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魔法少女
ナオの社交界デビューが無事に成功した夜も、ロビンは館に帰ってきませんでした。
ところが翌朝、ナオはなぜだか元気いっぱいで、朝食の席に現れました。
ロビンがいないひとりっきりの食事は寂しくて、ナオは館の食事室を使わないで、プライベートルームで食事を取っています。
この部屋なら、アンジェやリムと一緒に、気楽に食事が楽しめるからです。
「おはよう。アンジェ、リム。私決めたわ。魔法少女になる!」
「おはようございます。ナオさま。ところでその魔法少女とは、一体どういうものなのでございますか」
さすがに経験値の高いリムにも、魔法少女がどんなものかわかりませんし、ナオがどうしてこんなに元気いっぱいなのかもわかりませんでした。
「ナオさま。魔法少女になるには、先ずは魔法が使えないといけないんじゃございませんか?」
アンジェがサラダを取り分けながら突っ込みました。
「もちろん、魔法少女は魔法を使えなければならないわ。でも魔法が使えるだけでは、魔法少女にはなれないの。魔法少女には可憐な衣装が必要なのよ」
アンジェとリムは、なるほどと頷きましたが、それでもナオのハイテンションの理由がわかりません。
怪訝な顔をしていたのでしょう。
ナオがさらに力説しました。
「そんなに変な顔しないでよ。いいこと、私が可憐な魔法少女になってかっこよく魔法を使えば、ロビンだって魔法少女を見たくなるに決まっているでしょう?」
ロビンが魔法少女を見たいかどうかは疑問の余地があるんじゃないか? と2人は思いましたが、ナオの迫力に負けて頷いてしまいました。
「そうよ。可憐な魔法少女が見たくなったロビンは、私に頼むのよ。ナオ、どうか私に魔法少女に変身して見せておくれってね」
「そうしたら、私は言うの。勿論よ、ロビン。でもお願いがあるの。1日だけ私とデートして下さらない」
だんだんナオは演劇口調になっていきます。
さっと、立ち位置を変えると今度はロビンになり切って言います。
「ナオ、君の美しい魔法少女の姿を見ることができるなら、このロビン、何だってやってみせよう」
次はナオのシーンです。
「嬉しいわ、ロビンさま。きっとお約束はお守りになってね」
2人はようやく理解しました。
ナオはロビンに会いたい一心で、魔法少女に変身するつもりのようです。
残念なことに2人には、どう考えてもロビンが魔法少女を好むとは思えません。
けれどの己の女主人が、こんなに熱心にやりたいと言っているのです。
腹心の部下としては、全力で応援すべきでしょう。
「ナオさま。大急ぎでロッテさまとの面会の約束を、取り付けてまいりますわ。ナオさまはロッテさまに、魔法を教えて頂くおつもりなのでしょう」
そう言ってリムはそそくさと部屋を後にします。
「若奥様、私は新進気鋭のデザイナーを探してまいります。なるべく既成概念にとらわれない若いデザイナーがよろしいでしょう。御前、失礼いたします」
アンジェもすぐさま部屋を出ていきました。
「まぁ、私はなんて気の利く側仕えを持っているんでしょう。これで『魔法少女になってロビンを振り向かせよう作戦』は成功間違いなしだわ」
ところでナオには表の側仕えの他に、ナオを守る影がしっかりと付き添っていたのです。
その影から、ことの顛末をしたためた手紙を送られたロビンは、涙を流して大爆笑しました。
「いいですとも、ナオ。魔法少女になったあかつきには、お望み通り1日中ナオと一緒にいますよ。しかし私の番は、どれだけ馬鹿で、愛らしいのでしょうねぇ」
ナオがロッテを訪問すると、ロッテは公爵家の図書館にナオを案内しました。
「いらっしゃい。ナオ。今日はどうしたの?」
図書館の空気を楽しんでいたナオは、ロッテの前に進みでると、はにかむように言いました。
「ごきげんよう、ロッテ。私、ロッテにお願いがあるんだけれど」
ロッテはナオを庭が見えるソファに座らせると、自分もナオの隣に腰をおろしました。
「いったいどうしたのよナオ。随分殊勝な言い方をするじゃないの」
「そりゃぁね。こっちからお願いするんだもの。ねぇ、ロッテ。結婚祝いに頂いたアンクレットって防御術式が組み込まれているのね?」
ナオは確認するみたいにそう言いました。
「ええ、ナオがこちらに来ればそれなりに意地悪する人もでるかも知れないからね。やっぱり何かあったのかしら?」
色々ありましたが、ナオはロッテにとっては唯一故郷である日本と繋がる人物です。
困っているなら力になりたいとロッテは思っていました。
「そりぁ、もう色々とね。悪口だって散々言われたし。でもそんなことはどうでもいいの。私がロッテに頼みたいのは魔法や魔術を教えて欲しいってことなのよ」
「まぁ、ナオ。いったいどうしたの? プレシュス辺境伯なら優秀な魔術教師を雇うことだってかんたんでしょうに、どうして私なの?」
ロッテの疑問はもっともですが、ナオは夫の力を借りずに魔法を身につけたいのです。
「だってね、ロッテ。ロビンは辺境伯としていつも国境を守るために戦っているでしょう? 王都が平和を享受しているのだって、ロビンが努力しているからって面も大きいのよ。私がロビンの領地で暮らしている時だって、度々小競り合いがあって、そのたびにロビンは戦争の最前線に立っているの」
だから自分も魔法を覚えてロビンを助けたいのだとナオはロッテに訴えました。
「私はできれば、治癒術とか防御術を中心に覚えておきたいの。そうすればロビンたちを守れるし、ケガをしても治療できるでしょう。ロビンは戦争は男の仕事だというけれど、治癒魔法使いや防御魔法使いなら女性でも前線に出ているのよ」
ナオはいきなりロッテに抱き着かれた。
急なことでナオもびっくりしましたが、どうやらロッテはナオの決意を喜んでくれたようです。
「私はナオが前線に出ることには反対よ。でも協力するわ。防御魔法なら任せて頂戴。治癒術だって使えるけれど、治癒魔法のスペシャリストって言えばやはり『癒しの手』ソサエティーのジェシカ嬢よ。私も完璧な治癒魔法を身に着けたいし、頼んでみましょう」
「でもロッテ。最高の魔術師っていえばロッテの婚約者のセディでしょう? どうしてセディに頼まないでジェシカに頼むの?」
ナオは魔法と魔術の違いを良く判っていませんでした。
汎用的に使える魔術は、魔法と違って治癒には適していないのです。
人の体質や体調はみんな違います。
致命傷ではないのに、ショックで死んでしまう人もいれば、とっくに死んでもおかしくない状況で生き残る人だっています。だから治癒術は表面的な傷を塞ぐ効果はあっても、完全に治療するなら魔法のほうが適しているのです。
そしてありがたいことにロッテやナオは、イメージ力をもとにする魔法に適正があります。
なにしろファンタジー小説やアニメなどで、イメージするのに慣れていますからね。
「セディが一流の魔術師だって言われているのは、魔法使いの編み出す奇跡のような魔法を、誰でも使える魔術に落とし込んでしまえるからなの。魔法使いが無意識に使う魔法を、綿密な計算式で再現できるのだから確かに天才よ。けれどナオ、私たちには魔法の才能があるんですもの。使わないともったいないわ」
ロッテはそう言うとその場で、防御魔方陣の書き方と、それを品物に転写する方法をナオに教えてくれました。
次に魔法を使った防御法を教わりましたが、ナオがすぐに身に着けたのはやはり魔法の方でした。
けれどもナオは魔方陣の有用性も理解できるので、魔術もしっかり勉強するつもりです。
ナオとしては、今まで誰もなしえなかった規模の防御魔法を編み出したいと考えています。
そのためには、防御魔法のことを詳しく調べる必要があります。
ロッテは治癒魔法をナオと一緒にジェシカに教えて貰えるように手配をしてくれることになりました。
ロッテは『お話の学び舎』ソサエティーの活動と、リリーのサロンメンバーの活動で忙しいはずなのに、毎週火曜日を、ナオとの防御魔法の研究と訓練にあててくれると約束してくれました。
ロッテという女性は、いつだって何が大事なのかをわかっていて、決してそれを踏み外さない人なのだなぁとナオは感心しています。
過去はあっさりと水に流し、こうして貴重な時間をナオの為に割いてくれるのです。
ナオの目からはポタポタと涙が零れ落ちました。
「まぁ、ナオ。どうしたの? 大丈夫よ。私たち、きっと誰も見た事が無いくらい凄い防御魔法を完成させるわ。そんなにロビンが心配なの?」
「まったく、なんてお人よしなの。ロッテってば。私はずっとロッテに嫌味をいったり、ひどい態度をとって来たんじゃない。いくら許すっていっても、ここまで親身になる必要なんてないのよ。なんでそこまで親切にしてくれるのよ」
ナオの駄々っ子みたいな叫びは、きっとナオの罪の意識が根深いことからきているのだと、ロッテは直ぐに悟りました。
ロッテはなるべく公平に公正に物事を見つめたいと考えているので、ナオにはそれがかえって負担なのかもしれません。
いっそ文句を言ったり、罵ったりした方がナオは楽になれるのでしょう。
でも、それはロッテがもっとも苦手としていることなのです。
「ナオ、残念だけれどあなたがしでかしたことは、あなたが受け取るしかないの。私はあなたの罪悪感を肩代わりしてあげるつもりはないわ。私はナオが思っているよりずっと、冷たくて厳しい人間なのよ」
ナオは涙を打ち払って、にっこりとしてみせました。
「そうよね。自分の罪は自分で受け入れるしかないね。ごめんなさいロッテ。私は今、自分の問題にロッテを巻き込んだのね」
ロッテはその言葉を待っていたみたいに、嬉しそうに笑いました。
今、ようやくロッテは罪を犯した自分を受け入れて許すことにしたようです。
「すっごくいい顔しているわよ、ナオ。なんだか焼けちゃうくらいにね。そこで思ったんだけれども、私たちって陰陽の姫でしょう。つまり2人で1人なのよ」
「えっと、それってもしかしたらロッテは、2人の力を合わせて魔法を作ろうって考えているのかしら」
「そうよ。複合魔法ね。文典にも詳しい記録はないけれども、過去には双子の魔法使いがこの大魔法を成功させたことがあるみたいだわ」
「それって、神話の類って言われてたけど。そうかぁ、やれるよロッテ。私たちならきっと複合魔法を作り出せる」
「ええ、さっきまでは、ナオがうじうじと昔にこだわっていたから言い出せなかったの。だってこの複合魔法は全く対等の陰陽の姫たちだからこそ、成功させることができると思うのよ」
「うじうじしていて悪かったわね。けどもう大丈夫よ。ロッテ。いまなら私はロッテのパートナーになれると思うわ」
「もちろんよナオ。私たちはパートナー同士よ。頼りにしているわナオ」
「こっちこそ、頼りにしているからね。ロッテ」
そうして陰陽の姫たちは実に朗らかに笑い合ったのでした。
その笑い声には、なんの屈託もありませんでした。
ところが翌朝、ナオはなぜだか元気いっぱいで、朝食の席に現れました。
ロビンがいないひとりっきりの食事は寂しくて、ナオは館の食事室を使わないで、プライベートルームで食事を取っています。
この部屋なら、アンジェやリムと一緒に、気楽に食事が楽しめるからです。
「おはよう。アンジェ、リム。私決めたわ。魔法少女になる!」
「おはようございます。ナオさま。ところでその魔法少女とは、一体どういうものなのでございますか」
さすがに経験値の高いリムにも、魔法少女がどんなものかわかりませんし、ナオがどうしてこんなに元気いっぱいなのかもわかりませんでした。
「ナオさま。魔法少女になるには、先ずは魔法が使えないといけないんじゃございませんか?」
アンジェがサラダを取り分けながら突っ込みました。
「もちろん、魔法少女は魔法を使えなければならないわ。でも魔法が使えるだけでは、魔法少女にはなれないの。魔法少女には可憐な衣装が必要なのよ」
アンジェとリムは、なるほどと頷きましたが、それでもナオのハイテンションの理由がわかりません。
怪訝な顔をしていたのでしょう。
ナオがさらに力説しました。
「そんなに変な顔しないでよ。いいこと、私が可憐な魔法少女になってかっこよく魔法を使えば、ロビンだって魔法少女を見たくなるに決まっているでしょう?」
ロビンが魔法少女を見たいかどうかは疑問の余地があるんじゃないか? と2人は思いましたが、ナオの迫力に負けて頷いてしまいました。
「そうよ。可憐な魔法少女が見たくなったロビンは、私に頼むのよ。ナオ、どうか私に魔法少女に変身して見せておくれってね」
「そうしたら、私は言うの。勿論よ、ロビン。でもお願いがあるの。1日だけ私とデートして下さらない」
だんだんナオは演劇口調になっていきます。
さっと、立ち位置を変えると今度はロビンになり切って言います。
「ナオ、君の美しい魔法少女の姿を見ることができるなら、このロビン、何だってやってみせよう」
次はナオのシーンです。
「嬉しいわ、ロビンさま。きっとお約束はお守りになってね」
2人はようやく理解しました。
ナオはロビンに会いたい一心で、魔法少女に変身するつもりのようです。
残念なことに2人には、どう考えてもロビンが魔法少女を好むとは思えません。
けれどの己の女主人が、こんなに熱心にやりたいと言っているのです。
腹心の部下としては、全力で応援すべきでしょう。
「ナオさま。大急ぎでロッテさまとの面会の約束を、取り付けてまいりますわ。ナオさまはロッテさまに、魔法を教えて頂くおつもりなのでしょう」
そう言ってリムはそそくさと部屋を後にします。
「若奥様、私は新進気鋭のデザイナーを探してまいります。なるべく既成概念にとらわれない若いデザイナーがよろしいでしょう。御前、失礼いたします」
アンジェもすぐさま部屋を出ていきました。
「まぁ、私はなんて気の利く側仕えを持っているんでしょう。これで『魔法少女になってロビンを振り向かせよう作戦』は成功間違いなしだわ」
ところでナオには表の側仕えの他に、ナオを守る影がしっかりと付き添っていたのです。
その影から、ことの顛末をしたためた手紙を送られたロビンは、涙を流して大爆笑しました。
「いいですとも、ナオ。魔法少女になったあかつきには、お望み通り1日中ナオと一緒にいますよ。しかし私の番は、どれだけ馬鹿で、愛らしいのでしょうねぇ」
ナオがロッテを訪問すると、ロッテは公爵家の図書館にナオを案内しました。
「いらっしゃい。ナオ。今日はどうしたの?」
図書館の空気を楽しんでいたナオは、ロッテの前に進みでると、はにかむように言いました。
「ごきげんよう、ロッテ。私、ロッテにお願いがあるんだけれど」
ロッテはナオを庭が見えるソファに座らせると、自分もナオの隣に腰をおろしました。
「いったいどうしたのよナオ。随分殊勝な言い方をするじゃないの」
「そりゃぁね。こっちからお願いするんだもの。ねぇ、ロッテ。結婚祝いに頂いたアンクレットって防御術式が組み込まれているのね?」
ナオは確認するみたいにそう言いました。
「ええ、ナオがこちらに来ればそれなりに意地悪する人もでるかも知れないからね。やっぱり何かあったのかしら?」
色々ありましたが、ナオはロッテにとっては唯一故郷である日本と繋がる人物です。
困っているなら力になりたいとロッテは思っていました。
「そりぁ、もう色々とね。悪口だって散々言われたし。でもそんなことはどうでもいいの。私がロッテに頼みたいのは魔法や魔術を教えて欲しいってことなのよ」
「まぁ、ナオ。いったいどうしたの? プレシュス辺境伯なら優秀な魔術教師を雇うことだってかんたんでしょうに、どうして私なの?」
ロッテの疑問はもっともですが、ナオは夫の力を借りずに魔法を身につけたいのです。
「だってね、ロッテ。ロビンは辺境伯としていつも国境を守るために戦っているでしょう? 王都が平和を享受しているのだって、ロビンが努力しているからって面も大きいのよ。私がロビンの領地で暮らしている時だって、度々小競り合いがあって、そのたびにロビンは戦争の最前線に立っているの」
だから自分も魔法を覚えてロビンを助けたいのだとナオはロッテに訴えました。
「私はできれば、治癒術とか防御術を中心に覚えておきたいの。そうすればロビンたちを守れるし、ケガをしても治療できるでしょう。ロビンは戦争は男の仕事だというけれど、治癒魔法使いや防御魔法使いなら女性でも前線に出ているのよ」
ナオはいきなりロッテに抱き着かれた。
急なことでナオもびっくりしましたが、どうやらロッテはナオの決意を喜んでくれたようです。
「私はナオが前線に出ることには反対よ。でも協力するわ。防御魔法なら任せて頂戴。治癒術だって使えるけれど、治癒魔法のスペシャリストって言えばやはり『癒しの手』ソサエティーのジェシカ嬢よ。私も完璧な治癒魔法を身に着けたいし、頼んでみましょう」
「でもロッテ。最高の魔術師っていえばロッテの婚約者のセディでしょう? どうしてセディに頼まないでジェシカに頼むの?」
ナオは魔法と魔術の違いを良く判っていませんでした。
汎用的に使える魔術は、魔法と違って治癒には適していないのです。
人の体質や体調はみんな違います。
致命傷ではないのに、ショックで死んでしまう人もいれば、とっくに死んでもおかしくない状況で生き残る人だっています。だから治癒術は表面的な傷を塞ぐ効果はあっても、完全に治療するなら魔法のほうが適しているのです。
そしてありがたいことにロッテやナオは、イメージ力をもとにする魔法に適正があります。
なにしろファンタジー小説やアニメなどで、イメージするのに慣れていますからね。
「セディが一流の魔術師だって言われているのは、魔法使いの編み出す奇跡のような魔法を、誰でも使える魔術に落とし込んでしまえるからなの。魔法使いが無意識に使う魔法を、綿密な計算式で再現できるのだから確かに天才よ。けれどナオ、私たちには魔法の才能があるんですもの。使わないともったいないわ」
ロッテはそう言うとその場で、防御魔方陣の書き方と、それを品物に転写する方法をナオに教えてくれました。
次に魔法を使った防御法を教わりましたが、ナオがすぐに身に着けたのはやはり魔法の方でした。
けれどもナオは魔方陣の有用性も理解できるので、魔術もしっかり勉強するつもりです。
ナオとしては、今まで誰もなしえなかった規模の防御魔法を編み出したいと考えています。
そのためには、防御魔法のことを詳しく調べる必要があります。
ロッテは治癒魔法をナオと一緒にジェシカに教えて貰えるように手配をしてくれることになりました。
ロッテは『お話の学び舎』ソサエティーの活動と、リリーのサロンメンバーの活動で忙しいはずなのに、毎週火曜日を、ナオとの防御魔法の研究と訓練にあててくれると約束してくれました。
ロッテという女性は、いつだって何が大事なのかをわかっていて、決してそれを踏み外さない人なのだなぁとナオは感心しています。
過去はあっさりと水に流し、こうして貴重な時間をナオの為に割いてくれるのです。
ナオの目からはポタポタと涙が零れ落ちました。
「まぁ、ナオ。どうしたの? 大丈夫よ。私たち、きっと誰も見た事が無いくらい凄い防御魔法を完成させるわ。そんなにロビンが心配なの?」
「まったく、なんてお人よしなの。ロッテってば。私はずっとロッテに嫌味をいったり、ひどい態度をとって来たんじゃない。いくら許すっていっても、ここまで親身になる必要なんてないのよ。なんでそこまで親切にしてくれるのよ」
ナオの駄々っ子みたいな叫びは、きっとナオの罪の意識が根深いことからきているのだと、ロッテは直ぐに悟りました。
ロッテはなるべく公平に公正に物事を見つめたいと考えているので、ナオにはそれがかえって負担なのかもしれません。
いっそ文句を言ったり、罵ったりした方がナオは楽になれるのでしょう。
でも、それはロッテがもっとも苦手としていることなのです。
「ナオ、残念だけれどあなたがしでかしたことは、あなたが受け取るしかないの。私はあなたの罪悪感を肩代わりしてあげるつもりはないわ。私はナオが思っているよりずっと、冷たくて厳しい人間なのよ」
ナオは涙を打ち払って、にっこりとしてみせました。
「そうよね。自分の罪は自分で受け入れるしかないね。ごめんなさいロッテ。私は今、自分の問題にロッテを巻き込んだのね」
ロッテはその言葉を待っていたみたいに、嬉しそうに笑いました。
今、ようやくロッテは罪を犯した自分を受け入れて許すことにしたようです。
「すっごくいい顔しているわよ、ナオ。なんだか焼けちゃうくらいにね。そこで思ったんだけれども、私たちって陰陽の姫でしょう。つまり2人で1人なのよ」
「えっと、それってもしかしたらロッテは、2人の力を合わせて魔法を作ろうって考えているのかしら」
「そうよ。複合魔法ね。文典にも詳しい記録はないけれども、過去には双子の魔法使いがこの大魔法を成功させたことがあるみたいだわ」
「それって、神話の類って言われてたけど。そうかぁ、やれるよロッテ。私たちならきっと複合魔法を作り出せる」
「ええ、さっきまでは、ナオがうじうじと昔にこだわっていたから言い出せなかったの。だってこの複合魔法は全く対等の陰陽の姫たちだからこそ、成功させることができると思うのよ」
「うじうじしていて悪かったわね。けどもう大丈夫よ。ロッテ。いまなら私はロッテのパートナーになれると思うわ」
「もちろんよナオ。私たちはパートナー同士よ。頼りにしているわナオ」
「こっちこそ、頼りにしているからね。ロッテ」
そうして陰陽の姫たちは実に朗らかに笑い合ったのでした。
その笑い声には、なんの屈託もありませんでした。
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