。ナオ、本当にすまない」

「やめてよ。ロビン。これってロビンのせいじゃないよね。良く判らないけれども、いわゆる政治ってやつのせいなんでしょ。私がロビンと結婚するってことは、そういう世界に身を置くってことだもの。だから大丈夫。私の重荷までロビンが全部しょい込まないで欲しいの」

 ロビンはもう何も言わずに黙ってナオを抱きしめました。
 そうして2人はじっと暖炉の火を見つめながら、ぽつりぽつりと話をするのでした。

「ナオ、本当なら僕たちは、もっと恋人同士の時間をたっぷりとらないといけなかったんだ。特にナオにとっては、もっとゆっくりと心も体も成長させるべきなんだ」

「きっと、それはそうだと思うわ。最初に見つめ合って、それから手を握って、そうしていつかキスをする。そんなゆっくりとした恋がしたかったわ。けれどもう、時間がないんですもの。だから結婚してから、ナオはロビンに恋をするの」

「結婚してから恋をするのかい? そうか。それもいいかも知れないね。なるべくゆっくりと、ナオの側にいてやりたいと思っているんだよ」

「ロビン、明日結婚式で、そうしてそのあとすぐに王都なんでしょう。ロビンは王都で政治をするのよね。だったらナオは王都で魔法を勉強するわ」

 ロビンはゆったりとナオの髪を撫でてやりました。

「ナオ。ナオは戦いには向いてないとおもうけどなぁ。ナオを貶しているんじゃないよ。例えば殴られた時には、二通りの対処法があるんだ」

 ナオは少し興味を持ったようにロビンを見つめました。

「これは本能的な行動なんだけど、殴られると反射的に殴り返すという方法。一般的には男性に多いんだよ。そして殴られたら、しゃがみ込んで身体をかばって痛みを小さくしようとする方法。こっちは女性に多いよね」

「私は、目をつぶって頭を抱え込んで小さくなるかなぁ。殴られて反射的に殴ることは難しいかも」

 ナオがそう言えば、ロビンも頷きました。

「これは個人差があるんだよ。女でも反射的に殴り返す人もいるし、男性でも防御的な反応をする人もいる。兵士に向いているのは、反射的に殴りかかる奴なんだよ」

 なるほどと、ナオは思いました。
 確かにそれって生まれ持った個性でしょう。


 だけどナオが目指しているのは、戦闘ではなく、防御や治癒なのですから、それだったらナオにだって出来る筈です。

「あのね、私は小さいころ魔法少女になりたかったの。可愛いお洋服を着て呪文を唱えて人を救うのよ。だからもしも魔法使いになれたら、可愛い魔法少女のお洋服を着るんだぁ」

 ロビンは思わず吹き出してしまいました。

 ナオのゴスペル合唱団は、随分と可愛らしい衣装を揃えて、プレシュス辺境領地で人気を得ていて、最近は各地のイベントに引っ張りだこなのです。

 なるほどね。
 ナオの魔法少女姿は、見て見たいかもしれません。

「よし、ナオ。魔法少女の衣装には、セディに完璧な防御術式を組み込ませよう。衣装が出来たら教えなさい」

 ナオはロビンから魔法を習う許可をもぎ取って、心の中で喝采を叫びました。
 こっそり練習しても、どうせバレるのですから、魔法少女の衣装でお目こぼしが貰えるなら安いものです。

 この魔法少女の衣装のことで、ロッテにあんなに文句を言われるとは、思ってもいませんでした。
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